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ヴォオス戦記・暁  作者: 南波 四十一
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光と影の出会い

第3話をお届けいたします。

第1話の前書きでも書きましたが、書き溜めが全然足りていないのに連載を始めてしまったのですが、せっかく大晦日に投稿を始めたので、元旦にもう一話投稿しようと思います。はい。無謀の極みです(笑)

0時少し過ぎに投稿しますので、除夜の鐘を聞きながら読んでやろうじゃないかという活字中毒の方がいらしたら、ぜひ、よろしくお願いいたします。

この世界で活字中毒者は、勇者ですから(笑)

とりあえず自分は、笑ってはいけないを録画し、RAIZINを適当に垂れ流しながら、正月返上で不足している書き溜め分を執筆しようと思います(泣)わかっております。すべては自業自得だと(笑)

ポケモンやり過ぎた~(反省)

 駆け抜ける姿はあれど、地を蹴る足音は響かない。

 それに対して、オリオンと仲間たちを追跡する者たちの足音は、無様なまでに騒がしく響いていた。


「あれでこっちの不安を煽っているつもりかね?」

 追われているにもかかわず、かけらの不安も見せずに少女はオリオンにたずねた。

 問われたオリオンは、肩をすくめて応えた。

「無駄口はいいから、走れ、走れ!」

 共に駆けていた青年が、そんな二人にはっぱをかける。

 こちらも言葉の割に慌てた様子はない。


「この辺の路地に詳しい奴いるか?」

 オリオンが振りかえてたずねる。

 答えはなかった。

「最悪袋小路に入っちまったら返り討ちにするしかないね」

 とんでもないことを先程の少女がさらっと口にする。

 愛くるしいその姿からは想像もつかないが、この少女は盗賊ギルドから離反した暗殺者の中でも屈指の実力者であり、口にしたとんでもないことを実現させることが出来るだけの強さを持っている。


「リタ。あいつらだって元はお仲間だ。ゼムの命令で俺らを追ってんだから、殺しは最後の手段だぜ」

 やれやれと言った顔で青年がたしなめる。

 オリオンもその通りだとうなずいている。

 二人からたしなめられたリタがむくれる。


「じゃあ、他にどうするんだよ! 王都がいくら広いって言っても、一度見つかっちまうとくのは一苦労だよ、ヘリッド!」

「だよなあ~。どうしよう?」

「あたしが訊いてんだよ!!」

 ヘリッドと呼ばれた青年が、女性なら誰もが心を奪われてしまいそうな秀麗な顔を、いかにも困ったと言わんばかりにしかめて小首をかしげるのに対し、リタが声を荒げてツッコミを入れる。


「二人とも、足音を殺している意味がないぞ」

 そこにツッコミではない本当の注意がオリオンから入った。

 二人は申し訳なさそうに肩をすくめた。


「あちゃ~!」

「……やっぱりこうなるのね」

「…………」


 リタが額を叩いてて天を仰げば、ヘリッドはがっくりと肩を落とした。

 オリオンは無言で目の前の袋小路をにらみつける。

 と、その時、迷路の一部と化していた倉庫の壁が音もなく開き、一人の長身の男を吐き出した。手にははしごを持っている。

 オリオンたちに緊張が走る。


 五感に優れた彼らは、建物の壁と隔てられていても人の気配を探ることが出来る。その上で自分たちに害をもたらすことのない一般人たちの気配を遮断していた。

 建物の陰や、窓の隅からこちらをうかがっていれば、よほど気配を消すことに優れていない限り、彼らはそれを察知することが出来る。

 扉ではなく、・・からするりと現れた男は、オリオンたちにその気配をつかませないだけの技量の持ち主だったのだ。


「こっちだ」

 出て来た男は自分たちにギリギリ届く大きさの声で促した。そして男は答えを待たないままはしごを袋小路の端にたてかける。

 袋小路は建物によって三方を塞がれた形になっている。どれも倉庫のようで高さがあり、はしごで乗り越えられるような高さではない。

 だがよく見ると、倉庫の外壁に絶妙な間隔で手掛かりとなるくぼみがあり、ある程度の登坂とはん訓練を受けた者ならば容易に上まで登れるようになっている。

 はしごは最初の手掛かりとなるくぼみにぎりぎり届く高さがあるのだ。


 男がはしごを立て掛けると、その周辺を適度に踏み荒らしていく。その間に倉庫の屋根にもう一人の男が現れ、引っ掛けかぎの付いたロープを巧みに操り、立てかけたばかりのはしごを引き上げていく。

