学生活動編⑦ 本物の玉投げの準備
次の休日。なんかこそこそしてる様子のサロメ嬢が私が暮らしている寮の部屋にやってきた。
「ここで貴女と立ち話しているのがバレたら少し困るの。中に入れてくれる?」
「……いいですけど」
なんか、そわそわスカーフを被りながら、そうおっしゃるので私はとりあえず、サロメ嬢を部屋の中に入れて、イスに座ってもらった。
どうしたんだろう。この前、本物の玉投げとかなんとか言ったから、カテリーナ嬢の取り巻きのお一人が単身スパイでもしに来たんだろうか……。
「すごく部屋が散らかっているけれど、どうしたの?」
サロメ嬢は床に散らばっているものを見下ろしながら眉をしかめた。
床には、綿とか獣の革、それと裁縫セットなんかが転がってる。
いや、いつも散らかってるわけじゃないよ! 今日は準備があるから、準備があるからだよ!
「今日は特別です! サロメ様がいらっしゃると事前に分かってたら、整えていたのに。今日は、ほら、準備があったので……カテリーナ様との件で」
私がカテリーナ様の名前を出すとサロメさんは、汚い私の部屋を見ていた目を一瞬にして、私に向けた。
「そう、私、その件について伺いたいの! 一体何があったの?」
「何がって……聞いてないんですか?」
サロメ嬢、カテリーナ嬢の取り巻きでしょ? しかも基本的には一緒に行動してる、取り巻きの中の取り巻きなイメージ。
「いえ、概要は聞いているわ。休み明けに、何か玉投げ? というのをやる約束をしたのでしょう? カテリーナ様が知り合いの女の子達幾人かに声をかけていたわ」
「ええ、そうです。投げることがお好きのようだったので、本当の玉投げを教えようかなと……」
「意味がわからないわ!」
くわっとした顔で、サロメ嬢は盛大に突っ込んだ。
あ、うん、私もね、冷静に考えると、なんか意味わかんないこと言ったなって思ってたんだけど、やっぱり? だって、ほら、卵くれるからちょっとテンションがあがってね……うん。
でも、もしこの作戦がうまくいったら、結構色々いい方向にいける、はず……!
「それよりも、カテリーナ様は、何人ぐらいの女生徒に声をかけてますか?」
こっちも、ちょっとばかし情報を投げてあげるんだから、そちらの情報もおくれとばかりに、質問を投げかけた。
サロメ嬢は、右手の人差し指を顎に当てて、すこし考える仕草をする。
なんか、いちいちサロメ嬢って、色っぽい、ていうか大人っぽいんだよね。うーん。
「何人だったかしら……えっと、確か……15人ほどよ。いつもカテリーナ様を囲っている女の子達だけに声をかけていたわね」
15人か……ちょっと少ないなー。念のためにアランやリッツ君にも声を掛けて、人を呼んでもらおうかな……。リッツ君、人当たりいいから友達多いし。
「ねえ、ちょっと! そんなことより! 一体どうしてそのような流れになったのか教えてくれる!?」
なんか、サロメ嬢が必死だったので、あの時の状況を説明することにした。
あの時の籠持ち集団の中にサロメ嬢いなかったからね。
サロメ嬢含む一部の女子は、アラン達が待ち合わせに遅れるように、足止めのようなことをしていたらしい。
私が一通り話し終えると、サロメ嬢は神妙な顔つきになった。
「ねえ、カテリーナ様は……本当にそう言っていたの? その……『立場しか見てないのは、私を魔法使いとしてしか見ないのは、あなた達のほうじゃない!』って……」
「はい、確かにおっしゃってましたよ」
わたし、記憶力には自信あるの。
「そう、カテリーナ様が、そんなことを……」
サロメ嬢がなんか悩ましげな顔で口元に手を添える。
なんだろう、この子、私の同じ年のはずなのに、この妙な色っぽさ! まだ11歳かそこらだよね!? 泣きボクロのセクシーさがやばい。髪の毛のクルクルは天然だよね? いいなー。
万が一、この学校でミスコンが開かれたら、私の有力なライバルになるかもしれない。ここは一つ私も何かセクシーなワンポイントを作ってみようか……。いや、それよりも彼女のセクシーな仕草をちょっと拝借して……。
「それでは、聞きたいことも聞けたし。私は出て行くわ。結局……貴女がやりたいことはよく分からなかったけれど……」
私が、より美しさを求めて考え込んでいたら、いつの間にかサロメ嬢が帰りの準備をしていた。おそらく変装のつもりなのか、またスカーフを頭から被っている。
「あ、はい。周りの方に見つからないように気をつけてくださいね」
「もちろんよ」
彼女はそういって、ウィンクをすると、部屋から出て行った。
ていうか、スカーフ被るって……あの姿で動くつもりなのかな。余計に目立ちそうだけど。
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「おい、聞いたぞ、リョウ! とうとうカテリーナ一派とやりあうんだって!?」
学校へ登校すると、アランが眩しすぎる笑顔で、いつもの席に着席していた。
「はい、よく知ってますね」
「リッツに聞いたんだ! リョウ、水臭いぞ! やるならやるって俺にもちゃんと言えよな」
ちょっと荒ぶるアランの隣で、リッツ君が手を上げて挨拶している。
ああ、リッツ君は知り合い多いから、人づてで聞いたのかな。
「ああ、すみません。この前決めたばかりですから」
あと、アランに言うと、抗争戦争だと思われて大事になりそうだったから。
「さすがに、リッツ君は耳が早いですね。誰かから聞いたんですか?」
「うん、そんなとこ! ていうか、ほとんどの2年生は知ってると思うよ。とうとう、謎の伯爵令嬢が動いたって、朝からすごい噂だから」
噂になるほどに!? ていうか謎の伯爵令嬢って……私、そんな扱いなの? 何も謎めいてないはずなんだけど……。
まあ、いいや。すでに知ってるなら話が早い。
「それで、リッツ君にちょっとお願いがあって……」
「なんで、リッツにお願いするんだよ! 俺がいるだろ!」
私がリッツ君と話しをしていると、アランが鼻息を荒くして、話しに割り込んできた。
多分、抗争勃発だと勘違いして、興奮気味のアランは、どこか浮き足立っている。
「まあ、アランでも、できるならいいんですけど……すこし人数を集めたくて、できれば10人ほど、放課後人を集めて欲しいんです」
「10人か……なるほど。リッツ、お前知り合い多いだろ? 何人か見繕ってきてくれ」
アランはなんか小難しそうな顔をして、リッツ君に指示を出した。
結局リッツ君に頼むんかい!
そして、リッツ君に指示のようなものを出して、心なしか一仕事やり終えた感を漂わせるアラン氏。
ごめんね、リッツ君、ホントこの子、こんなでごめんね。
私謝るから、これからもいいお友達でいてあげてね。
「10人ぐらい? いいけど……危ないことはしない?」
リッツ君が、私のほうをみて、心配げな顔をしている。
大丈夫、別に危なくないと……思う。多分。
「危ないことではないとは思います。ちょっと疲れるけど、楽しいことです」
「リョ、リョウ様、私も! 私も、行きますから!」
シャルロットちゃんが、恐々と言う感じだけど、手を上げて宣言してきてくれた。
多分、まだカテリーナ様とのこと、自分のせいだって思ってるのかな。ほんと、そんなことないのに。
でも、参加してくれるのはありがたい。
「ありがとう、シャルロット様! それでは、放課後に図書館の近くの空き地で」
私がそう声を掛けると、アランは興奮気味に、シャルロットちゃんは恐々と、リッツ君は面白そうに、それぞれ頷いた。









