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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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学生活動編⑧ とうとう決戦の日

 放課後、指定の空き地に続々と人が集まってきていた。

 魔法使いの子達は、授業が長引いているみたいで、今集まってくれている子達は、皆魔法の使えない子達。サロメ嬢も来てくれている。


 とりあえず、まだカテリーナ嬢達は来ないけど、今いる人にだけでも簡単にルール教えておこうかな。

 ドッジボールの。


 空き地に事前に私が土を軽く足で掘って作ったコートに皆を呼んで、ルールの説明をした。


 2チームに分かれること。ボールが当たったら、アウトで、外野なる者になること。一度土についたボールは当たってもアウトにならないこと。外野の人は敵チームの人を当てれば、また中に戻れること。顔面セーフ。

 ボールは、休みの日に、革を縫って、綿を詰めて作った柔らかボール。バウンドはしないけど、軽くて当たってもそんなに痛くないし、初心者向けのいいボールだと思う。


 この世界の子供達は、球技と言うものをあまりしたことがないようで、思いのほかに説明に手間取ったけど、どうにか理解してくれた。


 特に男の子達は、面白そう! という感じで、早くやりたがっている。

 ドッジボールは、球技の中でもルールが簡単だからいいよね。


 そうこうしていると、魔法使いの授業が終わったようで、続々と残りの選手がやってきた。


「さあ、来てあげたわよ! 一体わたくしに何を教えてくださると言うのかしら?」

 カテリーナ嬢が、つんけんと腕を組んで、私の前で仁王立ちしている。


「ドッジボールです。先に来ている方にはすでにルールを説明したんですが、もう一度説明しますね」


 と、一応前置きを入れて、再度魔法使いの子達にもルール説明。私の説明の間に、既にルールを聞き終わっていた子達が、ボールを投げて練習をし始めている。乗り気だ。


「なるほど、玉を取り合って、敵を全滅させるってことだな!」


 アランが、なんか物騒な表現をしてるけど、多分理解したようで、すでに玉投げの練習をしている一団に加わろうとしていた。


 いやアランよ、もうすぐ試合始めちゃうから。練習しないで、コートに入って。


「チームわけなんですが、今集まっている人数を見ると、女の子が多いので……魔法使いと男子チーム、そして魔法使えない女子チームとで分けましょうか。ちょうど半分の人数にわかれますから。それでは皆さん、チームごとに分かれて、この囲いの中に入ってください」


 乗り気だった男子達は、やんややんやと指示通りに動いていて、その勢いに流される形で、他の子達も移動したけれども、カテリーナ様がちょっと不満そうな顔をして睨んできてる。心なしか、彼女の縦ロールがいつもよりもとんがっている気がする。

 

「一体何をするつもりなのか、気になってきてあげましたけれどっ! 私、こんなちんけなものに付き合ってられませんわ!」

 カテリーナちゃんが真っ赤になって憤慨してる。

 卵投げてる方がよっぽど、ちんけだと思うけど……まあ、美味しかったからいいんだけど。


「俺がなんで、カテリーナ側なんだよ。リョウのチームがいい!」

 というどこかの子分の不満の声も聞こえてきたけれど、これはスルーするにしても、「カテリーナ様のおっしゃる通りですわ……それに、カテリーナ様と別のチームなんて……」という私と同じ陣営の女子からも不満の声が出始めたから由々しき事態。


 しかし、一方では、乗り気な男子達が、『こっちのチームはほとんど男だし、ボールは最初そっちで持ってていいよ』といつの間にか、ボール先制権を女子チームに渡していたりする。


