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魔王に誓う永久

作者: 夢猫

何処かの国の王様が突然訪ねて来た。

魔物達と一緒に夕飯の準備をしている最中だった私に、沢山のお供を伴って勝手に人の家の敷地に入って来て早々に意味の分からない事を言った王様。

少し、頭の運動と肉体的運動が必要なのではないかと思う。


『…もう一度、言って貰えますか?』


まぁ、私の聞き間違いかもしれないので一応再確認をしてみた。


「一度で理解出来ぬのか、愚か者め。お前に勇者と共に魔王討伐の旅に出て貰うと言っているのだ。」


バカにした言葉と共に先程と同じ内容が返される。

やはり聞き間違いなどではなかったらしい。


『どうして私が?』


「お前はこの国…いや、人間で一番の魔法使いだ。その力を魔族を殲滅する為に使える事を光栄に思え。」


『お断り申し上げます。』


「…なに?」


『お断り申し上げます。』


「命を粗末にするのは得策とは思わぬが?」


王様の言葉に一緒に来ていた兵士達が剣を抜く。

思わずため息をついてしまった。

全く、此処で殺生沙汰など起こしてしまえばどうなるかなど、彼等は考えもしないのだろう。

"知らない"というのは実に羨ましい。


『…短絡的な行動はお勧めしません。が、仕方無いですね、この場は私が折れましょう。』


「ふん。最初から言う通りにしておけばいいのだ。」


『ただし、アナタ方の言う"魔王"を倒した時点で私の協力は終わりです。それ以降は私に一切関わらないで頂きたい。』


「よかろう。」


そうして私は一時的に住み慣れた我が家を後にした。

同行者は"勇者"と呼ばれる小麦色の髪と深い藍色の瞳を持つ美青年と、"賢者"と呼ばれる水色の髪と碧の瞳を持つ美少女と、"英雄"と呼ばれる白銀の髪に朝焼け色の瞳を持つ美少年。


この世界の遥かな果てにある魔のモノ達が住む国、"魔国"。

そこの王が"魔王"。

人間より遥かに多くの魔力と遥かに優れた身体能力と遥かに長い寿命を持つモノ達。通称を"魔族"。

人間の子供は幼い頃より魔族は人間の敵で、自分達の暮らしを脅かす恐ろしいモノ、と教えられる。

そして人間はその本能により、自分達よりも力を持つ種を…自分達の存亡を危ぶめる可能性がある種を排除しようとする。

故に魔族が人間に対して特に危害を加えていなくとも、数十年に一度、思い出したかの様に魔族とその王である魔王を倒す為に勇者が送られる。

それに選ばれたのが今回の勇者に賢者に英雄。ついでに"魔法使い"の私。


因みに私がこの一行の中だと最年長だ。


「……リズラ様は凄いですね。」


飛竜の背に乗り唖然とそう呟いたのは勇者だ。


『魔国まで歩いて行くつもりだったアナタ方の方が凄いと思いますよ?』


世界の果てにある国に歩いて行くなんてバカではなかろうか?

着く前に寿命を終えるぞ。


てな訳で、お友達の飛竜の力を借りて只今上空飛行中である。


『見えて来ましたよ。あれが魔族の国、魔国です。』


眼下に見えた膨大な土地。

人間の国とそう変わらない佇まいの城とそれを中心に広がる街。

それを囲う外壁の周りは鬱蒼とした森が広がっている。

その森の中にも幾つか小さな村や町がある。


『城がある街が人間の国で言う"王都"です。森の中にあるのはエルフや獣人が暮らしている村や町ですね。では、魔王城に向かいましょう。』


「え!?いきなりか!?」


英雄が何やら驚きの声を上げ、勇者と賢者も信じられないといった顔をしている。


『アナタ方の目的は魔王を倒す事でしょう?無駄な戦闘は避けるべきです。魔族は只でさえ人間が太刀打ち出来る様な存在では無いのですから、力を温存して最初から魔王を倒した方が勝ち目があるというものです。』


