学生活動編21 ダンスパーティー前編
女の子も男の子もてんやわんやでそわそわして過ごしていたら、とうとう噂の交流会が開催された。
シャルちゃんは結局淡い緑と薄いピンクの透け感のある布を使ったフリルスカートのドレス。私も同じデザインで、淡い黄色とオレンジのドレスをチョイス。二人で、似たようなドレスにしよっぺって言い合って……うふふ。
髪のセットはスタイリストにお願いせず、二人で結い上げあってセットした。めっちゃ楽しい。友達と髪の毛結い上げあうとか、何これすごい楽しい。
ただ、シャルロットちゃんあまり髪を結い上げるのは得意じゃなかったみたいで、悲惨だったらしい私の髪型をみて、サロメちゃんが調整してくれた。
サロメちゃんは、カテリーナ嬢の髪もきれいに結い上げ、自分のヘイゼル色の髪も自分で結い上げられるほどの女子力の高さだった。恐るべし。
そんなサロメ嬢は、ベージュのタイトなドレスに身を包む。12歳のサロメちゃんは、若干というか、わりと胸の辺りが出ている気がする。色はベージュってことで、目立たないんだけど、宝石とかがキラキラしてて、デザインも大人っぽくて……わ、私だって、これからだから!
サロメちゃんの隣には、いつものあの人カテリーナ嬢が、バラをモチーフにしたような真っ赤なドレスに身を包んでいた。スカートのところには布で作った大輪のバラが所狭しと飾られている。すっごく派手なんだけど、カテリーナ嬢みたいなきつめ美人には大変似合っている。
4人で会場に入ると、私とサロメ嬢に黒いチョーカーを渡された。今回の婚活パーティでは分かりやすいように、魔法が使えない人は首にチョーカーをつけることになるらしい。
なんか、ちょっと嫌な感じだけど、貴族の婚活パーティーという趣旨を考えると、しょうがないかなと思って、大人しくチョーカーを首に巻く。
なんだか重々しそうな扉から中に入ると、会場内は既に人がたくさんいて、楽しそうな雰囲気を醸し出していた。
ここはお城の離れなんだけど、それにしても広い会場だ。5階まであって、中央が吹き抜けになっている。まだ食べ物つまみつつ飲み物飲みながらの歓談タイムだけど、この広さならダンスも普通に出来そうだ。
会場に着いたらアランやリッツ君を探そうと思っていたけれど、こんなに広くて、たくさん人がいたら、見つけるのは至難の技に違いない。
子分が結構親分の晴れ姿を楽しみにしているようなそぶりをしていたから、見せつけにいこうと思ったのだけど、諦めよう。
飲み物をもらおうとウエイターを探していたら、隣にいたカテリーナ嬢に向かって、飲み物を二つもった殿方がわらわらと集まってきて、『どうぞ、お飲み物お持ちしました。私の飲み物をお飲みください!』という感じで、差し出し始めて、私は弾かれてしまった。
どの殿方も、カテリーナ嬢の関心を引くのに必死な感じが怖い。
やってきた殿方は学生ではなさそう。みんなチョーカーをつけてるから魔法使いじゃないので、元貴族という人達なのだろうと思われる。
もしグエンナーシス家の伯爵令嬢とうまい事行けば、自分もグエンナーシス伯爵家の一員として再び貴族に返り咲ける! という打算が見え隠れするけれど、カテリーナ嬢は、慣れているような感じで、そつなく失礼がない程度に相手をしていた。
サロメ嬢も、必要以上に、殿方がカテリーナ嬢に近づかないようフォローしているようだった。手馴れている。まだ12歳の女の子なのに……。
サロメ嬢が、私とシャルロットちゃんに向かって、『二人で楽しんできて』ということを口パクで伝えてきたので、お言葉に甘えてシャルちゃんと会場を回ることにした。
けど、カテリーナ嬢に群がる殿方のカテリーナタワーから少し離れたところで、今度は別の男性陣から、シャルちゃんが声をかけられた。
そういえばシャルちゃんも魔法使い。チョーカーがついてない彼女に、ハイエナのような男性達が忍び寄る。シャルちゃんは、年上男性に取り囲まれてしどろもどろ。
どうしよう。ここは助けるべきか。でも、せっかくのお誘いだし、ダンスタイムが始まった時に、お相手がいたほうが良いだろうし……。
私がシャルロットちゃんの様子をみていると、彼女が、助けてーとでもいいたそうな涙目を向けてきた。
助けてってことなら、もうしょうがないよね、助けに行くか! ていうか、私寂しいっ!
