学生活動編① ピカピカの2年生
とうとう私も2年生! 後輩も入ってきたし、いつか私も、お姉さまとか呼ばれちゃうのかしら! やだどうしよう!
とか言ってテンションあげて、新学期を楽しもうと思ったけれども、視界の端のほうで、私を鋭く睨む存在が映る……カテリーナ嬢だ。1年生のときより、その眼差しの鋭さが増している。そういえば、取り巻きの一人のサロメ嬢が、休み明けは覚悟してたほうがよろしくてよ! とかわざわざ言っていたっけ。心なしか、カテリーナ嬢の鼻息が荒い気がする。なんで。
覚悟って言われても……どうすればいいのやら。
まあいいや。睨まれるだけだし。入学当初のアランストーカー事件に比べたら、全然可愛いものだもの。
カテリーナ嬢のことは、とりあえず見えないことにして、放課後そそくさと一人で、先生方がいらっしゃる教職員棟にやってきた。
ターゲットは学校の長。校長先生である。
「校長先生。今、お時間よろしいですか?」
こっそり用意していた書類を片手に、白髪まじりのナイスミドルに話しかけた。
校長室を張り込み、部屋から出たところを急いで駆け寄ると、校長先生は、驚いたような顔でこちらを振り向く。
「おや、どうしたんだい?」
優しそうな声色! 校長先生優しそうだ。これなら話がスムーズかもしれない。
「実は、お願いと言うか、聞いて欲しいことがありまして」
ファサっと髪の毛を揺らして、上目遣い攻撃をする。私は可愛い女児、ナイスミドルも私にメロメロだ。そうに違いない。
「お願い?」
「はい、あの、この書面を受け取ってください」
私はラブレターを渡す少女のようにドギマギしながら書面を渡すと、校長先生がゆっくりとその書面を受け取って、書面に目を向けてくれた。
「これは……請願書? 図書館にある魔法関係の本を一般生徒にも開放……?」
校長先生は、書面に書かれた文章を一部読み上げると、その後は無言で熱心に書面を見続ける。
どうなんだろうこの反応は。結構いい線行ってると思うんだけど……。優しそうだし。
1年生の時に図書館の本をあらかた読みつくした私は、どうしても魔法関係の本を読みたくて、校長先生に直談判しにきたのだ。
もし私のこのお願いが受理されれば、図書館の最奥に眠る全ての呪文の原書『救世の魔典』も見られるような運びにもなっている。もしこの本を見ることが出来たら、なんで呪文が短歌なのかとか、この魔典を作った人は日本人なのかもしれない説のヒントが得られるかもしれない。
それになにより魔法についての理解が深めることが出来れば、もしかしたら魔法が魔法使いだけじゃなくて、色んな人が使えるような仕組みを見つけられるかも。
そうすればきっと、この世界はもっと安定するんじゃないかな。だって、魔法使いが少ないから不安定になっているんだもん。単純に魔法を使える人を増やせばいいような気がする。
そしてどんな問題も魔法で解決。開拓村で飢えることもないし、アレク親分だって、農民のためにあらぶらなくて済むはず。
まあ、正直、誰もが魔法を使えるようになるなんて、難しいと思うけど。
それが出来るのなら既に誰かが研究してそうだ。でも、呪文が日本の古典なんだから、それを知ってる私しか見つけられない何かがあるかもしれない。
書面には、魔法関係の本を読みたい以外にも、魔法史の授業時間の削減や図書館の立地変更、もしくは段差がないようにしてほしいと言うようなことも記載している。
まあ、メインは魔法関係の書物の解放なので、他の請願内容はどちらかと言えば脇役さ。
「素晴らしい! 君が考えたのかな? 君は確か、去年の新入生代表の挨拶をした子じゃないだろうか? とても印象深かったからよく覚えている!」
おお、想像以上にいい反応! 新入生代表挨拶していて良かった!
