第32話 魔王、第三王子とも会う
「ヴォルト様!あの言い方はないでしょう?!オズワルド様は無責任なのではありません!誰だってできることとできないことがあります!あなたは生まれつきお体の弱いオズワルド様の気持ちが分からないのです!」
そんなスカーレットの抗議は無視する。
「よし、次は第三王子と会おう」
「は?第三王子テディ様は、王位継承権を放棄されて今は騎士団に入団しています。関係ないのでは?」
「では聞くが、万が一他の全ての王子が死んだらどうなるのだ?王位継承権を放棄したとはいえ、第三王子だけが生き残ったなら、第三王子が次期王となるべきではないのか?」
「テディ様を疑っているのですか?」
「疑っているのではない。話を聞きたいのだ」
どうもさっき第二王子と話してから、スカーレットのオレに対する印象がよくないようだ。
スカーレットは渋々承知をし、オレたちをもう一度騎士団本部へと連れ戻った。
第三王子は王位を放棄したとはいえ王族の端くれ、騎士団本部敷地内にある騎士団宿舎とは別に第三王子の家があった。それなりに豪華なその家には、第三王子とその妻、そして二人の息子が住んでいるそうだ。
オレとユウ、スカーレットがその家の客室で待っていると、筋骨隆々な男がやってきた。
「テディ・ゴールド・シャンダライズです。ようこそいらっしゃいました」
「テディ様、こんな時間にすいません」
「それは構わないのですが団長殿、そろそろ夜更けですがガーゴイルの襲撃の警備はいいのですか?」
「ええ。それについて少しお話を聞かせていただきたくて。こちらは今夜ガーゴイル退治に協力してくださる、ヴォルト様とユウ様です」
「ヴォルトだ」
握手を交わすと、この男の力強さが分かった。
生まれ持った体格の良さもあるだろうが、日々鍛えているのだろう。手のひらから四肢の力強さが伝わって来た。第二王子と違い、体を鍛えている点で好感を持てる。体を鍛える事を諦めて運動をしない第二王子とは全く反対だ。
スカーレットが実力で騎士団長になったというなら、この第三王子が本気で修行したら、その座は明け渡さなければいけないだろう。この男は身体能力において、スカーレットよりもはるかに優れているのだ。今の段階では、剣の技術では劣るのだろう。だが、技術は努力で追い付くことはできたとしても、ここまでの体格の差は埋める事ができない。
オレがそんな事を考えている間に、第三王子はユウとも握手を交わし、お互い椅子に座る。
「時間もないことだし、最初から本題に入らせてもらおう。ガーゴイルは第一王子を狙っているようだが、おまえは誰の差し金だと思う?」
オレの質問に第三王子は躊躇する。
「そ、それは……分かりません。我々騎士団の仕事はガーゴイルを退治し、ジャットバイゼン殿下を護衛すること。誰が犯人かというのは私には分かりませんが、オズワルド兄さまであれば分かるかもしれません。オズワルド兄さまはとても賢い方ですので」
「なるほど。それともう一つ質問だが、おまえは次期王位には誰がつくべきだと思う?まさかあの愚かな第一王子が王になるべきだとは思わないだろう?病弱な第二王子が王になって苦労するのが良いか?三人の兄たちに能力がないため弟である第四王子が王になるべきか?」
「わ……私はすでに王位継承権を放棄していますので、それについて意見できる立場ではありません……」
「なるほどな。貴様も兄たちと同じで卑怯者のようだな」
スカーレットが怒って何か言おうとする前に、オレは彼女の前に手をかざして遮る。そして第三王子の言葉を待つ。
だが第三王子は言葉に詰まらせ、返答に困っていた。
「どうした?言い返せないのか?王位継承という家族の大きな問題から、一番最初に逃げたお前が一番卑怯者だからな。返す言葉もあるまい?」
そこでついにスカーレットが切れて、オレの手をはたいて立ち上がると言った。
「テディ様は母上が平民出身のため、謙虚に辞退されたのです!あなたに何が分かると言うのですか?」
「お前には聞いていない。こいつの口から話を聞くためにここに来たのだ。黙っていろスカーレット」
オレはスカーレットを一瞥する。オレの視線にしりごむと、スカーレットは黙りこんだ。
するとその横に座るユウが、そんなスカーレットの手を掴み引っ張って座らせた。
「まあ座ってろよ!客観的に観察してみると面白いぜ」
「ユウ様、楽しんでる場合ではありません!」
「黙ってろ!」
オレは二人を黙らせると、第三王子の言葉を待った。
少し待つと、第三王子は淡々と語りだした。
「団長殿、私を庇ってくださってありがとうございます。私の母の血筋のこともそうですが、もし私の母が貴族の出だったとしても、私の能力では国王は務まりません。私にはオズワルド兄さまのような賢さがないのです。私のような者よりも、賢いオズワルド兄さまのような方が国王になるべきです」
「ほう?おまえは第二王子が王位に就くべきだと考えるのか?」
「いえ、オズワルド兄さまはお体が弱いので……」
「どっちだ?結局王位を継ぐべき適切な人材はいないが、考えるのが嫌なため面倒事から早々に逃げ出したかっただけか?」
「うぅ……」
「第二王子が体力的に王位を継ぐのが難しいと考えるのなら、なぜおまえが努力して知恵を付けようとしなかった?おまえが身体を鍛えるのと同じくらい学問を努力したなら、今より多少なりとも知恵がついただろう?そうしておまえが王位に就くべきではなかったのか?」
「……」
第三王子はオレの言葉に対して言い返してこない。
オレの横ではスカーレットがまたキレそうな顔をしていたため、それ以上この男を責めるのはやめておこう。
「これ以上聞く話はなさそうだ。王城へ戻ろう」
オレは席を立つと、先に部屋を出た。
ユウがニヤニヤした顔でオレに続く。
後ろでスカーレットが第三王子に謝る声が聞こえた。