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第45話 魔王、勇者の遺跡へ

 シャンダライズ王家の相続問題が解決した翌日、オレとユウはスカーレットに馬車に乗せてもらい、『先代勇者の遺跡』と呼ばれる場所まで連れて来てもらった。

 細い山道を越えると、植物のない岩山地帯になってきた。大規模な魔術の練習をするにはもってこいの場所だ。シャンダライズ国王の話によると、この国でもあまりよく分かっていない召喚魔法を、約四十年前にアトランティスから来た魔法使いと力を合わせて行ったのだそうだ。事故が起こっても良いように、王都から少し離れたこの場所で行ったらしい。その結果、勇者と一緒に召喚した異世界の建造物だけここに残っているということだ。

 初めて見る異世界の建造物に興味津々のオレを乗せた馬車が丘を越えると、遺跡が視界に入って来た。老朽してかなり朽ちてはいるが、それは灰色の四角い建物だった。


「ずいぶん飾り気のない建物だな」


「……校舎?」


 趣の無いただの四角い箱のような建物にオレががっかりしていると、その『先代勇者の遺跡』を見たユウが呟いた。

 聞くとそれは、ユウがいた世界では学校として使われていた建物らしい。

 約四十年前――正確には四十三年前になるそうだが、先代勇者タイゾーが召喚された当時十七歳、生きていれば今丁度六十歳になるようだが、十七歳だったタイゾーは学び舎と一緒にこの世界に呼び出されたようだ。

 前勇者タイゾーは、ユウに劣らぬほどの豪気な性格だったらしい。当時まだ王子だったシャンダライズ国王と同い年で、王城で礼儀正しい者たちに囲まれて育った国王は、その性質の違いにとても衝撃を受けたのだそうだ。

 召喚当初はこの遺跡に立てこもりシャンダライズ騎士団と争ったらしいが、話を聞いてもらった結果、アトランティスを助けに行く事を引き受け、アトランティスの使者と共に遠い大陸へ向けて旅立ったらしい。

 その後、風のうわさでタイゾーが邪神を倒しアトランティスに平和が戻ったことは分かっているらしいが、タイゾーのその後については謎に包まれている。


 オレたちはそんな先代勇者の情報を少しでも手に入れようとこの遺跡にやってきたわけだが、とりあえずユウに先導させ、オレとスカーレットはその後に続く形で調査を行っている。

 ユウの言う通りここは学び舎らしく、教室にはたくさんの机と椅子が並べられていた跡があった。今ではそんな机と椅子は乱雑になっている。タイゾーが去った後、たくさんの盗掘者がやってきたらしく、散々荒らされたのだろう。


「ユウ。何か分かったか?」


「何も分からん。ただの学校だなこりゃ……。どこにでもある普通の校舎だ」


「魔物が棲みついているという噂もあったが、オレの《周辺捜索(レーダーサーチ)≫の魔法に引っかからないところを見ると、本当にただの廃墟のようだな」


 オレは倒れた机をどかし、通路を確保しながら話す。

 するとユウが、オレの言葉に引っかかったようで、突然立ち止まり考え込んだ。


「どうした?」


「ヴォルト、お前のその魔法、引っかからない魔物もいるって言ったよな?」


「ああ、アンデッドはダメみたいだな。分かるのは生きている魔物だけだ」


「学校ってさ、幽霊が出るっていう話がよくあるんだけど、もしかしてこの校舎に幽霊がいて、話を聞くこととかできねえもんかなあって思ってさ……」


 そんなユウの斬新なアイデアに、オレは呆れる。


「いくらオレが魔王でも、幽霊と話す方法など知らんぞ。スカーレットは知ってるか?」


「や、止めてください!私そういう話ダメなんです!」


 スカーレットは騎士団長のくせにお化けとか苦手らしい。

 情けないと思ったが、実体のない魔物は苦手な者も多いようだ。


「なんだよ。じゃあ結局情報はなしかよ」


「やはりタイゾーを直接見届けた人間に聞くしかないか。スカーレット、アトランティスに行くにはどれくらいかかるんだ?」


「船で2~3か月ほどかかると聞いています。ですが海の状況によってはもっとかかる場合も……」


「そんな待ってられねえよ!俺は結婚式までに戻らなきゃいけないんだよ!つーか結婚式の準備もあるし、一日でも早く帰りたいんだ。そんな海の向こうにまで行ってる暇はねえよ」