しかし、助けにいくにしても、どう切り込もうか。
強引に、腕を引っ張って連れ出すのも、淑女としてアレだしなー、とかなんとか考えていたら、シャルロットちゃんに群がる男性陣の中から一人の男性が抜けてきた。
そして、後ろにいた連れの男性のところに来て、『あの子は駄目だ。腐死精霊使いみたいだ。穢れ魔法使いはさすがにね』というなんとも失礼な話が聞こえてきたから、思わずそちらに耳をすませる。
「腐死精霊使いか……でも、貴族は貴族でいいんじゃないか」
「まあ、最悪いい魔法使い様と出会えなかったら、彼女のことも考えてもいいが、腐死精霊使いだと、将来性がね」
と言いながら、失礼野郎は髪の毛をかきあげている。
何だアイツ! シャルちゃんはどっちにしろ、失礼野郎の相手はしないけどね! 髪かきあげて、『かっこいい僕ならもっといい条件の魔法使いゲットできます』みたいなこと思ってそうだけど、自分が思ってるよりかっこよくないからねキミ! ナルシストめ!
私が、アイツには、後で、こっそり股間の辺りで、飲み物こぼそうと固い決意をしていると、いつの間にか男性陣の呪縛から解き放たれたシャルロットちゃんがやってきた。
「リョウ様、すみません。リッツ様達を探しに行きましょう!」
「シャルちゃん! 自分でまけたんですか? ごめんなさい、助けにいこうと思っていたんですが、どうしようか迷っていて」
「いえ、いいんです。それに、自分でまいてきたといいますか……私が腐死精霊使いだと言ったら、離れていきましたから……」
シャルちゃんはそう言って、ズーンという効果音が聞こえてきそうなほど悲しそうな顔をした。
げ、元気出して、シャルロットちゃん。ほ、ほら、私なんて、まだ誰からも声かけられてないんだからね!
それに、シャルロットちゃんに群がってきた失礼な奴らは、全員まとめて、股間に飲み物掛けとくし!
それに……。
「まだ、色々公表してないから、仕方ありませんが、数年後には腐死精霊使いは、すごい魔法使いとして引っ張りだこですから、大丈夫です」
私はそう言って、醗酵魔法使いのシャルちゃんに声を掛けると、いつもの可愛らしい笑みを浮かべてくれたので、どうにか悲しい気持ちからは脱してくれたようだ。
それからも、ちょいちょいシャルちゃんは声をかけられたけど、腐死精霊使いなんですーみたいなことを言うと、すぐに解放されるので、その後はそれで乗り越えた。
それにしてもこの婚活パーティー。魔法使いの人数に対して、魔法使いじゃない人が多過ぎる。ざっと会場を見渡すと、魔法使いの周りに数人の異性が固まっているという光景ばかりだ。
お菓子に群がる蟻みたい……。
ああ、いけない! そんなことを考えてると、そのうち魔法が使えない人が家畜だと思っている危ない人になってしまう!
ていうかその危ないゲスリー、きっとこの光景をみたら、ちょう喜びそう……。ほら、家畜が家畜らしく群がる姿は愉悦! とか言ってきそう……。
「おや、ひよこちゃんじゃないか! 来ていたんだね」
ま、まじか……。
噂をすればなんとやら……恐る恐る声のしたほうを振り返ると、顔の上半分ぐらいに仮面のようなものを装着した危険なゲスリーがいた。やってしまった。ゲスリーのことを考えてしまったばかりに……。
私が、げんなりしていると、隣にいたシャルロットちゃんが、突然のヘンリー様ご訪問に、緊張した声でご挨拶をしていた。私も一応『ごきげんよう、ヘンリー様』みたいなことを言う。
私ってとっても殊勝。
「はは、ヒヨコちゃんは、なんかいつも、私をみると変な顔をするね。なんでだろう……まあ、そこが面白くていいのだろうけど」
「変な顔なんかした覚えないですが、それにしてもヘンリー様、どうして今日は仮面を? それに、首元の黒いチョーカー……」
そう、ヘンリーの野郎はなぜか、魔法が使えない人が装着するはずのチョーカーをつけている。コレは不正なのではないだろうか!
あと、仮面なんかつけてなんか怪しすぎる……胡散臭さが倍増してるよ。
「このチョーカーはただ自分で用意した普通のチョーカーだよ。まあ、少し、この会場で魔法使い以外の者がつけてるチョーカーに似ているね」
ほう? あくまでも偶然似たようなチョーカーをつけてると言いたいのだろうか? ん?
