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第28話 魔王、第一王子と謁見

 シャンダライズ王国の第一王子を襲ったという魔物、ガーゴイルの退治をオレ達は引き受けた。

 ガーゴイルはその後も毎晩王城の外を飛んでいて、王子を狙っているという話だ。

 石でできたガーゴイルには、弓矢も魔法使いの魔法も通用しないため、この国の騎士団たちの力では、飛んでいる最中のガーゴイルにはダメージを与えられないらしい。

 ユウは特殊な飛行ができるし、オレにはガーゴイルすら倒せる魔法も使える。オレたちにとっては、たやすい仕事だ。


 ガーゴイル退治に協力するという事で、夜になる前に第一王子と顔合わせしておいてほしいと言われ、スカーレットにその手配をしてもらっている。場合によっては第一王子の部屋まで助けに行くこともあるだろうし、その時にオレたちの顔も知らないようだと混乱を招くだろう。

 本音を言うとあまり関わり合いたくないのだが、そういうわけで王子との謁見をすることになった。


 ……さて?


 オレたちは国王とではなく、飽くまで王子と会うだけのはずだ。だがなんだこの雰囲気は?

 恐らくここは国王の謁見室で、王子はまだ王位を継承していないはず。だがやつは国王の椅子に座り、偉そうにふんぞり返っている。

 ヤツと比べるとオレたちは随分低い位置に立たされ、周りを兵隊が囲っている。

 なんじゃこりゃ?


「頭が高い。頭を下げよ!」


 王子の横にいるおっさんがそう言うと、オレ達と一緒にいたスカーレット、キース、サラの三人は膝を付き頭を下げた。オレとユウは棒立ちのままだ。


「頭が高いと言っておろう!第一王子ジャットバイゼン様の御前である。頭を下げよ!」


 王子と横のおっさんがイライラし始めた。

 イライラしたいのはこっちの方だっつーの!


「ヴォルト様、申し訳ありません!我々と同じように、膝を付いてもらえませんか?」


 スカーレットが小声でそう言うが、悪いけど従う気にはなれなかった。


「なあ?貴様、何を勘違いしているのだ?」


「許可をするまで発言は許さん!黙れ!」


 オレが一言発すると、横のおっさんが声を荒げ、そして周りにいた兵隊たちが槍を構えてオレたちを囲った。


「第一王子ジャットバイゼン様の御前であると言っておろう!無礼な態度は許さん!」


 おっさんがオレ達に怒声を浴びせると、第一王子は怪我をしている手と反対の左手を軽く上げて、おっさんの言葉を遮った。

 ガーゴイルに襲われた時に怪我をしたという右手には、包帯が巻かれ肩からつるされている。おそらく骨折だろう。

 王子に制止されたおっさんは、頭を下げて一歩下がる。

 そして第一王子が、こんなことを言って来た。


「勇者とその従者と聞いているが、おまえたちは自分たちの立場が分かっていないようだな?俺はこの国の第一王子。次期国王だ。教えておいてやろう。国王と国民とでは、神と虫けらのごとく別の存在だ。こうして俺の声を聞けるだけでもありがたく思え。さあ頭を下げるのだ!」


「……」


 オレだけでなく、ユウも、こいつ何言ってんだ?という顔になる。

 いやほんと、何なんだこいつは?生理的に嫌悪感を覚える。

 ユウが我慢できずに発言をする。


「何言ってんのお前?お前もこの国の国民も、同じ人間だろ?何でそんな発想になるの?」


「愚かなり。王族に流れる血と、市井に流れる血は全く別と知れ!王族に流れる血こそ、神の系譜の血。勇者だかなんだか知らぬが、己に流れる下賤な血を知れ」


「……」


 あまりにぶっ飛んだ言葉に、ユウは口を開けてポカーンとしている。反論する気も失せたらしい。

 怒りを通り越すと笑えてくるというが、今ならそれが分かる気がする。


「おまえが魔物に襲われて困っているというから、オレたちが助けてやると言っているんだぞ?頼み方というものもあるんじゃないか?」


 反論する気力が失せたユウの代わりに、オレが話を続ける。

 今オレたちを兵士の槍が囲っている。助けを求めるのにこの仕打ちはないんじゃないか?


「だからおまえたちは愚かだと言っているのだ。お前たちにこの第一王子である俺を守らせてやるというのだ。感謝するのはお前たちの方だ。さあ、この俺の護衛をやらせてくださいと頭を下げろ!」


「はあ?」


 呆れて言葉もない。


「どうする?こいつ守るのやめるか?」


 オレはユウに言う。

 ユウも「そうだな」と、オレの意見に同意する。


「待ってください、ヴォルト様!失礼を謝ります。どうか……」


 スカーレットはオレ達と王子の間に挟まれて、オロオロと困惑している。

 両方から違った意見を押し付けられ、間に挟まれて悩む中間管理職のようだ。

 オレはさすがにスカーレットが哀れになり、その頭にポンと手を置き落ち着かせると、王子へ向けて言った。


「第一王子よ。貴様は何か勘違いしているようだが、貴様はまだ王子でしかない。この先何かがあって、貴様が王位を継げなければ一貴族に身分を落とすのであろう?それに、もし王位争いが起こって他の王子に蹴落とされた場合、貴様は一般市民、最悪の場合罪人となるのだ。貴様は今はまだ、そんな不安定な立場でいるのだぞ?そこまで威張れる立場ではないだろう」


