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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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学生活動編⑭ 穢れ魔法使い

「御機嫌よう、リョウさん。そういえば、以前わたくしが名前を書いた請願書? でしたかしら? あちら一体、どうなったの?」


 とある昼休み、カテリーナ嬢が、サロメちゃんを引き連れて、私のところにやってきた。


 二人ともランチプレートをもって、席についたので、どうやら一緒に食事を取る気でいるみたい。


 他派閥からの刺客にちょっと敏感なアランが、険しい顔をしているが、なんだかんだドッジボールを一緒に嗜む仲でもあるので、特に異論は唱えず、カテリーナ嬢の様子を伺っている。


 ていうか、そんなに警戒しなくても……。


「請願書の件ですか……せっかく名前書いていただいたんですけれど、難しいみたいです」


 私がそう答えると、カテリーナ嬢の顔が歪んだ。


「まあ! 何ですって! この! わたくしが! 署名したのに! ですか!?」


「そうです」


 なんか、カテリーナ嬢が怒ってるけど、しかし事実は事実。

 そう、キミの署名、ダメだったよ。いけると思ったんだけどね、私も。


 ちょっとカテリーナちゃんが大声を出したことで、少し食堂の生徒達から視線を集めてしまったようで、ざわざわとした食堂の中に『おい、見ろよあそこのテーブル。“約束された勝利のリョウ”に“必要不可欠のコートの管理者”、“挑戦者アラン”、“開戦の鐘の君”、“誘惑のサロメ”、“人が集まるリッツ”が揃ってるぞ。スッゲー! カッケー!』っていう声が聞こえてきた。

 とうとうサロメ嬢もリッツ君も、ネームドドッジプレイヤーになって、そういえばこの席にいるの全員、ネームドプレイヤーだ。

 下級生達の熱い視線が痛い。色々痛い。


「まあ、リョウさん! そんなやる気のない態度でよろしいの! このわたくしの! 名前が入った請願書なのに! それが通らないなんて、そんなの許しませんわ!」


 憤慨のカテリーナの隣で、サロメ嬢が窘めるように声を掛けた。

「カテリーナ、落ち着いて。リョウさんのことだから、きっと何か、考えがあるんですよ。なんていっても『約束された勝利のリョウ』様ですから……プッ」

 そういって、サロメ嬢は、私の中二ネームをつぶやいて、ちょっとププって笑い始める。

 サロメちゃんは、中二病を発症してないので、中二ネームを聞くと、ちょっと笑う傾向にある。


 くそ、からかわれてる、私の中二ネームからかわれてる! でも、サロメちゃんだって、もうネームドプレイヤー! こちら側の人間なのをお忘れかしら!?


「校長先生の反応は良かったんですけどね、その先に進めないみたいなんです。校長先生よりも上の立場の人で、私達の活動をあまり快く思っていない人がいるのかも……もしそんな方がいるのだとしたら、ここは、『誘惑のサロメ』様のお力で、奥の殿方を誘い出して欲しいところですわね」


 私が、サロメ嬢の中二ネームを話しに出すと、誘惑のサロメ嬢は、笑うのをやめ、ちょっと眉を寄せて私を見る。その目が『やめて、その名で呼ばないで』と言っている。


 しかし最初に、名前を出したのはそちらですぜ? 誘惑のサロメちゃん!


 ドッジボール中のサロメ嬢は、気だるげな様子で、その様子がすごく隙があるように見えて、ボールをぶつけようとすると、ひらりとかわされたり、ボールをとられてしまう。まるで、誘うようだともっぱらの噂で、誘惑のサロメ。ププ。


「だ、だめよ、サロメ、殿方を誘惑とかダメよ! ダメなんだからね!」

 なぜかカテリーナ嬢が慌て始めたけど、うん、冗談だから。落ち着いて。


「冗談ですよ、カテリーナ様。それに請願書の件も諦めていませんし。それで少し聞きたいんですけど、カテリーナ様のグエンナーシス領には、腐死精霊魔法の使い手ってどのくらいいるんですか?」


「え、腐死精霊……? 貴女って、ほんと、唐突よね。まあ、いいですけど。うちの領には、もういないわ。腐死精霊使いの方って、基本的にその腐死魔法に特化してる方が多いから、領地でできることがほとんどありませんもの。糸車が普及してからは、お城に送ったのよ。ああ、でも、シャルロットさんが腐死精霊魔法の使い手ですから、彼女ぐらいかしら?」

 そういって、カテリーナ嬢は、隣のサロメ嬢にも確認をとるように視線を向けた。

 

