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ヴォオス戦記・暁  作者: 南波 四十一
40/42

二人の最後

「なんでてめえがそこにいる!!」

 バルブロの絶叫が<生贄の間>に反響する。

 その声に応える言葉はどこからも生まれない。

 この一連の流れの外側にいるのは、バルブロただ一人だからだ。


 アイメリックの実力に、ヘリッドは遠く及ばない。

 それはバルブロですら同様だ。挑むということは、崖の上から身を投げるに等しい。

 バルブロには出来なかったことだ。


 それに今、あの優男が挑んでいる。

 甘く、貴婦人受けしそうな秀麗な顔を、恐怖と覚悟に歪めながら――。

 バルブロは無意識に立ち上がっていた。

 オリオンに斬り割かれ、使い物にならなくなった手から、半分以下に切り詰められたしまった棍棒を持ち替えながら――。


 棒立ちになり、ただ、事の成り行きを見守る。


 ヘリッドが手にした短剣が、首筋に打ち込まれる。


 お前が殺るのか!!


 バルブロは痺れた思考の中で、あまりにも意外な展開に頭の中で叫んでいた。

 <暁>の大将にさえ叶わなかった打倒アイメリックを、裏切ったはずの優男が果たそうとしているのだ。

 

 短剣の切っ先がアイメリックの首筋に触れる。

 もはやかわすことも捌くことも出来ない。

 バルブロは獲った・・・と思った。

 アイメリックの皮膚が裂け、白い首筋に血の赤が描かれる。


 だが、そこでヘリッドの表情が凍りついた。

 埋まるはずの剣先が滑り、肩へと流れたのだ。

 剣先は僧帽筋まで流れ、そこで初めてアイメリックの肉体に喰らいつく。


 ……まさか、筋肉を硬化させて弾いたのか。


 バルブロは目にしている光景に、唖然とするしかなった。

 それはバルブロがリタの必殺の一撃を弾くために用いた奥の手と同様の技だった。

 いや、それは技などと言えるような代物ではない。規格外の筋肉に頼った力任せの無茶に他ならない。

 バルブロはこの無茶を、自分以外の筋肉自慢たちが、ついに成し得なかったことをよく知っている。

 <巨人>の二つ名を持つほどの、強靭な肉体を持って生まれたバルブロにしか出来ない荒業だ。


 そのバルブロの肉体をもってしても、ヘリッドほどの実力者が放った渾身の一撃を弾くことは出来ない。

 それをアイメリックはやってのけたのだ。

 戦士としてのその肉体は、完璧と言っていいほど見事なものだが、だからこそ、筋肉は必要量を越えず、質そのものも柔軟なものになる。

 物理法則に支配されたその荒業は、運に左右され、偶然出来るようなものではないのだ。


 人間じゃねえ……。


 バルブロはこれまで、例えとして何度か口にした言葉を、得体の知れない恐怖と共に実感した。

 

 そんなバルブロの思いなど関係なく、ヘリッドは全体重と渾身の力を込め、さらに短剣をアイメリックの肉体へと埋めていく。

 その目は短剣の先のみを見つめ、その肉体を貫くことに全神経と力を集中させていた。

 そのヘリッドの身体に、アイメリックの両腕がからみつく。

 直後に肉と骨が軋む音が、空気に染み広がるように響く。

 

「貴様は大した男だ。裏切り者の汚名を着てまで、この瞬間を狙っていたのだからな」

「お褒めにあずかり恐悦至極です。なんて言うと思ったかい、色男の旦那? 仲間を切り捨て、裏切り、ようやくつかんだ一瞬の隙だ。胴体ねじ切られたって、絶対に道連れにしてやるからな!」

 ヘリッドらしくない決死の覚悟が、言葉から聞き取れる。

 だが、その言葉も、すぐに自身の口から洩れる苦鳴に呑み込まれる。


 アイメリックはさらに腕に力を込め、本当にヘリッドの身体をねじ切りにかかったのだ。

 痛みの増幅に反比例して、ヘリッドの腕から力が失われていく。

 短剣の先は10センチほど埋まったところで止まったままになっている。

 それどころか、アイメリックが力をさらに加える都度、筋肉の膨張によって短剣が押し出されていく。


「ざけんなっ!! があああぁぁあああぁぁぁっっっっっ!!!!」

 命さえも振り絞るかのように、ヘリッドは雄たけびを上げ、短剣の柄を握るその手に力を込めた。

 だが、その最後の抵抗もむなしく、短剣はさらに押し出されていく。

 

