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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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学生活動編 22 ダンスパーティー中編

 そしてカイン様とのダンスが始まった。


 カイン様、やっぱり鍛えてるだけあって、がっしりしてる。すでに15歳だよね。身長も、高くなって、この国じゃあもう立派な成人男性だ……。

 ダンスの腕前もなかなかのもので、ちょっと身長差があるのだけどうまくリードしてくれる。優雅にステップを踏みながらも会話できるぐらいの余裕を持つカイン様は、ダンス中に、色々私の学生生活のこととかの話を聞いたりしてくれてすっごく楽しい。


「そういえば、今日、クロード叔父様もいらっしゃるよ」

「ええ! クロード様もですか」


 そういえば彼、独身準貴族だった。わざわざこんな婚活パーティーにくるぐらいには、結婚したい気持ちはあるんだね。驚いたよ私。


「ところでリョウ、今日はアランとダンスの約束はしているのかな?」

「いいえ、約束はしてないです。ただ、会場で会えばダンスを踊ろうというような話しはそこはかとなくありましたけど……でも、こう広くては、多分会うのは難しいですから、諦めました」


「そうか……。私だけがリョウと踊れたということになったら、アランに怒られてしまうかもしれないな」

「え? アランって、カイン様に怒ったりすることがあるんですか?」

「怒るというか……拗ねるんだよ」


 拗ねるって、乙女か。

 でも、確かにブラコンのアランに、私がカイン様と踊ったとばれたら、拗ねてきそう。それに子分であるアランは特攻隊長として親分のエスコートしたがってる様にも見えた。

 アラン探すの諦めようと思ってたけど、もう少し頑張ってみようかな。

 シャルロットちゃんもリッツ君と踊りたいみたいな話ししてたし……ていうか、リッツ君とシャルちゃんて、やっぱりそういう仲なのかな。だって、お互いダンスを踊りたがってる感じとかそういうことじゃないの、私勘ぐっちゃう。


 楽しいダンスの音楽が終わって、カイン様が『まるで夢の中にいるような素敵な時間だったよ』みたいなことを言っていると、シャルちゃんとゲスリーが近くにやってきた。


「ずいぶん楽しそうだったね」

 と、なんだかゲスリーにしてはお疲れな声でそうおっしゃる。隣にいるシャルちゃんが、「わ、私あまりダンスうまく踊れなくて何度も足をふんでしまって……」と泣きべそかきそうな勢いで顔を赤くさせていた。


 やるね、シャルちゃん。私なんて、怖くて、こっそりポケットの中に豚糞入れるので精一杯だったのに、目の前で足蹴にするなんて、尊敬しちゃう。

 いいんだよ、シャルちゃんそんな申し訳なさそうな顔しないで。ゲスリーの足は踏むためにあるんだよ、大丈夫。


 私が心の中で、シャルちゃんに賞賛を送っていると、カイン様が「ヘンリー様、次はリョウと踊りますか?」と余計なことを聞いてきた。

 カイン様、おちついて。ゲスリーは家畜とはダンスをしない主義なんだよ。先ほどそうおっしゃってました。

 それに、私がゲスリー苦手なの知ってるじゃないっすか……と若干非難を込めてカイン様を見ると、こそこそと私の耳元に手を添えて、「リョウと踊れば、魔法使いも魔法が使えない人も同じ人間なんだって、伝わるかもしれない」とおっしゃってきた。


 いや。

 いやいや、甘いよ、カイン様! あれはそんなんで『人を家畜扱いなんてナンセンス、みーんな同じ、みーんな仲間さ!』みたいなこと言ってきたら、多分何か魂胆があるよ! ダンスで心変わりするぐらいなら、きっとここまでゲスくない!


 カイン様、それは悪手ですぜ。と内心思いつつも、でも家畜とは踊らない主義のゲスリーならばどちらにしろ速攻断るだろうと思っていたのに、少し悩むそぶりをしてから、彼は頷いた。


「そうだね。踊ってみようかな」

 マジかよ! 心変わり早いな! さっき得意げに、家畜とは踊らんよ、みたいなこと言ってたじゃん!


 そうこうしていると次の音楽が流れてきて、私はゲスリーと、カイン様はシャルロット嬢と踊ることになった。

 ヘンリー様は流石に王族としてダンスを嗜んでらっしゃるんだなという感じで、なかなかお上手に踊ってくれる。ただ、すっごい私の顔を見てくる視線を感じるので、私は目を合わせないように斜め下を一生懸命凝視する仕事に精を出す。


「へえ、家畜とのダンスも意外と楽しいね」

 ほら、ね、カイン様。ゲスリーはこの通り早速の家畜呼びですよ。

 相変わらずのゲスリー話にいちいち反応するのも面倒なので無視することにしたら、ゲスリーは構わず話を続けた。


「ヒヨコちゃんがあまり家畜らしくないからだろうか……。今までの王は、側室なんかをもうけて、家畜と交わったりするから、正気じゃないなと思っていたけど、案外悪くないのかもしれない」

 なんか、楽しい舞踏会にテンション下がる話題が突如として振ってきたから、聞かなかったことにしたい。


「それに、前までは家畜が家畜らしくない顔をすることが不快だったんだけど、今はそうでもない。キミのお陰かな。キミとのダンスも楽しいし」


 ん? お? こ、これは、魔法が使えない人だって、同じ人間なんだと気づいてきてる、ということなのかな? まさかカイン様の作戦が功を奏してる……?

