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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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学生活動編③ 双子かもしれないし

 あの後の……ヘンリーの野郎が、メリスさんに失礼を働いて、思わず私が声かけちゃった後の人身紹介所は大変だった。


 結局ヘンリーの野郎は、メリスさんを買わずにそのまま帰っていった。

 そして買わなかった理由が私がいたからだとオーナーの小太りに責められて、コウお母さんと一緒に追い出された。


 私が、声をかけてしまったばっかりに、コウお母さんのお仕事の一つをつぶしてしまった様だ。


 でもコウお母さんは、『割りは良いけれど、あんまり気持ちのいい仕事じゃないし、もともと紹介してくれた人への義理立てで始めたようなものだから。向こうから断ってくれるんなら、むしろありがたいぐらいよぉ』とは言ってくれた。

 それは本当っぽかったけれど、でも、ごめん、だって、びっくりしちゃったから、思わず、後先考えてなかった……。


 だって、ヘンリー様……。キザだけど、結構いい人枠なんだと思っていたのに……。


 ああ気が重い。だって休み明けの今日、学校に行かなくちゃだ。

 学校に行くってなると、ヘンリーの野郎と顔を合わせることになると思う。何食わぬ顔でいればいいのかな。


 メリスさんを買わないって言ってあっさり帰っていったけど……一体なんなんだろう、あの人。ていうか、カイン様がヘンリー野郎と仲良くしてるように見えるのが気になる。カイン様は知ってるのかな?


 正直署名活動の時にもしかしたらヘンリー野郎に協力してもらえるのかもしれないとちょっとだけ淡い期待を抱いていたから、もう、なんていうか、もう想像以上にショックがでかい。


 どぎまぎしながら、講堂に入ってみると、ひとまずヘンリー野郎はいなかった。


 よ、よし……。

 私は気を取り直して、いつもどおり、魔法史の授業を受けるためにシャルロットちゃんの近くで腰を落とした。

 あんまりビクビクしてもしょうがないし、むしろ私がビクビクしてるのもおかしいし!


「やあ、ヒヨコちゃん!」

 声のしたほうを振り返るといつもの爽やかスマイルヘンリー野郎。今来たばかりのようで、野郎は講堂の入り口から、私のほうへ歩いてきて横に立った。

 色素の薄い金髪に、アメジスト色の瞳、顔は柔和に微笑んでいて……いつもの王子然としている彼だ。


「今日のお昼休み、私に時間をくれないかい?」


 く、口止めかしら……べ、別にいうつもりなんて……。


「あの、別に私、言いふらしたりとかは……」

「少し話をしてみたくなっただけだよ。昼休み、来てくれるね?」

 有無を言わせない迫力を声に潜ませながら、彼は言った。

 ヘンリー野郎からしたら、口約束だけじゃ不安なのかな……。

 

 うーん、ヘンリー野郎の無言の迫力が怖すぎて、誘いを断れる気がしない。めっちゃ顔は笑ってるんだけど、断ったら何されるか分からない感じがする。

 とりあえず大人しく話を聞いてみようか。


「……分かりました」

「それでは、昼休みになったら、迎えに行くよ」


 そうですか、お迎えですか……。

 昨日のことさえなければ、イケメンのお誘いに舞い上がっていたかもしれないね、うん。


 そして突如現れたヘンリー野郎は、颯爽と去っていった。さわやかだ。でも、もう純粋に爽やかステキー! って言える程の広い心が私にはないよ。すまないね。


「リョウ? ヘンリー王弟と、なんかあったのか?」

 いつも私の後ろの席に座るアランが訝しげな声で話しかけてきた。


 なんかあったと言えば、なんかあったんだけど、言うわけにはいかないし。言ったら、アランも含めてあのヘンリー野郎から何されるか分からない。


「いえ、何かあったわけではありません」


「でも、さっき、昼休み誘われてた」


「ええと、ですね、実はあれです。署名のことでヘンリー様にも相談していて、その件なんです」


「じゃあ、俺も一緒に行く」


「いやーそれもちょっと……。あ! 先生がいらっしゃった! アラン、この話は終わりです。授業が始まります!」


 いいタイミングでやってきた先生に感謝して、私は無理やりアランの追及を避けることに成功した。

 後ろに座っているアランから、めちゃくちゃ不機嫌なオーラを感じ取る。ごめん、アラン。嘘をついてしまった親分を許しておくれ。でもこれも子分を巻き込まないためなのよ!