 ここまでか……。バルブロがそう思ったとき、その脇を一つの陰が抜けていく。

 

「てめえっ!! 待てコラァ!!」

 バルブロは反射的にその影を追っていた。

 <巨人>と呼ばれる自身には及ばないが、それでも十分巨体と言えるその影を――。


 バルブロを抜き去った影は、カーシュナーだった。

 ヘリッドに斬り裂かれた脇腹は真っ赤に染まっている。

 にもかかわらず、その表情も顔色も、陰りすら見えない。あるのはみなぎる気迫のみだ。

 

 駆けるカーシュナーの手には何も握られていない。

 それはその走りが、最速を目的としたものであることを意味した。

 カーシュナーはアイメリックとヘリッドまでの距離を詰めると、前方宙返りの要領で飛び、長すぎる脚を高々と振り上げると、戦斧を振り下ろすかのような勢いでそのかかとを、ヘリッドが握る短剣の柄に打ち込んだ。


 張りつめたものが弾け切れたような音が響き、短剣はアイメリックの身体を刺し貫いて貫通した。

 まるで血の糸にでも引かれているかのようにゆっくりと短剣が祭壇の床に落ち、その後を追うようにこぼれ出た鮮血が、アイメリックの胸と背中を真っ赤に染めた。


 直後に、ボグッ!! という鈍い音が響く。

 そして、追撃をかけようとしたカーシュナー目掛けて、アイメリックがヘリッドの身体を叩きつけた。

 至近距離からのその攻撃を、カーシュナーはあえて受けた。

 ヘリッドの身体を受け止めるためだ。


 投げつけられたヘリッドの上半身には力があった。だが、その下半身は、糸の切れた人形のように、だらりと力なく伸びている。

 カーシュナーの表情が無念に歪む。間に合わなかったのだ。

 背骨と腰骨を折られたヘリッドの下半身は、もはや痛覚すらも持ち合わせてはいない。

 

「天使さん、後ろ……」

 ヘリッドが、苦痛を堪えて背後に迫るバルブロの存在を警告する。

 カーシュナーはその警告を無視して、飛び込むようにバルブロの方へと後退した。

 アイメリックの追撃が迫っていたからだ。


 バルブロは何故自分はこの二人を攻撃するのだろうかと考えていた。

 自分はアイメリックの支配から逃れたいのではなかったのかと疑問に思う。

 まるで死の淵から底の見えない真っ暗な闇を覗き込み続けるような、その圧倒的なまでの「死」の存在感から逃れたかったはずだ。


 視界の端にアイメリックの姿を捉える。

 大量の血を流し、短剣で貫かれた側の腕をだらりと下げている。


 死にかけだ。 


 今なら自分でも倒せるのではないかと思う。


 殺るか?


