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第三話:冒険連ラクロス支部福祉課2

 福祉課長シュミットがなかなか戻ってこない上、主人公のリルは夢の世界へ旅立ってしまった。見知らぬ土地で歩き回り、心無い迷宮課職員の洗礼を受けた彼女には束の間とはいえ休息が必要であることは、諸君の理解を得られるものだと信じている。


 ただ待っていても仕方がない。


 早速、「冒険者の職業」というものについて話をしよう。


 この世界で冒険者として活動するためには、冒険連職業課が実施する「職業試験」に合格し、「冒険者免許」の交付を受けなければならない。冒険者とは一般的な仕事――農林水産業、工業、電気事業などなど――とは成り立ちからして異なる迷宮探索を専門とする集団であり、冒険者独特の「職業」が存在する。


 迷宮探索に必要な要員について、少しだけ触れたことを思い出していただきたい。それは大まかに「戦闘」、「探索・罠解除」、「回復」の三つの職種に分別できる。


 戦闘職。


 迷宮内には人外の化け物たちが跳梁跋扈している。彼らはどのようにして発生し、何の目的で迷宮内をうろついているのかについては諸説あるが、今その議論については忘れてくれたまえ。リルが迷宮に挑み、その謎を解く中でそれは明らかになっていくだろう。

 ともかく、迷宮の通路や小部屋、大ホール――場所と時間を選ばずに襲いくるモンスターと戦う力が無ければ、迷宮を探索し大いなる謎を解き明かすことはできない。そのために、戦いに特化した職業を選ぶ冒険者は多い。


 始めに紹介したい職業は「戦士」だ。読んで字のごとく戦うことを専門とする職業であり、新人冒険者の実に五割が最初にこの職業を選択するのだが、そのうちの九割九分は「上級職」へステップアップするための足掛かりとしてしか、この職業を捉えていない。上級職については後述する故、まずはこの戦士という職業について少し掘り下げてみようではないか。


 まず、戦士を名乗るにはステータスの値のうち、体力、腕力が共に12以上なくてはならない。リルのステータスを見れば、体力においては倍以上、腕力至ってはさらにその倍でも届かない数値だが、一般的な人間の男性の腕力を計測すると、だいたい8~10と言われているため、戦士になるだけなら血のにじむような鍛錬は必要ない。しかし戦士という職業は、己の肉体を鍛え上げ、超重量の武具を自在に操って敵をなぎ倒すものだ。リルが戦士を目指すなら、まずは筋力と体力面で大幅な肉体改造が必要なことはおわかりいただけるだろう。


 かつてこの職業を極めた「動く要塞ザ・ストロングホールド」とあだ名されたドワーフ族の男ドマソンの物語は、世界中で語り継がれているほど有名な話だ。彼は一部の職業及び種族等の専用武具を除く全ての武具を使いこなし、剣術、槍術、斧戦術、棒棍術、甲冑手、戦盾術などおよそ武具を用いて戦う全てのスキルを極めていたという。


 おっと、うっかりしていた。


 諸君に職業というものを説明する上で、いくつか理解しておいていただかなければならない重要な事項を説明し忘れていた。いやはや、失敬。


 リルの検査結果の下方に記載されていた、スキル欄を思い出していただきたい。スキルとは技能であり、種族や個人の才能や修めた学問を示す「固有スキル」と就いた職業を極めていく過程で獲得する「職業スキル」に分かれている。


 固有スキルには、リルが農村暮らしで覚えた「薬草鑑定」などのように努力や学習によって後天的に得られるものと、生物として――あるいは天賦の才によって――生来獲得しているものとがある。


 例えば一般的な竜人族は生まれながらにして「ドラゴンブレス」と「逆鱗」という二種類の固有スキルを持っているし、エルフは「長寿」、魔人族は「穢れた魂」という固有スキルを持っている。それぞれの効果まで説明し始めると日が暮れて明日になってしまうため、割愛させていただくが、当然と言うか、人間という種族固有のスキルは存在しない。ちなみに装備することで獲得できる固有スキルもごくわずかだが存在する。これは非常に希なことだが、人ならざる者が生み出した武具には、そういう不可思議な効果を宿すことがあるのだ。そういったものは、大抵呪われているが。


