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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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学生活動編⑲ 仕事にかまけて泥棒子分

 タゴサク氏の相手やら、お酒の販売経路の確認やらで、あっという間に長期休暇は終了。去年と同じように慌しく学園に帰ってきた。


 新学期、私はとうとう3年生になって、商人科に進みました。

 

 久しぶりに会う学校の友達も、相変わらずのご様子。


 領地には帰らなかったシャルちゃんは、皆が王都に帰ってきて嬉しそうにしているし、アランはカイン様のいなかった長期休みの思い出を切なそうに話してくれた。

 学校卒業して、お城勤めのカイン様はそのまま王都に。大好きなお兄様がいない長期休みを妹のチーラちゃんと二人で、乗り切ったらしいけれど、相当寂しかったらしく、来年はぜったいレインフォレストに来いよ、と私の1年後の予定を押さえようとしていた。


 休み明けのテンションは人それぞれだとは思うけれども、カテリーナ嬢、めっちゃテンションが高かった。去年の最初の方はカテリーナ嬢に睨まれるだけだったし、よく覚えてないけれど、超機嫌悪そうだったはず。でも今年の彼女はテンションがたかい。


 1時限目は全校生徒が同じ授業を受けるので、みんなで近くの席に座るんだけれども、その際、カテリーナ嬢が長期休みの話ばかりしてくる。


「それでね、サロメったら、夜中に私の部屋にきたのよ。二人で屋根に上って、星とか見てたわ。屋根に上るのは、はしたなく思うかしら? もちろん、お母様達には秘密。サロメとワタクシの秘密なのよ。だから夜中なの。ねえ、リョウさん、星占いなんてご存知? とてもロマンチックなの。それでね……」


 カテリーナ嬢の話は止まらない。星占いだと彼女とサロメちゃんとの相性はすこぶる良いらしく、そのことをほのめかしながら、彼女は胸についた貝殻のブローチをこれ見よがしにいじいじと触り始め、私のほうをチラチラと見てくる。


 ああ、またあの言葉を言わなければならないのか。昨日も、一昨日も同じこと言ったんだけど。でもこれ言わないと、カテリーナ嬢のチラチラ攻撃がやまないからな……。



「……あー、そのブローチ、ステキデスネー」

「あら、そう? 昨日も話したかしら? ワタクシの領地は海に面していてね、夕方になると、オレンジの西日が海を照らして、とても素敵なの。その景色をサロメと一緒に見ていたら、サロメがこの貝殻を拾って、綺麗ねって言って、私にくれたのよ」


 うん、聞いてるよ、昨日どころじゃなくて、最近毎日聞いてるよ!

 サロメちゃんがくれた貝殻をブローチにして、お気に入りにしてるんだよね! うんうん、わかってるよ、何度も聞いたからね。


 嬉しそうにひたすら長期休みの素敵な思い出を語るカテリーナ嬢の隣に座るサロメ嬢に、チラリと視線を向けた。

 彼女は、『うちのカテリーナが申し訳ございません』という感じでペコリと頭を下げた。

 一つ貸しだからね。


 永遠とも思えるカテリーナ嬢の思い出話に終止符を打つのは、いつも講堂に魔法史の先生がやってくるタイミング。

 やっと教壇に先生が立ったので、カテリーナ嬢の話が終わるなーって思っていたら、いつもの魔法史の授業と違う先生がやってきた。

 なんか筋骨隆々の男の先生。確か、騎士科にいた先生だったかな? なんでいきなり?


 多分他の生徒も、あれ誰? 見たいな事を思ったのだろう。講堂内がザワザワとし始めた。

 そしてその筋骨隆々の先生から、驚くべきカリキュラムの変更点を聞かされた。

 

 なんと、私の請願書の一部の陳情が、唐突に受理されて1時限目の魔法史の授業が、隔日で体育の授業に変わった。

 そしてその体育で行う主な内容は……水泳。この先生はその新しい授業、体育の先生になるらしい。


 長期休みの間に土木関係の魔法使いがプールを作っていて、真新しいプールが学校の敷地内にすでに作られているとか……。


 水泳の授業。と聞いて、とあるいけ好かない先生の顔が脳裏をチラついた。

 うん、そうだよね。

 私ってば校長先生が、校長とかいう肩書きだから、ここのボスは校長先生だって思い込んでいた。いや、むしろそう思うようにして逃げていたのかも。魔法使いじゃない校長先生のほうが、頼み込みやすくって、苦手なものを無意識で避けていた。


