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第13話 魔王VS勇者 二度目の対峙

 その部屋の中で、オレは『灰燼に帰す弓アッシュトゥアッシュズ』を、勇者は『殲滅し尽くす聖剣エクスキューショナー』を、お互いに構えたまま、しかし攻撃を発動させることなく二人は硬直していた。

 なぜなら、オレの目の前にはオレを庇うようにサラが両手を広げて立ちはだかっていたからだ。

 勇者の攻撃からオレを守る形で、だ。


「女、死にたくなければ邪魔をするな!」


 勇者は、サラに退くよう要求する。


「嫌です。」


 サラはそれを拒絶する。


「そいつが誰だか知っているのか?」


「殺してはいけない人だということを知っています。」


「そいつは人類の敵なんだぞ。オレはおまえたちのために言っているんだ。」


 しかしサラは動こうとしない。だがその後姿は、小刻みに震えている。

 このままではオレにとっても邪魔だ。オレと勇者、先に攻撃された方が死ぬ。このまま退かねばどちらかがサラごと殺される。だからオレからもサラに邪魔をしないよう告げる。


「退くんだサラ。」


「嫌です。」


 弓を構えるオレに背中を見せているサラは、後ろ向きのままオレに答えた。

 本当にこのままでは、どちらかが攻撃を仕掛けた瞬間、サラは死ぬ。

 一部始終を見ている水神殿の神官と勤め人は、突然の出来事に硬直している。

 オレも勇者も武器を構えたまま動けずにいた。

 そんな緊張した硬直時間がしばらく続いた後、沈黙を破ったのは勇者だった。


「止めだ!止めだ!もう知らねえよ!てめえらの事なんか知るか!」


 そう言って、剣先をこちらへ向けて肩の高さに構えていた剣を降ろすと、近くのソファにどかんと座って足を組んだ。

 そんな勇者の挙動を見て、一同は唖然とする。

 先ほどまで向けられていた殺気が消え、殺し合いの雰囲気ではなくなったため、こいつの意図は分からないが、とりあえずオレも構えた弓を降ろす。

 オレたちの殺気に挟まれていたサラは、解放された安堵感からか、腰砕けのように床にへたり込んでしまった。


「大丈夫か?」


 オレは右手をサラのわきの下に引っ掛けるようにして持ち上げてやり、ソファに座らせる。へなへなと力なくソファに落ちるサラ。

 そしてオレは気を許すことなく勇者を見つめると、その行動を問いただした。


「どういうつもりだ?」


「どうもこうもねえよ。もうお前の好きにしろ。」


「戦う気はないということか?」


 油断させていきなり襲ってくることも考えられるが、今のこいつにはそういう緊張感は全く感じられなかった。ここに勇者がいるという事は、ここが敵地の真っただ中で、どこかに伏兵が潜んでいる可能性も考えられるが、正直こいつ以外にオレに危害を加えられる可能性のある人間など考えられない。

 だとしたらこいつが剣を置いたなら、オレもひとまず戦闘態勢を崩してもよいであろうと判断し、『灰燼に帰す弓アッシュトゥアッシュズ』を収め、サラの横に座る。


「お互いに話し合う必要がありそうだな。場所を借りてもうしわけない。神官殿もご一緒に。」


 オレはそう言って神官に勇者の隣に座るよう促す。神官はソファに座ると、オレを部屋に案内してくれた神殿の勤め人は「お茶をお持ちします!」と言って一旦部屋を出て行った。


「さて、何から話せばいいのかな。」


「俺はお前に話す事なんて何もねえけどな。」


 対話を要求するオレに対し、勇者は何もかもどうでもよくなったかのような態度を取っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あの……、ヴォルトさんって勇者様とお知り合いだったのですか?」


 何から話せばいいか迷っていたところ、サラがそう尋ねてきた。たった今殺し合おうとした二人の関係を、お知り合いという呼び方をするのはどうかと思うが。


「宿敵だ。」


 オレは単刀直入に答えた。だが、オレのその回答だけでは理解できないようで、サラは不思議そうな顔をしていた。神官に至ってはオレの事は一切知らないのだから、余計に混乱しているようだ。


「てめえなんで攻撃するのを止めた?」


 足を組んでふてぶてしい態度の勇者は、強い口調でオレにそう問いかけた。


「貴様が先に剣を降ろしたからだ。戦う意思はないのだろう?」


「ケッ。いつでも人類は滅ぼせるつもりか?」


 そんなオレたちの会話に、サラが割り込んでくる。


「あの……、勇者様。申し訳ありませんが、先ほどから人類の敵だとか、人類を滅ぼせるだとか、とても物騒な事をおっしゃっていますけど、ヴォルトさんは確かに恐ろしく強いですが、そんなに悪い人ではないと思うのですが……。」


