農村編⑨-わたしにできること-
「私の肩に乗っているものが見えるか?」
近くに来た私に向かってセキさんは自分の右肩あたりを指差しながらそう問いかけてきた。
え、肩には何も乗ってないけれど。空間ですけど。
何かが見えるかどうかが、魔法使いかどうかの判断基準なのかな・・・・・・。
念のため、目を凝らしてみたけれど、やっぱり何も見えない。
「いいえ、みえません。何もないように見えます」
「そうか、じゃあ、リュウキのほうで確認してみてくれ」
話を振られたリュウキさんはこくんとうなづいて、一瞬遠くのほうを見るような目をした後、右手をかざした。
「このあたりは、どのように見えますか?」
リュウキさんがかざした右手を見てみるが、やっぱり何もない。ただの空間だ。
「・・・・・・特に何も、みえません」
「きらきら光ってみえたり、しませんか?」
やっぱり魔法使いには、何か見えるのだろう。きらきら光るものが。でも、やっぱり私には見えない。
「みえません。普通です」
「・・・そうですか」
そうつぶやいたリュウキさんは完全にがっかりした顔をしていた。セキさんの顔をみると同じく、残念、という様子だった。
うん、わかっていたことだ。わかっていたことだが・・・。
セキさんは、ファイナルアンサーなのかどうか確認する司会者のように神妙な顔つきをして、勿体ぶってから宣告した。
「村長、残念ながらこの子は魔法使いではないですね」
ああ~
村人の激しいため息のような、落胆の声が聞こえた。村長も肩がガクッと下がっている。
私はなんだか怖くて、お父さんとお母さんの顔は見れなかった。
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宴もおわり、その日は村長宅や空き家を提供して、魔法使いご一行は一泊してから旅たった。
国のゴタゴタでスケジュールが押しており、また、この村で見つけた画期的なリョウちゃん印の農具を他の農村に早く広めたいという思いもあるようだった。
・・・・・・そういえば、畑は、もう大丈夫なのかな? 魔法使いがきて、作物がいきなり成長はしたけれど土壌環境も変わってくれたのだろうか?
もし、今回の魔法使いの魔法で、土壌環境が改善し、より多くの作物が育つようになったとしたら、本当に、魔法使いはすごいと思う。
前世の知識を生かして、村人の生活をより豊かにしようと思っていたし、出来ると思っていたが、この世界に科学や知識はいらないのかもしれない。
魔法があれば、この世界は成り立つのだ。
なんだか、存在意義が失われたような気がして、ちょっとしんみり。
でも、それでも、私に出来ることはあるはずだ。
私が出来ることをがんばれば、家族も村人もみんな幸せになって、
私も今度こそ幸せになれるに違いない。