第30話 魔王、第四王子の話を聞く
シャンダライズ国王が部屋を退席すると、スカーレットと、今夜のガーゴイル退治の計画を話し合うことになった。
この国の騎士団にとっては、空を飛び剣が通じないガーゴイルはとても相性が悪く、数人がかりでも倒せなかったそうだ。
だがオレたちが相手になれば、相性が悪いのはガーゴイルの方だ。まずオレの得意な魔法の矢は飛行物体を狙うのに適しているし、ユウの神器『殲滅し尽くす聖剣』なら、石でも何でも切り裂いてしまう。むしろ異世界人のユウは人間を切ることに抵抗があるため、石などの無機物である方が好都合だ。ユウは勇者魔法で飛行もできるため空中戦になっても戦えるだろうし、短時間ならオレも飛行魔法で空を飛ぶことも可能だ。
まあ、余裕だろうな。
毎夜空を飛んでやってくるというガーゴイルに対し、今夜はこの国の騎士団と混じって城の外の見回りをすることになった。
またこの国には、魔法使いギルドという組織もあるらしい。
ギルドマスターは王城に仕える魔法使いが兼任しているそうだが、その魔法使いの魔法もガーゴイルには通用しなかったと言うから大したことはなさそうだ。
ガーゴイルは低レベル魔法に対して耐性を持っている。魔法で攻撃するなら、強力な魔法を使わねばならないだろう。
おおよその話が終わった頃、部屋の扉を強くノックする音が響き、続いて一人の男が慌ただしく部屋に入って来た。
「マクシミリアン王子!」
その顔を見たスカーレットが驚きの声を上げる。
「ここにいたか、スカーレット。探したぞ。こちらの方々は?」
「王子?この者も王子なのか?紹介してくれるか、スカーレット?」
そう言えば確かこの国には王子が5人いるとか言っていたような気がする。こいつは何番目の王子なのだろうか。
スカーレットが、この突然部屋に入って来たこの王子の事を知っているようだったので、紹介を頼んだ。
「殿下。こちらの二人は、ジャットバイゼン殿下の護衛のために呼んだ、腕利きの冒険者ユウ様とヴォルト様です。ユウ様ヴォルト様、こちらはマクシミリアン・ヨーク・シャンダライズ王子殿下、この国の第四王子です」
スカーレットは、先ほどオレたちが魔王と勇者であることを秘密にしておいてくれと言った約束を、早速守ってくれた。オレたちの事を冒険者と紹介してくれた。嘘でもないしな。
この第四王子は、第一王子とはずいぶん年が離れているようだ。まだ二十歳そこそこと言ったところか。
確か『第一王子とまた違った意味で性格に問題のある』とスカーレットが言っていたな。
そしてこの第四王子は、まだ第一王子が再起不能になったことはまだ聞かされていないようだった。だとしたらオレたちから話す必要もあるまい。
第四王子はオレたちのがガーゴイル退治に来たと知ると、期待を込めた目で話しかけて来た。
「おお!それでは二人はガーゴイル退治に?だとしたらジャット兄者の護衛などせず、私の護衛をしてくれ!昨夜、ガーゴイルが私の部屋に入ろうと、格子窓に張り付いてガシャガシャと音を立てていたのだ!怖くて眠れん。兄者の所は護衛がたくさんいるのだろう?私の部屋も腕利きの者に守らせてくれ!」
「ガーゴイルが狙っているのは第一王子だけじゃなかったのか?」
この第四王子は、騎士団長であるスカーレットに、自分の護衛を依頼に来たらしい。
だが狙われているのは第一王子だけだと聞いていたため、スカーレットに問うと、スカーレットは難しい顔をしていた。
「ガーゴイルは城の周りをうろうろと飛び回っています。昨夜はたまたま殿下の部屋を覗いていたのでしょう」
「そんな事はない!あいつらは兄者だけでなく、他の王子たちの命も狙っているに違いない!」
「そんなことはありません……」
冷たい視線で第四王子の申し出を断るスカーレット。だがその根拠はオレにはいまいち納得できない。
「なあ、スカーレット。なぜそんなに簡単に断言できるのだ?」
「それは……」
