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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期
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新入生編⑲-クロードさんのハーレム-

「クロード様、心配をおかけしました。あの後、大丈夫でしたか?」

 クロードさんは私がアレク親分に攫われた時に、結構頑張って抵抗してきてくれた。縄もかけられていたし。今無事なんだから無事だったんだろうし、クロードさんなら大丈夫だろうとは思っていたけれど、あの後どうなったのかちょっと心配だった。


「ああ、私は平気だよ。あの後アイリーンのところに戻って、すぐにリョウを探させたんだが……見つけられなくてすまなかった」


「いえ……私こそ、すみませんでした」


「山賊に攫われて、ルビーフォルンに売られたんだよね。恐い思いをしただろう」

 アレク親分達のことは話すとややこしくなるので、私は山賊に攫われてそのまますぐにルビーフォルンに売られて、そのまま養女にしてもらったという話をアランやカイン様にしていた。


「いいえ。ルビーフォルンの方々は良くして下さいますし、恐いことは何も。……レインフォレストのみなさんに心配を掛けてしまったかもしれないことだけが気がかりでした」

 私がそう言ってもう一度謝ると、謝ることはないと言ってくれたクロードさんにさらに申し訳なくなった。

 別れ際に、嫁にするだの幼児趣味だのの話をしてしまったから、すっかりロリコン変態という目で見てしまうけれど、基本的には優しい人なんだよね。

 ごめん、クロードさん。


「ところで、リョウは、今は確か10歳だよね?」

「はい、そうです」

「そうか……じゃあ、私のところへ嫁に来るのは後5年ぐらいか」


 ん?


 今さっき、『基本的には優しい人なんだよね』っていい感じに私の中でクロードさんの好感度を上げたところだったから、ちょっと意味が分からないなー。どういうことかなー。

 多分クロードさん渾身のギャグかな!


「ふふ、嫌だ、クロード様ったら。相変わらずご冗談が好きなんですね!」


「え? 本気だよ。約束したじゃないか」


 ……。

 


「クロード伯父様! 嫁ってどういうことですか?」

 驚きすぎて絶句している私の斜め後ろから声が聞こえた。振り向くとアランが驚きの表情でクロードさんを見ている。


「私とリョウは実は結婚の約束をしていたんだ」


「え……結婚は大人同士でやるものじゃないんですか?」

 驚きの顔を崩さずアランがクロードさんに意見をしてくれた。

 いいぞ! いいぞ子分! 私、今はじめてアランが子分でよかったって思ってるよ! もっと言って!


「もちろん。リョウが大人になるまで待つよ。そういう約束なんだ。リョウもそれで了承してくれた」


 アランが驚きの様子で、顔をロボットのように動かして私を見た。

 あやつのいっていることはマジなのかと、アランは目で訴えてきた。


 く! あの時の私は、やさぐれていたから、もうそれでいいやーって思ったんだよ! 嫌になったら逃げればいいしって思ってたし! いいかなって! 若気の至りよ!


 でも今は違う! コウお母さんみたいに、好きな人見つけて、地の底まで追いかけまわした末に結婚したい! コウお母さん結婚してないけど! そして多分これからも結婚のご予定はないけれど!



「ク、クロード様ったら、また、そのようなご冗談を。おほほ。それに、私はルビーフォルンの養女なので、もう結婚については自由に決められないんです!」

 そうそう。私はこれでも伯爵令嬢! ルビーフォルンだけど! 魔法使いの生まれない呪いの領地とか言われて嫌われてるけど! それでも伯爵令嬢! クロードさんったら頭が高くてよ!


「うーん、それについてなんだが」

「クロード様! それよりもっ! 後ろにいらっしゃる綺麗なお姉さま方が私気になっているんですけれどもー! すごく気になっているんですけれどもー!」

 クロードさんが、なにやら反論しそうだったので、どうにか遮った。

 それに、実際クロードさんの後ろに控えている3人の女性が気になってしょうがなかったのは事実。だって、クロードさんが、私との結婚うんたらかんたら話し始めた辺りから、めっちゃ睨んできているんだもの!

 恐い!


「ああ、リョウは初めて会うね。リョウを探しに、人買い屋にいっていたんだが、その時に買った子達だよ。仕事の手伝いをしてもらっている」


 クロードさんがそう言うと、3人の女性のうち一番年上そうな女の人が頭を下げた。

「リオーネと申します。クロード様のお世話をさせていただいております」

 包容力のありそうな胸の大きいナイスバディな女性だった。顔は笑っているけれど、目は笑ってない。

 そしてリオーネさんの隣にいたショートカットの女性が同じように頭を下げる。

「ミスティアです」

 それだけ言って、私を睨みつけた。やめて。

 

 そして一番背の低い女の子が同じように頭を下げる。

「わー! この方が以前クロード様が言っていたリョウ様なんですね! すっごく可愛い方ですね! 私はロンネです! よろしくお願いします!」

 一番若そうなツイテールの女の子はそういって、キュルルン! という効果音が響きそうなかわいらしい声で挨拶をしてくれた。

 あ、よかったー。最後の人は、なんか優しそう! 可愛いって言ってくれたし、きっといい人!


