表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/102

最終話 魔王転生

 神人を倒したユウが再び日本に帰って来て、一年が経った。


 行方不明になった同級生サトルの事で警察が尋ねに来た事もあったが(※知らぬ存ぜぬで押し通した)、それ以降は特に変わったことが起きる事はなく、ユウは再び平穏な日常へと帰って来ることができた。


 そして一年以上延期していたユウとユイの結婚式も、この日無事に迎える事が出来た。


「それでは新郎新婦の入場です」


 司会者の合図と共に、結婚披露宴会場の扉が開かれると、似合わないタキシード姿のユウと、美しいウエディングドレス姿のユイの二人が現れる。

 二人は顔を合わせほほ笑むと、ゆっくりと会場内へと歩き出す。


「ユウちゃーん!」


 ひときわ大きく響くユウの職場の店長カオル(50歳男性※オネエ)の声に場内に、笑いが漏れる。

 たくさんのカメラのシャッター音と拍手の音に囲まれながら、照れくさそうな笑顔で二人は歩いてゆく。


 ユウの友人たちの席からは冷やかしの歓声が、ユイの友人たちの席からはかわいいという声が飛ぶ。


 多くの人に祝福されながら、二人の結婚披露宴は進行されていった。

 いつもは荒々しいユウも、この日ばかりは借りてきた猫のようにおとなしく席に座っていた。

 そんなユウの様子を、横に座るユイは面白そうに見つめる。


 ウエディングケーキへの入刀が終わり歓談の時間となると、ユウのところへは友人たちがこぞってビールを注ぎにやってくる。断っても許されず、何杯も飲むはめになるユウ。それをユイが少し心配そうにするが、ユウは大丈夫と笑って答える。

 そんな悪友たちの挨拶がひと段落付いたころだった。


 ガタン!ガタン!