 乗り気な子と、乗り気じゃない子が半々ぐらいか……。こう、どうにか、勢いで、どうにかしたいな……。


 とりあえず、楽しいよっ! ってことをアピールしてみるか……。


「カテリーナ様の好きな玉投げですよ! せっかくですから楽しみましょう」

 私が、ニッコリ微笑みながら、そう提案してみる。


「なんで、なんで貴女なんかと一緒にこんなことし……キャ!」


 カテリーナ様の強気発言は、途中で遮られた。

 なぜなら、カテリーナ様に向かってボールが投げられたからだ。投げられたボールは彼女の横っ腹の辺りに当たった。

 私も含めて、驚いた顔でカテリーナ様にボールを当てた人物を見つめる。


 ボールを当てたのは、意外な人物に思えた。

 いつもカテリーナ様の近くで仕える騎士みたいな女の子だったはず。カテリーナ派閥の中でも、いつもカテリーナ様と一緒にいる女の子だ。


 カテリーナ様もびっくりしたような顔をしたまま固まって、唇を震わせながらその子の名前を呼んだ。


「サ、サロメ、どうして……」


「だって、そういうルールですもの。カテリーナ様こそ、どうしたんですか? ……昔から、こういうやんちゃな遊び、好きだったでしょう?」


「サロメ……!」

 カテリーナ嬢はそういって、驚愕の表情でちょっと固まった後、怒ってるのか喜んでるのか、泣いてるのか良く分からない表情をしてから再び口を開いた。


「い、痛いじゃない! ほんとに、痛かったわ! そ、それにやんちゃな遊びが好きだったのは、子供の頃の話じゃない!」


 怒っているような口調のはずなのにどこか嬉しそうなカテリーナ嬢は、足元に落ちていたボールを拾って、再度サロメ嬢と見つめあう。


 や、ボール軽いし、そんな痛くないはずなんだけど……しかし、これは、試合が始まったと思っていいのかな?

 ちょっと無理やりだけど、カテリーナ様もなんかやる気に見えるし……!よし、これこのまま試合が始まったことにしよう、そうしよう。


 カテリーナ様はボールを掴んで、まっすぐにサロメ嬢を見てる。うん、やる気だ!


「サロメ……また、わたくしと、一緒に遊んでく」

「カテリーナ様すみませんけど、先ほどお腹に当たったので、アウトです。外野に行って貰っていいですか?」


 危ない、危ない。やる気なのは嬉しいけど、カテリーナ様よくルール把握してなかったみたい。すでにアウトなのに、ボール拾って投げつけようったってそうはいかないよ。

 もう試合は始まってるんだから!


「ちょっとっ! 私の言葉を遮らないで! あなたのそういうところが、生意気なのよ! もうっ!」

 とカテリーナ嬢はプリプリして、捨て台詞を吐きながらも、後ろにいた男子にボールを渡して、ドスドス足音を鳴らしながら外野に回ってくれた。


 よかった、なんかちょっと怒ってたから駄々こねられたらどうしようと思ったけれど、これ完全に試合が始まったってことでいいよね?

 カテリーナ様の試合参加を見て、取り巻きの女の子達も、問題なく試合に参加してくれた。


 アランはチーム分けに不満そうな顔をしていたけれど、なんだかんだ私が『ステイ!』といえばステイしてくれる彼だ。大丈夫。



 結局試合は、私率いる女子チームが圧勝した。

 だって、みんなボールに慣れてないんだもん。投げるのも両手使ってサッカーのスローインみたいな投げ方するし、しかも力をいっぱい込めすぎて、一メートルぐらい先に、ボコンとボールを叩き落とすような感じの人もいるし。キャッチなんか出来るわけもなく。


 もう、完全に私無双だった。私超強い。

 シャルロットちゃんが、敵側のはずなのに、『リョウ様すごい! すごーい!』と褒めてくれるからちょっと調子に乗っちゃった。


 その後も、けっこうエキサイトして、2試合、3試合と続けてやったけれども、私のチームの勝利。もうどうしよう私、プロになろうかしら。今なら世界を取れる。


 何試合かすると、いい感じにみんな疲れてきたみたいで、呼吸も荒い。

 よし、今日はもうここら辺にして、本題に入ろう。


「どうでしょうか、皆様、楽しかったでしょうか? 実はここでお知らせがあります。現在、私は、授業内容の変更を校長先生にお願いしてます。魔法史の授業を減らして、その分、体を育てる授業、体育の授業を組み込んで欲しいとお願いしてます。体育とは、今日やったみたいに、体を適度に動かす授業と思ってください。他にも、校長先生に申請している内容はありますが……またこうやってボールで適度に体を動かしたい人は、是非こちらにご署名お願いします!」


 最初こそ、ポカーンとした顔をして、私のほうを見ていたけれど、『とりあえず今日楽しかったし、書こうかな』と言ってくれた男子生徒を皮切りに、今日参加してくれた人のほとんどの人が、署名用紙にサインしてくれた。


 やった! ありがたしっ!


 夜なべして、ボール作った甲斐があった。


 ただ、できればサインしてくれたら嬉しいなって思っていたカテリーナ嬢が、動かない。やはり、まだ恨みがましい目で私を見ている。

 なんだよ、さっきまでは一緒にドッジボールで、汗水流した仲じゃないか!

 貴女の逃げっぷり、なかなかのものだったよ!

 楽しかったんでしょ? ね?