「覚えてくださってありがとうございます。是非こちらの書面の件、聞き入れて欲しいです」
「そうだな。うーむ、王に話を通さないと決められない件だ。この件に関わっているのはリョウ君一人なのだろうか? 他に協力者は?」
そうか……。
やっぱこの学校を管理しているのは王様なのか。学校界の長を校長先生と期待して、ちょっとお願いすれば、ちょっとした制度なら変えてくれるんじゃない? と思って、突撃したけれども……やっぱり王様を、魔法使いを通すんだね……。
校長先生が、元王族だけど、魔法使いじゃないと聞いて、いけるかもと思ったんだけどなぁ。
「他に協力者は募ってません……どのくらい必要ですか?」
一生徒の提案と言うだけじゃ、王様のところには持っていけないってことだよね。署名活動的なものが必要なのかも。
「人数もいればいるほどいいだろうが……数というよりも、出来れば魔法使いの、位の高いものが協力者であればなおよろしい」
うーんなるほど。
私友達少ないからなー。ほら、私って、狭く深く付き合うタイプだから。別に、やろうと思えば広く付き合うことも出来るけど、しないだけだから、ポリシーだから!
私が心の中で友達の少ない自分を慰めていると、校長先生が気遣わしげに、肩に手を置いた。
「そう、気をおとさず。個人的には、よく考えてくれたと思っている。私はこういうのを求めていたのだ」
何故か期待に満ち溢れた目線を私に送っている。いや、子供に期待するより、校長先生がなにかアクション起こしたほうが早いんじゃないの? 学校界の長じゃないの?
思ったよりも、学校界での地位は高くないのかな、校長なのに……うーん。
私は、その後軽く挨拶だけして校長先生のもとを去った。署名活動か……。
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後日、署名用紙を作って、いつもの図書館で、アランやシャルロットちゃん、リッツ君に署名のお願いをしてみた。みんな勉強したり、本を読んだりとやってることはばらばらだけど、大概4人で図書館に集まっている。その機会に、署名用紙を彼らの前にだした。
もともと、私が魔法関係の本を読みたいということは知っていたし、魔法史の授業が減るのも嬉しいみたいで、快く署名してくれた。
魔法史の授業がなくなったからって、自由時間が増えるわけじゃないと思うけど、違う授業が入るだけなんだと思うけど……ということは心の中にしまっておいた。うん。
しかし、魔法使いの署名を一気に3名入手するとは、さすが私!
あと、期待できるのは、カイン様かな。
そして、これで署名活動は行き詰る。なぜなら狭く深く付き合うタイプの人間だからね、私ってば!
でも量より質。カイン様は現在5年生という最上級生だし、他の3人は魔法使いだ。しかもアランに至っては伯爵令息魔法使い。いい線いってると思う。一旦このメンバーで校長室へ行ってみようかな。
駄目なら……プラカードもって、『反対!』とか、『自由をー!』とか『魔法の本よんだっていいじゃない、人間だもの』とか書いて、デモらないといけないのかもしれない。
となると、自分の影響力を強くしていったほうがいいような……。私は一応伯爵家の肩書きを持っているけれど、15歳になったら、剥がれる名になんの価値もない。それは私だけじゃなくて、みんなそう思ってるはず。
爵位はどんなに努力しても、学校卒業した人しか貰えないから、学生の間は爵位をもらえないけれど、卒業と同時に爵位を得られるぐらいの活躍をすれば、周りも一目置くはず。
一番学生の間に動けて、手に入れやすい爵位は、商爵。何かしらの商売である程度成果を出せばいい。
それにデモ活動関係なく、もともと商爵をとろうと思ってた。商爵を入手するための行動を今起こすかどうかなだけだ。
あ、なんか、クロードさんのニヤリ顔が一瞬脳裏に浮かんだ。
べ、別にクロードさんに学生中に爵位をうんたら言われたからじゃないけどね! 自分の意志なんだからね!
私は、自分の妄想に精一杯突っ込んで、当面の目標を決めた。王都の市場に出店する!
