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第22話 魔王、墓場で人命救助

「そんなすごい剣を持っているなら、最初から言ってくれよ。驚いたな」


 ジュードは、ユウの持つ『殲滅し尽くす聖剣エクスキューショナー』の威力に度肝を抜かれていた。

 あれからユウが何体かのスケルトンを倒して分かったのだが、『殲滅し尽くす聖剣エクスキューショナー』は刃先が少し頭蓋骨に触れただけでスケルトンを死滅させてしまうようだ。頭部を完全に破壊しなくてはいけないというスケルトン退治の基本を、完全に無視した性能だ。

 3級冒険者のジュードは、これほどまでの攻撃力の高い武器を見たことがないのであろう。まあオレも見たことなかったが。

 だがそんな、スケルトンに対して無双しているユウの表情は優れず、難しそうな顔をしていた。


「どうしたユウ?何か問題でもあるのか?」


「何かこれ面白くねえなぁ。ジュードみてえに爽快に骨を砕きたいんだけど。パコーンって」


「パコーンって……。クエストに爽快感も何もないだろう?スケルトンを討伐する事が全てだ。簡単に倒せるのならそれでいいじゃないか」


 ジュードにそう説得され、不本意ながらも納得するユウ。

 そんな二人を後方から暖かく見守るオレ。何かあった時には、魔術師たるオレが後方から支援してやらねばなるまい。

 この調子なら、たぶんそれは無さそうだが……。

 そんなオレのところにも、一体のスケルトンが近寄って来た。ノロノロと忍び寄るスケルトンごときに全く焦る必要などないのだが、後ろを振り向いたジュードがそれに気づくと大声で叫んだ。


「ヴォルト!危ない!スケルトンが近寄って来てるぞ!」


「大げさな奴だな。分かってるわ」


 オレの手が届くところまで来たスケルトンに、オレはデコピンをくらわす。中指がスケルトンの額に炸裂すると、パン!という音と共に頭蓋骨が激しく粉砕し、後方に粉々に砕けた骨が飛散する。

 ジュードがメイスで破壊した時よりも派手に頭蓋骨が砕けたスケルトンの全身は、その場に崩れ落ちる。

 まさに指一本で倒すとはこのことだ。まあスケルトンなんていう最低レベルのモンスターはこの程度なのだ。

 当たり前の結果に特に驚く事は何もないのだが、ジュードは口を開けたままこちらを向いて固まっていた。


「どうしたジュード?」


「ハ……ハハ……。ヴォルト、あんたモンクだったのか?しかも高レベルの」


「何を言っているお前?オレは本職メインジョブ魔術師マジシャンだ!弓手アーチャーのスキルも持っているが、修道僧モンクのスキルなど無いわ!」


「……。待ってくれ。俺は何が起きてるか分からねえ。5級と6級の新米冒険者たちと一緒に初級クエストに取り組んでるはずなんだが……」


「その通りだが?」


 よく分からんが、先ほどまで雄弁だったジュードはそれ以降無口になっていった。だがまあ、特に問題はないだろう。

 それよりもユウだ。

 俺がデコピンでスケルトンを倒すところを見ると、「それだ!」とか言って、それ以降スケルトンをパンチで倒し始めた。「ヒャッハー!」とか言いながら、次々とスケルトンの頭を殴って破壊してゆく。なんだか非常に危ない奴に見える。


「ストレス解消に最適だな、これ!」


 こいつも何を考えてるかよく分からんが、なんだかご機嫌になったようだ。

 そんな楽しみながらスケルトンを殴り倒して進むユウを先頭に、俺たち三人はだんだんと墓地の奥へと進んでいた。


 ところでこの共同墓地は、平坦な土地ではなく、小さな丘や岩石などで凸凹とした土地にある。

 墓石もしっかりとしたものではなく、人間を埋葬した場所の上にただ岩が置かれているだけのものが多い。埋葬した土壌もアンデッド化した死体が地中から出てきたため、今では土も起こされてかなり荒れている。

 瘴気が濃いところは雑草も生えていないが、それでもところどころ雑草が生い茂っている。

 本当に荒れ地だ。外周を柵で覆っていなければ、ここが共同墓地とは分からないだろう。まあその柵もかなり傷んでいるのだが。

 入り口の辺りは見通しが良かったのだが、奥へ進むほど見通しは悪くなる。変なところに隠れている魔物に襲われるのを気を付けなければいけない。それもまあスケルトンなので恐れる事はないのだが。


 ふと、小高い丘の手前の見通しの悪い場所に、一人の男が倒れているのを見つけた。墓場だけに一瞬死体かと思ったが、息をしているようだ。


「おい!誰か倒れているみたいだぞ?」


 困っている人間をほおっておけない寛大なオレは、倒れている男に近寄り、声を掛ける。


「おい!大丈夫か?」


 倒れている男は、その装備から冒険者のようだ。オレたちより先にスケルトン退治に来ていたのだろうか?

 オレは座り込み、その男を抱え起こす。


「あが……が……」


 目つきがおかしい。これは……


「≪麻痺パラライズ≫にかかっているのか?」


 意識はあるようだったが、体が動かないようだ。


「おいジュード。麻痺治療の薬はあるか?」


 だがジュードが用意していた毒消し草などの薬草類の中には、麻痺を回復させるものはなかった。

 仕方なく、オレは覚えたばかりの精霊魔法≪水精小回復アクアヒール≫で、体力だけでも回復させてやる。麻痺は治らないが、多少は言葉が聞き取れるくらいに回復はしてきたようだ。


「な……仲間が……」


 そう言って男が指を刺した先には、人が通る事ができそうな洞窟が見えていた。


「まだお前の仲間があそこにいるのか?」


「そ……う。た……すけ……て……」


「分かった。ちょっとお前はここで待ってろ。死んだふりをしてればスケルトンも襲ってこないだろう」


「待てヴォルト。こいつの仲間を助けに行くつもりか?麻痺毒を持ったモンスターがいるんだろう?危険だ!」


 オレがこいつの仲間を助けに洞窟へ行こうとしたところ、ジュードが止めに入った。


「危険なら、なおさら早く助けに行ってやらないといけないだろう?」


「確かにそうだが、俺たちはスケルトン退治の準備しかしていないんだ」


「オレはいつでもドラゴンとでも戦える準備はできてるけどな」


 オレとジュードの意見が平行線のままいると、ユウが口を出して来た。


「それならジュードはここで待ってればいいじゃん。俺とヴォルトの二人で洞窟に行こうぜ」


「な……」


「そうか。そうだな。無理してつき合うこともない。お前はここで待ってろ」


「そんな事言われて、はいそうですかとお前たちだけ危険な場所へ行かせられるか!分かった。だが危ないと思ったらすぐに引き返すぞ!」


「何だ?おまえも来るの?」


 心無いユウの言葉に困った顔をするジュード。


「そんな言い方したら可哀そうだろう?まあジュード、お前も一人でいるよりオレたちと一緒の方が安全だ。一緒に行こう」


 そうして俺たち三人は、遭難者の救助に洞窟の中へと入って行った。






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