第36話 魔王、先代勇者の伝説と神器のルーツを知る
「俺は何の前触れもなくこの世界に呼び出されて、突然その日から勇者として戦えと言われた。ヴァレンシュタイン王国の奴らは、俺の人生を奪っておいて自分たちのために戦えと言う。そんな奴隷のような生き方はお断りだが、困ってる人間を見捨てるのも忍びなくて協力してやった。だが、ヴォルトと会ってそれも全部嘘だと分かった。もう俺がこの世界にいる理由は全くないんだ。もしその勇者の遺跡とやらに、俺が元の世界に戻る方法があるなら、ヴァレンシュタイン王国への復讐はどうでもいい。帰りたい。だからあんた、教えてくれ。その四十年前に現れた勇者の事を」
ユウからそう懇願されると第二王子は静かに頷き、そして勇者の伝説を語りだした。
「まずは前勇者の話の前に、そもそも勇者の伝説についてどこまでご存知でしょうか?勇者とは、異世界から召喚された者の中でも神器と呼ばれる古の時代から伝わる神の武器を使う事を許された者の事をいいます。勇者を召喚するには、何においても先に神器が必要となります。その神器を使い、所有者となるべき者を探し出し召喚を行うのです」
「神器っていうと、この剣の事だな。なんとなく分かった」
「ユウ様が勇者であると聞き、先ほどガーゴイルを一撃で葬ったのも納得しました。神器は、神をも傷つけることのできるという武器ですから」
「ヴォルトの弓も神器なんだろ?」
ユウにそう話しかけられ、ヴォルトは頷く。
「その通りだ。『灰燼に帰す弓』は、所有者として認めた魔族に魔界を統べる魔王となるべく強い魔力を与えてくれる神器だ。魔界ではこの弓に認められた者が、代々の魔王となっている」
「そうなのですね。勇者の伝説は知っておりましたが、魔界の神器については初耳でした。ともかくお二人の持っているそれらの武器は、そういう桁外れの武器であるという事です。そしてその神器は、はるか昔の神々の時代と呼ばれたころに生まれたと言われています。天界で神々の争いが起こり、本来不死である神々を殺傷するため、神器が作られたといいます。その神器を作るためには、この世界には存在しない物質が必要でした。その物質の名はオルハリコン。この世界のどんな物質よりも硬く、そして魔力や神力といった見えないエネルギーを帯びる性質を持っていました。ある神が異世界からその物質を取り寄せるため、異世界から大陸ごと召喚したと言います。その大陸の名はアトランティス。アトランティスは今でも遙か大洋の先に存在しています」
それは、ヴォルトもユウも初めて聞く話だった。
自分たちの所有している武器が桁外れに強い事は分かってはいたが、それが神をも殺すことができる武器だとは知らなかったのだ。
またユウを異世界から呼び寄せた召喚魔法についても不明なところが多いが、はるか昔には大陸までも召喚していたとは驚きだった。伝説というのは多少尾ひれがついているものだろうが、今回についてはどうも全て本当の話のような気がする。
「現在では、アトランティスには神々の時代の技術は残されていません。それは神々の争いで、一度文明が滅亡してしまったからだと言われています。そして四十年前、そのアトランティス大陸からこのシャンダライズ王国に、一人の使者が現れました。彼によると、アトランティスに邪神が復活したと言うのです。そしてその邪神を倒すため、このシャンダライズ王国に残されていた神器、そう、今ユウ様が使っている神器『殲滅し尽くす聖剣』を使って、勇者を召喚してほしいと言ってきたのです」
「この剣は、元々はこの国にあったのか?でもなんでヴァレンシュタイン王国に?」
「はい。その後アトランティスの現状を確認しに行ったりいろいろあったそうなのですが、最終的に我が国で使者の言葉に従い勇者召喚が行われたと言います。そして異世界の建物ごと勇者を召喚し、四十年前に召喚された勇者タイゾー様は邪神を倒すためにアトランティスに向かったと聞いています。その後、タイゾー様によって邪神は倒されアトランティスに平和は戻ったと言いますが、タイゾー様の行方は不明です。その時に紛失した『殲滅し尽くす聖剣』が、巡り巡ってヴァレンシュタイン王国に辿り着いていたのでしょう」
「タイゾーっていう名前からして、俺と同じ日本人のようだな。それで、そのタイゾーっていう人はどうなったんだ?日本に帰れたのか?それとも死んでしまったのか?」
「すいません。邪神を倒した後の行方は不明だと聞いています……」
「そうか……」
ユウががっくりと肩を落とす。もしタイゾーが異世界へと帰還が出来ていたなら、ユウにも帰るチャンスがあると分かったのだが。だが、まだ帰れる可能性が無くなったと言うわけでもない。
ヴォルトが第二王子へと質問した。
「前勇者の話は分かった。それで勇者の遺跡というのは?」
「はい。四十年前に勇者タイゾー様ごと召喚されたと言われている建物なのですが、現在は廃墟となっています。すでにたくさんの盗掘者に荒らされて、大したものは残っていないと思いますが、もしかしたらユウ様でしたら、我々の知らない使い方のあるものが残っている可能性もあります」
「ユウよ。一度行ってみる価値はありそうだな?」
「ああ、悪いな。付き合ってくれるか?」
「うむ。だがその前にガーゴイルの件をまとめておく必要があるだろう。ちょうどここには、第二王子、第三王子、第四王子の三人がそろっているようなので言わせてもらうが、実はオレはお前たち三人の誰かが犯人ではないかと思っていた」
ヴォルトの言葉に、三人の王子は驚き、互いの顔を見合わせる。
二匹のガーゴイルを倒したからと言って、お互いの命を狙った犯人は分かっていないのだ。