 さて職業スキルだが、これは選択した職業を極めていくことで獲得できるものだ。戦士を例に挙げてみると、以下のようになる。


 例えば、一般的な人間の男性が冒険者を志し、日夜特訓を重ねて戦士の職業試験に合格したとしよう。そして、彼は最初の得物に剣を選び、支度金を冒険連に借りて初期装備を整えた。すると、彼のステータスはこんな風になるだろう。


  職業:戦士LV1

  体力:13

  腕力:13

  知力:5

 俊敏さ:8

 頑強さ:10

 器用さ:5

  精神:3

   運:5


 固有スキル:剣術E

 職業スキル:なし

 呪文:まだ習得していません


   右手:ロングソード

   左手:なし

   身体:皮の胸当て

    足:布の脛当て

 その他1:なし

 その他2:なし


 リルのステータスと違い、頭に「職業」が追加されたことがお分かりいただけるだろう。彼の成長に従って、横の「レベル」の数値も上昇してゆくのだ。仮に彼がこのあと飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍し、目覚ましい成長を見せたとして、ステータスを成長させてみよう。


  職業:戦士LV850

  体力:55(+20)

  腕力:52(+20)

  知力:18

 俊敏さ:-9(-5)

 頑強さ:58(+31)

 器用さ:19

  精神:27(+16)

   運:5


 固有スキル:剣術S 槍術B 棒棍術B 戦盾術B 斧戦術A 雹斬りLV5

 職業スキル:剛腕A 剛健A 精神強化C

 呪文:まだ習得していません


   右手:雹鉄剣(ヘイルブリンガー)

   左手:ミラージュシールド

   身体:ダイヤの胸当て

    足:ダイヤの脛当て

 その他1:魔除けの指輪

 その他2:颯の腕輪


 これだけ成長していれば、パーティーの攻撃の要として、堂々と上級者を名乗れるだろう。


 ここで注目すべきはスキル欄と下方に現れた装備欄だ。


 まず職業スキルを見て頂きたい。「剛腕」や「剛健」は、戦士という職業を選択して成長していくと、ステータスに補正がかかるスキルだ。括弧内の数値がその補正値を示しており、ステータス項目の横には合計の値が表示されている。


 これによって彼は人の身でありながら、獣人族の戦士に迫る膂力を発揮し、竜人族と同等の頑強さを獲得しているのだ。これは彼が「戦士であるから」恩恵を受けられるのであって、もし彼が戦士をやめてしまったらこれらのスキルの一部は消えてしまうかもしれない。職業には「系統」が存在し、あまりもかけ離れた職業への転職を行うと、せっかく獲得したスキルをあたら失う羽目になるので注意が必要だ。


 次は職業スキルの上、固有スキルをご覧いただこう。


 そこに列挙されているスキルは、彼が鍛錬を積んだ証である「習得スキル」と、特定の武具を装備することで限定的に使用できる「武具スキル」に分かれている。


 武具スキルは末尾に記載した「雹斬LV5」が該当する。これはヘイルブリンガーという装備品によってもたらされるもので、当然装備を変えれば消失する。


 しかし習得スキルである「剣術」や「槍術」のスキルは転職をしても失うことはない。といっても彼が魔術士に転職する道を選んだ場合、剣も槍も装備することはできないので――ん? なにかね。魔術士は剣だの槍だのは装備できないのだよ。諸君の生きる世界ではどうか知らないが、この世界ではそうと決まっているのだから仕方あるまい。いや、触れないとか携帯できないとかそういうことを言っているわけではない。「装備できない」のだよ。


