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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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学生活動編⑩ 法力流しでの騒動 前編

 今年の法力流しは、去年よりも遠方に行くみたいで、なんとお泊りがある。

 だから、市場では、おとまりグッズも用意せねばなるまい。

 シャルロットちゃん達も、何が必要なんだろうとてんやわんや。

 しかし、私は山暮らし。旅の準備には手馴れたもんです。


 市場で、4人仲良く、おとまりグッズやお菓子なんかを買い込み、とうとう法力流しのイベントが訪れた。


 すっごいわくわくしていたんだけど、集合場所でメンバーを確認して、一気にテンションが落ちた。


 なんと引率の先生が、あの、七三の髪型の教頭だった。確か名前はトーマス教頭。

 相変わらず火の魔法使いびいきの彼は、リッツ君を見つけるなり、火魔法の素晴らしさを語りまくっている。

 リッツ君を取られた友人アランはちょっとふてくされている。


 引率の先生としてついてきているはずなのに、火魔法の素晴らしさを延々と語っている彼には引率する気がないようで、馬車の御者係になっている5年生の騎士科の先輩が引率してくれた。

 七三め、仕事をしろ。


 七三にストレスを溜めつつも、2日かけて山を登って目的地についた。


 目の前には大きな湖。この湖からは緩やかにいくつか川が出ているという話だった。

 この湖は崖の下にあるような感じになっており、湖を崖から覗き見ようとするちょっと怖い。でも、なんか大自然という感じがする。多分マイナスイオンとかすごい出てる気がする。


 どうやらここで、法力流しなるものをやるみたい。湖に魔法をかけて、そこから流れ出る川を結界として使うらしい。


 去年はなんか綱みたいなものが張ってある山中だったけど、今年は湖か。何するんだろう、また塩でもまくのかなと思っていると、マジで塩撒いてた。


 アラン達魔術師が、塩をまいて、後お酒らしきものも湖に入れている。

 なんか、BBQで、ゴミを捨てる人達みたいなんだけど……。


 そして、シャルロットちゃんやリッツ君たち精霊使いが、呪文を唱えながら、石を投げ入れている。

 完全に、遊んでいるように見える動作なのに、顔は真剣だからなんもいえない。多分この一連の意味のなさそうな動きが、法力流しには必要なんだろう、多分。


 謎の儀式が終わったようで、先生が崖のようになっているところを、ちょっと身を乗り出して覗いている。法力流しの具合を確かめているみたいだったけれど、一体何を見ているのかは私には分からない。


 すると、突然「きゃあ! 痛っ!」というシャルロットちゃんの声が聞こえて、なんとそのまま七三先生のほうに倒れこんでしまった。そしてその勢いのまま先生が湖へ落下した。


 あ……。


 倒れこんだシャルロットちゃんは、こけたぐらいで、湖には落ちなかったけれど、先生はバッシャーンと盛大な音を立てて崖下に落っこちた。


 あ! せんせーい! 


 あんまり心配じゃなかったんだけど、一応心配そうに下を見ると七三のトーマス先生が元気よく手足をばたつかせているので、とりあえず大丈夫そう。


「せ、先生!」

 周りの生徒もおっこちちゃった先生を覗き込みながら、心配そうにしてる。

 魔法使いの生徒が、地面に落ちてる枯れ草や蔦なんかを掴んで、呪文を唱えて、ロープのようなものを作っている。


 ああ、ロープを作って引っ張りあげるのかな。魔法って便利だね!

 じゃあ、私は、別に何もしなくていいかなー、と思いながら、先生を落としてしまって、青い顔をしているシャルロットちゃんの心配をしようと近寄る。


「シャルちゃん、大丈夫?」

 ていうかさっきなんで先生にぶつかったんだろう。

 私が声をかけると、シャルロットちゃんは脚を擦りながら、涙目で私を見た。


「リョ、リョウ様ー! 私、やって、やってしまいましたー! 突然、だって、なんか、ドカッて、ドカッてー!」


 な、泣かないで、シャルちゃん。なんかものすごく混乱してるのは分かったけれど、先生落ちちゃったけど、大人なんだから、大丈夫だよきっと、うん。


 私はそんな感じのことを言いながら、シャルロットちゃんの背中を擦っていると、脚を擦っているシャルロットちゃんの近くに、血だらけのウサギが横たわっていた。


 気を失っている? のかな。そうか、あのウサギが、足にぶつかってそれでびっくりして、シャルロットちゃんが先生に体当たりしちゃったのかな。


「ドカッテー、ブツカッテー、ビックリシテー」ってシャルロットちゃんが涙目で訴えてきてるから間違いないだろう。

 あのウサギさんがぶつかってきたって事で確定。


 でも、どうしてウサギ、血だらけなんだろう。女の子の脚にぶつかって、気を失うのは分かるけど、血が出てる。それに何かで引っかかれたような傷跡……。


「ウワーーーーー」

 という生徒達の悲鳴が後ろから聞こえた。


 私は声のした方向、湖とは反対側の木々が生い茂っている茂みのほうに目を向けると、そこには、大きな獣が居た。


 去年、魔物に遭遇したから、まさか魔物!? と一瞬思ったけれど、よく見れば、普通の熊さんだった。

 いや、まあ、熊だって、危ないけど!


 山賊生活の時も、親分が、たまに熊と激しいバトルをしていた。


 多分この血だらけのウサギは熊の獲物だったんだろう。熊から命からがら逃げてきて、勢い余って女の子にぶつかってしまったウサギと、それを必死に追いかけてきた熊という感じに違いない。


 熊さんは、騒然とする生徒達を血走った目で見ている気がする。

 さっきまでウサギとおいかけっこしていて、興奮してるのかもしれない。危険だ。


 私は、カバンから、いつもの唐辛子爆弾を熊の鼻っ柱にめがけて、投げつけた。


 熊は意外と臆病だ。たいがいの熊は鼻っ面に何か物が当たると、逃げるんだけど……。


 そう思いながら熊の様子を見ると、唐辛子爆弾が炸裂した鼻の辺りを、ウガーと吼えながら、手で掻いて、唐辛子の粉を落とすような動きをしているが、逃げ出す様子がない。お腹が空いてるのかもしれない。


 逃げないなら、殺すしかないな……そう思って、熊の相手をしようかと、前に進もうとする私を、アランが私の手を引っ張って後ろに無理やり下がらせた。

 そして、アランは呪文を唱えて、一瞬で立派な剣を右手に装備する。


「リョウ! 熊の前に出るな! なんですぐに無茶するんだよ! 俺がいるんだから俺を頼れよ!」


 なんか、アランに怒られた。

 で、でも、私山暮らしだし、熊の相手だって親分達と一緒だったけどしたことあるし、べ、別に、自分を大切にしてないわけじゃないんだよ。

 勝機はあるんだよ、ホントだよ。


 と、小間使いをしていた時に、自分を大切にしろって怒られた記憶を思い出して、ちょっと内心ワタワタしていると、熊が自主的に引いてくれたみたいで、キョロキョロとあたりを見渡した後に、熊さんは脱兎のごとく茂みの奥へ走り去っていった。


 おそらく、アランや剣を抜いて睨んでいる騎士科の先輩方数人を見て、怖くなったのだろう。ウサギを追って、血走っていたけど、少し冷静になって分が悪いと感じたのかもしれない。


 熊がいなくなったので、ふう、と生徒達の緊張の糸が切れたみたいで、周りから安堵のため息が聞こえた。


 私も、すこし息をついて、そろーりとアランの様子を伺った。

 ま、まだ、怒ってる?

 


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