 しかし、一向に動かないカテリーナ嬢の脇から、すらりと大人っぽい女の子、サロメ嬢が躍り出た。

「リョウ様、私も名前書くわ。楽しかったもの」


 ありがとう、サロメ嬢!

 そういえば、この子が最初にカテリーナ嬢にボールをぶつけてくれたおかげで、始めることが出来た。ほんと、色々ありがとう。


 でも、大丈夫なのかな、その、カテリーナボスとの関係は。署名もなんか勝手に書こうとしているように見えてちょっとハラハラしちゃう。


「サ、サロメだめよ!」

 案の定、カテリーナ嬢は、署名をしようとしているサロメ嬢の腕を掴んで止めようとしている。


「カテリーナ様も楽しかったのでしょう? 魔法史の授業なんかより、こっちの方が楽しいわ。カテリーナ様もそう思いませんか?」


「サロメ……」


 そういって、下を向いたカテリーナ様がプルプルと震えだした。え、どうしたの、サロメ嬢の裏切りに泣いちゃったの!?


「カテリーナ様……?」

 これには思わずサロメ嬢も困惑顔で、名前を呼びかけている。

 すると、カテリーナ嬢から、聞こえるかどうかの、か細い声が聞こえた。


「ねえ、昔みたいに、呼んで……」


 や、やだ、下を向いてるから、表情は読めないけど、声が震えてるからやっぱり泣いてるのかも? ど、どうしよ、泣いちゃった。 何で泣いてるのか分かんないし、どうしよう! 泣いてる子供の対処方が分からない!


 私が内心ワタワタしていると、サロメ嬢が、カテリーナ嬢の肩に両手を置いた。

 すると、カテリーナ嬢は、ゆっくりと顔をあげて、サロメ嬢と見つめあい始めた。


 あっ! やっぱりカテリーナ嬢、泣いてる! な、泣かないでよ!

 なんか、カテリーナ嬢をおびき出して、泣かした感じになって、私が悪いみたいじゃないか!


「……今まで、ごめん、カテ」

「カ、カ、カテリーナ様っ! どうして泣いてらっしゃるんです!? お顔が濡れてますよ! このハンカチ使って、拭いてください!」


 私が、慌ててハンカチを泣き顔のカテリーナ嬢の前に突き出すと、なにやらお話中だったカテリーナ嬢とサロメ嬢が、何故か唖然とした顔で私をみた。


 あ、よかった。カテリーナ様の涙、止まった。

 私が一安心していると、カテリーナ嬢が、ますます顔を赤くして、きっと睨みつけてきた。やだ、こわい。


「もうっ! なんで話しに割って入るのよ! もうっ! せっかく、せっかくサロメが……!」

 カテリーナ嬢に怒鳴られた。

 泣いたり、怒ったり……カテリーナ様、お、落ち着こう? ね? 落ち着こう?


「で、でも、お顔濡れてらっしゃるし……」

「分かったわよっ! 拭けばいいんでしょ! もうっ!」

 そういったカテリーナ嬢が、私が差し出したハンカチを掻っ攫うと、もう! もう! って言いながら顔を拭き始めた。

 なんか、怒ってる……た、多感なお年頃なのかしら。

 その横で、楽しそうにカテリーナ嬢を見つめるサロメ嬢が、ふと私のほうに顔を向けて、近づいてきた。


「名前、書くわ」

 署名用紙頂戴とばかりに手を差し出している。

 え? いいのかな、カテリーナ嬢怒らない? また泣いたりしない? とちょっと心配になりながらも、書名は欲しいので、恐る恐る署名用紙をサロメ嬢に渡した。


 するするとサインをしているサロメ嬢。

 しかし、やっぱり、その様子が気に食わないのか、顔を拭き終わったカテリーナ嬢が私をにらみつけてきた。


「……わかったわ! わかったわよ! 私も書けばいいんでしょう! さあ、紙を私にもよこしなさい! 特別に書いてあげるわ! べ、別に貴女のためなんかじゃないんだからね!」

 え、嘘、ほんと!? 何がどうしてそうなったのか分からないけど、嬉しい!

 ツンデレみたいなこといいはじめたカテリーナ嬢に紙を渡すと、その後、カテリーナ派閥の女の子も全員名前を書いてくれた。


 よっしゃ、 カテリーナ嬢はちょっとよく分からなかったけれど、思った以上のいい収穫!


 この署名用紙を持って、明日校長先生のところにいこう!




先ほど、活動報告を書きました。実は、リョウちゃんのイラストを貰ったんです。嬉しくって、活動報告に載せてみました…!

ご興味があればぜひ、見に来てくださいませ!

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