対決前夜
秋季県大会決勝を迎えるにあたって、慎平は複雑だった。
あの幼馴染の大夢と対戦するのだから。
しかし、手加減しようとは思わない。
チームが長年遠ざかっている優勝の二文字を手に入れることと、
過去に21世紀枠という名のお情けにより出場したことを考えて、
今年こそ実力で、という気持ちも強かった。
気が付けば慎平は1年半もかけて高崎高校の左のエースにのし上がっていた。
背番号は10。2年夏もベンチ入りを果たし、背番号18をつけていた。
県内でも屈指の精密機械ばりのコントロールが最大の長所だ。
長身を活かした角度のあるストレートと大きなカーブが武器だ。
例年以上にチームは私立に負けないくらい強いということだ。
だから、決勝まで行くことができた。
勝っても負けても、関東大会には行ける、しかし、組み合わせ次第では1位が2位より甲子園出場に有利になることを考えれば、負けられない理由などなかった。
私立をことごとく破って強豪ではない。
頂点になることこそ真の強豪なのである。
大夢は野球をすることを、自分の力を見せつけるのだというよりも、
観客一人一人に感動を届ける野球をする気持ちに溢れていた。
前橋商業相手にこれまで以上の全力投球でリリーフした。
球速は128キロを計測したが、今まで120キロ前後で投げて来ていたから凄い成長である。
タッチの上杉ほどの直球を持ち合わせていない。
今どきの人にはメジャーの吾郎ほどは無いと言えば分かりやすいか。
しかし、大夢は多くの人に希望を持ってもらえるように力を発揮したかった。
そのために何をするべきか、常々考えていた。
考えたことを練習や試合で実践する。
チームメイトとも話し合った。
監督は引き出しの多い選手と評する。
あらゆる場面を想定し、臨機応変に対応する。
特に大夢は要領が良かった。
大夢は決勝まで進んで初めて悟った。
俺がメンバーに選ばれたのは、
野球的な実力というより、社会人のお手本にしたい、
だから、監督が選んでくれたんじゃないのか。
もちろん実力も大事だが。
チャンスをものにできる回数が人より多かっただけだ。
俺はずるい奴だな、つくづく・・・。
まぁ、中にはメンバーに選ばれたくて野球やりに来てるわけでもない部員もいるからな。
入る前から、入ってから自分にはできないって決めつけて、惨めだと思わねぇのかよ。
まぁ誰がとは言わないけど。
そいつらのために頑張ろうと思わないぜ。
優勝もしたいが、まず何より俺の人生のためだ。
手抜きで後悔するより、一生懸命やって後悔した方が同じ後悔でもずっと良いに決まってるさ。
決勝戦が始まった。
大夢、慎平共にベンチスタート。
恒輝は5番サードで先発出場だ。