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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期
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学生活動編⑰ ウヨーリの教え

 長期休みに入ったので、コウお母さんと一緒にルビーフォルンに帰ってきた。

 今年は、コウお母さんも同時に帰省。

 去年は、お店を長い間空けるのは難しいからという理由で、しばらくは私だけレインフォレストで過ごしていたけれど、今年は大丈夫みたい。常連のお客様には、いない間の薬は渡してあるし、何かあった時のために、知り合いに薬を預けてきているとのこと。


 もしかしたら、去年も問題なかったのかもしれないけれど、気兼ねなくレインフォレストで過ごしてもらえるようにというコウお母さんの気遣いだったのかもしれないな、とちょっと思った。


 ルビーフォルンに到着すると、去年と同じように、というかむしろ去年よりも盛大に、屋敷の人達が、五体投地で私を迎えてくれた。

 やめて、お願いだから、額を地面につけてのお出迎えはやめて。


 到着して、まずはバッシュさんに挨拶して、そして、王都から連れてきた腐死精霊使いを紹介した。


 手紙で、腐死精霊使いをルビーフォルンで雇いたいという要請はしていて、許可はもらっていたので、私の帰省のタイミングで、王都から連れてきたのだ。


 ちょっと年配の女性で、名前をダリアさん。糸車のせいで、ルビーフォルンよりも北東の領地であるシーランボルト領から追い出され、王都で窓際待機社員になって早3年目だった腐死精霊使いさん。


 貴族だから国からお金も入るし、暮らしてはいけるんだけど、でも何もしてない自分のことを、他の魔法使いから白い目で見られているような気もして、肩身が狭くて辛かったのーって、馬車の中のダリアさんはコウお母さんとお話してた。


 お久しぶりの領地のお仕事で、これからどんなお仕事をするのかってダリアさんが、気にしていたのもあって、馬車の中で、柿酒を作ってもらったけれど、問題なく作れたので、大満足。


 ダリアさんも、私にこんな力が眠っていたとは……! という顔をして驚いていた。そしてお酒好きだったみたいで、そのあとほぼ1人で、お酒を飲んで楽しんでた。

 なかなか陽気なおば様だ。


 今回は1人で来てもらったけれど、ご家族連れてきますか?って聞いたら、子供達は既に独り立ちをしていて、旦那さんとは死別しているらしい。

 おお、まだダリアさんお若くみえるのに、旦那さん早死にだったのかしら、と思っていたら、彼女の年齢を聞いてびっくりした。想像以上に年がいっていた。そういえば魔法使いはふけにくいんだった。羨ましい。


 とりあえず、ルビーフォルンについて、ダリアさんの紹介を済ませると、ルビーフォルンの領主であるバッシュさんが、『リョウが言うから、雇うこと許可したけど、本当に大丈夫なの? 税率上がっちゃうんだけど、大丈夫なの?』っていう不安そうな顔していたから、早速ダリアさんには、渋柿で、お酒を作ってもらうところを披露して貰った。


 バッシュさんも、それをみて、コイツはヤベーって顔して、早速お酒の材料になる果物や穀物の手配で忙しい日々が始まりそう。


 うんうん。なかなか、順調だ。


 でも、私、この醗酵魔法使いの紹介とか、お酒造りとか、ほかの醗酵食品とかのこととかにも力を入れたいんだけど、大事なんだけど、私、その前に、ホント、タゴサクとかいう奴に聞きたい話がある。


 もうね、クロードさんから、『ウヨーリ教』のことを聞いてから、もうそれが気になって気になって仕方ないの!

 クロードさんは、念のため、ウヨーリの教えはレインフォレストでは広がらないように、目を光らせるような話しをしていたけど……けどもしこのまま広まり続けていたら、火消しも追いつかない。


 興奮した面持ちで、忙しそうに使用人に指示をしているバッシュさんに、私はおもむろに伺った。


「すみません、タゴサクさんの姿が見えないんですが、奴は、じゃなくて、彼はどこに?」


「ああ、タゴサク先生なら、今は、近くの村に行ってるんじゃないかな」


 なるほど、外出中か……。どうしよう、追いかけるべきか待つべきか……。


「まあ、すぐに戻ってくる。いつもの日課で近くの村でお話を聞かせにいっているんだ。もともと、リョウの到着が午後になるだろうと思っていたから、午後には戻るといっていたしね」


 聞き捨てならないことを聞いた。『近くの村でお話を聞かせに』?

