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ヴォオス戦記・暁  作者: 南波 四十一
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バルブロの誤算

どうも、ヴォオス戦記・暁を書いている男、南波 四十一です。

まだ最終話を描いている途中ですが(それはやばいだろ)間に合いそうなので、残りの話を投稿してしまいたいと思います。

さあ、追い込まれたぞお! 俺が!(笑)

今日ヴォオス戦記・暁は完結します。改まったご挨拶は最終話でさせて頂こうと思っておりますが、一言だけご挨拶させて頂きます。

今日まで暁にお付き合いいただき誠にありがとうございました。最終話までお付き合いいただければ幸いです。

それではヴォオス戦記・暁の本編をどうぞ! 

 カーシュナーの肩越しにその光景を目の当たりにしたバルブロは、度肝を抜かれていた。

 三十人からの傭兵が、一瞬にして邪魔臭い肉の塊に変えられてしまったからだ。

 今回招集した傭兵たちは、アイメリックとバルブロが加わる以前からクロクスの私兵団に所属していた使えない・・・・連中だった。

 クロクスの私兵団に所属するだけあって、腕はそれなりに立つが、それ故に驕り高ぶり、規律違反も多く、今後アイメリックがまとめ上げる組織には不要な人材ばかりだ。

 今回の<暁>討伐に際し、極端な話全員使い捨てに出来れば丁度良い厄介払いになるくらいに考えていた。だが、実際に全滅させられると、その余りの使えなさに腹が立ってくる。


 最低限役に立ってから死ね! という話だ。


「あ~あっ。こいつは俺の責任だな。カス共なんか俺の手で間引いて、使える連中を連れてくりゃあ良かったぜ」

 カーシュナーと向かい合っているにもかかわらず、肩を落として愚痴をこぼす。

「まあ、べっぴんさんの体力を使い果たさせただけでも良しとするか」

 膝をついたまま立ち上がろうとしないリタを見ながら無理やり自分を納得させる。

「しゃあない。<暁>の残りは俺一人で殺る・・・・・・しかねえな」

 バルブロはそう言うと不敵に笑った。


「お前には無理だ」

 バルブロの不敵な笑いを、カーシュナーが鼻で笑い飛ばす。

「てめえが止めるとでも言いてえのか? そんな枯れ木みてえななりしてよお。お目目が緑色に光るだけじゃあ、俺はビビってなんかやらねえぜ」

「さっきびっくりしていたの、俺見ていたぜ? それに枯れ木の方が、ウドの大木よりはいくらかましだろ?」

 バルブロの皮肉に対し、カーシュナーも皮肉で返す。皮肉の程度は同じでも、カーシュナーの言い方は部外者として聞いている分には面白く、当事者として聞くと異様に腹の立つ言い方になる。他人をイラつかせることにおいては、カーシュナーの方に分があった。

 案の定バルブロの顔色が変わる。


「盗賊ギルドなんぞと仲良くするくらいなら、<暁>の方が正直マシかと思っていたが、てめえとだけは相容れねえようだぜ」

「いや、意外と気が合うかもしれないぜ。俺も同意見だ」

 そう言うとカーシュナーは、構えていた大剣を放り投げるような独特の突きを放った。どう考えても届く間合いではない。だが、カーシュナーの長すぎる手足としなやかな筋肉、そして異様に柔らかい関節が、驚異的な間合いを実現させる。

 間一髪のところで弾いたバルブロの表情が引き締まる。


「さっきの一撃を受けていなけりゃあ、あるいは今ので決まっていたかもしれねえな。万に一つの機会を逃したこと、後悔させてやる」

 そう言って前に出ようとしたバルブロに、カーシュナーの追撃が襲い掛かって来た。

 今度は先程の突きよりもはるかに威力の高い、投げやりを叩きつけてくるような、まるでムチでも振るうような一撃だった。

 慌てて受け止めたバルブロの巨体が一歩後退する。その一撃の重みは、どう考えてもバルブロの半分も体重のない枯れ木のような男の繰り出す一撃ではなかった。


「てめえ、暗殺者じゃねえな。基本が暗殺者のそれとはまるで違う。正攻法の剣術を土台に、自分の特性を生かして型破り過ぎる剣術を編み出したみてえだな。いったい何者だ?」

「ただの無名の剣士さ」

 言葉と同時に、カーシュナーの全身から大剣の先端までを鞭のようにしならせ振るう連続攻撃が襲い掛かった。


 重いだけではない。まるで曲芸のように身体を回し、遠心力を駆使して振るわれるその攻撃は、回数を増すごとにその速度も増していった。当然速度が増せば威力も増す。

 バルブロは防戦一方に追い込まれてしまった。


 こりゃあ、相性が最悪だ!