「確かにリズラ様の言う通りですわね。殿方達も覚悟をお決めなさい。」


賢者の言葉に勇者と英雄も頷いた。

どうやら話しは纏まった様だ。

魔王城の真上に着いたら転移魔法で謁見の間に移動する。

そこにある玉座に堂々と腰掛けている男を見て私は小さく微笑んだ。


「何者だ!!どうやって此処に入った!?」


「魔王ですね!?俺は勇者です!!アナタを倒す為に来ました!!」


「人間ごときが生意気に!!我等魔族に仇なすか!?」


「お前等が人間に脅威を及ぼす!俺達はそれをさせないために来たんだ!!」


「邪悪なるモノは滅びるべきなのですわ!覚悟なさい!!」


「我等より劣る人間風情が粋がりおって!!」


既にそれぞれの武器を抜き放ってヤル気満々な彼等。

てか勇者よ、アナタ何で敵に対してまで敬語なの?


一応部屋に結界を張って邪魔が入らない様にしてから私は後ろに下がって、自身に姿隠しの魔法をかけて傍観を決め込む。

既に始まった闘いは、数的面で勇者達の方が有利であり、ついでにこの部屋に入って直ぐにかけた重力魔法のせいで魔族の男には今、普段の十倍の重力がかかっている。

それでも倒れないのは流石魔族。

けれど動きは鈍い。

元気一杯の勇者達に徐々に押され始め、勝敗は期した。


「まさか、人間ごときに敗れ様とは……」


「……………勝った……」


何ともまぁ、捻りもない言葉を残して事切れた魔族を肩で息をしながら暫くボーっと眺めていた勇者が呟く。


「…勝った……勝てたんですね、俺達!!」


「あぁ!やったぞ!!」


「三百年振りの快挙ですわ!!」


両手(もろて)を上げて喜ぶ勇者達に私は心からの称賛の拍手を送った。


『おめでとうございます。これでアナタ方の言う"魔王"は無事倒せたということですね?』


「はい!リズラ様、ありがとうございます。」


晴れやかに笑う彼等に私は彼等と出会って初めて満面の笑顔を浮かべた。


『では、私がアナタ方に協力するのも此処までです。』


「…え、」


『元々そういう約束でアナタ方に同行したんですよ。あぁ、お帰りは彼方(あちら)になります。』


スッと扉を指す。

既に結界は解いているので、異変に気付いた魔族達が続々と集まり始めている。

そんな中を帰れと言った私に勇者達は顔を青くした。


『あぁ、そうでした。アナタ方が今しがた打ち倒した彼、魔王じゃないですよ。』


「なっ!?」


『本当の魔王は、アナタ方人間に倒される様な存在では無いのですから。』


「じゃぁ、彼は…身代わり?」


『バカを言わないで下さい。魔王に身代わりなど要らないですよ。彼を殺せるとしたらこの世界に一人だけ。……私だけです。』


「…どういう事だ?」


『先程も言いましたが、アナタ方の言う"魔王"を倒した時点で私との協力は終了しています。そして、今後一切私に関わらないとアナタ方の王に約束してもらいました。アナタ方はそれを反故にする気ですか?』


「本物の"魔王"が生きているなら、俺達が倒さないといけない!!」


「そうですわ!本物の"魔王"を倒すまで、私達との協力は終らないのではなくて!?」


『…もう一度だけ言います。私は始めからずっと言っていましたよね?"アナタ方の言う"魔王"を倒すまで"と。そして、ソレは確かにアナタ方が先程倒した魔族で相違無いんですよ。』


「…どういう事ですか?」


『詰まり、人間に危害を加えていたのは彼を筆頭とした一派であり、本当の魔王の意では無いのです。アナタ方人間が魔王討伐に乗り出さないといけなくなる程の原因を作ったのは先程倒した魔族なので、アナタ方の目的は達成されたと言えます。これから更に本当の魔王を倒そうと躍起になったところで、ただ無駄死しに行く様なモノです。』