 自分に問いかけてみる。

 答えは自らの足が出した。

 次の一歩が、アイメリックの方にではなく、男前とひょろ長の方へと向いたのだ。


 ああ、そう言うことか……。


 バルブロは気がついた。

 自分はその人ならざる圧倒的な存在を恐怖するとともに、崇めていたのだと――。

 神話物語やヴォオス建国譚に語られる神々などではなく、目の前に現れた人ならざるその存在に、畏怖し、敬い、崇め、やはり恐怖していたのだ。


 自分の中に、そんな殊勝な精神があったことに、バルブロは嗤った。

 嗤いつつ、短くなってしまった棍棒を振り上げる。

 男前とひょろ長の頭蓋骨を粉砕するために――。


「やらせないよ」


 冷めた声がバルブロの後頭部付近でささやいた。


 なるほど、べっぴんさん、あんたがいたか。  


 バルブロは振り向かない。だが、その一撃はすでに一度防いでいる。

 再び首の筋肉を硬化させる。

 一瞬だけ感じる刃の冷たい感触。


 直後、すべてが遮断された――。


 視界がクルリと回転する。

 力なく、だらりと下げられていたはずの女幹部の左腕が、振り抜いた短剣を力強く支えている姿が目に映る。

 美しい顔の半面も、血で赤く染められてこそいるが、瞳には先程までの曇りはなく、肌の色にも生気が戻っている。


 なんで回復してんだよ、べっぴんさん。


 バルブロの思考は言葉を紡いだが、それが声帯を振るわせることはなかった。

 さらに視界が二転三転し、バルブロの巨大な頭が祭壇の床を打つ。

 同時にバルブロの思考は停止した。


 リタによって斬り落とされた頭部を、追いかけるようにバルブロの巨体が倒れる。

 振り上げられていた棍棒が偶然自らの頭部を叩き、松明の明かりの届かない闇の奥へと転がす。

 <巨人>は人生の最後に、その身長を大幅に低くしたのであった――。


「AAaA…AAAAAaaa………aaaaaaAAAAAaaAAAAA…………」


 悲鳴でもない。雄たけびでもない。短剣で刺し貫かれたアイメリックが、まるで金属楽器で奏でた不協和音のように喉を震わせる。その音程が高くなるほどに、アイメリック自身の身体も内側から跳ねるように震えだす。


 あまりに異常過ぎるその光景に、カーシュナーもリタも呆気に取られる。

 だが、リタは即座に短剣を構え直すと、死ぬというより、壊れかけているアイメリックにとどめを刺そうと踏み込んだ。


「やめるんだっ!! リタ!!」

 カーシュナーの絶叫が<生贄の間>に響く。

 その声は間違いなくリタの耳に届いた。

 だが、リタはその足を止めなかった。

 今、五体満足なのは自分だけなのだ。

 仲間たち・・・・を守れるのは自分だけなのだ。


 アイメリックはまったくリタを見ていない。

 もはや意識はないのかもしれない。

 足元に溜まった血の量は、意識を失うのに十分なだけ流されている。


 バルブロの樹の幹のように太い首を一撃で刎ねたリタの短剣が、アイメリックの喉元へと迫る。

 勢いも威力も、申し分ない一撃だ。


 もらったっ!!


 リタは心の中で絶叫する。

 渾身の一撃がアイメリックの首に吸い込まれたと思った刹那――。

 アイメリックは突如鳴り止む・・・・と、リタの短剣に喰らいついた。

 同時にだらりと垂れさがっていたはずの腕が跳ね上がり、リタの細い首を鷲掴みにする。それだけで、リタの首は異様な軋みを発した。


 リタの顔が一瞬で土気色に染まる。

 手にしていた短剣も、顎の力だけでもぎ取られる。

 アイメリックはリタの短剣をかみ砕くと、吐き出すというより、ボロボロとこぼした。

 床に落ちた短剣の柄が、まるでリタの悲鳴のように高く、それでいて小さく響いた。


 リタの突撃の直後にヘリッドを残して飛び出していたカーシュナーの手が、その内なる怒りを表したかのように、猛禽の鉤爪のように猛々しく襲い掛かる。

 両手に体中のすべての力を集めるかのように、カーシュナーはアイメリックの首を締め上げた。

 リタを宙吊りにしているアイメリックを、カーシュナーが吊り上げる。

 

 アイメリックは苦しむどころかカーシュナーの手を払う素振りすら見せない。

 代わりに片手で握るリタの首を、絞めるのではなく握り潰しにかかる。

 カーシュナーは即座にアイメリックを引き寄せると、リタの首を握るその指に喰らいついた。

 翠玉すいぎょくの瞳の光も、その表情も、冷徹で常に理性的に行動する普段のカーシュナーからは想像もつかない、まるでそのまま人狼ワーウルフにでも変身するのではないかと思わせるほどの獣性に支配されている。