 バルブロは始め、そのひょろ長い外見からカーシュナーのことを侮っていた。

 2メートルの長身に加え、異様な色の瞳を持ち、まとう百戦の気も一流のものだ。使い捨てるつもりで連れて来た傭兵たちからすれば足がすくむのも仕方がないだろう。だが、バルブロからすればそのどれもが、ただそれだけのこと・・・・・・・・・でしかなかった。 


 身長で言えば2メートルの大男など、自分より30センチも小さい男でしかなく、瞳が緑色だろうが青色だろうが、大陸外の人間である渡来人とらいじんを知っていれば驚くには値しない。なにより、まとう百戦の気は、バルブロも一流だ。

 戦って後れを取るような要素は何もなかった。


 だが、ふたを開けてみればこの様だ。

 枯れ木のように細い身体は、柔軟にして強靭であり、無駄なく極限まで鍛え上げられた結果だった。

 振るう剣技はあまりにも独特なだけでなく、恐ろしく速く、キレがある。一合受け損なうだけで致命傷になりかねない。一分の隙もなく急所を狙ってくるのだ。

 そして、もっともバルブロの想定を狂わせたのが、その力だった。


 単純な腕力勝負ならバルブロに軍配が上がるだろう。

 だが、圧倒的な大差で呑み込むことは出来ない。バルブロの力押しをしのぎ切れるだけの力は備えているのだ。


 そんな奴はイーフレイムやグスターヴァイスぐらいだったのに、シャレにならねえのが出てきやがったぜ!


 誰に言うでもなく、心の中で悪態をつく。

 それにしても、傭兵たちを失ったのは痛かった。

 生きていれば人間の壁としてひょろ長の背後に展開させ、間合いを取らせず接近戦に持ち込めたのだが、べっぴんさんにあっという間に殺されてしまったため、それもかなわない。

 息もつかせぬ連続攻撃を耐えて様子をうかがったが、息が上がる気配すらない。下手をしなくても体力は自分よりも上だろうと考え、バルブロはげんなりとした。


 前には出られないが、左右には動ける。

 じっとしていてもこのでか過ぎる身体はいい標的にしかならない。技術も相手の方が上のようだし、いずれは防御も崩されてしまうだろう。

 バルブロは一計を案じ、横へと走る。

 そこでは、アイメリックと<暁>の大将が、壮絶な死闘を繰り広げていた――。









 アイメリックが手にする長剣は、剣の部分の長さが通常の長剣よりも五割以上も長い特注製だった。

 相手よりも深い間合いで戦えることは有利である。実際、圧倒的にバルブロ有利と思われていたカーシュナーとの戦いは、戦いの間合いを支配することでカーシュナーが優勢に立っている。


