はじめに
はじめに断わっておくが、この物語には君たちによく似た人間という種族以外にも、複数の種族が登場する。具体的には妖精族、エルフ族、竜人族、魔人族、それからホビットにドワーフ、獣人族だ。
見た目は人と大きく異なる彼らではあるが、この物語の中では人間と同じかそれ以上――あるいは以下――の扱いをすることもある。
ときには彼らの残忍な、それこそ悪逆非道としか言えないような行為を描写することもあるし、人を人とも思わないような表現を用いることもあるだろう。
したがってこの物語は、人間至上主義や倒錯した博愛主義を掲げているような吾人、また性的に未成熟な少年少女にはいささか目と思想の毒となる危険がある。自身が該当すると思われる方は、いますぐブラウザバックすることをお勧めする。
さて、前述の事項を踏まえた上で続きを読んでいただけるとは、恐縮の極み。寛容なる紳士淑女の諸君には、もう少し前口上にお付き合い願いたい。
この物語には、様々な迷宮と呼ばれる建造物もしくは創造物とでも称するべきものが複数登場する。太古の人の手によって築かれたものもあれば、中には神とか悪魔とかいう人智を超えた力を操る、霊的に上位の存在の御手によって生み出されたとしか考えられない、諸君の良識に満ちた見解を大きく外れた法則の上に成り立っているものがあるだろう。
物語の登場人物たちが暮らす世界には、そんな迷宮が無数に存在していて、その内部を探索し、謎を解き明かすことを生業とする人々を「冒険者」と呼ぶ。
人ならぬものが創り出した魑魅魍魎が跋扈する世界を生き抜くために、冒険者たちには人外の力を振るってもらう必要がある。そこには当然、諸君が生きている世界の常識とは大きく事なる不可思議な、法則とは呼べないようなルールが存在しているのだ。したがって、現実世界の美しい物理法則や、静謐な数学的概念が崩れ去ることに不快感を覚える危険のある方の目には、この物語は病の元としか映るまい。どうか閲覧を控えて頂きたい。
携帯無線電話機や箱型電算機の液晶画面が発する有害電波をものともせず、物語の扉を開けようとする勇気ある諸君に最後にお伝えしたい。
この物語のあらすじは、とある迷宮に向かったまま行方不明になった弟を探し出すため、およそ冒険者には向いていない人間の少女が冒険者となって奮闘するというものだ。なんの力もない人間の少女が荒くれ者たちの中に放り込まれ、いかなる困難に出会い、どれほどの悲惨な運命に苛まれるか想像もつかない。
これはけして愉快爽快な物語にはならない。それでも扉を開けと言うのなら――
「次の話」をクリックしてくれたまえ。物語は、そこから始まる。