「そうですね。まあ、多分、シャルロットさんも、ここを卒業したら、そのままお城に送ることになると思いますが……。魔法使いがいる分だけ、王都への税率があがるので。ここ数年で、腐死魔法使いのお仕事だった糸紡ぎが、糸車の普及でなくなって……どの領も税率を下げるために王に返してるときいてるわ」

 そういって、ちょっと同情的な視線をシャルロットちゃんに向けて、サロメ嬢が補足してくれた。

 シャルロットちゃんも、お城に帰されることは、そうだろうなーとは思っていたみたいで、ショボーンとはしてたけど、ショックは受けてはいないみたいだった。


 そうか、想像以上に、腐死精霊使い……不遇だ……。

 糸車の普及のせいか……。確か腐死精霊魔法使いは、糸車や機織り機が普及する前は、羊毛とかから魔法で糸を作ったり、布を織ったりしてたんだよね。……シャルちゃん、あの、なんか、ごめんね。


「ちなみに、お城に帰される腐死精霊使いって、どうなるんですか?」

 私がそう聞くと、カテリーナ嬢が答えてくれた。


「さあ、普通に暮らしてるんじゃないかしら? 穢れ魔法使いって言われて、嫌われてますけど、魔法使いは魔法使いですし。どこかの領が、雇いたいといって、引っ張ることもありますもの。まあ、そうなると、税率あがりますし、ほとんどないでしょうけど」


 私の隣に座ってるシャルロットちゃんが『穢れ魔法使い』とつぶやいて、一段と落ち込んだ。

 ほ、ほら、元気だして? ね?

 カテリーナ嬢も、ほら、本人近くにいるんだから、もうちょっとこう、オブラートでアレして。ほんと。


 まあ、でも、おかげで、知りたいことが知れたけどね。


 この国では、まだ、『醗酵』とかの概念がない。一部、紅茶とかの醗酵食品が、流通してはいるけれど、それは、今までの生活の中で、偶然誕生したもので、それが、醗酵して……つまり、“いい方向に腐って”生まれるものだという考えがない。

 『今までこうやったら出来たから、こうやる』ぐらいにしか考えてない。


 そのおかげでというとあれだけど、醗酵というチート魔法を使えるかもしれない腐死精霊使いが、お城にはたくさんいらっしゃる……。


 私が、色々と試したいことについて考えこんでいると、アランが、カテリーナ嬢に話し掛けた。


「おい、カテリーナ。お前が穢れ魔法使いとかいうからシャルロットが、なんかすごい落ち込んでるぞ。気をつけろよ。本人いるんだから、穢れ魔法使いって呼ぶなよ」

 アランが珍しく人の気持ちを察してあげてる風に擁護しているけれど、アランが、2回ほど穢れ魔法使いを連発したことによって、さらにシャルロットちゃんのテンションが下がってるってことを知ってほしい、ウン、気をつけよう、アラン。


 さすがに空気を読める子選手権の優勝候補であるリッツ選手は、シャルロットちゃんを慮って、「シャルは、氷の魔法も少し使えるんだから、大丈夫だよ」って優しくフォローしている。