 多分、この人達、前にアランが言ってたクロードさんが人買い屋で買った人か。クロードさんハーレムの人達だな。私を睨んでくるのは、あれだな、新たなライバル誕生に怯えているのかもしれない。でもね、私君たちのハーレムに入る気ないから! 誤解だけは解いておかないと。女の嫉妬は恐いに違いない。

 特別私に負の感情をもってなさそうなツインテールのロンネさんに協力してもらって、どうにか誤解を解いてもらおう。


「リョウすまないけれど、私はそろそろ書斎にもどるよ。すこし仕事を残してきたんだ。アランやカインともゆっくり話せなかったが、また夕食の時に会えるから、その時に学園生活のことを聞かせておくれ」

 そう言って、お騒がせのクロードさんは部屋から出て行った。

 後ろにメイド3人衆がついていく。

 そして、最後に部屋を出た一番若いメイドのロンネさんが、扉を閉める間際私を睨んで、『チッ!』と盛大に舌打ちをしてから扉を閉めた。

 あ、あれ? ロンネさんだけは優しいんじゃなかったの!? ……やだ恐い。




「私は少しお母様とクロード伯父様の話を聞いていて、知っていたんだけど……リョウはその気がないのかな?」

 どうやって、クロードさんとの婚約を破棄してやろうかと、悩みながら紅茶とお菓子を食べていたら、カイン様の声が聞こえた。顔をあげると心配そうなカイン様の顔だ。その横には、『リョウがクロード伯父様と結婚……』というのをぶつぶつ言って放心状態のアランがいる。

 伯父がロリコンかもしれないという事実に驚いたのかもしれない。親戚がロリコンかもしれないだなんて、受け入れがたいに違いない。


 私はとりあえずアランのことは置いておいて、カイン様に向き直った。

「その気というのは、クロード様と結婚する気があるかってことですか?」

 私がそう返すと、カイン様は真面目な顔で頷いた。


「正直、する気はないです。まだ結婚とか言われてもよく分からないですし。それに、できれば……好きあった人と結婚したいとは思ってます」

 まあ、実際、貴族社会じゃ難しいかもしれないとは思っているけれども。


「そうか……なら、私もリョウの力になるよ。お母様にリョウにその気がないことを伝えておく。多分、お母様もリョウのことを考えて、クロード様との結婚には賛成するかもしれないから、そうならないように話してみるよ」


「ありがとうございます! ……クロード様との結婚は私にとっていいお話なんでしょうか?」


「そうだね……感情等を抜きにして、リョウの立場からすればいい話だと思う。私達魔法使いではない者は、15歳になったら、家名を取られ、貴族ではなくなる。つまり私は、今はカイン=レインフォレストと名乗れるけれど、15歳になったらただのカインになる。ここまでは分かるよね?」


 そこまでは分かる。私だって15歳になったら、ルビーフォルンの名を名乗れなくなるんだから。

 この国では成人したら、爵位を持っていない限り苗字をはずされちゃう。魔法使いなら自動的に魔法爵をもらえたり、そのまま実家の爵位を名乗ることもできるけれど、それ以外は、一度名字をなくす。

 ただ、魔法使いではなくても、準貴族ならば努力次第でなることができる。商業、医療、武功等において一定の成果を挙げて、王に認められたら、準貴族の爵位を得て、また苗字を改めて付け直せる。


 爵位を得た時に付けられる苗字は自由で、個人で決められるけれど、アイリーンさんみたいに伯爵位を継いで領地を持つようになる人は、そのまま領地の名前を苗字にする。クロードさんみたいに商爵を得た人は、実家が有力貴族だった場合その名前をそのまま使うことが多い。


「もちろん存じております。私も15歳になればリョウに戻りますから」

 私は真面目なカイン様に合わせて大きく頷いた。


「一般的に、魔法使いではない女性にとって一番いいことは、魔法使いに嫁ぐことだ。そうすれば貴族になれる。でも、正直リョウは、魔法使いと結婚するのは難しいと思う」


「ルビーフォルン出身だからでしょうか?」


「それもある。正直、ルビーフォルンは魔法使い達から毛嫌いされているところがあるから。でも、一番の理由は、基本的に魔法使いは血筋によって生まれるから、貴族は魔法使いの生まれない家系の子を娶らないんだ」


 なるほど、私が魔法使いの血筋からは遠く離れた農民出身というのがいけないのか。


「通常、準貴族であるクロード伯父様にとっても、血筋は大事なんだ。クロード伯父様は魔法の素養がないけれど、結婚相手も魔法使いの家系ならその二人の子供は魔法使いになる可能性はある。ただ、今はその可能性がかなり少なくなっているけれど、それでも、魔法使いが生まれる可能性があるから、血筋を重要視する家が多い」


 魔法使いは基本的には遺伝なんだもんね。シャルロットちゃんみたいに、突発的に開拓村に魔法使いが生まれるほうがおかしいという話なんだから。

 通常は準貴族であるクロードさんと結婚するのも至難の技なのか。結婚で手軽に準貴族の仲間入りをするのはおいしいお話なのだろう。


 そう思うと、クロードさんって本当に変わり者。ロリコンだから幼女であった私がよかったのか。でも、新しい幼げな女の子を雇っていたし、私だって時間が経過すれば大きくなるわけだから、別に私にこだわらなくてもいいような気もする。


