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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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学生活動編② 人身紹介所

 市場でお店を出す! と決めたけれども、それをするためにはとりあえず、お小遣い稼ぎ。

 そこをシャルロットちゃん達にお願いは出来ないので、自力でバイトで稼ぐ。バイトと言っても、コウお母さんのお手伝い。

 多分クロードさんとかに言えば資金を融資してくれそうだけど、見返りが怖いから絶対にやりたくない。

 バッシュさんにも仕送り以上のものは遠慮したい。だって、あそこちょっと貧乏臭がするんだもの。


 コウお母さんのお手伝いって、だいたいいつもは店番とかをするんだけど、今日はコウお母さんと一緒に出張のお仕事をすることになった。ちょうど学校もお休みの日なので、私も出張させてもらう。

 出張先は、なんと驚き、人身紹介所。つまり奴隷屋さんだ。初めて行く。

コウお母さんは最近、薬売りというよりも美容関係の仕事が増えてきていて、たまにこっそりお貴族様が店にきたりもしている。その伝手ツテで、今回の人身紹介所の仕事が入ったらしい。


 人身紹介所の商品は、もちろん人。人なのだ。特によく売れる商品は女性。あと子供。これがまた、悲しいことに、見た目や年齢、処女であるかないかとかで査定され、値段がつけられている。なんていうか、ちょっと気分の悪くなるお話だ。

 少しでも高く買ってもらうために、売出し中の商品を綺麗に見せることが必要なので、コウお母さんの美容手腕が求められたということです。

 カリスマ美容家はこんな仕事もあるのね。


 コウお母さんは、最初、私が一緒に行かないほうがいいんじゃ? と気遣ってくれたけれども、私も、お小遣いが欲しいし、人身紹介所というものをこの目で見てみたいという思いもあってお手伝いさせてもらうことになった


 人身紹介所は王都の真ん中の方にある。こんな中心地に堂々と! と思うけれども、この国では別に違法な店じゃないらしいので特に取り締まられたりしない。


 ああ、売られた子達を思うと心が痛いよ。私も経験済みだもの! 私は未だに銀貨が三枚揃ってるのを見ると、むしゃくしゃして、思わずふんだくって投げつけたくなるね!


 きっと、不衛生で小汚い場所で、女の子達が閉じ込められて、目を真っ赤に腫らしているに違いない……と思っていたんだけれども、おもったよりも人身紹介所は綺麗だった。生意気にもなかなかいっぱしの建物だ。


 結構分厚い絨毯が敷かれた通路に、白磁の壁。オシャレに彫刻のようなものが掘られている柱もある。生意気だ。


 いいや、でも騙されないぞ! 売られた女の子がいる部屋はきっと豚小屋みたいになっているんだ! と思いながら、女の子達が集まっている控え室にきてみたけれど……やっぱり清潔なところで、むしろ私の寮の部屋より綺麗なんじゃない? と思えるほどだった。

 一つの部屋に、女の子が集まっていて、係りの人に呼ばれると買ってくれるかもしれない人とご対面というシステムらしい。

 ただ、例外もいて、ものすごく高い値のつきそうな子の場合は、別途個室が設けられるらしい。


 そして、肝心の女の子達も、悲嘆に暮れているというよりは、なんというかギラギラしている。前世で合コンなんていったことなかったけれど、でも多分この雰囲気は合コン前の女性が集まったらこんな感じじゃないだろうかと思われた。


 コウお母さんの仕事の手伝いをしながら、おねいちゃん達の話を聞いてみると、奴隷斡旋所というよりもお仕事斡旋所っていう感覚に近い。


 誰よりも美しくなって、少しでも位の高い貴族に見初められたい系の肉食女子の集まりだった。夫に売られたり、親に売られたり、親が病気で死んでしまって、という人もいたけれど、仕事が見つからなくて、自ら進んで売り込んでる人もいて、みんなあっけらかんとしている。クロードさんが買ったというあのメイド3人衆もこんな感じだったのかな……。


