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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期
85/304

学生活動編⑬ アランと買い物をするひよこちゃん

 「買いすぎだぞ、リョウ! もう、持てない!」


 お黙りなさい、子分よ。

 キミのひどい裏切りで、私はコウお母さんにこっぴどく怒られたんだからね!


 今日は、アランをつれて、コウさんに頼まれた物を買うため、市場へ買出しにきている。

 結構、たくさん買うものがありそうだったから、ちょっとずつでいいわよってコウお母さんには言われたけれど、アランを鍛え直すこともかねてたくさん重いものを買い物しに来たのだ。なので、子分は、私の荷物持ち。

 だいたい、結構うちでご飯食べにくるんだから、その分は働いてもらわないと。


「やだ、アラン、女の子である私に! スプーンよりも重いものを持ったことがない私に! 荷物をもてと言うのですか?」

 私がそう言うと、裏切りの子分は口をすぼめて黙った。


 フェミニストアランめ。一度フェミニストぶったのだから、これからずっとフェミニストとして生きていく宿命。

 文句を言うなんて、フェミ道精神に反していてよ!


 黙ったアランに満足して、私は木材屋さんを探す。

 最近知ったのだが、薬屋で、薬草類を買うよりも、木材屋さんとかで、安く買える薬草がある。その代表例は、柿の木の材木を扱っているお店だ。薬になる柿の葉が格安で大量に買える。


「すみません、ご主人、柿の葉を2袋ください」


「おう、嬢ちゃん、久しぶり! 柿の葉だな、あいよー!」

 と威勢のいい声で、以前より面識のあるご主人は、手馴れた様子で柿の葉が入った袋を渡してくれた。私が代金を払っていると、ちょっと遅れて荷物持ちがゼエゼエと息を切らしてやってきた。


 荷物係は、追加された荷物を見てげんなり顔をした後、材木屋の材木類を見てハッとした顔をして、さっきまで抱えていた荷物を地面に降ろした。


 あ、とうとう限界が来たのかな。

 しょうがない、手伝ってやるか、と優しい親分の姿を見せようと思ったら、アランが、材木屋のご主人に話しかけた。


「親父、木材くれ、これとこれとこんぐらい」

 アランは、代金を払って、購入した木材を地面に置くと、ジロジロと木材を見る。


「アマツカゼ クモノカヨヒジ フキトヂヨ オトメノスガタ シバシトドメム」


 そして、なんと呪文を唱えた。

 な、なにする気……? もしかして、子分の反乱?


 私がちょっとビクビクしながら見守っていると、呪文を唱えた後に、アランが触っていた材木がうねうねと動いて、形を変えていく。


 アランは、ちょっと難しい顔をしながら、目をきょろきょろ動かして、魔法で何かを作っているようだった。


 しばらくアランの頑張りを見守って、完成したものは、木製の車輪付きのカゴだった。

 なるほど、荷物をこのカゴに入れて、転がして運ぶ算段かね!


 やるじゃないか、子分。


「はじめて作ったわりには、うまく出来た!」


 とアランは、言いながら、満足そうに荷物をカゴの中に入れていく。


 魔法使いのファンタスティックを目の前で見たご主人は、驚いた顔をしながら、「こりゃ驚いた今日の連れは魔法使い様か! んじゃ、良かったらこれも持っていってくださいよ」 と言って、たくさん柿が入った袋を私に渡してきた。


 魔法使い様のファンタスティックを見て、かなりテンションがあがったんだろう。

 いや、まあ、もらえるものは嬉しいけど、ここで売ってる柿って渋柿……だよね?