「へーそうなんですね。ではその仮面は?」
「ああ、この仮面は顔を隠すため。多少は顔が知れているからね。私の正体がばれたら、群がってくるだろう? それはそれで楽しいけれど、ずっと群がられたんじゃ疲れるからね。それに、他の魔法使いに群がる家畜を見れないのも面白くないし」
……おいおい、さらっと家畜とか言わないでよ。
まあ、確かに、前世の修学旅行で奈良にいった時に、鹿せんべいを見て、群がってくる鹿ちゃん達は、めっちゃ怖かったけれど、こんな人がたくさんいるところで、気安く家畜呼ばわりは流石にまずいのでは!?
隣のシャルロットちゃんが『なんかさっき家畜とか聞こえたけれど、聞き間違いかしら』みたいな顔してるよ。
まあ、ゲスリーがどう思われても私は一向に構わないけれども。
「ヘンリー様、飲み物をもってきました」
「ああ、ありがとうカイン」
私がゲスリーの家畜発言にげんなりしてると、なんと癒しのカイン様が飲み物をもってやってきた。すごく久しぶりのカイン様。そうか、噂によると主にゲスリーの警護をしてるらしいと聞いているので、今日は警護もかねての参加なのかな。
ゲスリーとの対比でより一層麗しく見えるカイン様は、私に気づいて少し目を見張った。
「リョウ! それにシャルロット嬢もご一緒ですか。まさかこんな広いところで会えるとは思わなかった。元気そうでよかった」
「カインは私が連れ出したんだ。私のお気に入りだからね。正装姿も様になってるだろう?」
そう言って、ニコニコとペットを自慢するようなノリのヘンリーがイラっとするけれど、おっしゃるとおり正装姿のカイン様はかっこよかった。動機がどうあれ、たまにはゲスリーもいい仕事をする。
「本当、カイン様素敵です。いつも素敵ですけど、今日はより一層です」
「リョウこそ、あまりに可愛いらしいから、どこの花の妖精が迷い込んだのかと思ったよ」
相変わらず、カイン様はちょっと褒め言葉が臭いけど、でも今日は、ドレスで舞踏会で、テンション高いから、むしろちょうど良い。
その後、カイン様はシャルロット嬢にも、「こちらにも花の妖精が……妖精王に連れ戻されないように気をつけないといけないよ」みたいなことを言って挨拶を済ませると、どこからか音楽が流れてきた。
「そろそろダンスの時間みたいだね」
ああ、とうとうダンスタイムか……。
目の前には、カイン様とゲスリー。多分流れから行って、この二人のどちらかと踊る流れになりそうだ。ゲスリーが心なしかすっごい私のこと見てる気がするし……。ゲスリーとは踊りたくないな……。どうやって断ろう。
私が、どう断ってやろうかと考えていると、ゲスリーはおもむろに口を開いた。
「よろしければダンスを一曲、いいかな?」
そう言って、ゲスリーが手を差し伸べたのは、私ではなくて、シャルちゃんだった。
ええっ! 私じゃないのっ!? すっげー見てたから私かと思って、内心『どう断ろうかしら』みたいなこと考えちゃったジャン! いや、別にいいんだけど、むしろいいことなんだけど、なんか勘違いしてた自分がすごく恥ずかしいじゃないか!
「ハハ、どうしたんだい? ひよこちゃん。がっかりした顔して。やっぱりダンスをするなら、同じ人間でないと、なかなか、ね?」
べ、別にがっかりなんかしとらんわ! あと家畜とはダンスできない設定なんか別に聞きとうない!
「では、ヘンリー様、こちらの花の妖精は、私がお相手させていただきますね」
そうカイン様がゲスリーに言うと、私のほうに手を差し出してくれた。
「リョウ。最初のダンスのお相手という名誉を、私にいただけるだろうか?」
やっぱり若干臭いセリフで、誘ってくれるけど、舞踏会マジックのおかげでそんな臭さも含めて、なんかテンションあがる。
やだ、カイン様、かっこいい。
なんか、ゲスリーの家畜とは踊らない発言とかどうでも良くなるイケメンスマイル。シャルロットちゃん的にも多分憧れのヘンリー様と踊れる流れになって、ちょっとびっくりしてるけど、嬉しそうだ。そう、ゲスリーは本性さえ知らない人から見れば、素敵貴公子なのだ。
へへ、じゃあ、ここはお言葉に甘えてカイン様と躍らせてもーらお。
だって、今日はパーティーだもの!