 だが、アイメリックの長剣は剣の部分のみ長くしたものであるため、見た目ほどの性能を有していない。

 剣を手にし、構えた時の重心が上に来過ぎるため、自身の体重移動にも弊害が出る。

 下手に剣の先端部で相手の攻撃を受けようものなら、てこの原理で支えきれず、押し斬られてしまう。

 それ以前に折れやすい。


 戦いを生業とするものならば、鼻で笑ってけして手に取らないような欠陥品だ。

 そんな欠陥品を手にしながら、アイメリックはオリオンと互角に立ち回っていた。

 しかもまだ本気ではない。待ち焦がれた相手との戦いを、じっくりと味わっているかのような立ち回りなのだ。

 もっとも、それはオリオンも同様だった。得体の知れない強さを秘めた相手に対し、探るように短剣を振るっている。


 本気ではない。にもかかわらず、両者の振るう剣は神速の領域に達していた。

 アイメリックの剣などは、振るっているのがアイメリックでなかったら、自身の剣を振るう力で折れていただろう。

 互いの剣を弾き合う金属音も、まるで一つの音楽のようで、その死を招く調べはかつて多くの人々の生き血が流された<生贄の間>に似合っていた。


 バルブロは探り合いを演じている二人に近づいて行く。そうすることで二組の一対一の戦いを、二対二の戦いの形に変えようと考えたのだ。

 速さと技術で上回り、バルブロの怪力に押し切られないだけの力を持つひょろ長は、確かに相性の悪い相手ではある。だが、バルブロの間合いに入れてしまえば、今苦戦させられているひょろ長の独特の剣技を封じることが出来る。あの剣技は遠心力を利用しているため、一定以上の間合いと広さがないと力を発揮しない。


 一番簡単な方法はこの<生贄の間>にこだわらず、水路に誘い込んでしまえばいいのだが、それにはアイメリックの協力が必要だった。だが、<暁>の大将との戦いを楽しみたいアイメリックは、戦いの自由度が高いこの<生贄の間>から移動してはくれない。となると、バルブロは次善の策を考えるしかなかった。


 一瞬アイメリックなど放り出して水路に引っ込もうかとも考えた。

 どうせアイメリックなら二対一の状況でも勝てるだろう。

 だが、目の前でべっぴんさんにど根性を見せつけられた後では、逃げるという選択は出来なかった。悪にも卑怯者にも徹しきれないバルブロの気骨は、この場合弱点となった。

 自分でもそのことを理解しているバルブロは、アイメリックに戦いを押しつけるのではなく、巻き込むことで状況の打開を試みたのだ。


 ひょろ長はアイメリックの間合いには入りたくないはずだ。実力は大陸最強候補にも名の上がる自分に匹敵するほどの腕だが、自分が及ばないように、ひょろ長もアイメリックには及ばない。

 一度ひょろ長の間合いから出れば仕切り直すことが出来る。相性の悪い相手ではあるが、今の流れさえ断ち切れれば、バルブロは勝てる。長年傭兵を続けてきた経験がそう告げていた。


 バルブロとの距離が開き、間合いが切れる――。


 ひょろ長はその瞬間退くはずだ。でなければアイメリックの間合いに踏み込むことになる。

 その瞬間を狙って距離を詰める。厄介な剣技も一歩深く間合いに入ることが出来れば威力が半減する。そうなれば主導権はバルブロのものだ。一気にけりをつける。


 そうなるはずだった――。


 だが、バルブロの予想に反し、カーシュナーは間合いが切れる直前、自らアイメリックの間合いに踏み込み、その肩口に斬りつけたのだった。

 その踏み込みにはアイメリックに対する恐れは微塵もない。

 攻撃を受けたアイメリックも、苛立ちよりも予想外の好敵手の出現に笑みを浮かべたほどだ。


「馬鹿か、あの野郎!!」


 自分にはけして出来ないその行動に、バルブロは思わず我を忘れて叫んでいた。

 アイメリックの実力を、ひょろ長は理解していた。だから大将に任せたのだ。ひょろ長の行動は、バルブロには命綱なしで死の淵からその暗闇の奥へと飛び込んだに等しかった。

 

 バルブロは戦いの最中に、一瞬ではあるが呆気に取られ、戦いを忘れた。

 その一瞬で、自分がオリオンの・・・・・間合いに捕まったことに、バルブロは気づくことが出来なかった。

 ハッと我に返ったときには回避不可能な距離に入られている。

 バルブロは咄嗟に棍棒を盾代わりに構え、全身の筋肉を硬化させ、鋼の塊と化す。リタの渾身の一撃を、皮を切らせただけでしのぎ切ってみせた筋肉の鎧だ。

 

 鉄釘に表面をびっしりと覆われた棍棒にオリオンの短剣が触れる。普通に考えればそこで短剣が弾かれて終わりだ。だが、オリオンの短剣は鉄と鋼の接触が生み出す火花も、打ち合わされる音さえも立てることなく、その棍棒ごと、鋼の腕を切り裂いた。


 なんだ、この鋭さはっ!!