「リョウちゃん、次は個室の女性のところにいくわよ」

 一通り大部屋の女性のお化粧が終わると、コウお母さんは私にそう声を掛けた。個室の女性ってことは、目玉商品ってことか……。


「はい! 個室ってことはなんかすごい方なんですかね?」

「聞いた話だと、王都の結構老舗の商店の娘だったみたい。でも、事業に失敗して、借金返済のために娘を売ってしまったらしいわ。大部屋の女の子達は、元気だったけど、その子は落ち込んでるかもね……」

 

 そんな話しをしながら、問題の個室にノックをしてから入ると、清楚な感じの女性がいた。16歳ぐらいかな? 栗毛色の髪を肩の辺りまで伸ばしてて、けっこうな美人だと思う。

 ただ、見た感じ、明らかに落ち込んでいて、顔面蒼白だし、目の下に隈ができてる。ただ、その儚げな感じが余計に綺麗にさせていた。薄幸美人というやつかな? 名前は、メリスさんというらしい。


「私はコーキ。早速だけど髪と顔の手入れをします。この子は手伝いのリョウ」

 簡単に自己紹介をしたコウお母さんのことをその薄幸の美少女がうつろな目で見つめる。


「……化粧を施すの? では、私を買いたいというものがいるのね」

 化粧を施すのは、買主候補と面会する時だけに行なう。だから、化粧をするということはそのすぐあとに、面会の予定があることを意味していた。


 この人は、さっきまでお話していたギラギラの女性達とは違って、ここにいるのが嫌なんだ。それもそうか、売られるなんて……。私は昔を思い出して、胸が痛んだ。


「ええ。受付の方から聞いた話だと、昔から貴女のことを知ってる人で、確か名前はジョシュア」

 コウお母さんが、オネエ言葉を隠しながらそう言うと、ニヤリという感じで笑ってメリスさんを見た。

 そしてメリスさんは目を見開く。

「ジョシュア!? 本当なの!? ジョシュアが! ああ、ジョシュア!」

 メリスさんはいきなりそう叫ぶと、感極まった様子で、ぶわっと涙を流し始めた。

 慌てたのはコウお母さんだ。


「ああん、ちょっと! 血色が良くなったのは良いけれど、隈とかで既にひどい目を腫らさないでくれるかしら!?」

 オネエモードになったコウお母さんは、慌ててそう突っ込みながら、化粧を施した。オネエモードに戻ったコウお母さんだけど、メリスさんはそれどころじゃないらしく特に気にしてなかった。


 いっきにテンションがあがったメリスさんは、「もっと! もっと! 私を美しくして! なんでこんなに肌が荒れてるのかしら!」とか良いながら、コウお母さんに化粧をされていた。


 上機嫌のメリスさんから話しを聞くと、どうやらジョシュアというのは幼馴染の男の人で小さい頃から結婚の約束をしていたらしい。でも、自分が売られたので、その夢が潰えてしまったのだと絶望していたようだ。

 しかし、そのジョシュアという人がきてくれた。つまり、自分と一緒になるために迎えに来てくれたということらしい。


 なかなか、いい話じゃないか。迎えに来てくれるなんて……私、そういう話し嫌いじゃないよ。

 コウさんが、メリスさんのお化粧を終わらせたので、案内係の人が、ジョシュアさんを呼びにいったと思ったら、ものの数秒でバタバタとあわただしい足音を響かせながら、乱暴に扉が開いて一人の男性が現れた。


 ちょっと、レディの部屋に入るときはもうちょっと気を使ってよね!


 とかいう突っ込みをする前に、ジョシュアとかいう男は、メリスさんに抱きついて、メリスさんも抱きつき返す。


 あ! ちょっとそんなに頭をまさぐったらせっかくコウお母さんがセットした髪が崩れるじゃないか!


