学生活動編24 学生運動の結果
私の初めてのダンスパーティーが終わってからは、わざわざレインフォレストから王都まで婚活パーティーにきていたクロードさんの相手をするのに忙しかった。
お相手と言っても、婚活のお相手ではなく、お仕事のお相手。
どうやらクロードさんはそろそろお酒の販売で、王都の販路を大々的に広げるらしく婚活目的よりもコネ作りのために王都にきたらしい。
私も酒場をもっと増やす予定だし、私にはお得なお値段で卸してよ、みたいなこともクロードさんと話し合いつつ色んな商会に挨拶してきた。
私の中ではロリコンかもしれない疑惑で有名なクロードさんなんだけど、商人業界のなかでは結構すごい商人と有名らしく、どの商会のボスも丁寧に対応してくれるし、商談はほぼ全ていい感じにまとまった。
すげーやクロードさん! あとはロリコン疑惑さえなくなれば言うことがないね。いい感じの印象を世間にはアピールして、婚活も頑張ってください。
でも、わざわざ婚活パーティーとか行かなくても、王都にまで連れてきてるリオーネさんとはどうなの? クロードさんと一緒に、一昨年レインフォレストに行った時に紹介されたハーレム要員の一人リオーネさんもいらっしゃってる。クロードさんがお買い上げになった3人の女性の中で一番年上のボンキュボンの彼女だ。穏やかで落ち着いた雰囲気の彼女が、クロードさんの秘書的なお仕事を行なっている。
クロードさん、婚活パーティーもいいけど、目の前の美女に目を向けるのはどうだろう。
一緒に商会回りでも随行してくれるリオーネさんは、一昨年の時点ではクロードさんの婚約者疑惑があった私のことを、ものすっごく睨んできたわけだけれども、今回はにらまれなかった。基本的に穏やかに接してくれる。私が婚約破棄したことによって、どうやら彼女の攻撃対象からは外れたらしい。本当によかった。本当に。
クロードさん、結婚相手は、もう、リオーネさんでいいじゃない。そしてさっさと結婚して、ロリコン疑惑を払拭しよう。あと、私が経営してる酒場での、お酒の卸値の話し合いの場で、時々婚約破棄したことを引っ張り出して、あの時の失恋の痛み! みたいな事を訴えて、自分の要望を通そうとするのはやめて。通さないよ!
ある程度商会回りを終えて、販路を整えると、クロードさんはレインフォレストへ帰っていった。クロードさんと一緒に商会を回ることで、私としてもコネ作りが簡単にできてなかなかよかった。クロードさん、意外とやりおる。
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ちょうどクロードさん対応が終わった頃に、七三のトーマス教頭に呼び出された。
ま、まさか、長期休み明けに結果が出るであろうと思われた請願書の件、だよね? 思ったより早めに回答をもらえたのかも! これでやっと魔法の本が読める!
私がワクワクしながら教頭室に入ると、なんか渋い顔している教頭に、おや? とか思っていたら、請願書の結果を聞かされた。
結局、私の請願書は、通らなかった。
なんでよっ!
「教頭先生、通らないって……な、なんでですか!?」
「私に分かるわけないだろう! 私だって、驚いている! これは王の直接の判断だ。コレはもう何をやっても覆すことはできない」
なんで、許可が下りないの!?
いや、正確に言えば請願書の全てが通らなかったわけじゃない。図書館を利用しやすいように立地を変更して欲しいとお願いした件は通った。図書館が建てられている小高い丘を魔法で削って、そんなに高くない場所になるらしい。超どうでもいい。
確かに要望のひとつとして、立地変更も入れていたけれど、正直そんなの私にとってはオマケで、本当の目的は魔法の本を見ることだ。
「ひ、一つは通ったんだ。火を灯す木箱の件はいいだろう!?」
とマッチ中毒患者の教頭がすがりつくような目をむけてくるけれど、私の頭の中はそれどころじゃない
だって……なんで? たかが、魔法の、呪文が書いてある本じゃないか。どうして許可が下りないの?