 その言葉を聞いて、勇者は絶句する。オレの顔を見て、サラの顔を見る。そして呟く。


「おまえ……、そいつ今は人間に化けているようだが、魔王だぞ。」


「え?」


 驚くサラの横でオレはその発言に訂正をする。


「化けているのではない。人間になってしまったのだ。」


「はぁ?」


 それを聞いた勇者は、目を見開き口を大きく開けて数秒固まると、突然爆笑した。


「ハハハハハ!立派な角も黒い肌も無くしちまったのか!」


「魔族の肉体は失ったが、魂は魔族の誇りを失ってはおらん。」


 バカにして笑う勇者にオレは腹を立てる。


「貴様の方こそその髪の色はどうした?真っ赤だった髪が、どこにでもいる黒い髪になっているではないか?」


 そう、顔を見てすぐに勇者だとは分かったが、勇者もその姿を大きく変えていた。オレを襲った時は紺色のおそらく魔力をまとった衣類の上に軽装の鎧を着ていたが、今着ている服はずいぶんみずぼらしい麻の白いTシャツに白いズボン。まあ昨夜裸だったと言うから、これは神官に用意してもらったのだろう。そして特徴的だった燃えるような真っ赤な髪色が、今は黒い髪色になっていたのだ。これでは街を歩く普通の人間と、何ら変わりはしない。


「転生したら黒髪になったんだよ。」


「はあ?」


「だから、てめえにやられた傷が元で俺は一旦死んだんだよ!それで気が付いたらこの神殿に転生していたんだよ!」


「なんだ貴様もオレに殺されていたのか?貴様も転生していたとはお笑いだ!」


「貴様……も?まさか魔王、てめえも?」


 俺は勇者に殺されたという事を口に出せずにいたが、すぐにばれたようで、勇者は盛大に笑った。


「ギャハハハハ!分かったぞ!てめえ俺に殺されて転生したら人間になっちまったんだろう?魔王が敵である人間になっちまったなんてお笑いだな!これで仲間からも命狙われるんじゃねえか?ギャハハハハ!!!」


 笑いすぎである。いくらオレが寛大だからといって、ここまで無礼な態度を取られると、堪忍袋の緒が切れそうだ。しかし、コイツとは初めて会話を交わすが、勇者と言われているくせに礼儀がなってない奴だ。言葉遣いに品がない。


「魔族は人種差別はせぬ。オレが帰れば魔王として迎えてくれるだろう。」


 そんなオレたちの会話を聞いていたサラが、信じられないという表情でオレを見つめていた。


「そんな……、ヴォルトさんが魔王?」


「……。そうだ。俺は魔族の王、魔王ヴォルテージだ。ここにいる勇者と刺し違えて一度死に、転生の秘術によって生まれ変わった。その際なぜか人間の体になってしまったがな。」


 サラのオレを見る目がきつくなる。憎しみや嫌悪といった感情が見て取れる。


「あなたが……、全ての魔物たちの王なのですね。」


「ん?」


 そして勇者が続く。


「そうだ。そいつが人間を襲う全ての厄災の源だ!」


「って待て待て待て待て!!!」


 俺は両手を広げて二人の言葉を遮った。


「おまえたち何を勘違いしている?魔物はそれぞれ勝手に本能の赴くまま生きてるだけだろう。オレと関係はない。俺は魔族の王の魔王であって、魔物の王というわけではない!何を勘違いしてるんだ貴様らは!」


 失礼な話である。オークのような醜い魔物や、スライムのような知能のない魔物、死霊のような実体のない魔物、そんなものたちを全て率いる王などいるわけがないだろうが!魔物と魔族を一緒にしないでもらいたい。

 オレの説明に、サラも勇者も、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして硬直してしまった。


「まさか、人間たちは皆、オレが魔物の王だと勘違いしているのか?」


 長らく人間界と魔界は国交を持って来なかった。ほんの一握りの者が、その国境を行き来してはいたものの、お互いの文化に深く触れあう事はなかった。そのためこんな風に誤解されていたとは、全く知らなかった。冤罪もいいところである。


「はぁ……、勘弁してくれ!」


 深くため息をつくと、オレは額に手を当てぐったりとする。するといろいろと頭の中で考えを巡らせたサラが疑問を口にする。


「待ってください、それが本当だとすると、なんで人類は魔族を敵だと思っているんですか?魔族自体が人間を襲う話は戦場でしか聞いたことがありません。」


「それも言っておくけど、魔界と人間界の戦争も、明らかに人間からの一方的な侵略戦争だからな。こっちは防衛戦しかしてないし、こちらから人間界に侵略したことはない。する必要もないしな。」


「そんな、聞かされていた事と全然違う……。それじゃあなんで人間と魔族は戦争をしているんですか?」


「おまえたちそんな事も知らんのか?いいか?人間界には精霊力が、魔界には魔力が大気中にあふれている。それは知っているな?そして魔力の満ちている魔界では、魔力の籠った魔石が発掘される鉱山がある。その魔石を狙って、人間たちは魔界に侵略戦争を仕掛けているのだ。」


 その話を聞く三人の表情を見ると、本当に寝耳に水といった顔をしていた。


「おまえたち、本当に何も聞かされていなかったようだな。どうやら一部の金持ちたちが、魔石鉱山という利権を得るために、おそらくオレの事を魔物の王に仕立てて、正義のためという名目で侵略戦争を仕掛けたのだろう。」


「嘘だろ?俺は金のために利用されていただけなのか?」


 勇者は怒りを抑えきれないといった表情で言葉を振り絞った。震える拳を握りしめながら言葉を続けた。


「あいつらの金儲けのために、俺はこの世界に呼び出されたのか……」


「呼び出された?そう言えばお前は、ある日突然戦場に現れたな?戦場に出るまで何をしていたのだ?」


「俺は、ある日突然異世界から召喚されて、この世界を救ってくれと言われたんだ……。」

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