 私は恐る恐る上を向いて、ゲスリーの顔を見上げると、彼は笑ってまた口を開いた。


「家畜なのに、一生懸命魔法が使える人間の振りをしようとする姿は、すごく間抜けで見ていて面白いことに気づいたんだ。それを間近で見るために家畜の側室をもうけるのも悪くないよね。それをしつける楽しさもあるし。ね、キミはどう思う?」


 どう思うって、気持ち悪いとしか思わないよ! くそがっ!


 あ、いけない私ったら、なんて汚い言葉を心の中でつぶやいてしまったのでしょう。くそが、だなんて。伯爵令嬢には相応しくない言葉。このうんこ! ぐらいにとどめないと……落ち着け私。


 でも、このまま私が黙ってればコレ幸いとばかりにゲスリー節が続く気がしたので、私は口を挟むことにした。

 ていうか……やっぱり我慢ならん。まさかカイン様の作戦がうまくいった!? と期待した純粋な私の気持ちを返して!


「家畜だなんだって……ヘンリー様だって側室の女性からの生まれ。お母様は確か魔法が使えない方でしたよね? 自分の母君に対しても、同じように家畜だとおっしゃるんですか?」


「ああ、もちろん。母は家畜だったよ」


 そう言って、いつもの胡散臭いゲスリースマイルを見せてきたから、なんか次に何を言おうとしたのか忘れてしまった。というか、何も言う気になれなかった。

 

 ねえ、カイン様、無理だよ。ヘンリー様は、もう無理だと思う。


 それからは無言でダンスをした。音楽が終わると、ゲスリーから解放されたくて、逃げるようにシャルロットちゃんとカイン様のほうに寄って行く。

 

 さっきと同じように、シャルちゃんは、カイン様の足も結構盛大に踏んでしまったらしく、顔を赤くさせながら、足を踏んづけてしまったことなんかを謝っていて、それに答える形でカイン様が『すごく楽しかったよ。楽しすぎて、夢かもしれないと不安な気持ちの時に、君の刺激的なステップが現実だと教えてくれたんだ、ありがとう』みたいなことを言っていた。


 ……いいなーなんか私が気持ち悪い思いをしてる間、楽しそうにしてたみたいでいいなーとか思いながら見ていると、ゲスリーが耳元に顔を寄せた。


「ねえ、ひよこちゃん、これから私はカインと一緒にこの会場を回って、家畜たちの様子を眺めて過ごそうと思うんだけど、一緒にきてくれるよね? 気が向いたら、ひよこちゃんと踊って……うん、なかなか楽しそうだ」


 ゲスリーは、家畜とのダンスが気に入ったらしく、満面の笑みでそういうと、何度も頷いている。

 いやだ。顔の半分が仮面に覆われているのに伝わるそんな胡散臭い笑みの提案は断固として断る。


「予定があるので、無理です」

 私にはアランを探すというタスクがある! 今決めました!


「家畜の予定……? うーん、食事のことかな? きちんと食事の予定は作るから、大丈夫」

 ちがう! 餌の時間ちがう!


 コイツはもう駄目だ。何を言ってもだめ。話が通じない。いつものことだ。よし撒こう。


「ゲスリー様、首元にゴミが……」

 そう言って、私は、ゲスリーの首元に手を伸ばし、華麗な手つきで、首元の黒いチョーカーを外して、よろめいた振りをして、ゲスリーの仮面を外す。


「まあ、ヘンリー王弟様、すみません! よろめいてしまって! 仮面が取れてしまいましたね、ヘンリー様! 次期王様と名高い大魔法使いのヘンリー様申し訳ございませんっ!」


 と大きな声を出すと、周りにいる肉食系令嬢達が目を光らせて、『いやだわ、ヘンリー様こんなところにいらっしゃったのね!』みたいなテンションでゲスリーの周りに集い始めた。側室になりたい系肉食令嬢である。

 基本的には、家畜を可愛がる性質を持つゲスリーだ。無下にも出来ずに集まりだした令嬢に胡散臭い笑みで対応している。

 私は、ご令嬢の波に流されて、むしろその波に乗って、無事ゲスリーから距離を置けたことに成功すると、カイン様のほうに駆け寄る。


「すみません、私が仮面とかを取ってしまったばかりにヘンリー様がご令嬢の渦の中に飲まれてしまいました……」

 よよよ、という様子で、私はそういいながら、カイン様に仮面を預けると、彼はちょっと困ったように微笑んだ。

「ごめん、リョウ。その様子だと、どうやらリョウに嫌な思いをさせてしまったみたいだね……。私のわがままに付き合ってくれてありがとう。後のことは、私が受け持つから、二人は他のところへ行ってきていいよ」

 

 ……ちょっとびっくりした。

 ダンス中の話は、離れていたし、カイン様には聞こえなかったはず。

 フォロリストにはなんでもお見通しなのだろうか……。私がわざと令嬢を呼び寄せて、ゲスリーと距離をとったこともお気づきの様子だ。

 

「いえ、あの、こちらこそ。力になれそうになくて……。ヘンリー様は、その、なんというか、もう多分……」


 無理だと思う。

 そう言おうとしたら、カイン様が、その先は言わないでと言わんばかりに私の唇の前に右手をかざした。


「リョウ、大丈夫だよ」


 カイン様はそれだけ言って微笑むと、肉食系令嬢に取り囲まれたヘンリーのもとへいくため、渦の中へと向かっていった。


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