------------------------



 アランの追及をどうにか逃れて、とうとう昼休みになると、約束どおりヘンリーの野郎がやってきた。ヘンリー野郎にスマートにエスコートされながら、講堂を後にする。ちょっと羨ましそうに私を見るご令嬢方の視線を感じるけれども、全然羨ましくないからね。


 これから一体どんな展開が待っているのか分からず、冷や汗を流しながら、スカートの下の武器なんかを布越しに確認して、緊急時にも対応できるように脳内シミュレーションをしながら、歩いた。


 顔面蒼白な私とは打って変わって、いつでも爽やかなヘンリー野郎は、やっぱり爽やか。


 ん?

 ……あれ?

 もしかして、昨日の人って別人なんじゃない? だって、こんなに爽やか。

 実は双子とかなんじゃない? 双子の片割れはすごく悪い奴でー、昨日はその悪い奴がー、みたいなことなんじゃ!


 私は、爽やかなヘンリー様を見て、双子説が浮上した。


 双子の良い奴の方かもしれないヘンリー様は、校舎からズンズンはなれていき、大きな滝のある場所についた。学園内にこんな滝とかあるんだ……。とか思っていると、その滝の裏側にある洞窟のようなところに案内された。


 なんか秘密基地っぽくて興奮する。


「ここは、光の精霊もいないし、滝があるから風の魔法を使って声拾うこともできない。密談にはもってこいの場所なんだ」


 ヘンリー様は、特別な秘密基地を紹介する少年のような純粋な笑顔でそう言った。


 ああ、やっぱり双子なんだな。


 こんな無邪気に笑う人が、あんなさ、『もし、貴女をあの男より先に私が買い取ったら、彼はどんな顔をするのかなってね』みたいな気持ちの悪いことを言うはずないよね。


 きっと王族は双子が生まれると禁忌とかなんでしょ。よくあるよね! 分かりましたヘンリー様。私分かりました! 双子なんですよね!

 私、双子のことは言いません! その代わりに署名活動を手伝ってくれたりしたら、なお都合よし!


「早速なんだけど、昨日のことは勘違いしないで欲しいんだ」

 ええ、分かってます、双子ですよね。一卵性なんですよね。王族って大変ですよね。


「私は、人間のことも好きだけど、特別って訳じゃないんだ。牛や豚やヤギ、それに鶏も平等に好きだ」




 ……え?


 何、いきなり。なんの話をしてるの、この人……牛に豚? ふ、双子の話は?

 私は多分ポカーンという顔をしたと思う。ヘンリー様は、その様子を見て少し笑ってから言葉を続けた。


「昨日、君とちょうどあの場で居合わせてしまったから、私が人間だけを特別扱いしてると勘違いしているんじゃないかと思ってね。私は、人間だけじゃなくて、家畜は平等に好き……いや、愛している。それがどうしても伝えたかった」


 いや、話の意図が見えない。何の話をしてるの? え? 双子は? 双子はどうしたの?


「少し、意味が、分からないのですが……」


 意味が分からないという私が意味分からないようで、ヘンリー様は首を傾げ始めた。


「なんの意味がわからないのかい? ああ、そうか、唐突過ぎたかな。実は……以前、ある人間の雌にね、私が特別人間がすきなのだと勘違いされて、発情されたことがあったんだ。どうにか諌めたが……あれには驚いてね。今後は勘違いさせないようにしようと思ったんだ」


 ハハハと、そんな爽やかにヘンリー様が笑いかけてるけれども、私、まだ話しに追いついてないんだけど!?


 人間の雌? 発情……。


 女性に襲われそうにでもなって、実は女性恐怖症で……それで、あの店にいることで女好きだと思われたくないということ?


 いや、やっぱり意味が分からない、それじゃあ、豚とか、牛とかの話は何? 女性が苦手なら、あの店に行く意味は? 


 もしかして、この人……。


「ヘンリー様は、魔法を使えない人のことを、牛や豚や鶏と同じように……家畜か何かだと思ってらっしゃるということですか?」


 聞くと、今さら何を聞いているんだい?と言う感じで、驚いた顔をした。


「ハハ! 思うも何も、実際そうだろう?」

 悪ぶれもなく、いつもの爽やかな笑顔で答えた。


 今日呼び出したのは、女性を買おうとしていた件の口止めじゃなくて、わざわざ人も家畜と同じだから、特別だと思うなよ、勘違いすんなよって言いたいため?


 一部の魔法使いは……王族は、魔法を使えない人を家畜のような存在と思ってる? 


 いや、でも、魔法使いと魔法が使えない人とで結婚するのはメジャーだ。自分の伴侶を、そんな風に思う人はいないだろう……多分。いや、それも夢を見すぎ?

 少なくとも、私が見てきた魔法使い……アイリーンさんはちゃんと夫であるカーディンさんを愛してた。


 王族の魔法使いだけがそんな風に考えるのだろうか……それともヘンリー野郎だけ?