オレの問いに対し、スカーレットは顔を伏せ、不快感をあらわにした表情を浮かべる。
「なるほど、分かったぞ。スカーレットよ。お前はこの男こそ第一王子の命を狙っている犯人だと思っているのだな?」
「何だと?!」
「確かにもしこの第四王子が犯人だとしたら、この男の護衛をする必要はない。むしろ第一王子の護衛を減らして命を狙いやすくしようとしている可能性もあるな」
「バカな!何を証拠に?!兄者の命を狙っているのは私ではない!私が命を狙わずとも、兄者はその内失脚するわ!」
第四王子は嫌疑をかけられ、顔を赤く染めながら怒りの表情を浮かべた。
「そんな事は私は……」
言葉が続かないところをみると、スカーレットがこの男を疑っているのは図星だろう。
第四王子は抗議の言葉を並べてくる。こいつの言い訳も聞いてやろう。
「第四王子よ。ではもしお前の命も狙われているとしたら、犯人は誰だと思うのだ?他の王子か?」
「……私が一番怪しいと思っているのは、第二王子であるオズワルドだ。第三王子テディは既に王位継承権を放棄しているし、陰謀を巡らすほどの知恵は持っていない。第一王子ジャットバイゼンも自作自演できるほどの知恵はない。オズワルド兄者でなければ、第五王子の母親かもな。すぐに王位を継がせるには、第五王子はまだ幼い。その前に他の王子が王位を継ぐだろう。だが兄四人とも死ねば、第五王子しか男子はいなくなるからな。息子に王位を継がせたい第五王妃が、他の王子を殺そうとしてるという可能性は高いだろう」
「オズワルド殿下はそんな人ではありません!」
第四王子の言葉を、スカーレットが強く否定する。その態度に第四王子は顔をゆがませながら言った。
「何だスカーレット?お前オズワルドに好意を持っているのか?既婚者はやめておけ。それにオズワルド兄者は病弱だ。アレと結婚できても王位は継げんぞ。それよりも私が求婚の返事はまだか?父王が、無能な第一王子、病弱な第二王子に王位を継がせるわけがないだろう?継がせるつもりならもうとっくにしている。二人がダメなのだから、次期国王は私しかいないじゃないか。私の妃になれば王妃になれるのだぞ?」
たしかスカーレットは公爵家令嬢と言ったが、この王子から求婚されていたのか。だがスカーレットの方がずいぶん年上のようだが。
「その件ならお断りしたはずです。私とあなたではずいぶん年が離れていますし、私は王妃になりたいわけではありません。それにもし年が近かったとしても、あなたは私のタイプではないです。結婚するなどありえません」
「スカーレット。お前もうすぐ三十路だろう?このままでは貰い手がいなくなるぞ」
「余計なお世話です!!!そういうところが嫌なんですよ!!!」
「第四王子よ。年の事はスカーレットも気にしているのだ。言ってやるな」
「オイ!」
オレに言葉にスカーレットが鋭く睨んでくるが、どんどん話が逸れているので無視しよう。
「それより話がずいぶん逸れた。つまり犯人がこの第四王子でなければ、この男も狙われる可能性は大いにありえる。警備についてもう一度考え直す必要がありそうだな」
「おお!それでは?」
「ああ、おまえの護衛も検討する。また打ち合わせが終わったら後で報告に行こう」
「よろしく頼む!」
第四王子はオレに握手を求め、そして部屋を出て行った。
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「なあ、スカーレット。この国って結婚が早いのか?」
第四王子が去ってから、ユウがスカーレットにさりげなく質問をする。
「そ……そうですね。女性の場合早ければ十代半ば、遅くても二十代半ばまでに結婚する者がほとんどです。どうせ私は行き遅れですよ……」
「そんな事ないと思うけどな。オレがいた世界だと、スカーレットくらいだと結婚適齢期で独身の女性も多いけどな。文化の違いかな?」
「えっ?勇者様……!ちなみに勇者様、ご結婚は?」
「結婚はしてないけど、婚約者がいる」
「チッ……」