 でも、そうなんだよ。校長先生は魔法使いじゃない。

 教頭なんだ、ここの一番のボスは。あの七三。当たり前じゃないか、だって、教頭は魔法使いなんだから。


 でも、これで、はっきりしたし、覚悟も出来た。もう苦手だからって、校長に逃げ込むわけには行かない。狙うは、火の魔法使い大好きのあの七三トーマス教頭だ。


 魔法史の授業が隔日で体育の授業になったのは嬉しい。でも、私が本当に通したいのは、図書館にある魔法の書物を普通の生徒も見れるようにして欲しいという陳情。

 今度は、教頭に直接、請願書を持っていく。

 そして、その陳情を通すため、前から少し迷っていた、とある道具の開発に本腰を入れる決意を固めた。



-----------------------------

 



 打倒七三に向けて研究を進めつつも、商爵をゲットするための段取りも進めなければならない。


 商人科の授業内容は、まだ算術とか、あと名家の家名を覚えたりとか、マナー的な基本知識ばかり。

 貨幣作りの実地研修とか、もうちょっと踏み込んだ内容は、来年からになるらしい。

 正直ちょっと物足りないけれど、でも、学校の授業以外が忙しくて、むしろ授業が楽なことはありがたい。


 授業以外の活動というのは、私、お店を持つことになった。とうとう市場で店を出したのだ。主に酒類を売っている。シャルちゃんに作ってもらったお酒だ。もちろんシャルちゃんにもお給料は渡してる。相場よりもお安くお酒が手に入るとなって、市場で店を開くと、すぐに売れる。


 そして、お酒販売でがっぽり儲けが出てから、学校の近くの宿屋兼食事どころを買い取った。

 酒場にするためだ。


 ルビーフォルンでお酒の販売がうまくいけばお酒はもっと身近なものになる。そしたら、きっと酒場みたいな、飲み屋さんの需要が高まる。この波に乗って、酒場の運営をしようかなと思って、買っちゃった。


 もともと、酒場も経営できたらいいなーとは思ってたんだけど、そう簡単に子供にお店を託そうとするやからはいないし、金銭的にも無理かなーと思ったんだけど……買えた!


 私が市場でお酒を売っている時に、なんと、ちょうど路頭に迷いそうな宿屋の夫婦がやってきたからだ。しかも私の知り合い、メリスさんとジョシュアさん。


 あれです。私が人身紹介所で、コウお母さんと一緒にバイトしてた時に出会った薄幸美人のメリスさん。なんと無事ジョシュアさんと添い遂げられたみたいで、ジョシュアさんが経営している宿屋を夫婦二人で切り盛りしていたのです。


 いやー、あの時のことを思い出すと、どうしてもゲスリーの顔がチラつくからあんまり思い出さないようにしてたんだけど、メリスさんのことちょっと気になってたんだよね。


 でも無事、ジョシュアさん頑張って、メリスさんを買い取って結婚したらしい。ええ話しじゃないか、と思って、そのあと色々話を聞いたら、メリスさんを買い取るためにジョシュアさん借金をして、色々苦労してるらしい。


 それで、私が、その借金を肩代わりすることで、宿屋を買い取ることに成功したのだ。

 もちろん、最初は渋ってたけど、メリスさんとジョシュアさんにはそのまま働いてもらうし、給料もきちんと払いますんでっていって、実はあたしルビーフォルン伯爵家の養女なんすよ、げへへって言って、若干権力もあるアピールをして、買取に成功した。


 酒場なので、メインはお酒。シャルロットちゃんに造ってもらったお酒を薄めたり、酒粕で作ったお酒をかなーり安く販売して、誰にでも手を出しやすい感じにする。料理のメニューも増やしてもらったり、お客様から注文を貰ったときは、「ハイ! ヨロコンデー!」っていう掛け声とかも統一したりした。


 

 なんと言っても酒が安く飲めるのでそれだけで人が来る。

 酒場としてリニューアルオープンしたお食事処は、しばらくすれば街の社交場という感じでたくさんの人でにぎわってきた。いい感じだ。これから調子に乗ってドンドンお店を増やしていきたい。

 今はシャルロットちゃんの力を借りてお酒を作っているので、あまり店を増やしすぎると無理がでちゃうけれど、来年あたりはクロードさんから安くお酒を入れてもらえることになりそうなので、店を増やしても問題ないと思われる。


