第26話 魔王、騎士団長と対決
連れて行かれたのは、騎士団本部とは別棟となっている練習場と呼ばれる建物。なかなかの広さだ。普段は多くの騎士がここで剣を振るっているのだろう。
騎士団長スカーレット・スタインブルグは、木剣を二本持って現れ、一本をオレ達へ向けて差し出した。
「私自ら確かめさせてもらうわ。さあ、どちらから来るの?」
その目には闘志が燃えていて、並大抵の男ではひるんでしまうだろう。まあオレくらいになれば何とも思わないのだが。
「なあ。ぶっちゃけ俺は剣を振るうのはど素人なんだけど?」
ユウは腕試しをすると言ったスカーレットに対し、隠すことなく手の内を晒した。
それを聞いたスカーレットは、顔をゆがめる。
「どういう事ですか、勇者殿?」
「どういう事も何もねえよ。俺は突然異世界から召喚されて今日からあなたは勇者ですって言われただけで、それ以前もそれ以降も特別剣の練習なんてしたことねえんだよ。俺にできるのは、特殊な魔法と何でも切れる剣だけだぜ」
「ならばそれを見せていただいても?」
そう言われ頷くユウ。
「分かった。『殲滅し尽くす聖剣』」
ユウが剣の銘を呼ぶと、その手に光り輝く剣が現れる。
何もないところから突然現れた剣に、スカーレット、そしてその部下のキースとサラも目を丸くする。
「『接続』」
ユウは剣を持っていない側の左手の掌をスカーレットの方へ向けると、突然離れた場所にいるスカーレットの持つ木刀を奪い取った。
勇者魔法によって、目に見えない接続線を繋ぎそれを縮めたのだが、その仕組みを知らないスカーレットは、手に持っていた木刀が突然ユウに引き寄せられて行ったことが理解できずにいた。
「これが俺の剣と特殊な魔法だ。多分この剣で手合わせしたら殺し合いになっちまうし、この剣じゃなきゃ俺はただの素人同然なんだ」
ユウの説明に、スカーレットは手合わせをするまでもないと悟る。頷くと答えた。
「分かりました。貴方が本物の勇者様だと認めましょう。元々あなたについてはサラから聞いていて疑っていたわけではありませんし」
その言葉を聞いてユウは安心する。この凶暴な女騎士団長と戦わずに済んだと分かったためだ。
だがその凶暴な女騎士団長の怒りが収まったというわけではなかった。
「ではそちらの図体のデカい男。ヴォルトと言ったかしら?ヴォルト、貴方の腕を試してあげるわ。かかって来なさい!」
そう言ってスカーレットは剣を構えた。
彼女がどんな性格か知っているサラとキースは、横で青い顔をしている。
指名を受けたオレは、やれやれと呟き、先ほどスカーレットから木刀を奪ったユウから、木刀を受け取る。
「女を叩きのめすのは趣味ではないんだがな……」
オレは面倒に思いながらも、手に持った木刀を彼女に向けた。
「私にそう言った男たちは、全員最後には泣きながら謝ることになったわ」
「ヴォルトさん、女性だからといって油断しないでください!団長のしごきは、本当に大人の男性が泣くほどなんです!」
サラがオレにアドバイスを送る。オレの事を心配してくれているのだろうが、あまりオレの肩を持つと後でお前もこの団長にいじめられるぞ?
そんな余計な心配をしていると、スカーレットは試合開始の合図もなしに唐突にオレに襲い掛かって来た。
まあ殺気垂れ流しの攻撃なのだから不意打ちにもならない。
オレはその大上段からの一撃を、軽く横へ打ち払うと、改めて木刀を構えた。
「やるわね!」
スカーレットは姿勢を正すと、再びオレに向かって突っ込んできた。
今度は大振りの一撃ではなく、フェイントを織り交ぜたたくさんの攻撃を放ってくる。オレはひとつひとつ丁寧にさばき切ると、スカーレットの体制を崩し転倒させた。
「くっ!」
慌てて手を突き立ち上がろうとするスカーレット。
しかし客観的に自分の姿を見ると、なんだかか弱い女をいじめているように見えて恥ずかしい。
立ち上がったスカーレットは、迷わずまた突進をしてくる。
オレはその一撃を木刀で受け止め、鍔迫り合いの体制になる。
「こうなると体格の差が出るだろう?」
オレがチョンと押すと、吹き飛ばされたスカーレットは盛大に尻もちをつく。
男の中でも体格の大きいオレと、強いとはいえ女性らしい華奢なスカーレットとでは、腕力の差は歴然だ。
「大丈夫か?」
心配して声を出すと、スカーレットは顔を真っ赤にして、慌てて立ち上がる。
「無理するな。怪我をさせたくない」
オレがそう言うにも構わず、スカーレットはもう一度攻撃を繰り出して来た。仕方ない。
カツーン!
彼女の持つ木刀を、思い切り横殴りに振り払う。木刀は払い落とされ、スカーレットは無防備になる。
オレはそんな彼女の顔に向けて木刀を振り下ろす。
最後まで目をつぶらなかったのは褒めてやろう。普通は恐怖で目をつぶってしまうものだ。
オレの振り下ろした木刀は、彼女の頭に当たる直前で寸止めしておいた。
ここまですれば、痛い目に会わなくても、負けを認めてくれるだろう。
「これで勝負ありだな?」
オレの言葉を聞いたスカーレットは、顔を真っ赤にして今にも泣きそうな顔で震えていた。
女相手にやりすぎたか?とちょっと心配になったが、スカーレットはうつむいて顔を隠すと、「分かったわ」と、か細い声で答えた。
「じゃあ改めて、対等な立場でお互いの話を聞こうじゃないか。オレからもいろいろと聞きたい事がある」
先ほどまで威勢の良かったスカーレットだが、オレの言葉にただ頷くだけで、妙に大人しくなっていた。
その変化に、キースとサラがさっきと違う意味で顔を青くしているみたいだったが、気にしないでおこう。
「おう、そう言えば一つだけ言い忘れていたが、オレは剣士でも何でもない魔法使いだからな?」
「えっ?!」
スカーレットは驚いた表情でオレを見つめる。
信じてもらえないと困るので、威力を最小限にして魔法の矢や雷撃を見せてやった。
驚いて言葉を失っていたが、たぶん信じてくれただろう。飽くまでオレの実力の片りんだが、これだけ見せたら対等な交渉の場に立ってくれるはずだ。
そうして先ほどの部屋に戻ったオレ達は、改めて話し合いを始めるのだった。
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