第25話 魔王、騎士団長と口喧嘩
ヴァレンシュタイン王国騎士団長よりの呼び出しに応じ、ユウとオレは城内にある騎士団本部までやってきた。
当然のごとく同行しようとしたオレに、サラの上司キースはなぜという顔をしたが、オレはユウの仲間でありユウよりも重要人物だと言い聞かせて同行を納得させた。
騎士団本部は五階建ての大きな白い建物だった。オレたちは、その二階にある広い部屋へと通される。少し待たされてやって来たのは、一人の女だった。
「女?」
腰まである長い金色の髪をなびかせ、その女が部屋に入ってくると、キースとサラは敬礼をし姿勢を正す。
オレの言葉が気に入らなかったのか、女は俺をきつく睨みつけてくる。別に女に睨まれても怖いとは思わんがな。
オレとユウを見比べた後、その女は口を開いた。
「勇者を連れて来いと言ったはずだけれど、なぜ二人もいるの?」
「こちらが勇者ユウ様です。もう一人は……」
「それではその図体がでかい男は、すぐに退席させなさい」
女はサラの説明を途中で遮って、オレに出て行けと言う。いくら寛大なオレとはいえ、さすがにその態度が癇に障り、つい言い返してしまう。
「おい、女。オレたちは、この国の騎士団長とやらがどうしても会いたいというから来てやったのだ。お前の方こそ無関係だろう。出て行くのはお前の方だ」
すると、その女はひどく冷たい視線で再びオレを睨みつけて来た。お……おおう?別に女に睨まれても怖くなんかないんだからな……。
「ヴォルトさん……」
オレと女がにらみ合いをしていると、サラが俺の上着の裾を引っ張ってきた。
「ん?何だサラ?」
「その女性が、我が騎士団の団長であらせられる、スカーレット・スタインブルグ様です」
「何だと?」
オレは慌てて、その女に向き直る。年はサラより上だろうが、それでも三十は行ってないだろう。若く、そして剣を振るう無骨な騎士とは思えないほど、整った顔をしている。この女が騎士団長だと?
「何を言っている?騎士団長というのは、そこのお前の上司キースのような、無骨な中年男がなるものだろう?こんな小娘が騎士団長などと……。そうか、分かったぞ。貴族の娘が親の七光りで騎士団長を務めているのか?だとしたら貴様の国の騎士団などたかが知れるな」
「ウォッホン!ヴォルト殿!」
わざとらしい咳をして、キースがオレの名を呼ぶ。なんだ、オレの話を遮って?
「スカーレット様は、確かにスタインブルグ公爵家のご令嬢でありますが、騎士団長を務めているのはその剣の腕が騎士団全員から認められているからです。実力で団長を務めておられます。失礼のないようにお願いします」
「なんだと?」
確かに魔界にも、ルビィのような男勝りの女剣士がいる。ルビィの場合、髪を短く切り男の服装をして女性らしさを表に出さないため、その剣の強さも感じさせるのだが、このスカーレットという女は、ドレスを着れば社交界でも目立つほどの美しい容姿をしている。強いと言われても疑ってしまうのは仕方あるまい。だが、キースの言葉を信じるべきだろう。
それにオレは女性差別主義者でもない。男の世界に女性が進出することに何も不快に感じるものはないのだ。
「なるほど。おまえが騎士団長か。女性だからといってバカにしているわけではないのだ。勘違いを許してくれ」
心の広いオレは、素直に自分の否を認め、スカーレットに謝罪をした。
「分かったならすぐに出て行きなさい。時間の無駄よ」
「って、おい!」
申し訳ないと思った瞬間は、わずか数秒だった。何だ、このムカつく生き物は。
「団長。こちらの方はヴォルト様と言いまして、勇者ユウ様の仲間として一緒に行動しておられる方です。そして以前私がテロリストを捕えた際、協力してくれたのがヴォルト様です」
「何!本当なの?」
「はい!」
「分かったわ。実力者であるならば、あなたにも話を聞いてもらいましょう。着席して」
サラの説明を聞き、態度を改めるスカーレット。
いささか釈然としないところがあるが、とにかくオレの同席も認められ、話を聞くことになった。
一同は部屋にあるテーブルに着席をする。部屋の中には、騎士団長のスカーレット、新米女騎士サラとその上官のキース、そしてユウとオレの五人だけだ。
余計な人間がいないという事は、重要な話があるためだろうか?オレたちを呼びつけたのだから、飲み物くらい用意してもいいだろうに。
「単刀直入に話させてもらうわ。魔物退治に手を貸してください」
「魔物退治?お前は自分の剣の腕で騎士団長になったのだろう?自分で倒せばいいじゃないか」
するとまた例の冷たい視線が、オレに突き刺さる。
「お互い話し合いをする準備ができていないようね。そうね、まずは貴方たちが本当に役に立つのか確認させてもらいましょうか?あなたたちが私よりも弱ければ、お願いすることは何もありません。その場合、勇者を偽ったとして牢獄へ入ってもらうわ」
「ヴォルトさ~ん!余計な事を言うから、怒らせちゃったじゃないですかー」
「何だ?何だ?」
サラが泣きそうな顔でオレに言うと、その横でキースが顔を青くしている。
「団長がこうなってしまったら、もう我々では手に負えませんよ……」
こうしてオレとユウは、騎士団の練習場へと連れ出され、この女騎士団長と手合わせをすることになってしまった。