 と突っ込みたかったけれども、既に仕事を終わらせた私とコウお母さんは壁に背中をくっつけて待機モード。防犯のために、何人かは部屋で従業員が待機をするような流れだった。お二人のオアツイところを覗くみたいで、申し訳ないね。


「メリス! 元気にしていたかい? ひどいことはされてない? 遅くなってすまなかった! 君の父上がなかなか君の居場所を教えてくれなくて……!」

「ああ、いいのよ、ジョシュア。もう、貴方が来てくれたことだけで、私嬉しいの!」


 彼らは、一通り愛の言葉をささやき合うと、傍観している私達に気づいて、ちょっと恥ずかしそうにして、愛のささやきタイムは終了した。

 すまんかったね。邪魔したね。


「メリス、君をすぐに連れ去りたいんだが……すまない。君を買えるほどの蓄えが僕にはなくて。必ず、必ず君を連れ戻すから信じて待っていて欲しい。お店の人にもお願いをして、2週間は君を予約済みということにしてくれることになった。それまでに必ずお金を工面してみせるよ」


「ああ、ジョシュア、ごめんなさい。貴方が身を粉にして働いて得たお金なのに……私一体どれくらいの金額なの? 無理していない?」


「君を手に入れるための無理なんか無理じゃないよ、全て喜びだ。だから、メリス、金額のことは気にしないで。それに、君の金額が跳ね上がっている理由の一つに僕は喜んでいるんだ」

「理由?」


「そう、君が……処女だっていうことさ!」

「や、やだ、ジョシュア! 恥ずかしいわ。当然じゃない、だって私のかr」

 メリスさんが赤面しながら、もっと赤面しそうなセリフを吐きそうなところで、コウお母さんに耳をふさがれた。子供は見ちゃいけませんとでも言いた気だ。


 私とコウお母さんのやり取りが二人の目にも入ったみたいで、他人がいる前で結構恥ずかしい話をしていた二人は、既に真っ赤な顔をさらに赤くさせてもじもじしていた。

 気づいて恥ずかしがるぐらいなら、言わなければいいのにね、愛する二人って大変なのね。


 もじもじしながらも、それでもしばらく愛をささやき合ったジョシュアさんは、やっと部屋をあとにした。別れ際も何度も名前を呼び合って別れを惜しむ二人が、本当に好き合ってるんだなーと思えて、ちょっとほっこり。


 ジョシュアさんと離れてさびしそうにしているけれども、私が初めて会った時のメリスさんと比べれば断然活力がみなぎっている。


 もう化粧も終わったし、面会も終わって防犯待機も終了だから、お化粧道具類を整えて、部屋から出ようとしたら、また扉が開いた。


 ジョシュアさんが戻ってきたんだろうか? まったく、レディーの部屋に入るときは気をつけてっていってるじゃない。実際には口に出してないけど。


 と思って扉のほうを見てみると、フードを深く被った、女性? いや、少年のような人物が扉の前に立っていた。フードで顔全体は見えないけれど、鼻から下の辺りを見る限りは、なかなか整った顔をしている気がする。というか、若干見たことがある気がする。


