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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期
95/304

学生活動編 23 ダンスパーティー 後編

 カイン様、ゲスリーペアと別れて、シャルちゃんとアラン&リッツ君探しを始めることにした。

 ゲスリーのゲス具合に胸焼けしたけれど、ちょっと会場を歩けば、華やかな雰囲気だし鮮やかなドレス姿の淑女がいっぱいで、またテンションが上がってきた。



 にしても広い。一階は一通り見て回ったから2階にきたけれど……こう人が多いと、やっぱりアラン達を見つけるのは至難の技。

 ただ、リッツ君もアランも魔法使いだから、レディの渦の中心にいるはずだと思って、人が固まっているところを見つけては、ひょいっと背伸びをして、渦の中心人物を確認する作業を行なう。


 何十個目かになる魔法の使えないレディ達の渦を見つけて、同じようにピョコピョコ背伸びをして、中心人物を確かめると、知ってる顔がいた。なんと、七三の教頭、トーマス先生だ。

 教頭先生独身だったのか……。

 すごくどうでもよかったので、後ろにいたシャルちゃんに、リッツ君たちじゃないみたいって答えて、その場を去ろうとしたら、「君! そこの、生徒! リョウ君! 君だ!」という声が聞こえてきた。


 声のしたほうを嫌そうな顔で振り返ると、女性陣をかき分けて、七三教頭がこちらにやってくるのが見えた。

 さっきからゲスリーに七三って、私苦手ランキング上位陣が、なんだってこんな楽しい場で遭遇してしまうのか!


「教頭先生、御機嫌よう」

 一応、生徒らしくいつもの挨拶をシャルちゃんと一緒に述べると、七三もうむという感じで頷いた。相変わらず偉そうだ。

 婚活パーティー仕様ということなのか、七三の分け目が、本日は八二ぐらいになっている気がしなくもない。


「リョウ君、木箱のことで話がある。ちょっときてくれ」


 木箱……ああ、マッチのこと、かな? まさかもう、以前出した請願書の許可が下りたのかな!


 私は、テンションが高まったので、シャルちゃんにちょこっと言い置いて、トーマス教頭と一緒に隅のほうへ移動した。


「請願書の件、もう許可が下りたのですか?」

「いや、まだ下りてない。図書館は学校ではなく、王が直接管理している。ただ、すでに城には、請願書の内容を許可してもらえるよう私から申請しているから、時間はかかるが、そのうち許可は下りるはずだ。だから、もうあの木箱をくれないか」

「駄目です。きちんと許可が下りてからです。ていうか、今まで、校長先生に預けていた私の請願書って、お城に申請してなかったんですか?」

「ああ、うん。校長から申請が来た時に、私のほうで不必要だと判断し破棄していた」

 特に悪ぶる様子もなく、堂々とそうおっしゃる七三。正直者ぶってるのかもしれないけれど、堂々といえば、許されるわけじゃないよ!?

 私が思わず眉間に皺を寄せて彼を見ると、七三教頭が少したじろいだような様子をしたので、それでどうにか溜飲を下げてあげることにする。

 まったく……。


「なるほど、そういう経緯があったんですね。とりあえず今回は、実際に城に申請が渡ったということでいいですか?」

「そうだ、だから、箱を! あの木箱をくれ! あの火を灯す箱を!」

 やめて、アル中患者みたいな顔でせがむのはやめて。

「だから、駄目です。ちゃんと申請が通ってからです」

「それでは、長期休み明けになるかもしれないじゃないか!」

「そんなの知ったことではありません。まだ木箱は差し上げません」

「なら、なら、もう一度、もう一度火がつくところを見せてくれ! それだけでもいい! ちょっと、ほんのちょっとだけでいいから!」

 薬中か!

 マッチ箱にそんな危ない副作用はないぞ!


 私が、このマッチ中毒患者をどうしようか困っていると、「あっ! リョウだ!」と聞いたことのある声が。

 声のしたほうを見ると、首元を隠す様に両手で押さえて、赤茶色の礼服をきっちり着込んだアランが、ちょっと遠くの方から声を掛けてくれていたっ! 

 なんといういいタイミング! 隣には、リッツ君もいるし、シャルちゃんも合流していた。

 アランったら、こんな素敵な舞踏会で大きな声を出して呼びかけるなんて、紳士じゃなくってよと思いつつも、いいタイミング過ぎるので大目に見てあげることにする。子分、グッジョブである。


「あら、あちらにアラン達が! これはいけないすぐに行かないと! ということで、トーマス教頭先生、私は失礼します。木箱は、申請が通ってからです。それでは!」


 私は、そう言って逃げるように、アラン達のところに駆けて行く。

 しかし、若干七三がおっかけてきているような気配がしたので、ちょっと可愛らしい声で「キャー。こんなところに独身のー魔法使い様がー! ステキー! 学園でも教頭職についてる魔法使い様よー!」と声を出すと、肉食系令嬢が、目を光らせて教頭を囲んでくれた。

 よしよし、作戦は大成功。


 令嬢に取り囲まれているうちにトーマス教頭と距離をとるため、アランの手首を掴んで「ちょっと向うの方に行きたいですー」とか適当なことを言って、その場から早足で離れていく。


