第12話 魔王inシャンダライズ王国王都 悪夢の再会
腕相撲勝負に負け大人しくなったマードックに昼飯をおごってもらい、飯を食いながら色々と話を聞いた。
やはりこんな小さな町では冒険者の仕事だけで食っていくことは難しいという事。それなら、こんな小さな町よりも王都に行った方が仕事はたくさんあるだろうという事だった。王都の方角を聞くと、俺が来た小さな村(カロリ村というらしい)からさらに北だと聞き、なんか思い切り逆方向に来てしまったと知る。もう一度カロリ村に戻り、そこから王都を目指す事にする。
冒険者ギルドを出た俺は、もう一度ロディとランドの兄弟を探しに市場に向かった。あの二人の商人は行商をしているというので、王都にも行くようであればまた馬車に乗せて行ってもらおうと思ったからだ。二人はすぐに見つかり、オレの頼みを聞くと了承してくれた。道中の護衛と道中の飯として3人分の肉を狩ってくる代わりに、王都まで乗せてもらえることになった。
目的の世界地図はまだ入手できていないが、まずは収入を確保することが先だろう。王都に行き、冒険者としての仕事で食っていけるようになりたい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、遠くてなかなか日にちはかかってしまったが、何とかオレはシャンダライズ王国王都に辿り着くことができた。
改めて兄弟商人に別れを告げ、オレは王都の冒険者ギルドを目指す。
しかし王都というだけあって、なかなか大きな街だ。今までずっと山の中だったから余計に人の多さを感じる。都会と言えば、オレが知っているのは魔王城のある魔界の都だけだが、それに負けず劣らずの繁栄ぶりだ。
道行く人に冒険者ギルドの場所を聞きながら、王都を歩く。これだけ街が広いと、冒険者ギルドは何か所か支店があるらしい。オレが入って来た南門から一番近い支店へ向かうと、すぐにその建物は見つかり、オレは中に入って行った。
愛想のよい受付嬢に、道中倒したゴブリン討伐分の報酬をもらう。ゴブリンはどの国にとっても害獣なので、駆除した者には国からささやかだが報酬があたえられるらしい。まあ10匹倒して銅貨10枚だけだ。
支払いが終わると、プレートに登録された未払いモンスター討伐数は0になる。便利なアイテムだ。
そして自力で魔物を倒したという事で、冒険者レベルが5級に上がった。プレートも鉄製から黄銅製のものに交換になった。初期登録手数料はかかったが、ここらの手数料は無料のようだ。
さて、改めてここで仕事を探してみる。5級に上がったとは言え、大した仕事がない。
・洞窟のコウモリの駆除・・・基本給銀貨3枚+コウモリ駆除1羽につき銅貨1枚
・墓地の夜間監視作業・・・一晩銀貨7枚※アンデッドが出没する場合があります。
・倉庫番・・・日中時給銅貨7枚、夜間時給銀貨1枚※勤務時間要相談
・地下遺跡スライム駆除・・・スライム駆除1体銅貨2枚
他にはやはり薬草収集系とか、そんなのしかない。4級以上だと、旅の護衛の募集もあるようだが。
ボードだけじゃ分からないので、稼ぎの良い仕事がないか、受付に聞いてみることにする。
「なあ、オレは腕には自信があるんだが、もっと強いモンスターを倒して金をもらえるような仕事はないか?」
すると、同じような人間を散々見て来たようで、呆れたような口調で返事を返される。
「はぁ…。いるんですよね、あなたみたいに田舎から出てきていきなり難易度の高い仕事をやりたがる人が。でも実績を上げてもらわないと、こっちも危なっかしくて仕事を紹介できないんですよ。あなたはゴブリンなら倒したことがあるようですが、場所によっては強力な魔物が出たり、予定外の卑怯な盗賊に襲われることだってあるんです。もし護衛の仕事を紹介して、対応できなくなって依頼人を死なせるような事があったら、冒険者ギルドの責任です。そんな事がないように、確実に実績を上げて階級を上げた人間を紹介するんです。高い報酬を得たかったら、コツコツがんばってください!」