「ふざけるな!次の国王は俺と決まっている!俺への侮辱は死罪だ!取り押えろ!」


 正論を言われてプッツンしたようだ。

 第一王子の怒りの声に、兵士はオレを取り押さえるため、オレの身体に槍を押しつけてくる。

 だがそんな貧弱な力では、俺を取り押さえる事はできない。

 オレは両手でそれぞれ兵士の頭を掴むと、放り投げた。

 悲鳴を上げながら二人の兵士の身体が宙に飛ぶ。

 他の兵士は慌てて槍を構えるが、ドサッという音とともに落下し動かなくなった兵士を見てビビッている。オレに襲い掛かる勇気もないようだ。

 障害物の無くなったオレは、ゆっくりと第一王子のいる壇上へ昇ってゆく。


「無礼だろぅぐへ!」


 オレの前にたちふさがった王子の腰巾着のおっさんには、デコピンを食らわし失神させる。

 そしてオレは第一王子の眼前へと立った。


「そういえば貴様、オレの事を平民と勘違いしているようだな?言っておくがオレはとある国の国王だからな?ただの王子が、他国の国王に対して取る態度ではないよな?」


「う、嘘だ!」


「本当だよ」


 第一王子は恐怖で顔をゆがませる。だがこいつのくだらんプライドは、オレに謝罪をすることを許さないらしい。口から泡を吹きながら、恐怖と怒りの混ざった表情を浮かべている。

 なんとか理解させようと、オレは説教を続ける。


「他国の国王として忠告させてもらうが、そもそも国王というのは国民のために生きるものだ。貴様の服や食べ物は、国民が生産し税金を納めてくれるからあるのだぞ?国民がいなくては貴様の今の生活はない。国民に感謝こそすれ、下等な生き物として侮蔑する理由はないのだ」


「う、うるさい!!!」


 ダメだ。こいつオレがこんなに優しく説明してやっているのに、聞く耳を持っていないようだ。


「俺は神に選ばれた人間なのだ!特別な人間なのだ。他の人間とは違うのだ……ブツブツ……」


 マジでこれダメだ。目つきがおかしい。こいつイッちゃってる。

 すると、階下からスカーレットが駆けてきて、そしてオレの足にしがみつくような姿勢で抱き着いた。そしてオレに対し、王子の命乞いを始めた。


「申し訳ありませんヴォルト様。王子の非礼を謝ります。どうかお許しください」


「いや、許すとかじゃなくてだな、まずオレの話に聞く耳を持ってほしいだけなのだがな……」


 すると突然王子が立ち上がると、突然スカーレットの顔を踏みつけるように蹴った。

 オレに対して攻撃するかと思ったので、オレはその対処ができなかった。

 王子に顔面を踏みつけられたスカーレットは、悲鳴を上げ鼻から血を出し倒れる。


「貴様がこんな奴を連れて来るから!ふざけやがって!女のくせに騎士団長なんて生意気なんだよ!」


 こいつはオレの事は恐ろしいため、手を出すことができない。その腹いせに、手近にいる弱い人間に暴力を振るったのだ。最低の人間だこいつは。

 オレは遂に我慢の緒が切れてしまう。

 ガツッと第一王子の頭を掴む。


「や、やめろ!離せ!俺の事を誰だと思っているんだ!俺はこの国の第一王子……」


「身分がどうとかの話ではない。男のくせに女に暴力を働いたな。貴様は人の上に立つ資格はない」


「ふざけるな!この俺が、このシャンダライズ王国の次期国王だ!」


「≪生命力吸収(エナジードレイン)≫」


 オレはもう、こいつの言葉を聞きたくなかった。

 第一王子の生命力を吸い取ると、手を離す。抜け殻となった、しわしわの老人の姿の第一王子は、力なくその場に崩れ落ちた。


「スカーレット、大丈夫か?≪水精小回復(アクアヒール)≫」


 うずくまっているスカーレットに歩み寄り、回復魔法をかける。彼女の顔の怪我はすぐに治る。


「すいません、すいません……」


 スカーレットも混乱しており、オレに対し謝り続ける。


「落ち着け。お前は何も謝る必要はない」


 スカーレットを抱え起こし、辺りを見回すと、ようやくオレは自分がしでかしてしまった事に気付く。


 王子の私兵たちは、恐怖で立ち尽くしており、キースとサラも困惑している。

 ただ一人ユウだけが、手を叩きながら爆笑していた。


 オレは振り返って、しわくちゃの老人となった第一王子を見下ろす。


「確かオレはこいつを助けるためにガーゴイルを倒すはずだったんだよな?」


 ……人生思い通りにいかないものである。










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