 ある程度現場から離れられたので、そろそろいいかなと思って、振り返ると、手首を掴んでいるアランしか後ろにいなかった。

 あれ、リッツ君にシャルちゃんもいると思ったんだけど。


「シャルちゃんにリッツ君は?」

「リョウが早足だから、シャルロットがついていけなかったんだろう」


 あ、そうか。シャルちゃんただでさえちょっとヒールのあるなれない靴で、歩きにくそうにしてたし、早足だとついてこれないよね、しくじった。申し訳ない。

 私はアランの手首に掴んだ手を離して、周りをきょろきょろ見てみるけど、二人の姿は見えない。


「ごめん、アラン。二人を探しに行きましょう」

「リッツがシャルロットの側にいるだろうから大丈夫だろ。それより、そろそろ次の音楽が流れる。だから」

 とアランが話している最中に、チョーカーをつけていないアラン魔法使いを発見したご令嬢達が、彼の周りに集まり始めていた。今までピンチをこの肉食系令嬢たちに救ってもらってなんだけど、めっちゃ怖い。


 アランも危険を察知したようで、集まりすぎて取り返しがつかなくなる前に、その場から離れる事にしたらしい。私の手首を掴んで、ズンズンと足早に進んでいく。

 しかし、どこに行っても結局は魔法使いだとばれて、集まってくるんじゃないかな……と思っていたところでいいモノを持っていることに気づいた。


「アラン! 止まって! 私いいもの持ってます!」


 そう言って、アランに掴まれていない方の手で、先ほどゲスリーからこっそり拝借したチョーカーを差し出した。アランは足を止めてその差し出されたモノをマジマジとみてる。


「私がつけてるのと似たようなチョーカーです。コレをつけてれば、そう簡単に魔法使いだって分からないはず」


 なんと便利な! という感じで、アランは喜び勇んで、首にチョーカーを結ぼうとしていたけれど、なかなかうまくいかないみたいだから、私が結んであげた。

 まあ、子分の面倒を見るのも親分の仕事だからね。


「……ありがとう、リョウ」

 親分から下げ渡された品物が嬉しかったらしく、感極まった様子のアランに、まあ気にすんなよという感じで微笑んであげた。

 

 そうこうしていると、ダンスタイムが始まるらしく音楽が流れてきた。

 するとアランが、緊張の面持ちで、私に手を差し伸べて、「ダンスを!」と言ってきたので、私は自分の手を重ねた。


 へへ、せっかくだしね。シャルちゃんとリッツ君も今頃ダンスタイムしてるのかな。

 

 いざ、音楽にのってダンスが始まると、アランの癖になかなかリードがうまくて、びっくりした。うん、アランとのダンスは楽しい。

 カイン様はイケメンすぎてドキドキして落ち着かなかったし、ゲスリーの時は、胸糞すぎてドクドクした。アランとは気軽に楽しくダンスを楽しめる。


「あっ! そうだ、リョウ! そのドレス! 黄色いと思う!」

 なんかアランがダンスをしながら思い出したように、私のドレスについて意見を述べてきた。

 一体なんなんだ。確かにドレス黄色いけれども。


「あと、髪型も、まとまってる!」

 お、おう。


「それに、リョウは、えっと、花に集まる、よ、妖……なんだったか、えっと羽根付きの何かみたいで、つまり花の羽付きの生き物……? いや、じゃなくて、花に集まる羽根付きの生き物みたいで夢だと思う!」


 何いきなり、私を花にたかる羽虫扱いしてくるの!? こっちだって、さっきまで楽しくダンスしてたと思ったら、いきなり子分にディスられる今を夢だと思いたいわ!

 私が、子分を冷たい眼差しで見つめていると、怯えたように視線をさまよわせて、アランが再び口を開いた。


「じゃなくて……! えっと、聞いたんだ! 踊る時は、相手の服の話しと髪型の話しと、あと、羽がついてるやつとか夢みたいなこと言うといいって……だから、俺が言いたいのは、つまり、リョウは……」

 アランが、下を向きながら慌てた様子でそう口走ると、視線を上げて私を見た。


「服も髪型も似合ってる。リョウは……すごく、綺麗だ」


 ……や、やだ、アラン坊やったら、いきなりそんな、ちょっとドキッとしちゃったじゃないか! 

 子分の暴言にちょっと目くじら立てそうだった親分へのゴマすり? 羽虫扱いしたことをそれでチャラにしてもらおうっていう魂胆なの? 親分を惑わそうとするなんて、悪い子分め!


 親分はー、ちょっと褒められたぐらいで機嫌なんか直さないんだけどー。でもー、今回は、許してあげなくもないけどー。べ、別に綺麗って言われて、機嫌直したからとかじゃないんですからね! そんな簡単な女じゃないんだからね!


 調子を取り戻した私は、羽虫扱いした件は忘れて、最後までダンスを楽しんだ。


 ただその後、アランが、「この黒いチョーカーって貰っていいのか?」と聞いてきたので「あ、それ、ヘンリー様のものなんで、おそらく、返さないといけないんです、多分」と答えたら、なんかすごく不機嫌になった。




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