 みんなリッツ先輩を見習いたまえよ。


 私がリッツ先輩を見習っていると、その横では、アランとカテリーナ嬢が険悪ムード。


「な、何よ! 別に悪気があって言ったわけじゃないんだからいいじゃない!! そ、それに、私のことを気安く呼び捨てにしないで頂きたいわ!」 

「だいたい、お前、去年、シャルロットに卵ぶつけたんだろ? そのこと謝ったのかよ」


 アランにそう言われて、カテリーナ嬢は若干痛いところをつれたみたいな顔をしてから口を開いた。


「あ、謝ってない、けど……別にいいのよ! わたくし、別に悪いことしてないもの、ちょっとした指導をしただけよ! そうでしょ、サロメ?」

 そして、助けを求めるようにサロメ嬢に目を向ける。


 サロメ嬢は、口に含んだサラダをしっかりと噛んで飲み込んでから、冷静な顔でカテリーナ嬢を見る。


「カテリーナ、私はもうシャルロットさんに、前卵ぶつけたこととか、きついことを言った件については謝りましたよ」


「ええっ!!」

 と、令嬢らしからぬ、驚き顔をシャルロットちゃんに向けて、それ事実なの? みたいな事を目で訴えると、シャルロットちゃんが、なんか申し訳なさそうに口を開いた。


「あ、はい。サロメさん謝りに来てくれて、お詫びにってお菓子も頂きました」


 シャルロットちゃんがその事実を証明すると、カテリーナ嬢は、口をパクパクさせて、サロメ嬢を見る


「な、なんで、わたくしに声をかけないのよ! 誘われたらわたくしだって……!」


「すみません。もうとっくに謝罪なんて、済ませているものだと」


 そうサロメ嬢に笑顔でいわれたカテリーナ嬢は、渋い顔で、サロメと、シャルロットちゃんを交互にみて、結局サロメちゃんのほうを恨みがましい目で見た。

「何よ! 何よ! もう! サロメの意地悪!」

 そう言って、今度はきつい目で、シャルロットちゃんを睨む。


 やーだカテリーナ嬢が、睨むから、シャルロットちゃんがビクってなってるじゃない。


 睨みながら、唇をぷるぷる震わせて、カテリーナ嬢は口をあけた。

「シャルロットさん、あの、その……悪かったわよ」


 すっごい小声だった。聞こえるか聞こえないかぐらいのボソッとした感じ。


 私は、お約束なのかなーと思って、『えー? カテリーナ様なんて言ったんですかー? きこえなーい』


 というと、顔を真っ赤にして、

「だから! 私が悪かったって言っているのよ! もう! これでいいでしょ! もう!」

 と言って、視線を自分の目の前のランチに戻してバクバク食べ始めた。

 レディがそんながっついて食べるなんて、はしたなくてよ。


 ぷんぷん怒っているカテリーナ嬢を、戸惑ってる様子でみるシャルロットちゃん。

 まあ、気にしなくて大丈夫だよ、シャルロットちゃん。多分、照れてるんだよ、彼女、ちょっとツンデレなところあるから。


「あの、いえ、こちらこそ、カテリーナ様のおかげで、リョウ様とも知り合えたし、あの、感謝しています」


 清き乙女のシャルちゃんはそう言うと、慈愛に満ちた微笑を浮かべる。

 シャルロットちゃん天使過ぎない? 天使過ぎるんじゃない?


 私が天使すぎるシャルロットちゃんの微笑みで心を震わせていると、「あ、あら! まあ、そうよね! あなたなかなかわかってるじゃない」と言って、 天使シャルロットちゃんのお慈悲によって救われたカテリーナ嬢は、満足げに微笑んだ。


 なんて態度だ、カテリーナ嬢。もっと崇めたまえよ! 彼女の後ろの後光が見えないのかね! 

 ……ああ、いけない私ったら、シャルロットちゃんの聖気に当てられて、タゴサクさんみたいなこと思ってしまった。


 そんなカテリーナ嬢の様子を面白そうに見てから、サロメ嬢がシャルロットちゃんに声をかけた。


「そういえば、シャルロットさん、今年の長期休みは、グエンナーシス領に戻るの?」

 

 長期休み……そうか、もう、そんな時期か……。


「いいえ、今回も王都に残るつもりです。家族は王都に住んでますし。村の皆には会いたいですけれど、でも、学校を卒業したら、多分領にはいられないから、あまり親しくしても辛くなるだけかと思って……」


 そうシャルロットちゃんは、ちょっと悲しそうに言った。

 そういえばさっき、腐死魔法使いは、基本的に、税率を下げるために王都に返されるって話しだったもんね。なるほど。あんまり領地の人と仲良くすると後が辛くなるってことか……。


「そう、一緒の馬車で帰ろうかと思いましたけど、無理ね。リョウさんはどうするの?」

「え、私ですか? えっと、ルビーフォルンに帰りますよ」


 私がそう答えると、今までランチのハンバーグに夢中だったアランは、バッと私のほうに顔を向けた。


「え!? 今年もうちに寄ってくだろ?」

 ああ、そういえば前の長期休みは、レインフォレストで楽しく過ごしたね。アラン達の妹のチーラちゃんにも会いたい。

 でも、今年は、うーん。


「すみません、今年は、難しいかもしれません」


「なんでだよ!」


 子分がショックそうな顔で、そう訴えかける。

 親分の到来を待ち望んでくれるのは嬉しいけれど、今年はルビーフォルンでやりたいことがたくさんあるからなー。


 それよりも、シャルロットちゃんに聞いて欲しいことがある。


 私は適当に子分をなだめすかした後に、穢れ魔法使いとか言われて、領地から追い出されるような形になりそうな落ち込んでいる様子のシャルロットちゃんの肩に手を置いた。


「突然なんですけど、あの、シャルちゃん、今度のお休み空いてますか? 手伝って欲しいことがあって、シャルちゃんにしかできないことなんです」

 私がそう言うと、最初驚いた顔をしたシャルロットちゃんが、『私にしかできないこと、ですか? 私でよければ……』と言って、頷いてくれた。



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