 材木屋で売られている柿は、渋柿だ。基本的には木材目的で魔法で育てられた柿の木の副産物。一応木造製品に塗りつけたりすると、長持ちするとか言われてるから、店頭で売られているし、たまに薬の材料にはなるから少し買うこともあるけど、こんなに……いらない。



「渋柿がたくさんあっても……干し柿なら頂きたいですが……」


「干し柿食べたいなら、自分で干すしかないな、お嬢ちゃん」


「でもほらご主人、どうせいつも渋柿余ってるじゃないですか。干し柿にしたら売れるとおもいますけどねー」


「干し物仕事はごめんだよ。食べたいなら、自分で干すしかないね。王都は魔法使い様がいらっしゃる。柿なんか干してる間に新しい柿の木が成長しちまうよ」


 なんだよー。干すぐらいいいじゃないかー。こうね、ひと手間を惜しまない精神が、商売人には必要だと思うの!

 ……でも、まあ、しょうがないこの渋柿は自分で干すか。


 ていうかこの国は、基本的に作るのに時間がかかるもの、魔法ですぐに作れないものを敬遠するところがある。

 もっとひと手間かけていこうよ。


 この国で、魔法を使わず、時間をかけて作るもので、よく流通しているものって何かあったかな……。


 あ、そういえば……。


「ご主人! あのカゴに入るだけの渋柿ください!」

 私は、アラン特製ショッピングカートを指しながらそう言うと、ご主人は、なんで渋柿なんかを? ていう顔をしながらも、たくさんの渋柿を格安で売ってくれた。




----------------


 

 放課後、日課になりつつある「ドキッ!貴族だらけのドッジボール大会」で、軽く汗を流して、ちょっと休憩していると、途中でいやーな視線を感じ取った。


 視線の先をみると、やはり予想通りゲスリー王弟様がいらっしゃる。

 いつもの笑顔で、手招きしている様子に見えるけど、見なかったことにして、お水を飲む。やっぱり運動後のお水は最高に美味しい!


 私がお水で喉を潤していると、とある1年生の女生徒が顔を赤らめながら、『約束された勝利のリョウ様、あちらでヘンリー様が呼んでらっしゃいますっ!』とわざわざ教えてくれました。


 ゲスリーに話しかけられたことが嬉しかったらしく、女生徒はめちゃくちゃ嬉しそう。そんな顔をされると、『いや、私は用ないんで、いきません』とは言えなくて、しぶしぶヘンリーの下へ伺った。


「何か、御用があるみたいで?」

 私がそう声を掛けると、いつものスマイルで、「いや、特に用はないよ」ってゲスリー殿はおっしゃいました。どつきたい。


「なら、私戻りますね」

「はは、そう焦らないでよ、用って程でもないけど、ちょっと聞きたいことがあってね」


「聞きたいこと、ですか?」

 ゲスな質問は受け付けないよ。


「そう。最近、よく家畜と魔法使いが、一緒になって遊ぶことが多くなっただろう? 最初その話を聞いた時、きっと家畜が魔法使いにじゃれつく姿は、かわいらしいだろうと思ったんだ」


 ああ、私達がドッジボールしてる姿は、きっと牧場のふれあいコーナー的な感覚で楽しんでくれてたんですね、はいはい、そうだろうと思ってましたよ。


 でも、こうやって、ゲスリーが見に来たのは、2回目だ。最初の方に一回見に来て、いつの間にか消えてて、その後は一向に来ず、本日本当に久しぶりにやってきたって感じ。


 もともと3年生以上は選択授業があるから、1,2年生と同じように放課後をドッジボールに使うのが難しいけれど、中には、選択授業を終わらせてからちょっとだけこっそり参加したり、見学したりしている上級生の方もいる。

 ヘンリーはかわいい家畜見たさに見学の常連になるかもって、思っていたのに、意外と見に来ないからちょっと驚いていたところだった。


「そうでしたか。楽しみにしてくれていたようで、なによりです」

 私が、そんな思ってもいないことを棒読みで言っていると、ヘンリーの目が少し細められた。


「ひよこちゃんは、家畜と魔法使いの違いをどう判断してる?」


 なんだ突然、こやつ。


「え? 判断って、別に……その人が魔法使いって聞いて、ああ、あの人は魔法使いなんだなって。あとは、男の子ならローブをきてる子が多いので、魔法使いなのかなって思ったりはします、けど……?」