なんだか、すごく嫌な予感がする。


「すみません、バッシュ様。馬を貸してもらえませんか? あと、タゴサクさんがいる場所が分かっている騎士を案内役で貸してください」


 私はそう言って、バッシュさんの許可をもらうと、早速タゴサクさんの様子を見に村まで降りることにした。



----------------



 案内役の騎士に、ついていくと、よくある農村にたどり着いた。騎士の人が、タゴサク先生を呼んできますって言ってくれたけど、それにはストップをかける。


 だって、まずタゴサクさんが何をしているのか確認しなくては!


 私は、こっそりと、タゴサクさんにばれないように、一体彼が何をしているのかを確認するため、建物の影に隠れながらタゴサク氏の様子を観察する。


 彼は外の開けた場所で、立っていた。

 その周りには、子供達からお年寄りまで、たくさんの村人らしき人が、座って囲っている。

 何かを語って聞かせているようだ。


「恐れ多くもタンポポの蕾より生まれし天上の御使い様は、こうおっしゃいました。タンポポは私が皆のために咲かせた花である。飢えで悲しむ全てのものよ。私の花を食べなさい。根食べ、葉を食べ、茎を食べなさい。タンポポの全ては飢えで苦しむ皆のための私である。私を食べなさい」


 タゴサクはそこまで言うと、クッと涙を堪えるようなそぶりをしてから、話を続けた。

 

「そして、その後も、天上の御使い様は、たくさんの食べれる草を私達の前に、作り出された。それが、ここにあるセリであり、ナズナであるのです。今、私達の周りに、山に、道に、畑に、大地に生えている我らの糧となる草は、全て、あの方がご用意されたのでございます。あの方が、身を削って作り出されたのでございます」


 そう言って、タゴサクとかいうアホは、堪え切れない……! とでもいいたそうな表情で、目から涙を流し始めた。

 村人もそんなタゴサク氏を見て、ハラハラと涙しているように見える。


 ……やだ、何これ怖い。


 え、天上の御使い様って……確かタゴサクさんの中では、私だったはず。ということは、さっきの話って、私の話なの?

 いや、でも私タンポポじゃないし。食べれる草、作り出してないし、もともと道端に生えてたし。


 私が呆然としていると、村人の中から、小さい男の子が立ち上がった。


「僕、もう天上の御使い様がお作りになった草を全部覚えたよ! だから僕、どの草が食べれて、どの草が食べれないかが、もう分かるんだ!」


 男の子が自慢げにそう言うと、周りの大人達が、おお、立派だね立派だねって言って褒め称えている。


 ……。


 今すぐ、この集会を止めたい!


 でも、どうする、このままタゴサクに声をかけて、やめて! って言いにいっても、逆に、リョウ様! とかいって地面に額をこすりつけられて、それで村人があの方が、天上の御使いのリョウ様! とか言い出して、額を地面に擦り付けてくるかもしれない。


 そうなったら最後、この村でも、私は変な扱いになって、それがゆくゆくは他の領地にも伝わって、学校のみんなに『天上の御使い様ってリョウなの? タンポポの蕾から生まれるとか……うける!』とか言われてからかわれるかもしれない。


 そんなの嫌だ。


 私は、唇をかみ締めながら、タゴサク氏の講義が終わるのを待った。


 そして、馬車に乗って、帰っていくタゴサク氏の後をこっそりつけて、屋敷に着いたところをひっ捕まえて、部屋に呼び寄せた。

 タゴサクさんは、私の帰郷に感涙して喜んでいるけれど、私だって、なんか怖くて泣きそう!


「タゴサクさん! 困ります! 村人達に変な、嘘を吹き込まないでください! 私タンポポじゃないし、草とか身を削って生み出してない!」

「おお、リョウ様、ど、どうされたのですか?」

「さっき、村人に語っているタゴサクさんの話を聞いてたんです! 困ります。天上の御使いって、私のことなんですよね? 私、天上の御使いじゃないですし、困ります!」

「おお、私のつたない話しが聞かれていたとはお恥ずかしい」

 と照れている様子のタゴサク氏をひと睨みするけど、彼に全く堪えた様子はない。


「リョウ様、ご安心ください。リョウ様が、恐れ多い天上の御使い様であることは、この屋敷にいるものしか知りません。リョウ様のご尊名は神聖すぎるため秘とし、他の村のものには、その尊き名を明かしてはおりません。リョウ様の教え自体には、ウヨーリの教えという偽名をお借りております。リョウ様が、世を忍んでこちらにいらっしゃることは、重々このタゴサク承知しておりますので」

 そう言って、タゴサクさんは、恍惚とした表情のいつものタゴサイックスマイル。


 ええ!? もう、どういうこと? 正直話しがなんか、こう、かみ合ってなさ過ぎて、私、彼が何いってるのか分からない。ものすっごい疲れるんだけど。

 だいたい、私が、何度も、天上の御使い様じゃないって言ってるのに、こやつには伝わってないのが、まず問題なんだけど。

 もう、彼、どうすればいいんだろう!