 獲物に喰らいついた肉食獣のように、カーシュナーが激しく首を振る。

 肉が裂け、骨が砕け、腱のちぎれる音が、カーシュナーの口元からこぼれる。

 カーシュナーは不意に顔を上げると、口の中のものを吐き出した。


 アイメリックの親指だ。


 だが、それでもアイメリックの手の力はゆるまなかった。

 リタの首はすでにおかしな角度にねじ曲がり始めている。

 カーシュナーは唸るように吼えると、再びアイメリックの手へと喰らいついた。

 だが、その歯が再びアイメリックの肉に食い込むことはなかった。

 アイメリックが突如として反撃したからだ。


 元々無事な方の腕がしなり、強烈な一撃がカーシュナーのこめかみに打ち込まれる。次いで顎。再びこめかみへと、バルブロの棍棒の一撃かと思わせるほどの拳が打ち込まれる。

 カーシュナーの意識が一瞬で飛ぶ。

 視界は揺れたかと思った直後に落下するように暗転し、殴られた側の耳の鼓膜も破れ、カーシュナーは陽の光の届かない地下空間で、感覚的暗闇に閉じ込められた。


 もはや全身の感覚が遠い。

 締めあげていたはずの両手も、いまだにアイメリックの首にかかっているのかすらわからない。

 それでもカーシュナーは締め上げ続けた。自分が今も立ち、戦い続けていると信じて――。


 いきなり浮遊感が襲い掛かって来た。

 何が起こったのかわからない。

 だが、次の瞬間腹部の奥深くで激痛が弾けたことで理解した。

 自分はアイメリックに蹴り飛ばされたのだと――。

 

 ぐるぐるとまわっている視界が、一瞬だけその焦点を定める。

 捉えた映像は、全身の力をなくし、だらりと両腕を垂らしたリタの姿だった。


 リタが死ぬ……。


 カーシュナーは蹴り飛ばされ、<生贄の間>の祭壇を転がりながら絶叫した。


「オリオォオォォンッッッツ!!!!」

 その絶叫はもはや声ではなく、人の口から発せられた爆音であった。

 絶叫は何度も何度も反響し、広い<生贄の間>の石壁が、不気味な軋みを上げるほどの衝撃を生み出した。


 それは言葉が届いたのではない。カーシュナーの想いが届いたわけでもない。

 殴りつけるような物理的な力を持った絶叫が、オリオンを揺さぶり目覚めさせたのだ。

 霞んでいた視界が像を結ぶ。

 その目は、今まさに首をねじ切られようとしているリタの姿を映した。


 視界の隅に、血だまりに横たわる短剣が入る。

 ヘリッドの執念と、その執念を受け継いだカーシュナーによって打ち込まれ、アイメリックの身体を貫いたオリオンの短剣だ。


 ボロボロの身体が自然と動く。

 柄を握ることすらあやしいその指が、短剣をすくい上げる。

 立ち上がり、膝が砕ける。倒れ込む身体を無理やり前に押しやり、オリオンは飛び込むようにアイメリックへと迫った。


 無駄な力など一切こもっていないなめらかな動作でオリオンが短剣を振るう。

 頭は垂れ、もはやその視界はアイメリックを捉えていない。

 それでも、本能が短剣の切っ先をアイメリックの首筋へと導いた。


 まるで哄笑するかのようにアイメリックの口が開く。

 リタの渾身の一撃をかみ砕いた時と同様に、オリオンの一撃に対し、アイメリックは牙をむいたのだ。

 オリオンの一撃には、リタの時ほどの速度も力もない。

 アイメリックは余裕を持ってオリオンの短剣に喰らいついた。


 スッ――――。


 かすかな音が響いただけで、オリオンの一撃は吸い込まれるようにアイメリックの口の中に消え、後頭部から現れた。

 身を投げるように飛び込んだオリオンは、もはや一歩も前に足が出ず、派手な音を立てて倒れる。


 そして、不意に静寂が訪れた――。


 アイメリックは動かない。

 オリオンも動かない。

 ヘリッドも、カーシュナーも動かない。


 水の流れる音と、かすかに流れる空気の音だけが、無数の屍と、わずかに残った生者たちの間を渡る。


 ゴスッ!