 ユウががっかりしていると、オレはふと思い出した。


「そういえば、ユウの『殲滅し尽くす聖剣(エクスキューショナー)』は、以前は勇者タイゾーが使っていたらしいな?その剣こそ、タイゾーの一番傍で見てたんじゃないか?」


「そういうことになるな」


「それでその剣って、会話できる人工知能があるって言ってなかったか?」


「あ!」


 そこまで言われて、ユウも気づいたらしい。

 『殲滅し尽くす聖剣(エクスキューショナー)』に直接、四十年前何が起こったか聞けばいいという事に。



「『殲滅し尽くす聖剣(エクスキューショナー)』!」


 ユウはその手に呼び出すと、剣に向かって問いかけた。


「『殲滅し尽くす聖剣(エクスキューショナー)』、お前に聞きたい事がある。質問に答えられるか?」


(イエス、マスター。私の答えられる範囲でならお答えします)


 剣の声はユウにしか聞こえないらしい。オレとスカーレットは後でまとめてユウから話を聞くことにした。


「約四十年前、勇者タイゾーと一緒に邪神を倒したのは本当か?」


(はい。その通りです。正確には、勇者タイゾーはアトランティスにて三人の仲間を集め、四人で力を合わせて邪神を倒しました)


「タイゾーはその後どうなった?元の世界に帰ったのか?それとも死んだのか?」


(タイゾーは、等価交換の魔術によって、元の世界へと帰りました)


「『等価交換の魔法』?なんだそれは?」


 ユウの言葉から聞いたことの無い言葉が聞こえる。

 『等価交換の魔法』――当然、魔界でもそんな魔法聞いた事がない。


(タイゾーは常々、元の世界に戻ることを強く希望していました。ですが勇者召喚の魔法は召喚するだけで、送り返す魔法はありません。タイゾーが元の世界に帰るには、あちらの世界から召喚してもらう以外に方法はありません。ですがあちらの世界には召喚魔法はないらしく、タイゾーが元に戻る方法はありませんでした。そこでアトランティスの魔法使いたちが考えた方法が、等価交換の魔法の応用です。等価交換の魔法は、離れた場所にある物と入れ替えることのできる古代魔法で、同じ価値のある物でしか行えません。これは盗難などに悪用されないためだと言われています。そこで異世界にある、タイゾーが自分の命と同じくらい大切なものと入れ替えるのなら、タイゾーを向こうの世界に送ることができると考えたのです)


「離れた場所にある同じ価値のあるものと入れ替える魔法……?それでタイゾーは元の世界にあるものと入れ替えることで帰ることができたんだな?」


(その通りです)


「ちなみに何と入れ替わったんだ?」


(タイゾーの祖父の形見の、バイクと呼ばれる自動二輪車です。おそらく今でもアトランティスに残っていると思います)


「そうか……バイクと……。人と人じゃなくてもいいんだな。それじゃもう一つ質問だ。その等価交換の魔法を使えるやつはいるのか?」


(術式は私が記憶しています。後はそれを起動させることができる古代語魔法に精通している魔法使いがいれば、使用は可能です)


「それじゃ俺は元の世界に帰ることができるんだな?」


(タイゾーと同じ方法を使えば、理論上は可能です)


「よっしゃあ!」


「どうしたユウ?分かったのか?説明をしてくれ」


 ユウの話し声しか聞こえなかったオレたちは会話を推測するしかなく、断片的なユウの言葉とガッツポーズを取るユウから、おそらく元の世界に戻る方法が分かったことを察する。

 そしてその後、ユウと『殲滅し尽くす聖剣(エクスキューショナー)』が話した内容を、詳しく聞くのだった。

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