 とりあえず、彼の言っていることを整理すると、私の「リョウ」という名前を広める気はないらしい。つまり、天上の御使いの教えとかいう通称ウヨーリの教えは、私とは関係ないと思ってもいいんじゃないかな。

 タゴサクさん達一部の人は、天上の御使い様はリョウ様ってなってるかもしれないけど、外の村人にとっては、私はただのルビーフォルンの養女ってだけでウヨーリの教えとは、関係のない存在になるはずだ。


 ……なら、別に、私気にしなくていいんじゃない? だって、天上の御使いと私は関係ないってことで広まるんだもん。


 それに、タゴサクさんのあの天上の御使い様の嘘話、なんかよく出来てる。物語の中に、生活の知恵とかを良い感じに混ぜてくるから、村の小さな子供も興味津々で話を聞いて、色々学んでいっている様子だった。


 ……あ、いやダメだ。ウヨーリの教えのこと、クロードさんに聞いた時、危険だって言われていた。


「でも、タゴサクさん、そのタゴサクさんがおっしゃってるウヨーリの教えなんですが、レインフォレスト領の方まで広まっているみたいです。万が一、王族に目をつけられたら大変ですよ」


「ほう、他領にまで教えが? やはり、尊き教えというものは、どこまでも広まっていくものなのですなぁ」

 としみじみした様子で言っているけれどね、タゴサクさん。しみじみしてる場合じゃないから。王族に目をつけられたら大変だから! とくにゲスリーとかいう王族はやばい。


「魔法使いではない怪しい者を信奉してると知ったら、王族に狙わる可能性があります! 何か、こう、弾圧とか、そういうのに巻き込まれてしまうかもしれません!」


「ふん、魔法使い様がなんだというのですか。確かに、緑豊かにする魔法使い様は偉大ですが、天上より使わされたリョウ様以上に偉大であるわけがありません! ましてや我らを見捨てた王族など……」


 な、なんか、私の前ではだいたいタゴサイックスマイルのタゴサクさんが、珍しく、怒ってる顔してる。

 まあ、ガリガリ村……ひどかったもんね。それに、全然魔法の恩恵を受けられないルビーフォルンにきてからはより一層、魔法使い至上主義の王政に対する不信感が強まっているのかもしれない。


 でも、だからって、危ない目に合うかもしれないのに、ウヨーリの教えを広めることはオススメできないよ。


「タゴサクさん、お願いです。確かにタゴサクさんの教えは、農民の方にとって、ものすごく有用なものだとは思います。でも、それで危険な目にあっていたら、本末転倒です。王族は魔法使いではない謎の者を信奉する行為は許さないでしょう。農業の知識についてはいいとしても、その教えと供に、天上の御使い様の話をするのをやめた方がいいと思います」


「しかし、リョウ様! 魔法の恩恵を受けられない私どもにとって、リョウ様は、天上の御使い様というのは、その存在こそが希望なのです! 私どもに希望を捨てろとおっしゃるのですか!?」


 そう、真摯に訴えかけてくるタゴサクさん。

 タゴサクさんたら、そんな真面目な顔もするのか……。


 希望……。今まで縋っていた魔法使いがいなくなる。その代わりの希望が必要なのは、なんとなく分かるけど、でも……。


「……それでも、危険な目に合うよりはいいと思います」


 今まで明確な“魔法使い”という希望を持っていたこの国の人達には、辛いことなんじゃないかとも思うけど、でも、それでも何かあってからじゃ、いかんと思う。


 タゴサクさんは、肩をがっくりと落として下を向いてから、『かしこまりました。これからは、村人に話す時に天上の御使い様の話を出すのは控えましょう』と言って、部屋から去っていった。

 

 ……めっちゃしょげてる。

 背中に哀愁が……。

 そ、そんなしょげないで。

 なんか、ごめんよ、タゴサク氏。


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― 新着の感想 ―
[一言] タンポポさん、何だかアンパマソみたい(・∀・)
[気になる点] ヘンリー王子とダゴサク氏… 立場と境遇と思想は正反対なれど、頭のネジが外れているという点で 2人は案外、似た者同士かもしれない… まだ第2部読んでる最中だけど…
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