 さて以上を踏まえて彼のステータスの中から「精神」を例に挙げるとその内訳は、基本値11に職業スキルの精神強化Cがプラス5、ミラージュシールドの効果でプラス6、さらに魔除けの指輪の効果でプラス5の合計27となる。


 職業とステータスとスキル、それに装備品の間には密接な関わりがあるということを、ざっくりとご理解いただけただろうか。


 では、話の筋を戻そう。


 さて、戦士に限らずステータスの成長には限界がある。


 ステータスにプラスの補正がかかるスキルの成長が止まり種族としての限界を迎えた後は、いかに職業レベルが上がろうとステータスの上昇はない。といっても、職業スキルの成長分を含めた個人のステータスの上昇が見込めなくなるレベルというのはどの職業を選択しても900前後だ。そこまでのレベルに到達する前にほとんどの冒険者は引退を余儀なくされる。これは個人差と種族による差が大きいのだが、要するに老いには勝てないと言うことだ。肉体的なピークを過ぎてから冒険者として活動し続けると、一部のステータスやスキルがマイナス方向に成長してしまうことが知られている。


 類い希なる慧眼をお持ちの諸君はもうとっくに気がついていることだと思うが、ここで、無数の武具を扱うことができる戦士という職業が脚光を浴びるのだ。


 前述したように、武具を装備することで冒険者が受ける恩恵は大きい。その種類が限定されてしまう他職に比べて、ベテラン冒険者の多くが戦士であるという理由がここにあるのだ。


 諸君がもしこの世界にやってきて、冒険者として生きていくことを余儀なくされてしまったら、戦士という職業を極めてみてはいかがだろうか。


 さて、新人冒険者たちの間で、戦士に次いで人気の職業は何か。


 答えは「魔術士」である。


 魔術士になるためには知力が13以上必要であるが、これは特別に身体を鍛えなくとも魔術学なり神学の試験で一定の成績を修めればよいので、比較的簡単に冒険者証を獲得できる。彼らがどのような魔術を使えるかは、修めてきた学問によって違うとしか答えようがない。


 一口に魔術と言っても、超常現象を引き起こして攻撃することを得意とするものや、対象の精神に働きかけて敵を翻弄するもの、神々に祈りを捧げて味方を癒すもの、または不浄なる魂を滅ぼすことを専門とするもの、他にも、悪魔や邪神と契約し、暗黒の魔術を行使するものなど、魔術士の能力は多様に過ぎるのだ。したがって彼らは戦闘職とも回復職とも言える。


 初期の魔術は比較的誰でも行えるが、人の一般的な寿命のうちに魔術を極めることは困難であると言わざるを得ない。それ故、人間やドワーフなどの新人が魔術士を選択しても、中級以下の魔術を習得したところで転職してしまうことが多い。魔術士を極めて活躍するのは永い時を生きるエルフ族やもともと魔に近い存在である魔人族だ。ちなみに勉強嫌いの竜人族、妖精族や獣人族が魔術を習得していることは滅多にない。


 戦士、魔術士の二大職以外にも新人冒険者の人気を集めている職業がある。


 それは「シーフ」である。


 彼らは卓越した罠探知、解除スキルを生かし、迷宮内でパーティーの生存率を上げることに大きく寄与しているが、シーフを初期に選択するためには持ち前の素早さと器用さの高さに加え、一定以上の「運」が必要ということもあって、職業試験の合格率は二割弱という狭き門なのだ。


 上記三職に格闘家、狩人を加えた五つを「基本職」と呼び、剣士、魔法戦士、シノビ、賢者の四つを「上級職」と呼んでいる。これらについてもきっちりと説明したいところだが、ドアの向こうから聞こえてくる足音から察するに、シュミット氏がお客を連れて戻ってきたようだ。


 ソファーの肘かけに頬をくっつけ寝息を立てるリルが、今後どのような職業を選択し、成長していくのかが楽しみなところであるが、彼女のステータスではとても「冒険者免許」を取得することはできない。願わくば、ドアノブに手をかけたシュミットがリルのよき理解者となってくれることを――





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