「それでも、魔王は人間の敵だ!!」


「そうですわ!倒さなければまた同じ事が繰り返されます!!」


「俺達は"魔王"を倒す為に此処まで来たんです!!」


『…』


言葉の通じない赤子を相手にしている気分である。

これはもう、本物を見せた方が早いだろう。


『分かりました。では、付いてきて下さい。ただし、これから先一切の質問を禁じます。アナタ方はただ、私に付いてくるだけです。いいですね?』


私の言葉に三人が不承不承ながら頷いたのと、謁見の間の扉が壊され沢山の魔族が雪崩れ込んで来たのは同時だった。

すかさず姿隠しの魔法をかけて歩き出す。


「俺達の事が見えてない?」


『姿隠しの魔法です。ほら、喋って無いで付いてきて下さい。迷ったって知りませんよ。』


魔族達の間を抜け城の中を進む事数分。

一つの部屋の前に着いた私は躊躇いもなくその扉を開けた。


「ここは…」


扉の先は城の中の一室ではなく、木造の小さな小屋に繋がっていた。


『亜空間魔法で空間をねじ曲げて繋げてるんです。ようこそ、我が家へ。』


「…我が家?」


そう、此処は私が住んでた森の中にある小さな小屋の中である。


「なんで、リズラ様の家と魔王の城が…」


『その答えも兼ねて、今からお見せしますよ。ジェクーイル!!ジル、居るんでしょう?出てきて。』


私の言葉に応える様に室内だというのに一陣の風が吹き荒れた。

風が止んだその場所に、漆黒の髪と黄金の瞳を持った彼は居た。


「俺に何も言わず家を出たと思えば、今度は男を中に入れるとはな。」


『全部視てた癖に変なこと言わないでよね。ほら、名乗って。』


「"ジェクーイル=カイザント"だ。お前等人間の言うところの"魔王"だ。」


名乗ったジルにしかし、勇者達三人は無言だ。


『視てたなら知ってると思うけど、彼等は勇者と賢者と英雄ね。バルハッリ公爵を倒してくれた人達ね。』


「あぁ、知っている。礼を言うぞ、人間。あやつの目に余る愚行に対してどう処罰するか悩んでいた所だったのだ。何せ公爵の地位の者だ。下手に手を下せばこちらの立場が危うくなるやもしれぬ。だが、お前等が倒してくれたお陰で面倒は避けられそうだ。」


ジルがそう言うが、それでも彼等は未だに無言である。

否。正確に言えば、出会ったその瞬間に嫌でも感じ取れた圧倒的な力の差に絶望しているのだ。


『さて、アナタ方の望んだ通り魔王に会わせてあげましたがどうします?本当に闘いますか?』


「…な、ぜ……?」


『なぜ、私が魔王を愛称で呼び、親しげに言葉を交わしているのか、ですか?』


言えば、肯定の意が帰ってくる。


『簡単な事ですよ。』


隣に来たジルが私の腰に手を回した。


『私はジルの…魔王の妻ですから。』


笑顔で言ってあげれば、もう、血が通ってないんじゃ無いかってくらいに青ざめた勇者達が現実を受け入れきれずに気絶する。


「軟弱な奴等だ。」


『只の人間なんだから仕方ないよ。これで、魔王討伐なんて人間には無理だって身をもって感じる事が出来たでしょ。』


"魔王"の称号を引き継いだ魔族は不死にも近い命を授かる。そんな彼等を亡き者に出来るのは血を分けたただ一人の伴侶のみ。

三百年前、永い時を生きた初代の魔王はとうとう死を望んだ。

そんな彼の望みを叶えるために彼の妻は、魔王討伐に来た勇者達が起こした混乱に乗じて最愛の人の命を奪った。


そしてジルが魔王となり三百年。

共に永い時を生きてきた私は、彼に死を与えられる唯一の存在という訳だ。


『アナタを殺せるのは私だけだから、アナタが死を望んだなら一瞬で逝かせてあげる。』


「お前が共に生きてくれるならば、俺が死を望む事など無い。この世界の終わりまで共に在ろう。」


『アナタが望むなら何処までも。』


笑いあう私達はそうやってこの世の終わりまで手を取り合うのだ。

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