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第3話 魔王、生まれ変わった体の確認をする

 オレが再び目を覚ますと、そこは暖かい陽射しのあたる大地の上だった。


「ここは…。」


 オレは丈の低い草の生える大地に横たわっていた。目を開けると青空が広がっており、上体を起こして辺りの様子を確認すると、すぐ横には湖が、そしてその周りには森が広がっていた。


「ここはどこだ?」


 オレは意識を失う前の記憶をよみがえらせる。


「そうだ…勇者の一撃が心臓を貫いて、俺は転生をしたはずだが…。」


 転生すると赤ん坊となって生まれ変わるのかと思っていたが、どうやら体は大人のままのようだ。まだ転生の秘術に対しては分からないことだらけだ。まずは自分の身体の状態を確認する。そしてオレの目に飛び込んで来た自分の手を見て、その変化に驚く。オレのたくましい褐色の肌が、まるで人間のような肌色になっていたからだ。


「なんじゃこりゃ?!」


 まだ状況が確認できていないオレは、フラフラとすぐ横にある湖のほとりへ歩いてゆく。湖面は澄んでいて覗くと自分の姿が写って見えた。湖面に映る自分の姿は、なんと脆弱な人間そのものだった。


「これじゃ人間じゃないか?!」


 自分の頭を触ってみると、雄々しく伸びていた両角はなくなっていた。間違いないだろう。魔王オレは転生した結果、何かの間違いで人間として生まれ変わってしまったようだ。

 そして辺りを見回す。魔界は魔力で満ちているのだが、ここには自然に感じる魔力がない。代わりに辺りに精霊力が漂っているのを感じた。おそらくここは人間界だろう。人間となって人間界に転生してしまったのだ。


 オレは思案した。

 何の因果か憎き怨敵の人間として生まれ変わってしまった自分は、これからどうすべきか?

 心は魔族、体は人間の自分は、一体何者なのか?

 恥じて自害すべきかとも考えた。しかしそれよりも部下と交わした必ず戻るという約束を果たす方が、今の自分にとって最も重要だという結論に達した。その結果部下の前で恥じて死ぬこともあるかもしれないし、魔族の身体に戻る方法が見つかるかもしれない。まずは魔界に帰る事が一番の目標だ。


 次にオレは今の自分の状況を確認することにした。

 人間になってしまったというだけで、顔や体型などは転生前と変化はないようだ。

 オレは足元に転がっている石を拾い、思い切り握ってみた。

 石は粉々に砕けた。

 人間は非力なため、ここまでの握力はない。見た目は人間だが、身体能力は魔族のままだと思われる。

 次に最大の武器、神器『灰燼に帰す弓アッシュトゥアッシュズ』を召喚してみる。


「『灰燼に帰す弓アッシュトゥアッシュズ』!」


 左手に漆黒の強弓が現れる。次に≪魔法の矢マジックアロー≫を発動する。最小限の力で射る。

 10mほど離れたところにある大きな岩を狙って打ったところ、岩にはマジックアローが突き刺さり、そこを中心に大きな亀裂が入った。そこまではいつも通りだった。


「ううっ?何だ?」


 軽い脱力感を感じた。自分の魔力を消費したためだ。魔界は魔力に満ちているため、どれだけ≪魔法の矢マジックアロー≫を放とうとも魔力が尽きることはなかったが、人間界においては魔法の消費に限度がありそうだ。

 その後、軽い雷撃系魔法や回復魔法などを試してみたが、それらも魔力消費以外は転生前と変わらず使えるようだった。


「つまり…人間になってしまった以外は完璧か。」


 次に考えるべきは…とりあえずいつまでも裸でいるのはどうかということだ。そう、転生したばかりのオレは、全裸だった。衣食住か…、どこかに人間がいないか探そう。


 周辺の様子を知るため≪周辺捜索レーダーサーチ≫の魔法を発動する。まずは周辺1km、野生動物の気配があった。小型の動物はたくさんあったため無視するとして、中型のものは鹿だろうか?数頭の鹿の群れがあっただけだ。大型の動物はいなさそうだ。次に2kmで≪周辺捜索レーダーサーチ≫する。


「ん?」


 一人の人間が森の中を歩いている。それとそこから少し離れた場所に、ゴブリンの巣らしきものを見つけた。周辺2kmの範囲には人の住む村はなさそうだ。

 ゴブリンの巣に行って着るものを奪いに行こうか、それとも人間に会って情報収集しようか。


 ゴブリンを殺している間に人間がどこかに行ってしまったら困るな。それにその後人間に会えたとしても返り血を浴びた状態で会ったら警戒されそうだ。先に人間に会って情報収集をしよう。


 オレは≪周辺捜索レーダーサーチ≫の魔法で見つけた人間に会うため、森の中を進んだ。しかし会った時にどうやって接触しよう?人間は基本的に野蛮な生き物だと思っている。もし会話が成立しないようなら襲って服や持ち物を奪うつもりだが、もし交渉できる知恵を持っているのならそちらの方がいいだろう。魔族は人間のように野蛮ではないのだから。


 しかし目標に近づくにつれて、もう一つの大きな問題に気が付いた。今自分は全裸という事だ。

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