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拒絶

作者: 梨

僕がまだ幼稚園にいた頃だったか、それより前だったか。

まだ夕方だというのに外はもう深夜のように暗かった。

寒い日が続くなか、特にその日は寒さに震えながらソファーに身を預けてテレビの方に視線を送っていた。

わざとらしい喋り方の吹き替えが付いた海外ドラマ、何が面白いのか分からないところで笑い声のオーディオが鳴り響く。

さっきまで気怠く一人で座っていたリビングは静かだったのに、うるさい。

急に耳鳴りがし始めた。

後ろにもたれかかるのも十分ではなくなってきたので、体を横にした。

腹も調子が良くないようだ。さっきも熱い酸味が喉まで上がってきた。

ただ母が風呂からあがってくるのを待って、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめて耐えていたのだが、とうとう辛抱ならず、吐いてしまった。

吐く寸前にぬいぐるみを投げたことが幸いしてお気に入りを汚すことには至らなかったが、着ていたトレーナーは嘔吐物にまみれてしまった。

どうしようもなく、一人リビングで嘔吐物を眺め孤独に耐えきれず、ぬいぐるみを抱くこともできないから、姉と風呂に入っている母を頼ろうと風呂場へ向かった。

「おかあさん!おかあさん!」と叫ぶ頃には悲しさで涙が止まらなくなっていた。

すりガラスの中の母は涙でさらに歪んで見えなくなっていた。

自分の声は母に聞こえているのか定かではなかったので叫び続けた。

「おかあさん!おかあさん!吐いちゃった!」と言ったところですりガラスの扉が開いた。

全裸の母が風呂場の椅子に座った状態で僕のことを見て

「なんでよ!もう!」

と叫んだ。

同時に顔に向かって平手打ちが飛んできたことを覚えている。

結局冷え切った嘔吐物をトレーナーに染み込ませたままリビングに戻って床に広がったそれをまた眺めるしかなかった。

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