 その謎のフードの脇から小太りな男がやってきた。確かこの店のオーナーだ。


「いやー、こちらの女性が現在当店オススメの商品です。見目も麗しいですし、商人の娘なので、読み書きや計算もできます。そして何より、若くて……処女です!」

 処女の部分を強調して言い放ったこの小太りはニタニタと営業スマイルをそのフード男に向けていた。

 メリスさんを売りつけようとしてるの? でも確か、さっきジョシュアさんが……。


「私はジョシュアに! 先ほどの男性に私を譲るお約束をされたと聞いています!」

 メリスさんが、必死の形相でオーナーに食って掛かった。そうそう確かにジョシュアさん言った。2週間予約済みにしてくれるとか。


「何をいうか。あの男の約束なぞ知らん。所詮は口約束だ。それにこの方は特別な方だ。あんな貧乏くさい男よりもこの方に買われたほうが、お前も幸せになれるぞ」

「そんな! ジョシュアを騙したのね!」

 憤るメリスさんを気にする風でもなく、フード野郎は、こつこつとメリスのほうに近づきながら、口を開いた。


「さっきの男との話、実はこっそり聞かせてもらったよ。睦まじくて実に素晴らしいと思う。私はああいう話に弱いんだ。だから、ついついこう思ってしまった。もし、貴女をあの男より先に私が買い取ったら、彼はどんな顔をするのかなってね。君も気になるだろう?」

 彼は当然のようにそう言い切ると、すでにメリスさんの近くまで来ていた。メリスさんは、フード野郎のなぞの迫力に負けた様子で、固まっている。

 気味が悪いことを言っているはずなのに、何故か迫力があって、何か逆らえないような威圧のようなものが感じられた。なんというか、その声も、どこかで聞いたことがある。

 そして、彼は、メリスさんの肩に手を置いて、呪文を唱えた。


「アサボラケ ウジノカワギリ タエダエニ アラワレワタル セゼノアジロギ」


 呪文が唱え終わって、メリスさんの服がボロボロと崩れかかっている。あの呪文は魔法の解除の呪文だ。


 すこし薄くなったように見えるメリスさんの服は、魔法で紡がれた糸で織られた服か……。今にも崩れそう。糸車が普及していて、減っていると聞いていたけれど、なくなったわけじゃない。


 魔法で紡いだ糸は、どういう原理か分からないけれど、魔法で水増しされている。綿から糸を紡ぐ際、魔法で紡いだほうが量が増えていて、レインフォレストで小間使いをしていた時驚いた覚えがある。

 魔法を呪文で解除されると水増しされた分の糸がなくなって切れ切れになってしまうので、洋服がボロボロと崩れてしまう。

 だから、この国の貴族はウールやシルクの服を着る習慣がある。綿と違って、動物性の繊維は魔法で水増しできないらしいから、魔法一つで服が崩れるようなことはない。


 フードの人がメリスさんの肩をポンと軽く叩くとその衝撃でメリスさんの服が一気に崩れた。メリスさんの服が綺麗さっぱりポロポロと崩れたので、もちろん裸。でも、それを恥ずかしがる訳でもなく、メリスさんは蒼白な顔で、フード男を見続けていた。多分相手が魔法使いとわかって驚いているんだと思う。

 なるほど、崩れる服っていうのはこういう時に大活躍するんですね! っていうかこの男……セクハラよ!


 これは規則違反! 防犯待機中の私とコウお母さんが止めようと動いたところで、オーナーが手で制して、首を振った。

 この方に手を出すなみたいな感じだ。オーナーめ! パワハラよ!


 私が憤っていると、フード男が口を開いた。


「やはり、服は魔法で崩れるものでないとね。だが、残念ながらこの子は私の好みではないな。私はもう少し元気で、丈夫そうなのが好みなんだ。でも、あの男の顔が見てみたいし……」

 彼はフードを取ると、思案気に顎に手を置いて、考えるような仕草をした。恐ろしいほど綺麗な顔だった。


 ああ、間違いないあの顔、覚えてる。ものすっごい見たことある。

でも、まさか、でもあの顔……。


「へ、ヘンリー様?」

 私が確かめるように名を呼ぶと、ヘンリー様はゆっくりとこちらを向いた。

 そして私の顔を見ると、少し間を置いてから、ああ、思い出したといわんばかりに笑顔を作った。


「君は確か、カインと仲のいいヒヨコちゃんだね! 君とこんなところで会ってしまうとは、参ったなぁ」


 いつもさわやか笑顔で、魔法使いだけど気取ってなくて、ちょっとキザがたまにキズ……なはずのヘンリー王弟は大して困ってなさそうにそう言って、自分の長い髪を耳に掛け直した。





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