 もう一人の男が引き上げたはしごを抱えて倉庫の向こう側に姿を消し、はしごを立て掛けた方の男は、わざわざ付けた痕跡を、ほうきで丁寧に消していた。

 今、雪は降っていないが、今まで降り積もった雪は袋小路の四隅に残り、追跡を撒きたい者にはかなり不利な状況にある。

 そこからさらに自身の足跡を消しながら、男はオリオンたちに近づいて来た。


「決断しろ」

 男はそれだけ口にした。

「って言うか、あんた何者なん……」

 リタが一歩前に出て男を詰問しようとするのを、オリオンは手を上げて制する。


 目の前の男は只者ではない。

 はじめははしごで壁を越えさせてくれるのかと考えた。だが、一度に一人しか登れない。全員が上りきる前に、おそらく追跡者に追いつかれてしまうだろう。

 男はそれを承知ではしごを使い倉庫の壁を乗り越えて逃走したかのように偽装したのだ。しかも丁寧に痕跡を消しているが、見る者が見れば見破れるようになっている。

 追跡者が未熟で見破れなければそれで構わないし、見破れるだけの技量の持ち主ならば、丁寧に痕跡を消したことで、オリオンたちがこの袋小路を乗り越えて逃走したと思い込むように、追跡者の心理を誘導している。 

 そのすべてが、先程男がこの袋小路に姿を現すために使用した扉の存在を隠すためなのだ。


「何故俺たちを助ける?」

 無口なオリオンに代わってヘリッドが口を開く。

「決断しろと言ったはずだ。それが答えか?」

 ヘリッドの問いかけを無視して、男はオリオンにたずねる。

 開いているのか閉じているのかわからないような細い目は、一瞬もオリオンから視線を離さなかった。それは、仲間であるリタやヘリッドにも出来ない事だった。オリオンの強さは、相対する者の実力が高ければ高いほど、その圧力を増す。盗賊ギルドでも選りすぐりの人材で構成されている暗殺者たちが、その圧力に抗しきれないほど、オリオンは圧倒的に強かった。