なんだか怒っているようだ。
「それじゃ手っ取り早く階級を上げる方法はないか?」
「……、今私はコツコツがんばれと言いましたよね?」
さらに機嫌が悪くなっているようだ。こいつも面倒臭い。ムカつくな。だがオレがこんな些細な事で怒っていては、中身が小さい人間だと思われてしまう。オレは寛大なのだ。無礼な態度も許してやろう。ここはオレが下手に出て、必要な情報を収集するしかあるまい。
「いや、とりあえずコツコツがんばるが、実力がある者が早く階級が上がる場合もあるのかなと思ってな。」
「……、そりゃあ、そういう事もありますよ。もう犯人は騎士団に取り押さえられてしまいましたが、ちょっと前に王都内に魔法使いのテロリストが現れて無差別攻撃魔法で市民を殺害事件があったのですが、もしそのテロリストの討伐を冒険者がやったとしたら、一気に3級、場合によっては2級になれたでしょう。他にも例えば戦争になって大きな手柄を立てた時とか、旅の途中偶然強いモンスターと遭遇して、それを討伐できた時とかには、飛び級で階級が上がることも考えられます。でもレベル以上のモンスターと遭遇しないように、依頼内容をギルドでしっかり精査してから割り振っているのです。そういうケースはまれです。だからあなたも手っ取り早さではなく、コツコツがんばってください!」
「強いモンスターか…。そうだ。例えばイフリートなんか討伐したらどれくらい上がるんだ?」
「イフリート?!そんな地下迷宮の奥深くとか、魔界とかでないと遭遇しなさそうなものを例えられても困っちゃいますけどね。イフリートなんて、1級どころか国家認定の特級レベルですよ!特級冒険者でも単体では無理ですね。パーティーを組んでなんとかなるかどうかってところじゃないですか?そんな伝説のモンスターの名前を引き合いに出すんじゃなくて、もっと現実的にがんばってください!」
それならこないだの奴を倒す前に冒険者ギルドに登録しておけばよかった。どっか他に強いモンスターはいないもんかね。
と、もう一つ思い出した。人間界で魔力魔法は消耗が激しいので、精霊魔法を本格的に覚えてみたいのだった。これくらい大きな城下町なら、精霊魔法を教えてくれる場所がどこかしらあるんじゃないだろうか。
「一つ聞きたいんだが、どこかで精霊魔法を教えてくれるところはないか?」
「それでしたら、魔法使いギルドか、精霊を祭っている神殿に行ってみてください。魔法使いギルドならお金さえ払えば指導を受けられます。精霊神殿も、寄付金をはらって神官に教わるか、親切な魔法使いと知り合えばただで教えてもらえるチャンスがあるかもしれませんね。ちなみにここから一番近いのは、水精霊神殿ですね。」
その後詳しく道順を教わり、オレは水精霊神殿に向かってみることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
水精霊神殿は、なかなか大きな神殿だった。道路から階段を登ると神殿前の広場が広がっていて、広場の真ん中には大きな噴水があった。広場は市民の憩いの場となっているようだ。もしここで教われるとしたら、水の精霊魔法であろう。人体のほとんどが水分でできているため、体内の水を操ることによって、治癒魔法となると聞いたことがある。オレは無敵なのでほとんど攻撃を食らう事はないが、もし覚えられるものなら覚えておいて損はないだろう。だが精霊魔法は適正があると聞く。オレに水の精霊魔法の適性がなければ、いくら教えてもらっても使えないという事だ。こればかりはやってみないことには分からない。
オレは広場を通り過ぎ、神殿の中へと入って行った。