とりあえず、商人として活動するためには、まず市場に何かしらの出店を開くのが妥当だと思う。学校からも近いし。市場にシート敷いて、商品を売るっていうスタイルだから、初期費用もそんなにかからなそう。
ただ、確か出店するには出店登録料が発生するはず。頑張れば払えなくもない額だったから、一旦はコウお母さんのお手伝いでお小遣いを稼いでから市場に出店しようかな。
しかし、市場に出店したとして、何を売るのかは決まっていない。
うーんどうしよ。
「リョウ? どうしたんだよ、難しそうな顔して……、さっきからその本、同じところだぞ」
本を見つめながら考え事をしてたら、そうアランが心配そうな顔で私に尋ねてきてくれた。
「ちょっと考え事です。大丈夫ですよ」
「そうか? ならいいけど……。悩みがあるなら相談してきてもいいんだぞ」
やだ、この子分、私を気遣ってくれてるの? アランの癖に親分を心配してくれるとは!
長期休み明けに私が、無事に学校に戻ってきた辺りから、アランは前より落ち着いてきた気がする。私が山賊に攫われたトラウマが少しは軽くなったのかもしれない。
そういえば、今も私に話しかけるとき、ちゃんと着席したまま聞いてくれたね。1年前のアランなら、わざわざ気配もなく私の背後に回ってから聞いてきてたよね。そう思うと、アランも成長したものだ。
「ありがとうございます。市場に出店しようかと思っていたのですが、何を売ろうかと考えてて」
「リョウ様、市場に出店されるんですか?」
隣に座っているシャルロット嬢が目をキラキラさせてお話に混ざってきた。
「ええ、そうなんです」
「自分のお店を出すなんて、素敵ですね!」
へへ、ありがとう。そんなたいそうなことでもないけど、でも自分のお店とか言われるとなんかテンションあがってくる。
そっか、自分のお店……。そういえば前世では、将来の夢がケーキ屋さんとか言ってる女の子が多かったな。ケーキ屋さんか……おいしいよね。
「店に出す商品か……。前にリョウが作ったアイスクリームってやつでいいんじゃないか? あれ美味しかった」
「そうですね! 私もそれが良いと思います! アイスクリームは本当に美味しかったです」
アランの提案に、かわいらしくシャルロット嬢が同意して隣でうんうん頷いているリッツ君。
うーん、確かにアイスクリームは物珍しいし、売れるかもしれないけれど……。でもなぁ……。
「アイスクリームを扱うことは考えてないんです。保存がきかないし、正直手間が多いですから。出来れば大量に作れて、保存もきくようなものがいいんです」
できれば大量生産で、在庫がきくような感じで荒稼ぎしたい! アイスクリーム屋さんも夢があるけどね。おいしいし……アイスクリーム……余った商品は食べ放題……あ、ちょっとぐらついてきた。
「それなら、お薬はどう? 確かコーキさんって、お薬屋さんでしょ? そこのお薬を売るのは?」
リッツ君の新たな提案に、ふむふむと頷いてみる。それも考えた。コウお母さんのお薬はすごい。特に最近販売してる美容関係のものが大人気で、現在も口コミでお店はなかなか繁盛している。
ただ、薬は薬を作るための原材料が高い。それだと荒稼ぎはできないかなと思って保留にしていた。でも一旦は良く知っている商品を扱ったほうがいいかもしれない。何てったって商売を始めるのなんて初めてなんだから。
「そう、ですね。その方向で考えてみます。どちらにしろ、市場の出店料を稼ぐのにコウさんのところでお手伝いする予定だし、それでちょっと考えてみます」
「ふふ、それにしてもお店を開くなんて、楽しそう! 私も出来る限りお手伝いしたいです!」
そう言って花のような笑顔のシャルロットちゃん!
ありがとう! 嬉しい! 是非手伝ってもらうよ! ものすっごく手伝ってもらうよ。あとアランもね。私、アランの大型工場施設みたいな安心感にすっごく期待してる!