「リョウ様、なんだか……すっごく疲れて見えます! 大丈夫ですか?」


 私が眠そうな顔で1時限の授業前に席についていると、隣に座るシャルロットちゃんが、心配そうな顔で声をかけてくれた。今日の1時限目は魔法史。体育の日じゃなくてよかった。昨日は、酒場の方に顔を出して、ジョシュアさんと色々相談したり、新しく雇った人とかと顔合わせしたりしていたので、よく眠れてない。


「大丈夫です。今は、はじめたばかりだからちょっと忙しいですけれど、これからは落ち着くはずなので。それにシャルちゃんもお酒を作るの手伝ってもらって疲れてなければいいんですけど」


「私は大丈夫です! 魔法使ってもあんまり疲れにくいみたいで。それに、私、すっごく嬉しいんです。こうやって、役に立てることが。私の力は嫌われるばかりで、誰かに必要とされる力だと思っていなかったから。だから、今必要だって言われて、楽しいんです!」


 まぶしっ! シャルちゃんの笑顔まぶしい。徹夜明けの私には、眩しすぎて直視できないよ。

 ありがとうシャルちゃん、そう言ってもらえると私も楽になります。


 私が、シャルロットちゃんの優しさに癒されていると、後ろからアランの唸り声が聞こえてきた。

「リョウ、3年になってから、放課後は全然ドッジボールもしに来ないし……働きすぎだぞ!」

 アランがすねていらっしゃる。

 なんだかんだ忙しくして、3年生に進級してからあっという間に数ヶ月経過してしまった。

 すまない、子分。あんまり構ってあげてなかったね。これからは新しい従業員も雇ったし、主にジョシュアさんに任せていくつもりだから、もうちょっとしたら落ち着くはず。

 それに今は少し頑張りたいんだ。だって私が頑張れば、ルビーフォルンが豊かになって、国全体も潤って、そしたら……。

 

「忙しいのは今だけ……のはずですし、そのうち、余裕が出てきますから」


「ならいいけど……コーキさんも心配してたぞ。リョウは働きすぎじゃないかって。いつも帰り遅いし。あと、今日は、コーキさんのところでご飯食べるのか? リョウの好きな卵が手に入ったから卵料理にするっていってたぞ」


 わあ、卵料理! 嬉しい! じゃあ今日は外食しないで早く帰ろうかなー!

 

 って、ちょっと待って子分!

 あなたコウお母さんのこと把握しすぎじゃない?


 そういえば最近、忙しさで気にしてなかったけれど、私がコウお母さんのところでご飯食べる時、アランが先に席についてたりしてる……!


 ちょ、ちょっとアラン、コウお母さんとどういう関係になってんのよ!

 え? まさか、手を出されて……?

 いや、そんなことはないはず。コウお母さん、アランは趣味じゃなさそうだったし! いやでも、最近仲良すぎない? 何私よりも先にちゃっかりご飯の内容とか把握してんの?


「……アラン、コウさんと仲良すぎじゃないですか? 最近、私がコウさんの家に行くと、私よりも先にいます、よね?」


「だって、リョウは俺の授業が終わる頃にはもうどっかに行ってるんだからしょうがないだろ」


 いや、しょうがなくないよ。なんでそこで、コウお母さんのところにいくのよ。友達と学食で夕飯でも食べてなさいよ。


「それに、コーキさんも1人で夕食たべるの寂しいだろうからな。俺は、ちょうどカイン兄様が卒業しちゃったから、夜は1人のことが多いし、相手してあげてるんだ」


 偉そうな顔で、『相手してあげてるんだ』じゃない! カイン様が卒業しちゃったから自分が寂しいだけなんでしょ! そんな寂しがりやのアランをコウお母さんが相手してあげてるだけでしょ!?

 あ、相手っていっても深い意味の相手じゃないよね? 私信じてるからね、コウお母さん、コウお母さーん!

 

 ちょっと何これやめて。コウお母さんは私のお母さんなんだからー!


 いや、まあ確かに、酒場の料理メニューを考えるついでにそこでご飯済ませてしまう私も悪うございましたけれど、やだ、私がいない間に、泥棒子分!


「こ、これからはコウさんのところで私も食べますからね! 盗みは許しませんからね!」


 私が鼻息荒くして宣言すると、アランが『いや、俺何も盗むつもりなんてないぞ』ととぼけた顔で言ってきた。油断ならん。



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