学生活動編⑫ 法力流しの後始末
先生が復活したけれど、ずぶ濡れなので、とりあえず乾かそうということになり、火をおこして、リッツ君お得意の火魔法と風魔法で、服とか髪を乾かしてもらった。
先生も、リッツ君の魔法で、改めて綺麗な七三に髪の毛をセットしている。けっ。
「あの、先生、ごめんなさい……私がぶつかってしまって……」
いい子のシャルロットちゃんが、涙目になりながら自ら先生のほうに歩み寄って、謝っている。
自ら謝りにいく姿勢! えらいよ、シャルロットちゃん! かわいい!
「キミだったのか! まったく、腐死精霊使いは、本当に碌なことをしないな!」
七三が、まじで忌々しそうにそんなことを言っておりますが、正直に謝ったシャルロット嬢にその言い草はどうなのだろうか!
まあ、死にかけた先生には同情しない気持ちがなくもなくないけれども、でもなんかその態度はどうかと思うね、私!
私がナチュラルに睨みつけていると、それに気づいた先生が、ちょっと肩をビクッと震わせて、咳き込んだ。
「トーマス教頭先生。シャルは、わざと先生にぶつかったわけじゃないんです。熊に追われたウサギにぶつかってしまっただけで……」
そういって、シャルロットちゃんを庇うように前に進み出てくれたのは、リッツ君だ。
やるじゃないか、リッツ君! ていうか、リッツ君シャルちゃんにちょっと優しくない? ねえ、優しくない?
私がちょこっとだけ勘ぐっていると、リッツ君にはめっきり弱い教頭は、短く唸った。
アランも「ほら、あのウサギ」と言って、崖の近くで倒れてるウサギを指差す。
七三は、ウサギとリッツ君達を見比べて、「そうか、まあ、今度から気をつければいい……」と小声でつぶやいた。
どうやらリッツ君の取りなしもあって、シャルちゃんはお咎めなしみたいだけど、私が七三を見つめていたら、どうやら睨まれていると思われたみたいで、なんか居辛そうに咳をして、「あー、それと、なんだ、あのウサギは死んでるのか?」と話題をそらしてきた。
ウサギの近くにいた治療科の先輩が、ウサギを見て、眉間に皺を寄せると、首を横に振った。どうやらもう息はないらしい。
熊さんから逃れられたのに可哀想。尊き命を無駄にしないために、ウサギ肉は私が預かろうとしていたら、「結界の近くに動物の死体があると、魔物になる恐れがある。死体を処理しなければならない」と教頭が言った。
魔物は死体が元になるのか……。そういえば、今までみた魔物は、異形ではあったけれど、ちょっと獣っぽかった。
「あ、では僕がこのまま火で燃やします」
リッツ君がそう言うと、私とかの服を乾かすために、火打ち石でおこした焚き火を指した。
火さえあれば、火の魔法は結構便利だよね。自由に火が起こせれば、最高の魔法なのにもったいない。
早速、焚き火に向かって呪文を唱えようとしたリッツ君に、慌てた様子で、シャルロットちゃんが駆け寄った。
「リッツ様、あの、私にやらせてください。私が殺めてしまったのかもしれないですし……皆に迷惑をおかけしてしまったから、何かしたいんです」
と涙ながらにシャルロットちゃんは言った。
シャルちゃん、なんていい子! 先生が崖に落ちたのだって、子供に押されて崖に落ちる先生、ちょっと頼りなくない? カッコワルイんじゃない? とか内心思っている私にはない清き心。
結局、シャルちゃんが、自ら望んでいるということもあって、ウサギさんの埋葬は彼女がすることになった。
どうやって、こう、埋葬するんだろう。確かシャルロットちゃんは、腐死精霊魔法の使い手って聞いたけど……。
おもむろにシャルロットちゃんは、ウサギの近くに膝をつくと、ウサギの背中を触った。
「ハナサソフ アラシノニワノ ユキナラデ フリユクモノハ ワガミナリケリ」
いつもの和歌呪文をシャルロットちゃんが、ゆっくりと唱えてから『ウサギを土に返して』と言うと、ウサギの様子が明らかに変わった。
最初動いたと思ったけどそうじゃなくて、どんどん溶けるように、毛皮が崩れていって、骨が見えてきたと思ったら、骨も溶けていき、最後に土の塊と水がしみたような跡だけが残った。
す、すごい、これって、腐らせて、土に返ったってこと?