 私が、そう答えると、ゲスリーは、まあ、家畜にきいてもしょうがないか、みたいな顔で笑ってから口を開いた。

 あの顔どつきたーい。


「私はね、顔で判断してる」


 え? 顔? 魔法使いと、魔法使いじゃない人の顔に何か差異はあったかな? うーん、しいて言えば。魔法使いの方が美形が多い、とか? いやでも、そうでもないか。大人になれば老けにくいという妬ましい要素があるけど、子供のうちは普通に成長してるし……。


 まさか、家畜にはおでこに『家畜』って書いてあるんだとか言い出すつもりじゃないだろうね?


 私が、眉を寄せて、ゲスリーの次の言葉を待っていると、ちょっと笑ってから彼は答えた。


「家畜はね、自分が家畜だってことを理解してる顔をしてる。卑屈で、自信がなくて、無気力で……目見れば分かるよ、あれは家畜だなって」


 え? ということは私も? そんな顔していたつもりはないんだけど、可愛い顔していたつもりなんだけど。

 私はさり気なく自分のほっぺたを触っていると、そのままゲスリーは話を続けた。


「でも、最近、キミがはじめたドッジボールというものをやっている間、家畜が家畜らしくない表情をすることが多くなった」


 そう言って、ゲスリーは私を見る目に力を込めた、気がする。顔は笑ってる。でも、なんか、よく分からないけど、少し怒っているような気がした。


「……良かったじゃないですか、楽しそうな表情ってことですよね?」


「いや、家畜は家畜らしくあるからこそ家畜なんだよ。家畜の檻の中に、家畜ではない獣がいたら、その獣はただの害獣だよ。そう思わないかい?」


 ゲスリーはそう言って、唇の口角をさらに上げた。笑っている。顔は笑っている顔を作ってる。


「……さあ、私は、人をみて、家畜だと思ったことがないので、分かりません」


「ああ、そうだった。すまない、ひよこちゃん。家畜のキミに変なことを聞いてしまった」

 彼はそう言って、軽く笑うと、校舎のほうに向かって歩き出した。


 なになに? 家畜の話をしたくてわざわざ呼び寄せたの? これだからゲスリーは、やになっちゃうよ。それに、レディを前にして、『家畜のキミ』とか失礼ではなかろうか!


 まあ、突っ込まないけど。だって、怖いし、突っ込んだところで、『おやおやひよこちゃんがピヨピヨ鳴いて可愛らしい』みたいな顔するだけだってわかる。


 とりあえず、ゾゾってしたけど、無事、彼の家畜の講義時間は終わったみたい、とちょっと一安心して、皆がいるところにに戻ろうとしたら、ゲスリーが足をとめて、こちらを振り返った。


「私はね、結構君のことは気に入っているんだよ。キミが大きくなって、どんな家畜になるか、まだ分からないけれど……害獣として処分されるようなものにはなって欲しくないって、そう思っているんだ、ヒヨコちゃん」


 ゲスリーは、そんなくそ気持ちの悪いことを言って、そのままその場を颯爽と歩いて去っていた。


 振り返って何を言うのかと思えば……処分とかこわい! 害獣になるつもりないし……ていうか家畜になるつもりだってないけども!

 振り返らず黙って帰りたまえ!

 

 ……そういえば、ヒヨコは、ゆくゆくは鶏になって、卵を産んだり、おいしいお肉になる。


 今までは、私の髪の色が金髪だからひよことかけたんだと思っていたけれど。 

 彼にとって、この学校に入る魔法使いじゃない子供達は、ヒヨコであり、子豚であり、子牛であり子羊であったりするのかもしれない。


 彼は本当に、人を家畜としてしか見れないんだなって思えて、とりあえず気持ち悪いけど、なんだかちょっと可哀想な人だなって、思えた。




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