「……魔法使いも、魔法が使えない人も、同じ人間です。少し能力に差があるかもしれませんが、でもそれだけです。魔法が使える、使えないなんて、その人のちょっとした個性です」


 しまった。思わずムカムカして口を出してしまった。もともと何を言われても反抗するつもりなんてなかったのに。

 魔法が使えることがちょっとどころの優位性じゃないのは理解してるけど、でも、だってあんなこと言われたら、穏やかな心に定評のある私だって怒っちゃうよ……!


 うん、思ったよりもショックが大きかったのかもしれない。直前に、署名活動に協力してもらおうとかいう期待をしてしまったのがいけなかったかも。


 ヘンリー野郎は、少し眉を顰めた。しかしすぐに機嫌を直したようで、面白そうに口の端をあげる。


「この国で買われている牛や豚の種を知っているかい?」


 何、突然……。


「知ってますけど……牛は、確か病気に強くて、乳がたくさん出るカーギック種という茶色の牛です」


 豚もなんでもよく食べて肉付きのいい種を飼っている。ルビーフォルンの家畜について勉強した時に知った。


「そう、なら分かるはずだ。カーギック種の牛は、他の野生の牛の種と比べて圧倒的に数が多い。私達が飼っているからだ。豚や鶏もそうだ。私達が飼っている種はほかの野生種と比べてより広い範囲で繁栄している。飼われている牛や豚は理解しているよ。より美味しい肉となることが、より多くの乳を出すことが、私達に飼われることに繋がり、自分達の種の繁栄を意味することを知っている。だから、日々私達のよりよい糧になるために過ごしてる。人間も一緒だ。より従順に魔法使いに尽くすことで、繁栄できている。魔法使いによって、人間は生かされている。なら人間は、私達魔法使いに飼われている家畜ということだと、そう思わないかい?」


 そう、いつもの爽やかな笑みで問いかけてきた。

 なんか、頭が、かっとなった。


「飼っているだなんてよく言えますね! 結局手に余って、開拓村なんか作って放置して、餓死させてるじゃないですか! 飼い主を名乗るのなら、私達を家畜だと言うなら、きちんと世話をしてから言っていただけますか?」


「ハハハ、これは威勢がいい! そこをつかれると痛いが……見捨てられたのは、私達に尽くす努力を怠っていたからではないかな? ふふ、まあいい。君はやっぱり面白いよ。私は従順な家畜を好むんだが、こういうじゃじゃ馬を馴らすのも、いいかもしれない。君は、毛艶もいいし、血色もよくて、清潔で綺麗だ。健康的で、そのうえ丈夫だから、気に入ってはいたんだ。次の休み、私に時間をくれるかい? 君と一緒に、牧場に行きたい」


 ヘンリー野郎は特に懲りた様子もなく、実に良い提案だ! と言いたげな満面の笑みを私に向けていた。


 ていうか、私に対して、畜産関係の品評会のような褒め言葉を並べるのはやめて!


「嫌です」

 なんで、下衆野郎と牧場デートせなならんのだ。


「驚いた! 私の誘いを断ったのは君が初めてだよ。うーんしかし、困ったな。私はどうしても君と牧場に行きたい。豚や牛達と戯れるキミは、さぞや絵になるだろう……そうだ! ひよこちゃん、何か学校へ要望があるのだろう? 校長から、遠まわしに協力してくれないかどうか尋ねられたよ。付き合ってくれるなら、協力を考えてもいい!」

 え、校長先生、何てことを勝手にお願いしてるんだ。わしも頑張っちゃう!とか思って、影で動いたつもりなのかな……余計なことを!


「いいえ、結構です」

 私はそう言って、正直もう同じ空気を吸いたくないので、ここから立ち去ろうとスタスタと歩き出す。


「まあまあ、そういわずに。きてくれないと、協力どころか妨害をしてしまうかもしれないよ?」

 コ、コイツ! この下衆野郎! 顔がかっこいいからって何でも許されると思うなよ!


 私は振り返って、下衆野郎をにらみつけた。すると、『元気なことはいいことだ!』とでも言いたげな温かい目で私を見ている。


 ヘンリー野郎の本当に怖いところは、悪意のようなものがないことだ。人間を家畜扱いしていることを話す時も、そこになんら悪びれた様子がない。それが当然のことのように思って、失礼なことだとか微塵も思っていない。


 彼は私と話している時ずっと、爽やかに、何の含みもなく、純粋に笑っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんかこの一話にキチガイ要素ぎゅっと詰め込まれてんな ごめんだけどこれだけは言わせてくれ、双子とか思わんだろイカれてんのか?
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