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第二夜 街にて

一体どうなってるんだ?!

なんで会社の屋上が賑やかな街になってるんだ。

夢でも見ているのか、今月は残業のし過ぎだったか?70時間くらいだったと思ったが・・・長いか。


俺は頭がおかしくなったのだろうか、くらくらする意識と視界をなんとか落ち着かせようと周りの景色を見渡す。

石造りの広い道。

レンガと木で作られた家々。

そこに沿うように並んで開かれている屋台の列。そこにはたくさんの野菜や、肉、魚、見たこともない料理が並んでいる。

赤いキャベツのようなものが山のように並んでいる屋台や、金串に魚を一匹刺して焼いている屋台もある。それらのどれもが、全く見たことのない商品だ。


「カパタ、シリャー?」

「は?」

「カパタ。カパタシリャール?」

「いやいや、ノーイングリッシュ」

屋台の売り子のおばちゃんが話しかけてくるが、何を言っているのかわからない。おばちゃんが、というか・・・周りの人たちの会話も聞いてみても何語なのかさっぱり分からない。

英語ですらおぼつかない俺にとっては、これがどこのあたりの言葉なのか見当もつかない。もうちょっと語学を頑張っておくんだった。

 言葉も分からない、見たこともない街を歩くのはとても不安になる。せめてスマホを持ってきていれば翻訳アプリで会話ができるのに・・・。


 ふらふらと何軒もの屋台を見ながら歩いていると、前方不注意、誰かとぶつかってしまった。

 それは先ほど歩いていた鎧の人たちだった。俺と大して身長は変わらないのだろうが、鎧を着て、顔もヘルムで覆っている彼らの目からはどことなく嫌な感じを受けた。

「あ、すんませーん・・・」

 とりあえず謝っておいてやりすごそうとした俺に、大きな怒声が浴びせられた。

「あ、アイムソーリー!・・・駄目か、やっぱり通じてないな!」

 ぶつかった相手は仲間を呼び、何かを話している。言葉は分からないが、なんとなく「こいつ俺にぶつかってきたんだよ」「は?ちょっと話つけてやろうぜ」みたいな雰囲気はビンビン感じる。

 周りの街の人たちは厄介ごとに巻き込まれたくないのか、遠巻きに俺と鎧の男たちを見ている。


「ガリファ!ガライローシュ!」

「だからなんて言ってるのか分からないんだってば」


 両手を挙げて降参、のジェスチャーをしてみるがそれも駄目。すっかりお手上げだ。どうしようかと思っていたらついには胸倉をつかまれてしまった。

「おい、なにするん・・・だ?!」

 腹に重い痛みが走る。それが殴られた痛みだと気付いた時には、俺はすっかり袋叩きにあっていた。

 連中はお構いなしに俺を殴り、蹴りつけた。ヘルムの隙間から連中が笑っているのが見えた。


 そんな時、遠巻きの中から1人の少女が鎧の男たちに近寄り、食って掛かった。

 少女と男たちは顔見知りのようだ。

 ピタリと俺への暴行を止めた。

 どうも男たちに抗議してくれているみたいだが、彼らは皆どこかヘラヘラとしている。あまり仲は良さそうじゃない。

 少女の抗議に興が削がれたのか、鎧の男たちはつまらなそうに引き上げていった。

 助かった。何が何だかわからないけど、とにかく助かった。


「あ、ありがとう。君のおかげで助かったよ」

 痛めつけられた体をさすりながらお礼を言うが、やはり伝わってはいない。彼女の顔に「?」と浮かんでいるのが見える。

 ジェスチャーやお辞儀をして、なんとか感謝を伝えようとしたら、何かは伝わったらしい。彼女は俺の手を引いてどこかへ連れて行こうとする。

「え、あの、ちょっと・・・どこへ行くんですか?」

 いいから、いいからと彼女の目が言っている・・・ような気がする。

 訳も分からず手を引かれること数分。俺はずんずんと町の奥へ奥へと案内された。

 屋台が消え、家が減り、代わりに行きついた先には大きな建物が現れた。そびえたったその建物は、まるで立派な教会のようだ。


 少女は勝手知ったるといった感じでその建物の中に俺を連れていく。

 中はやはり教会のように、椅子が整列され、天井は高く、荘厳な雰囲気を感じさせた。

 ただ教会と違う点は、2つ。

 中には十字架や宗教画がない。

 そして、この建物の中心には泉があった。

 まるでこの泉を囲むように、椅子も、この建物自体も作られているようだ。

 少女は泉の前で跪き、何かに祈りをささげた。

 そして静かに湧き出る泉から水を一杯汲み取り、俺に差し出した。


「え、俺に?飲めってこと??」

 うなづく彼女に促されるがまま、俺は水を飲み干す。冷たくて美味しい。混乱していた頭が少しずつ冷静になっていくようだ。

「ごちそうさま。・・・え、もっと飲めって?」

 少女は笑みを浮かべながらもう一杯水を差しだす。なんだか断るのも気が引けるので飲む。飲み干せば、また水を勧められる。飲む。勧められる、の繰り返し。


「いや、もういい!飲めないって!ご馳走様!」

 胸の前で×印を作り、これ以上は飲めないと伝える。すると、少女は笑いながらささやいた。


「ふふ、やっとね。私の名前はネーシャ。・・・あなたは?」

「鷹羽 シュ・・・ええ?!君、日本語分かるの?!」

「ニホンゴ?初めて聞く国の名前ね。あなた、ここに来てまだ水に慣れてなかったでしょう?言葉が全然通じてなかったもの」

「水?慣れる?」

「あなた、その格好といい、本当に遠くから来たのね。聖泉のご加護よ?・・・聞いたことあるでしょう?」


 いや・・・無い。

 きっぱり答えるとネーシャは驚きながら教えてくれた。

「この国は建国するずっと、ず~っと前から、この聖なる泉が湧き出ていたの。この泉の水を飲むと、どんなに遠くの人との間でも言葉が通じるようになるの。だから人が集まり、商業が栄え、国ができた。今あなたが私の言葉を聞けるようになったのも、泉のご加護なのよ」


 意味が分からない。

 そんな言語の壁を取り払える水なんて聞いたことがない。あるわけがない。そんなのがあるなら、世の中の外国語教室が用無しになってしまう。

 俺も試験勉強で英語を一夜漬けした甲斐がなくなる。

 だが実際に飲んでみて分かった。

 頭が冷静になっていく感覚、あれが泉の加護というやつなのかもしれない。


「ちょっとまだ信じられないけど、ありがとうネーシャ。おかげで言葉が分かるようになったし、助けてくれたお礼も言える。本当にありがとう。俺は鷹羽 秀」

「どういたしまして。こちらこそよろしくね、シュウ」


 ようやく一息つけた。そう思った矢先、扉を開く音が泉に響いた。

「ネーシャ!やっと見つけた、大変よ!急いで来て!」

 血相を変えてやってきた街の人を見て、ネーシャは不安な様子を隠さなかった。

 扉の外から、大勢の人の叫び声のようなものが聞こえる。

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