いつも、朗らかなシャルロットちゃんしか知らないけれど、やっぱり魔法を使うと雰囲気出るね。
すごーいって褒めに行こうかと思って、駆け出そうとしたら、後ろにいる生徒から、『相変わらずおぞましい。死したものを腐らせる力なんて、何の役にも立たない』というような声が、聞こえてきた気がして振り返ったけど、どいつがそんな失礼なことを言ったのか、分からなかった。
失礼しちゃう。シャルロットちゃんの力はすごいよ。私が今まで見てきた魔法すごいぞランキングでもかなり上位にランクインしてる!
この力が、気持ち悪いって、毛嫌いされるのは、ものすごくもったいないことなんじゃないだろうか……。
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波乱の法力流しが終わりまして、いつもの日常が帰ってきた。
しかし今の私は、法力流しのときよりもピンチに立たされている。
コウお母さんが、めっちゃ怒ってる。
「リョウちゃーん? 聞いてなかったんだけど? なんか熊に挑もうとしたり、崖から飛びおりたんだってー?」
私の向かいの席に座っているコウお母さんは、そう尋問して、私を見下ろしている。
私は下を向いて、プルプルと手を震えさせながら、この事態に追い込んだ張本人である子分を横目で睨みつける。
なんで言っちゃうんだ、アラン!
確かに、口止めとかしてなかったけど!
でも、そのおかげで私、コウお母さんに怒られるはめに!
今日は、というか結構頻繁にコウお母さんのところに子分はご飯を食べにくる。だからいつもどおり、迷惑腹ペコ子分を連れて夕食を3人で食べていたら、アランが、アランが、いきなりポロって言いやがった。
『コーキさん! リョウはいつも危なっかしいんだ! この前なんか、熊の前に出ようとするし、溺れた男を助けるために、崖から湖に飛び込んだりしてたんだ!』
というアランの一言から始まって、コウお母さんが当時の状況を根掘り葉掘り聞いて、そして怒られている今にいたる。
「あ、あのね、コウおか、えとコウさん、私ね、勝機はあったんです。大丈夫な自信があったんです」
「ふーん。でも、法力流しの行事が終わって帰ってきた時に、危ないことなかった? って聞いたら、なかったって言ってたじゃない。あれ、もしかして嘘なのかしらー?」
あ、コウお母さんの口調がじょじょにオネエのそれに……。
「嘘じゃなくて、別に危なくなかったっていうか、そう、危なくなかったんです! だから、嘘じゃないっていう、感じで、どうか……」
私は、助けを求めてチラッとアランを見たら、コーキさんもっと言ったれ!っていう顔してやがったので、助けを求めることが出来なかった。くそぅ。アランなんか、子分破門よ!
「ごめんなさい。心配させたくなくて、言えなかったんです。今度からはその、危険なことはしません!」
私は、しゅんと頭を下げて、そう言うと、優しいコウお母さんは『まーったくしょうがないわねー』と言って、許してくれそうな雰囲気を出してくれた。
へへ、ありがとう、コウお母さん。
なんだかんだで、心配してくれる人がいるのって、やっぱり嬉しい。
私がそうしみじみ思っていると、横に座っていたアランが、『でも、コーキさん。リョウが熊の前に行こうとしたから俺が怒って止めた後も、心配かけてごめんって言ってたのに、その後すぐに崖に飛び込んだぞ』って言ってくれたので、その後、コウお母さんからしばらくお説教を受けることになりました。
裏切りの子分!
タイトルはいったんもどしました。
また改めて違うタイトルで変更する予定!
よろしくお願いします!









