農村編⑧-審判のとき-
「お二人の魔法使い様にぜひ紹介したい娘がおりまして。まだ小さいのですが、この村の発展のためにさまざまな道具を生み出してくれた子なのです。ぜひ、魚を捕まえた道具や村の発展のお話はその子から聞いていただきたい」
そして、おもむろに、私はその道具のところに来て、魔法使い二人に自己紹介をした。
「はじめまして。わたしはガリガリ村のリョウといいます。3歳です。こちらの道具の説明をいたします」
魔法使いは見るからに驚いた様子で私をみた。3歳にして流暢に言葉を操っているのと、さっき村長が説明していた子どもはマジでこんなガキなのか! という驚きの表情です。
せいぜい恐れおののくがいい! 神がかり的な私のプレゼン能力で、魔法使いより価値がある子どもであると、両親に示さねば!
そして私は、身振り手ぶりで、つっかえることもなく小魚用の罠とその仕組み、そしてその仕組みを応用して大きな魚を捕まえることが可能であること、そして、千歯こきについての説明とまだ改良の余地があることを話した。
「・・・・・・なるほど、千歯こきを使うことによって、作業時間を短縮し、その時間で藁を編む・・・・・・。そしてその藁で作った道具で、魚や野草を収穫できると・・・すばらしいですね! 他の農村にもこれは広めなければ・・・・・・!」
少年魔術師のリュウキが興奮冷めやらぬ様子で立ち上がり、千歯こき、そして藁で作った道具を触りながらどういう仕組みか確かめるようにいろいろな角度から見始めた。
おとなしそうな顔してこいつよく動くな。展示物は勝手に触らないのがマナーよ! 展示物じゃないけれども。それにしても食い入るように道具を見てるが・・・なんか説明したほうがいいのだろうか。
「藁は植物で豊穣のしるしだし、木材も植物か・・・農具だし。創生することはとどめることだから・・・。村長、すみませんが、藁を何本かと、木材をいただけませんか?」
魔法使いリュウキさんは高いテンションのまま意味わからんことを言って、村長に注文をつけた。
突然話を振られた村長は、あわてながらも、近くにいた女性に声をかけて、藁を10束ほどと、木の棒を持ってこさせる。
リュウキさんはその中の藁を3本ほど手に取ると、何かを唱え始めた。
「イネツケバ カカルアガテヲ コヨヒモカ トノノワクゴガ トリテナゲカム アマツカゼ クモノカヨヒジ フキトヂヨ オトメノスガタ シバシトドメム」
すると、リュウキさんの手に持っていた藁が、勝手に動き出し、いつの間にか小魚用の罠が出来上がっていた。
魔法使い様の突然の魔法の出し物に村のものが「おおー!」と大興奮。
私も大興奮。なにこれ、すごい。魔法使いどんだけだ。
しかも、藁3本じゃ、この魚の罠は作れないんだけど! 足りない分はどうなってんの! 不思議!
そして、観衆の声など聞こえないかのようにリュウキは、木材を手にとって、土にぶっさしてまた呪文的なものを唱えると、木材が大きくなって、私(実際はおにいちゃんだけど)が作った荒削りの千歯こきよりもきれいで立派な千歯こきが完成した。
またも村人大興奮。
まじかよ。なんかもう、すごいを通り越して、怒り? 嫉妬? なんともやるせない感がすごいよ!
この千歯こき、作るのどんだけ大変だったか!
腕を怪我しそうになりながら(兄が)、手なんかがさがさに荒れたし(兄が)、寝る間もおしまず(兄が)、時間かけて、荒削りだけども丁寧に丁寧につくったのにー!(兄が)
それがあっという間に、しかも出来もいいし。
ぐやじいいいいいいいい
私が心の中で、悔しさにのた打ち回りながら、目から破壊光線を発射しているのにも気づかない様子で、魔術師リュウキさんはさわやかに本当に楽しそうに微笑みながら私のほうにやってきた。
「ありがとう。この道具は本当にすばらしい。これがあれば、開拓事業もうまくいくはずだ!」
私は引きつる頬をどうにか押さえながら、お役に立てたのなら何よりーみたいなことを伝えた。
そしてその流れを見守っていた村長がとうとう動き出した。
「魔法使い様方。こちらの道具を見ていただきご理解いただいているかとは思いますが、この娘、本当に利発でしてね。村の中では、魔法使いなのでは、と言われておりまして・・・どうでしょうか?」
一瞬周りが静かになった気がした。村の人たちも、リョウちゃん魔法使いかも事件に興味津々なのだ。
「なるほど。確かに、このような道具を作れるというのは稀なる才能ではある。基本的には魔法の発現は遺伝ではあるが、たまに突然王都から離れた村で、強力な魔法使いが生まれることはある。調べてみよう」
村長の話を受けて、鷹揚にうなづいた精霊使いのセキが、私を手招きしている。
魔法使いかどうかを調べるらしい・・・。
とうとう審判のときがきた。
ていうか、リュウキさんが使った魔法をみて、まだ私が魔法使いかもと思っている人はいるのか? ぜんぜん違うじゃん、根本的に違うジャン! 私と魔法使い、ぜんぜん違うじゃん!
そう思って、村人、両親の顔をみると、みんな期待に満ちたきらきらした顔を私に向けている。
くっ、だめだみんなあきらめていない。きらきらした目で私をみないで!
しかしなるようにしかならない。私はゆっくりと精霊使いのセキのところまで足を運んだ。