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第一夜 屋上にて

もう限界だ・・・!

こんな職場、絶対に辞めてやる・・・!


そう思いながら、俺は恨みを込めてパソコンのキーをたたく。いつまでも終わらない書類仕事は職員に与えられたパソコンの左右に山積みになっている。

一体、いつになったら終わるのか?そんな疑問が湧くが、すぐに頭から払いのける。そんなことを考えていたら胸が痛くなるからだ。


「不夜城」


それが俺、鷹羽 秀の働く職場の異名だ。

いつまでたっても電気が消えずに仕事をしている、という所から来ているらしい。

初めて先輩職員から聞いた時は「そんなまさか」と思ったが、今はそんな甘い認識の俺を殴りつけてやりたい気分だ。

「その仕事、まだ終わらないんですか?ったく、早くしてくださいよね」

うっかり手が止まっていたらしい。

すいません、と謝りながら隣の席に目をやる。

バリバリとお菓子を食べながら、俺よりも多い仕事をこなしているのは先輩職員の一人、長沢だ。

彼女はとにかく性格がキツイ、しかし優秀な人だ。

そしてどうしても、俺とは馬が合わない。

この職場に転職してきた時から印象は最悪だった。

(使えない人だったらすぐ辞めるから、自己紹介はするだけ無駄です)

そう言い放って俺への自己紹介を拒否した日のことは今でも覚えている。

そして実際、その長沢の言葉は現実になろうとしていた。


もう駄目だ、限界だ。

キーをたたきすぎて指が痛い。座りっぱなしで尻も痛い。

腹もすいた。最後に食べたのは何時間前だったか。

これなら前職の飲食業の方がまだマシだった。あれには「閉店時間」が存在するからだ。

無理だったのだ、エクセルの使い方もわからない男が事務職に転職するなんて・・・!

思考が悪い方向に向かったせいか、思わず涙がこみ上げてくる。

「ちょっと休憩行ってきます」

別に残業中なんだから誰に断る必要もないのだが、長沢に泣いているのを気付かれるのは嫌だったから下手な芝居をした。


フロアを抜けて、階段を上る。

12階建てのこの職場は、とにかくボロイ。狭い。汚い。

初めて出社したときにはこのボロさ、狭さに驚いたものだ。今だって正直慣れない。

5階、6階、7階・・・と登っていく。別にどこに行こうというわけではない。涙が消えて気持ちの整理がつけばいいだけだ。

ただ、こうも思う。・・・できることなら逃げてしまいたい。どこか誰も知らない遠くに逃げて、新しい世界で生きてみたい、と。


そんなことをぼんやり考えながら足を進めていたら、最上階にまで来てしまった。

屋上を示す扉とその横には「13」の表示。

「このまま戻るのも癪だな。せめて屋上からの夜景でも拝んでから戻るか・・・」

ドアノブに手をかけて回す。

だがドアは何かに固定されているかのように、ピタリと動かなかった。仕事だけでなく、ドアノブまで思い通りにいかないのか!

頭に血が上っていた俺は両手でドアノブをつかみ、肩をドアに押し付けた。

大の大人がタックルの姿勢になっても、そのドアはびくともしなかった。

「こんの・・・!いい加減に・・・開け!!!」


ガチンッという音とともにあっけなく、ドアは急に開け放たれた。まるで最初から開いていたよといわんばかりに、俺はなだれ込むように屋上に入った。


そこには汚い、狭い会社の屋上はなく、まるで繁華街のような人々の往来で埋め尽くされていた。

明るい陽射し。

透き通った風。

連なる屋台と道を歩く人々の喧騒。

そして、鎧。鎧。鎧。


「よ、鎧?!」

あまりの驚きにフラフラと道に入った俺の後ろで、ガチャンッと扉が閉まる音がした。

会社のドアノブはもう、どこにもなかった。

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