 新郎新婦の居る舞台の上から、大きな音が鳴り響く。

 何事かとみんなが注目した瞬間、ドスン!という大きな音を立てて、何か大きなものが天井から落ちてきた。

 新郎新婦の前のテーブルを破壊したそれは、「あいたたた」という声を発する。

 そう、落ちて来たのは人間だったのだ。


 そしてその事態に、場内がざわつき始める。

 新郎新婦の前に落ちて来た者に、会場中の注目が集まる。


「怪我はないかユイ?」


 とっさに新婦を庇ったユウは、何より先にユイの身を案じるが、特に怪我もなく大丈夫と分かり安堵する。


「こ、ここはどこだ?」


 落ちて来た男は、壊れたテーブルの上に置いてあった花束の中から身を起こすと、そう呟いた。

 男の姿が確認できると、場内はさらにざわつきが大きくなる。


「何だ?」「誰だ?」「変質者?!」


 そんな声が続く。

 変質者と呼ばれたのには理由がある。なんと、その男は服を着ていなかったのだ。


「おまえ……」


 ユイの無事を確認した後、落下して来た男を見たユウは、言葉を失う。

 男は上から下まで、完全に服を纏っていない、いわゆる全裸姿だったのだ。


「おお!ユウじゃないか!」


「ユウじゃないかじゃねえよ!!!」


 落下してきた男から名前を呼ばれると、ユウは怒声を上げた。


「何してんだよテメエ!!!」


「ねえ、知ってる人なの?」


 名前を呼ばれたことにより、新郎の知り合いだと分かり、ユイはユウへと問いかける。

 そんな声に、男はユイの事に気付き、声をかける。


「おお、そなたがユウの婚約者殿か。はじめまして!」


「キャッ!」


 前を隠すことなくユイに挨拶をしたため、思わずユイは視線を逸らした。

 そんなユイを庇うようにユウは二人の間に入り、再び大声を上げる。


「てめー!とりあえず前を隠せ!!!」


「なぜだ?オレの体が隠さなければならない程、恥ずかしいわけがないだろう」


「ふざけんなー!」


 舞台上のそんなやり取りを、会場にいる皆が興味深そうに眺めていた。

 どうやら演出ではなく、アクシデントのようだということは一同にも伝わっていた。

 全裸男の登場に、ユウの友人たちは爆笑と歓声を送る。

 ユウの上司カオルは一言、「大きい……」と呟いて眺めていた。


「おい、ユウ、せっかく婚約者殿と会えたのだから紹介ぐらいしてくれ」


「紹介してほしかったら服着てきやがれ!」


「あの、本当に誰なの?ユウ」


 ユイも不安そうにユウに尋ねる。


「ならいい。自分で名乗らせてもらうぞ。はじめまして。オレは魔王ヴォルテージ。ヴォルトと呼んでくれ。ユウとはお互いに殺し合った仲だ」


「てめえ、俺の結婚式で殺し合ったとか、ぶっそうな事言ってんじゃねえよ!!!」


「事実だろうが。初めて会った時に、お前がオレを殺して、オレがおまえを殺しただろう?」


「そうだけれども!」


「あっ?!ヴォルトさん?お話はユウから常々。その節はユウがお世話になりました。ユイと申します」


「ユイおまえも普通に挨拶してんじゃねえよ!だからヴォルトてめえ前を隠せ!」


 そんなユウを無視して、ヴォルトは振り返って今いる状況を確認する。

 大勢の人間がテーブルを囲んだパーティーのようだ。

 なんだか小さな薄くて四角い物をこちらに向けて、パシャパシャという音を鳴らしている者がたくさんいた。

 みんなきれいに着飾っており、なによりユイが来ている立派なドレスを見て、ヴォルトは悟る。


「そうか!結婚式を挙げているのだな?二人とも結婚おめでとう!なかなか盛り上がっているじゃないか」


「盛り上がってるのは、俺のツレだけだ!新婦の友人や親族がドン引きしてるじゃねえかよ!!!」


「やあどうも!オレに構わず楽しんでくれ」


「勝手に親族に話しかけんな!」


 自由なヴォルトにユウが大声で怒鳴り続けるも、制御できない。

 その内ユウの友人たちが誰だ誰だと集まって来た。


「おう、きさまらはユウの友人か。ユウ、オレの事を紹介してやってくれ」


「その前に服を着ろっつってんだよ!」


「仕方ない、それならまた自分で名乗ろう。オレの名はヴォルト、ユウとは殺し合いをした仲だ」


「だからそれ言うんじゃねえよ!!!」


 だんだんヴォルトに慣れてきたのか、横のユイは笑っていた。

 ユウの友人たちも目の前に現れた謎の男に、とても楽しそうに質問攻めをしている。


「何スか殺し合いって?!ウケる」


「言葉の通りだぞ、ワハハ!」


「オレのツレと仲良くなってんじゃねえよ!てかヴォルトてめえ、何でここにいんだよ?どうやって来たんだよ!」


「おお、そうだった。実はな、お前が帰ってから、魔界が平和になったところでオレは旅に出たのだ。オーテウスの神人たちを全て倒すためにな。そして約一年旅を続けて、遂にオーテウス山の頂上の上にある、天界というところまでたどり着いて、奴らと戦ったのだが、うっかり殺されてしまったんだ。ついさっき」


「はあ?まさか……?」


「ああ、二回目の死を迎えたオレは、転生の秘術で再びここに転生をしたようだ」


「なんでこんなとこに……あっ!そういや……」


 ユウの脳裏に心当たりのある思い出が浮かぶ。

 それは、ヴァレンシュタイン王国に入って、ヴォルトと転生の秘術について話し合っていた時の事だった。


「おまえ前に、オレの胸の呪文を適当に書き換えただろう?転生先のところを。オレもまさか転生先がこんな場所になるとは思わなかったが……」


「うそだろ?」


「まあそういうわけだ。ところでまた手伝ってくれんか?やつらの本拠地は突き止めた。戦力が足らんのだ。お前の力を貸してくれ、勇者ユウよ」


 そんなヴォルトの言葉に、ユウの友人たちが食いつく。


「勇者って何だよユウ?」


「うわ!恥ずかしいから黙ってたのに、何サラッと口にしてんだよ!」


「ユウ、勇者なの?ギャハハハハ!勇者ユウだって!」


「やめろー!!!」


「何だ?別に良いじゃないか?頼むユウ。オレに力を貸してくれ!」


「分かったけど早く服を来てくれー!!!」


 こうしてユウとユイの結婚式は大混乱となってしまった。

 その後式場で服を借りたヴォルトは、ちゃっかり席を用意してもらい結婚式を見届けたという。


 そして二人の冒険が、再び始まる……?



――魔王転生 完


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