努力は裏切らない
試合終了後、大夢は帰宅し、シャワーを浴びて部屋のベッドに寝転がり考えていた。
こんなに早く帰れるのは中々ない。
ふぅ・・・。
なんつーかさ。
恒輝の話聞いてるだけで俺、不安になったわ。
厳しい現実ってなんなんだよ。
まぁ確かに遠慮することも大事だよ。
100歩譲って勝たせてやるよ。
そんなに欲しけりゃくれるよ。
でも、なんなんだろ・・・。
犠牲バント、犠牲フライってよく聞くけど、
軽々しく犠牲なんて使って欲しくないよな。
ランナーを次の塁へ進めて、自分が見送るから、送りバントって言うのか。
じゃあ犠牲フライの言い換えは何だ?
自分がアウトになるのは大いに結構・・・。
うーん、わからないなぁ。
自分も生き残るための条件って何だ・・・。
セーフティバントやポテンヒットなど・・・。
ランナーを進めるだけじゃなく自分も生き残りたい・・・。
1点より2点がいい。
俺もホームに帰りたい。
・・・。
やっぱり野球の醍醐味は点の取り合いだよな。
自分でも分かってる。
自分が投げて10点取られる相手には、自分が11点取るつもりでひたすらバット振るんだ。
精一杯努力して強い気持ち持って、打席に立てば負ける気がしないね。
うまくいった時のイメージを思い出すんだ・・・。
俺の理想とチームの理想がうまく噛み合うか分からないが、
その場所に溶け込もうとする気持ちも同時に持てば、
結果的にうまくいく・・・はず・・・。
その辺は何とも言えない・・・実際にやってみて出来上がった事実からスタートラインなんだ。
その時に方針を打ち出してからでも遅くはない。
大丈夫だ、もう俺に怖いものはない・・・たぶん・・・。
まだこんな時間か。ちょうど良かった、テストとかも重なって寝不足だったからな。
あゆみが帰ってくるまで、寝るか・・・。
あ、今のうちに弁当箱洗っとこ、出し忘れると母さんのくどくどしい説教聞かされる。
大夢は弁当箱を洗った後、眠りについて数十分が経った。
気がつくと大夢は玄関の前に居た。
「大夢兄貴、ゲットだぜ!」
大夢は驚いて目が覚めた。
「うわぁ!」
なんとあゆみが大夢をおんぶしていた。
「なんだよ、急に。帰ってきたんなら普通に叩き起こしてくれよ」
「と思うじゃん?疲れてたから気を遣っただけよ」
「はぁ・・・」
「というのは嘘でー、私がここまで力持ちになったことをアピールしたかっただけなのでした!」
「やっぱりそうだー!」
小悪魔的な性格は誰に似たのやら。
「というわけで、投げ込みいくよー!」
「おっしゃー、茂コーチからもらったキャッチャーセットで気合入れるぜ!」
いつも通り準備運動してキャッチボールした後、ピッチングを受ける。
ソフトボールは大きい上に速い。
しかし、自分が中学時代、野球部復帰に協力的で受験勉強真っ盛りだった慎平に
支えられたことを考えれば、
自分がどんなに高校生活で多忙を極めていようと、
志の高いあゆみの壁になることなど苦痛ではなかった。
誰よりも多く練習した。
あゆみはだいぶ筋力がつき、大夢の体重を超えたそうだ。
大夢は自身の野球人生においても、兄としての立場にしても、
やや危機感を感じずにはいられなかった。
大夢があゆみの壁になって約4ヶ月が経つ。
あゆみは新チームのエースに抜てきされた。
あゆみの恩返しはこれから始まったばかりだ。