大きく開けた入り口から一歩踏み込むと、日の光が遮られ、少しひんやりした空気になっていた。
神殿の中にも人はたくさんおり、観光客とみられる者、精霊の参拝を日課としている市民、精霊魔法使いなど、いろいろな人間がいた。
ロビーのような場所を通過し、その奥のホールが参拝所となっていた。左右の柱の奥には水を浸した浅くて長い水槽があり、澄んだ水が川のように流れていた。ホールの一番奥には小さな滝があり、天蓋から差す光が滝とその下にある泉をスポットライトのように照らしていた。滝から跳ねる水しぶきによって、そのホール全体に水の精霊力が満ちているのを感じた。
オレは中まで歩いてゆくが、神官らしき人間の姿が見当たらない。近くにいる人間に尋ねると、その人間は神殿に勤めているらしく、神官は今、奥の宿舎に行っていて、接客中だという事だった。神官に会いたいと告げると、オレも奥の宿舎へと案内してくれた。
ホールの横の扉を開け、廊下を進む。廊下には窓があり、ホールよりも明るい。そんな大理石の廊下を進み、何個か目の扉までたどり着いた。案内人が扉をノックし、中へ通してくれる。その部屋にはソファが置かれており、1名の先客がいた。先客はオレを見てびっくりして立ち上がる。オレもその女の顔を見て驚いた。
「え?ヴォルトさん?!」
「お前は…!サラ。」
その部屋にいたのは、オレが転生して初めて会った人間、ゴブリンの巣窟に迷い込んだところを助けてやった、サラだった。
案内人が「お知り合いだったのですか?」と言うので、「ああ」と肯定する。
「ヴォルトさん、なんでここに?」
「ここで精霊魔法を教えてもらえないかと思ってな。奇遇だな。元気でやってるか?」
「そうだ!私、あれから大変だったんですよ!ヴォルトさんが捕まえた魔法使いが、私たちが探していたテロリストだったみたいで、私は賞金をもらったり出世したりしちゃったんです!私は何もしてないのに。」
「ワハハハハ!良かったじゃないか。」
「良くないですよ!私まだ騎士団に入団したばかりなのに、部下を4人も持つことになってしまったんですよ。明らかに私には分不相応ですよ。」
「ワハハ!まあ部下を持つことは責任が増えて大変かもしれないが、自分も成長させてくれるものだ。実力はこれから付けていけばいいじゃないか。」
「もう!上司みたいな事言わないでくださいよ。」
「ところでサラは何でここに?」
「私ですか?実は昨夜、この神殿の本尊前に突然裸の男が空中から現れたっていう連絡があって、私が状況を見に来させられたんですよ。」
「空中から現れたのか?」
まるで自分が転生した時のようだな、とオレは思った。
「らしいですね、それでその男の人はずっと意識を失っていたそうなんですが、先ほど意識を取り戻して会話できるようになったらしくて、身元も分かったらしいです。聞いて驚かないで聞いてくださいよ!何とその男の人は、北方にある工業国ヴァレンシュタイン王国の…、」
サラが夢中で喋っている時、奥の扉が開き、二人の男が現れた。先に部屋に入って来た男は法衣を着ており、オレが会いに来た目的の神官のようだ。そして神官の後ろには、今サラが話していたであろう、謎の男がいた。
その男を目が合う。オレは知っていた。その小さな顔に大きく光る鋭い瞳を。
そしてその男も瞬時に気付いた。オレの事を。
「あ、ヴォルトさん、この人が今話した、」
「「勇者!!!」」
「え?知ってたんですか?」
とサラが言うと同時にオレたちは互いに自らの最強武器を召喚していた。
「『灰燼に帰す弓』!!!」
「『殲滅し尽くす聖剣』!!!」
その部屋の中で。お互いのその距離3m。オレの手には2mを超す巨大な弓が。奴の手にはすべてを切り裂く最強の剣が。それぞれ何もない空間から呼び出すと、オレたちは臨戦態勢となった。