第20話 魔王、先輩冒険者として指導する
翌日オレは、ユウを連れて冒険者ギルドへとやってきた。先輩冒険者として、このオレ自らいろいろと指導してやらねばなるまい。
まずは冒険者として登録をさせるため、受付へと紹介する。
「こいつが今度新しく冒険者に登録したいというので、手続きを頼む」
すると、受付嬢は冷たい視線で質問を始める。
「今までどんなご職業をされていましたか?」
どこへ行っても同じことを聞かれるようだ。オレが登録した時と同じことを聞いて来る。
「職業?理容師……髪を切る仕事をしていたけど……」
「ユウ、こういう時は魔物との戦いや遺跡探索など、冒険者の活動に関係のある能力を持った職業のことだ。お前は剣を使ってるんだから、剣士でいいんじゃないか?」
「じゃあ剣士で……」
「失礼ですが、今は剣をお持ちでないみたいですけど?」
受付嬢が指摘する通り、ユウは今手ぶらだった。
ユウの持つ神器≪殲滅し尽くす聖剣≫は、オレの持つ神器≪灰燼に帰す弓≫と同じく普段は異空間にあり、その名を呼ぶことで姿を現す。
こんな人目の多いところでそれを出すと騒ぎになる。
「まだ使い慣れてないんで、今日は宿に置いてきたんだ」
必要以上に怪しまれないよう、オレがフォローをしてやる。先輩としてね。
また≪殲滅し尽くす聖剣≫では、普段使いとして威力が強すぎる。後でダミーの剣を一本買っておくべきだろう。
「分かりました。それでは新規登録にあたり、銀貨5枚いただきます。新しく冒険者となった場合、6級冒険者から始めてもらいます。すぐにどんな仕事でもできるわけではなく、基本的にギルドがその階級に適していると思われるクエストを割り振っていますので、そんなに簡単にお金が稼げるようになるわけではありませんが大丈夫ですか?」
「そうなのか……」
「銀貨5枚はオレが立て替えておいてやろう。オレと一緒ならすぐに階級は上がるから心配するな」
「ちなみにヴォルト、お前は何級なんだ?」
「5級だ!」
「どんぐりの背比べじゃねえか……」
その会話を聞いていた周りの者から、クスクスと笑い声が聞こえて来た。何がおかしいのだろう?
オレが銀貨5枚を払うと、受付嬢はユウの冒険者タグを作りに奥の部屋へと向かった。
その間に、これからどのクエストをやるかを選びにユウとクエスト掲示板を見に行く。
「兄さん、あまり無理をするなよ」
笑顔でオレたちに話しかけてきたのは、立派な胴鎧を付けた戦士風の男だった。
その胸からぶら下げている冒険者タグは青銅、3級冒険者のようだ。
「俺は3級冒険者のジュードだ。さっきあんたらの話が聞こえてきたが、なんだか危なっかしい感じがして心配になったぜ。誰でも新人のうちは、早く昇級したくて焦るもんだ。だが慌てずに、確実にクエストをこなしていかないとダメだぜ」
「オレは5級冒険者だが世界最強の男、ヴォルト。今登録したばかりのこいつはユウだ。心配は無用だ。ところでお前もクエストを探してるのか?」
ジュードが名乗るので、オレも名乗り返した。
どの世界でも挨拶は大切だ。挨拶をしっかりできないような奴は信用ができない。こいつはオレの前でしっかりと名乗ったので、割とまともな人間だろう。
「いや、実は俺は普段はパーティーを組んでるんだが、リーダーが今里帰りしてて一人なんだ。暇なんで一人でできるクエストを探してたんだが、なかなか良いクエストがなくてね。回復役がいないと、どれも危険なんだよな」
「じゃあ特別にオレたちが一緒に付いて行ってやろう。お前はラッキーだな。オレもこいつも回復魔法も使える。まあ、オレがついていれば回復魔法など必要ないだろうがな。ワハハ!大船に乗ったつもりでいろ」
「ハハハ!素直に新人二人じゃ不安だから、ついてきてほしいって言えばいいだろう。分かった、分かった。協力しよう。それで、どのクエストにする?」
とりあえず組むことに誰も異論はなかったので、三人で取り組むクエストを探すことにした。その後三人で物色した結果、オレが選んだのは、墓地に出現する動く骸骨の退治だ。
「まじかよ?動く骸骨って、名前のまんまか?」
ユウが元いた世界では見たことがないらしい。スケルトンの事を聞いて、驚いていた。
「心配するな。骸骨戦士と違って、ただの動く骸骨は武器を持ってない。それに動きも遅いし、退治するのは余裕だろう」
「そうは言っても囲まれると厄介だぞ。掴まれて身動きが取れなくなったら、じわじわと体力を奪われて殺される事もある。頭蓋骨を破壊すれば動かなくなるが、これがなかなか固い。剣や弓よりハンマーやメイスのような殴打武器を持って行くべきだ」
ジュードは慎重派なのか、細かいことをいろいろと説明する。そんなの何も考えず暴れまわってぶん殴れば解決するじゃないか。
まもなく受付嬢がユウの冒険者タグを持ってきたので、そのままスケルトン退治のクエストを申し込んだ。
「スケルトン退治は報酬も少なくて面倒くさい仕事なんで人気がなくて、そのせいで最近スケルトンが増えてきて困っていたんです。助かります。スケルトン以外の危険なアンデッドが出る可能性もあるので、もし危険だと思ったらすぐに帰還してくださいね」
「了解了解。まあオレは今まで窮地に陥った事は一度もないがな」
「一回俺に殺されてるじゃねえか!」
「そんな事もあったような、なかったような」
ヴォルトがとぼけると、何の話か分からない周りの人間は特にそこに触れることもなかった。
そうして俺たち三人は、そのままスケルトン退治に、王都の外にある墓地地帯へと向かった。
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数時間後、冒険者ギルドに慌てて入ってくる男がいた。
「大変だ!」
「どうしたの?ハーケン!」
ボロボロの服装をしたその戦士に数名が駆け寄る。
「大変だ!パーティーが全滅した。みんな精神攻撃でおかしくなっちまった!助けに行くパーティーを編成してくれ!クエストレベルは5だ!」
クエストレベルとは冒険者階級を逆から数えたもので、6級冒険者にはレベル1クエスト、5級にはレベル2クエストといったふうに割り振られる。そしてレベル5クエストと言えば、2級以上の上級冒険者への出動要請だった。
「ハーケン、落ち着いて。救助隊はすぐに手配するわ。何が出たの?場所はどこ?」
「分からん、霊体の魔物で、通常の武器が当たらなかった。場所は王都の外の墓地地帯だ。盗賊を追っていて逃げ込んだ墓地でそれが出たんだ!」
ハーケンの報告を聞いて、冒険者ギルド内は騒然となる。そして急きょ、ハーケンの仲間を救出するために緊急クエストが発令された。




