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2016年/短編まとめ

可愛いは正義、とか

作者: 文崎 美生

水槽の中でふよふよと浮かびながら、ガンガンゴンゴン、割と力任せに貝を割っているラッコ。

ぬいぐるみみたいな動物だけど、これでも生きているんだから凄い。


「ラッコ見てて楽しい?」


「楽しいってか、可愛いかな」


元々一人で来ようとしていた水族館。

何故か隣には付き合って数年の彼氏がいて、私と並んでラッコを眺めていた。

遊園地しかり、水族館しかり、動物園しかり、彼はそういう人の多い所を好まない。

かく言う私もそんなに好きではないが、見たいものを見るためならば一人でだって来れる。


遊園地は流石に一人で行ったことはないけれど、水族館も動物園も一人で行くことは多々あり、今日の水族館も私の分のチケットは前々から買っておいたものだ。

ちなみに彼氏は自分で払って付いて来た。


「動物園に行ってパンダに見向きもしないくせに、水族館のラッコはいいんだな」


「パンダとラッコは別物でしょう」


少なくとも私はそんなにパンダが好きじゃない。

白と黒の媚びたメイクのような姿で、笹を貪るだけで可愛い可愛いとちやほやされ生きられるのは、本当に心の奥底から羨ましいとは思うけれど。


「……クリオネはいいの?」


「ご飯の最中のはエグいよね」


ラッコを見ながら返せば、隣で聞こえるのは深くて長い溜息。

事実なのだからどうしようもない気がする。

そういう生き物としての本性を知らずに、可愛い可愛い言って、そういうシーンを見て引くっていうのはその生き物に対して失礼じゃないかな。


そもそも食事シーンがエグいって、割と普通のことだと思う。

弱肉強食、食物連鎖。

生き物とはそうして生きていくのだから。


「あ、あれ、あれが好き」


どんよりとした空気をまとっている彼氏の服を掴み、あれ、とラッコを一匹指差す。

私と彼氏の視線の先で、一匹のラッコはつぶらな瞳をこちらに向けて両手を頬に当てていた。

むにむに、人間でいうとそんな風に。


「あ、あれもいい」


もう一匹、ラッコを指差して彼氏の視線を誘導する。

両手が頬ではなく目の上にある。

恥ずかしい、みたいな顔文字を思い出す仕草が、本当に可愛くて癒される。

あのシーンをDVDにして売ってくれないだろうか。


許されることなら、犬や猫やハムスターみたいに、愛玩動物として家で飼いたい。

ひたすらにその姿を愛でたい。

きゅんきゅんする胸を押えていると、隣から本日二度目の溜息が聞こえた。


「手のひらには毛が生えてないんだって。体温低下を防ぐために、こんな可愛い仕草をするんだよ」


「いや、お前、それって要するに、イグアナが体内に熱を貯めるのに日向ぼっこしてるのが可愛いって言ってるのと一緒だぞ」


「イグアナ可愛いじゃん」


三度目の溜息は、私の腕を掴んで吐かれたもので、つぶらな瞳を向けてくるラッコ達の水槽から引き剥がされた私は、館内に響き渡る悲鳴を上げた。

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