 そのオリオンの前に、男は余裕すら感じさせる態度で立ち続けている。

 ただそれだけのことで、警戒するに足る存在だった。


 男は自分の能力の一端を示して見せた。有能な男であることは間違いない。と言うより、これほどまでの男に会うのはオリオンも初めてだった。

 リタやヘリッドも、百人に一人とか、千人に一人という才能ではなく、万人に一人出るか出ないかの天才だ。だが、それでも目の前の男には及ばない。


 オリオンはめまいのような錯覚に襲われた。

 雲海を突き抜けた山頂に立ち、遮るもののない強風にさらされながら、ただ一人そこに立ち続けて来たオリオンは、初めて目線の合う存在と出会ったのだ。


 根拠はない。だが、オリオンは男を信じた。

 その思いを込めてうなずく。

 男にはそれだけで通じた。

 ニヤリと笑うと隠し扉を指さし、自身はオリオンたちの脇を抜けて駆けて行く。オリオンたちの痕跡を消しに行ったのだ。


 オリオンは一瞬も戸惑うことなく隠し扉に向かった。

「あんな奴を信じるのかい?」

 リタが疑わしげにたずねてくる。

「とりあえずはな」

 オリオンは短く答えた。


 全員が隠し扉を潜ると、オリオンは扉から顔を出し、男の様子をうかがう。

 もともと追っ手を撒くために痕跡を残さないようにここまで来ている。それでもかすかに認められる痕跡を男は一つも見落とすことなく消していた。

「ギルドにあんな奴いなかったよな?」

 オリオンの顔の下から顔をのぞかせたヘリッドが、男の仕事ぶりを眺めながら問いかける。同業者かと思わせるほど男の手際は優れていた。

「よその都市の奴かもしれないよ」

 さらにその下から顔を出したリタが意見を口にする。

「あれだけの奴が地方都市のギルドにいれば、うわさくらい流れて来るんじゃないか?」

 ヘリッドが首をひねる。

「それもそうだね。あんなひょろ長くてでかい男のうわさなんて聞いたことないよ」

 ヘリッドの意見に、リタは素直にうなずいた。


 男は丁寧に痕跡を探し、確実に処理しながら隠し扉の入り口へと戻ってくる。

 その間にも、追跡者たちの気配が近づいてくる。

「早くしろよ!」

 近づく気配に苛立ちながら、リタが男の背中に悪態を投げつける。

 男はそれでも急がず慌てず確実に仕事をこなしながら戻ってくる。

 追っての気配が袋小路を見渡せる一歩手前に差し掛かった時、男は隠し扉の内側に滑り込み、そっと扉を閉ざした。

 そして扉に耳を押し当てると外の様子を探る。


 文句を言いたいリタであったが、好奇心に負けて自分も外の気配を探る。

 痕跡を見失った追跡者たちが右往左往するさまが、倉庫の壁を透かして見えて来るかのように伝わってくる。

 気配が引き返しかけた時、誰かが痕跡を消し去った跡を見つけ出す。

 色めき立った男たちが袋小路へと慌てて駆け込もうとするのを、おそらく痕跡を発見したであろう男がたしなめる。

 巧妙に隠された痕跡を潰されてしまったら、いかに優れた追跡者と言えどもどうすることも出来ないからだ。


 追跡者たちはやがて男が仕掛けていたはしごの罠に行きつき、男の誘導に見事に引っ掛かり、オリオンたちが倉庫の壁を乗り越えて、その向う側へと逃走したと結論づけた。

 男たちは幾人かが馬になって土台を作り、その上を渡って身の軽い者が倉庫の壁を越え、オリオンたちの追跡にかかった。


 やるじゃん!

 リタがそんな思いから男に視線をやると、男はまだ何かを待ち、聞き耳を立てていた。


「そこで何やってんだ!」

 どすの利いた声が袋小路に響く。

 それも一人や二人ではない。二十人近い気配が、袋小路の口を塞ぐように広がって行く。

「怪しい連中が倉庫の裏でたむろしてるって言うから来てみりゃ盗人か! 昼間から俺様が張ってる倉庫荒すたぁいい度胸だ! 野郎ども! この馬鹿どもを豚のえさにするぞ!」

 おおっ! という手下の声と同時に、袋小路は乱闘の気配にのまれた。

 男がニヤリと笑うと、リタに向けて片目をつぶってみせた。


 こいつ! ここまで先を読んで仕込んでいやがったのか!

 一瞬驚きに目をむいたリタであったが、直後には男同様ニヤリと笑っていた。


 男が倉庫の奥を指さし、移動する。

 オリオンは素直に男に従った。

 外の喧騒も届かないところまで来ると男は足を止め、振り返る。そこには倉庫の空気を入れ替えるために高所に設けられた窓から、外の薄明かりがこぼれてきていた。


 男はおもむろに頭髪に手をかけると、ぐいと引っ張ってみせた。

 一瞬頭がむしれたかに見えたが、それはただのかつらだった。かつらに向かっていた視線が、一気に男の顔へと引き戻される。

 そこには、神話物語に登場する天使のような、黄金の髪に、翠玉の瞳を持った男が立っていた。

 骨格や肌色の違いこそあれ、黒髪黒目が共通点の大陸人とは全く異なる色彩を持った男に、さすがの元暗殺者たちも息を呑み、ただただ見つめるばかりであった。


「まだ名乗っていなかったね。俺の名はカーシュナー。よろしく」

 男はそう名乗ると、薄明かりの中、その光を何倍にも増したかのような笑みを浮かべたのであった――。

  

 

先程年越しそばの材料を買いに行き、見事に肝心のゆでそばが売り切れで、代わりにうどんを買ってきた男、南波 四十一です。ちなみに、かき揚げがいつもよりお値段高めで売られていたことに納得がいっていない男、南波 四十一でもあります。いや、今日買いに行っちゃだめだよ。と思われているんだろうなあと思っている男、南波 四十一でもあります。

はい。どうでもいい話でした。

大晦日だというのにお付き合いくださった活字中毒者(勇者)の皆さん、本当にありがとうございました。読んでもらえることが、何よりも書き続けていく上での活力源です。大晦日だからこそ、あえて読んでやったぜぇ、というワイルドな皆さんの心意気を、一日早いお年玉と思い、これからも頑張ります。

それでは皆さん良いお年を!


2016年12月31日に読んでいらっしゃらない方には、本当どうでもいい後書きでした~。


元旦0時過ぎごろに第4話を投稿いたします。

来たれ勇者!

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