もともと、図書館の立地をどうにかして! だなんて、どうでもよかった。魔法の本を読む要望が通りやすいように、ちょっと別の無理めな要望を入れただけ。
それなのに、立地変更は通って、本を読む許可が下りないなんて……。図書館が建っているあの丘を魔法で削るらしいけれど、結構な大工事だ。作業には、何人もの魔法使いが必要だろうし……。
それにくらべて通らなかった方の要望、図書館にある魔法関係の本を普通の人も読めるようにするという要望なんて、お手軽すぎるんじゃないの? 魔法は、というか呪文は、基本的に魔法使い以外は読めないんだから、図書館で普通の人が本を手にとれるようになろうがなるまいが、どうでもいいこと、なんじゃないんだろうか……。
それとも、そうじゃない、のかな……。
「聞いているのか、リョウ君! 木箱……マッチの件だ!?」
教頭の中毒症状が限界を迎えそうなので、少し考えたけれど、とりあえず一箱渡すことにした。
「とりあえず、一箱です。濡れてしまうと使えなくなるので注意してくださいね」
「おお! し、しかし、一箱だけでは、火魔法使いの立場向上には繋がらない。コレをいつか大々的に売ってくれるということでいいんだろう?」
木箱を受け取ってめっちゃ嬉しそうな顔をした教頭は、期待の眼差しで私を見ていた。
確かに、マッチは、そのうち自分で立ち上げた商会で販売する予定だった……。
「そのつもりです……。でも大々的に売るかどうかは、まだ……。だって、私の請願書が通らなかったわけですからね」
「な、何!?」
「でも少しずつは作りますよ。必要な際はおっしゃってください。それなりの対価で差し上げます」
「そ、それなりの……対価?」
「はい、まずは、そうですね……」
少し頭を整理する。
どうして、国は、魔法の本を、呪文が書いてある本を見せたがらないのだろうか……。
それに七三トーマス教頭はまだ使える。
「先生は魔法学の講師をしてますよね? 聞いた話によると、生徒達は呪文を覚えるために、全ての呪文が載っている『救世の魔典』とは別に、ある程度呪文が載っている教本を使うとか。その教本を私にこっそり貸していただくことは可能ですか?」
「それは出来ない。授業で使う呪文の教本は一冊しか用意がない。それも魔法学を教える教室の中で厳重に管理されている。持ち出しはできない」
やっぱ駄目か。
やはり呪文には国が隠すような何かしらの秘密があるのかもしれない。
この世界の呪文は短歌だ。そうだとしたら、ほとんどの呪文は私の頭の中にあるはず。今まで聞いてきた呪文は、どれも百人一首に選ばれるような有名な短歌ばかり。有名どころの短歌は全て呪文? なら有名じゃない短歌は呪文になっていない可能性も……?
とりあえず口ずさんでみようか……。いや、むやみに呪文かもしれない短歌を口に出すのは、危険すぎる気がする。
今までアランが唱えている呪文を聞いて、どういう効果があるのか分かった上で短歌を口ずさんだことはある。結局私が口ずさんでも、魔法は発現しなかった。でも、呪文かもしれない効果の分からない短歌を口ずさむのは、怖い。危険だと思う。何が起こるかわからないから。それに万が一誰かに聞かれたらヤバい。
なら、短歌を書き出してみようか……。けどどちらにしろ、私がそれを書き出したとばれたら危険だ……でも、それならやりようはある。
とりあえずは、トーマス教頭に手伝ってもらおう。彼は何を隠そうマッチ中毒者。私の要望をそうそう無碍にはできまい。
「なら、紙に、先生が覚えている呪文を書き出して、それをください。あ、それと、私が呪文を集めてるってことは内密におねがいしますね」
「……それぐらいならいいが、魔法が使えないキミが呪文を見ても読めないだろう?」
「それはそうですけど、とりあえず見てみたいんです。それと……」
とりあえず、一旦トーマス教頭が覚えている精霊魔法の呪文を把握することはできそうだ。
書き出すのも、呪文を唱えるのと同じように、相性が悪いものは、何かを見ながらでも書き出せないとアラン達から聞いた。書き出せるのは一度読めた呪文のみ。相性の悪い呪文は書き出せない。だから、トーマス教頭手書きの呪文集はあくまでもトーマス教頭が覚えてる呪文のみ。たぶん、炎の精霊魔法ばっかりの呪文集になってしまうはず。
出来れば他の精霊魔法の呪文なり、魔術師の呪文とかも知りたい。
同じようにアラン達にもお願いして、呪文を集めることはできるかもしれないけれど、それだとそれなりの量の呪文集を作るまでに、アラン達気心が知れた人以外の手も借りなきゃいけなくなる。そうなると私がこそこそ呪文を集めていることがばれるリスクが高くなるので、得策じゃない。
私は、チラリと七三の彼の様子を伺う。彼は、マッチを握り締めて、私が次に何を言うのかを固唾をのんで待っているような雰囲気だ。
マッチの魅力にとり憑かれたトーマス教頭は、自分が覚えている呪文を書き出すことには思ったよりもあっさりと了承してくれた。
あの分なら、もう少し踏み込んだお願いも聞いてくれるかもしれない。
「それと、先生が覚えてる呪文だけじゃなくて、他の生徒が覚えている呪文も欲しいですね。呪文を覚えるために生徒達は紙に呪文を書き取ったりすると聞いてます。そして書いた紙は、持ち帰らずにその教室で処分されるとか。その生徒達が覚えこむために書いた紙をください。教頭先生は魔法の授業の先生です。授業で使われ、残された紙を集めればいいのですから、簡単ですよね?」
私の提案に、先生は面食らったような顔して息を飲む。
しかし手元のマッチ箱をしばらく見て頷くと、「わかった」と一言つぶやいた。