 そんな静寂を破ったのは、リタの膝蹴りだった。

 膝蹴りの衝撃で、首をねじりあげていた手がゆるむ。リタはその手から、むしるように首を外した。 

 アイメリックは、リタの膝蹴りにも、その後の行動にも、何の反応も示さない。

 リタの方も、直前まで自分の命を文字通り握っていたアイメリックに対し、もはや見向きもしない。


 リタはすぐ足元に横たわるオリオンの脇に膝をついた。

 ボロボロの身体をそっと動かし、楽な姿勢にしてやる。

 戦ってみてようやく理解出来た。アイメリックはまさしく「死」そのものであった。

 何気ない一撃であっても、そのすべてが、自分の渾身の一撃を上回る。

 そんな攻撃にさらされながら、たった一人であれほどの戦いを繰り広げてみせたのだ。

 リタはオリオンの存在そのものが、我がことのように誇らしかった。


「リタ……。無事だったか」

 うっすらと開いた目が、リタの笑顔に触れてほころぶ。

 不機嫌なままで固まってしまったはずのオリオンの顔が、子供の笑顔の様に柔らかい。


「あんたのおかげだよ」

「……アイメリックはどうした?」

 リタの言葉に、オリオンは応えなかった。

 助けたのは俺じゃない。俺が助けられたんだ。


 言葉にされなかった思いを汲み取ったリタは、それ以上は何も言わない。代わりに、傷ついたオリオンの身体に腕を回すとゆっくりと起こし、脇に入って身体を支えてやる。

 そして、まるで石化したかのように動かないアイメリックの前へと連れて行く。


「…………」

 オリオンは言葉なくアイメリックを見つめた。

 すると、血にまみれてもなお秀麗なアイメリックの顔に、赤い線が一本走った。


 ズルッ……。


 ぬめるような音と共に、アイメリックの顔が後方に滑っていく。

 顎だけを残して――。


 半分になってもなお秀麗なアイメリックの頭部は、落ちて転がり、さらに水路に落ちる。

 暗い水面はアイメリックの頭部を瞬時に呑み込み、闇の底に消した。

 残された顎から下の肉体は、リタの首を絞めていた腕だけそのままに、まるで朽ちた石像が崩れるかのように、膝を折り、倒れた。

 伸ばされた腕だけが、何かを求めているかのように、真っ直ぐ前に突き出されている。


 オリオンは名残り惜しむようにため息をついた。

 アイメリックの中に、自分の中でまだ明確な形にならない理想を見ていたからだ。

 だが、その末路に触れ、求めてはいけない形なのだと思い知らされた。

 オリオンにとって、アイメリックという存在は、その手にかけてもなお、理解することはかなわなかった。


 頭部は水底へと消えてしまった。

 愛用の長剣は、アイメリック自身が折ってしまった。

 その死を整える手段はなかった。

 また、アイメリック自身も、そのようなことは望んでいないような気がした。

 オリオンはリタを見つめ、何も言わず、一つうなずいた。

 うなずき返したリタは、オリオンの身体を支え、アイメリックの亡骸に背を向けた。

 そして、いつの間に復活したのか、ヘリッドに寄り添うカーシュナーのもとへと足を向ける。


 笑っていたカーシュナーの翠玉の瞳が、一瞬鋭い光を放った気がした。

 視線を追って振り向く。

 だが、そこにはただ闇があるだけだ。

 バルブロの巨体も、アイメリックの亡骸も、松明の明かりの届かない闇の中にある。

 向き直ったときには、カーシュナーのいつもと変わらない笑顔があるだけだった。


 カーシュナーは何も言わない。

 リタは気のせいだったのだろうと思うことにした。

 他の三人ほどではないが、リタも十分傷を負った。疲労に至っては限界を一度超えている。おそらく倒れたら意識を失ってしまうだろう。

 むしろ脳神経が反乱を起こさず、リタの意識を支えてくれているのが不思議なくらいだ。


 戦いは終わった。

 これで何かが変わったわけでも、変えることが出来たわけでもない。

 それでも終わったのだ。

 四人は同時に安堵のため息をついた――。





 もはや誰の目も届かない闇の奥で、バルブロの見開かれた瞳孔だけが、カーシュナーが目にしたものを焼きつけていた。

 それは誰にも知られることのない出来事・・・だった。


 <巨人>と<大陸最強の傭兵>は、かつて多くの命が捧げられた生贄の祭壇に、その命を差し出したのであった――。

 

 

 

   

はい! 次が最終話となります。17時ごろ投稿いたします。

はい! まだ書き終わっておりません! 

超本格的にマジでやばい!

こんなこと書いてる場合じゃなかった。早く書き上げねば!

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