 斬られた自覚はあるのに痛みが生まれない。

 オリオンの一撃はそれほどに鋭く、なめらかにすべてを切り裂いていた。

 

 死ぬっ!


 バルブロは次の一撃で確実に死ぬであろう自分の姿を脳裏に描いていた。

 だが、追撃は来ない。

 一瞬にして迫った<暁>の大将の身体が、糸にでも引かれるように下がっていく。

 そして、その身体と入れ替わるように、ひょろ長のニヤリ笑いを浮かべた顔が迫って来る。


 バルブロは自分がやろうとしていたことを、逆にやられてしまったのだ。

 アイメリックにひょろ長をぶつけ、その隙に乗じるつもりが、逆に<暁>の大将と衝突することになってしまったのだ。

 そうと知りつつ自ら罠に踏み込んだひょろ長と、知らずに踏み込んでしまった自分に待っていた結末の差に、バルブロは自分で自分を笑うしかなかった。


 バルブロの意志に関係なく、迫る死に対し、バルブロの身体は迎撃態勢に入ろうとする。結果、オリオンに斬られた右腕から、鮮血が一気にほとばしったのであった。

 斬られたことをようやく認識した痛覚が、激痛をバルブロの脳髄に叩き込む。

 木の幹ほどもあるバルブロの腕でなければ、斬りおとされていたに違いない。

 オリオンの一太刀は筋肉だけでなく、骨まで断ち切り、腕としての機能を完全に殺していた。


 見事な連携で大将と入れ替わったひょろ長が、大剣をバルブロの脳天へと振り下ろしてくる。

 武器を手にした腕はすでに上がらず、身体も生まれたばかりの激痛に縛られ回避出来ない。

 

 バルブロは素直に死を受け入れた――。


「カーシュ!! 危ない!!」

 その時、リタの絶叫が<生贄の間>に響く。

 咄嗟に身をひるがえしたカーシュナーの脇腹から鮮血がほとばしり、激痛の呪縛からなんとか逃れたバルブロが大木のような脚でカーシュナーを蹴り飛ばした。

 いくら細身であるとはいえ、2メートルを超すカーシュナーの身体が、投石器で投げつけられたかのような勢いで飛び、壁に叩きつけられる。


「うわああっああぁぁっ!!!!!!」

 もはや理性の吹き飛んだ、獣のような怒声を上げ、リタがカーシュナーを襲った新たな襲撃者に躍りかかる。

 その動きは先程とは比べようもないほど無様で、めちゃくちゃな動きだった。

 まるで転がるように襲い掛かって来たリタを、襲撃者は容赦なくカーシュナーの隣に蹴り飛ばした。

 カーシュナー同様壁に激突したリタは、ボロ雑巾のような有様で、カーシュナーの脇に広がる血溜まりに倒れた。

 カーシュナーは壁にもたれるように倒れ、リタはカーシュナーが流した血溜まりで溺れるように倒れたまま、ピクリとも動かない。


「……ヘリッド?」


 オリオンの口から、信じられないという思いと共に、苦楽を共にしてきた仲間の名前がこぼれた。


「バルブロの旦那。手を焼かさないで下さいよ。思わず出てきちまったじゃないですか」

 オリオンの言葉は確実に耳に届いていた。だが、それを無視してヘリッドはバルブロの腕を止血する。

「……お前」

「あんたに死なれたら、オリオンと天使さんとの二対一になっちまう。アイメリックの旦那ならそれでも何とかしそうですけど、そんなふわふわした賭けに乗るような度胸は俺にはないんでね。本当頼んますよ」

 そう言うとヘリッドは、自慢のとろけるような笑みをバルブロに向けた。


「……これは一体どいうことだ。説明しろ、ヘリッド!!」

 戸惑いを含んだ怒りに駆られ、珍しくオリオンが怒声を上げる。


「悪いな、オリオン。俺には俺のやり方・・・があるんだよ」

 そう答えたヘリッドは、オリオンの目を見ようとはしなった――。

  

次は15時ごろ投稿予定です。

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