 確かクロードさんは、私の頭の良さを気に入ったといっていた。私と子供を作れば、頭の良い子が生まれるかもしれないと。そういう子の方が、これから必要になるに違いないという話をしていた。


 クロードさんは魔法使いの出生状況を見て、魔法以外の可能性に何か賭けているのかもしれない。クロードさんは根っからの商売人だ。


 うーん、クロードさんはなんだかんだ優しいし、経済力もあるから、そこに愛があればなびいたかもしれないけれど……。


 でも、まあいいや。どっちみち私は、誰かと結婚して爵位を得ようなんて思ってないんだもの。


「なるほど。分かりましたカイン様。確かにクロードさんと結婚した方が苦労なく準貴族になれるのだと思いますけれど、私はもともと自分の手で爵位を得るつもりだったんです。バッシュ様……ルビーフォルンの伯爵様からも学校に行くからには準貴族の爵位を得られるぐらい頑張ってほしいと言われていますので」


 私はそう言って、微笑んだ。

 私は学校に行く前に、バッシュさんから騎士爵か商爵か治療爵のいずれかを取得して欲しいという話しをされていた。この三つは努力次第で、魔法使いじゃない人でも取得できる準貴族の爵位。

 武功を立てれば騎士爵を、商売がうまくいけば商爵を、医療に貢献すれば治療爵をもらえる。

 バッシュさんからは、その三つのうちのどれか一つの爵位を貰って、ルビーフォルンの領地経営の手伝いをして欲しいと言われていた。


 正直私はバッシュさんに頭が上がらない。学校にも行かせてくれたし、コウお母さんと一緒に王都まで行くまでの色々を用意してくれたし、すごく良くしてもらってるし、アレク親分のことだって、何かと気にかけてくれる。

 バッシュさんのお手伝いは私としても是非したいという気持ちだった。


「そうだね、確かにリョウならきっと自力で爵位を得られそうだ。私も騎士爵を貰えるように頑張ってはいるけれど、リョウの方が早く貰ってしまいそうだな」

 カイン様はそう言って、笑ってくれた。


 カイン様の協力も得られそうだし、後は無難にクロード様と婚約破棄するだけ!

 さあ、どうしてやろうかと決意も新たに考えようとしたら、ドアが開く音が聞こえた。


 音のした方を見ると、少し開かれた扉の隙間から、何者かがこちらの様子を伺っている。


「チーラ!」


 カイン様が感極まった様子で、そう声を出して立ち上がった。

 カイン様の掛け声にびっくりした様子の何者かは、『ギャフ!』という謎の声を残して去っていったと思ったら、今度は勢いよく扉が開いてアイリーンさんが現れた。胸の辺りで小さい女の子を抱っこしている。さっき扉の隙間から覗いていた女の子だ。


 やだ可愛い! これが噂のアラン達の妹、チーラちゃんか!


 チーラちゃんにとっては知らない人ばかりに見えるみたいで、怯えた様子で私達を見ていた。


「お母様! 私にもチーラを抱かせてください」

 未だ感極まっているカイン様が、アイリーンさんに懇願していた。


 アイリーンさんは、笑顔で頷いてカイン様にチーラちゃんを託していた。チーラちゃんもおっかなびっくりという様子だったけれど、大人しく抱っこされている。


「あらリョウ、その衣装、素敵よ。とても似合っているわ」

 アイリーンさんからの褒め言葉にありがとうございますとお礼を言う。やっぱり褒め言葉はシンプルがいいよね。


「アイリーン様、こちらの女の子がチーラちゃんなんですね。アランやカイン様から少しお話を伺っておりました。私も触ってもいいですか?」


「もちろんよ。少し人見知りをするようになったけれど、慣れれば人懐っこい子なの」


 私は、アイリーン様の許可ももらったので、カイン様に抱っこされているチーラちゃんのぷくぷくの手を触ってみた。

 やだ気持ちいい。何この肌触りやばい。ロリコンの気持ちが分からなくもない気がしてきた。


 カイン様が、チーラちゃんに『カイン兄様だよー』と言葉を教えていて、チーラちゃんも『かいんにいさまー』と言葉を返していた。

 その横で、さっきまで、伯父様ロリコンショックで放心状態だったアランがいつの間にか復活したみたいで『親分と呼べ』と言っていた。可愛いチーラちゃんは素直に『おやぶん』と言っていてすごく可愛かったけれど、後でアラン子分には一言物申した方がいいかもしれないと思った。


 アイリーンさんからチーラちゃんは魔法使いみたいだという話をその時聞いた。チーラちゃんが言葉を話せるようになったので、魔力マナが見れるかどうか試したら魔力マナが見えたらしい。


 アランは「へー」となんでもないように言っていたけれど、今のご時世に魔法使いが二人も生まれる家っていうのはそうそうないはず。多分これ、結構すごいことなんだと思う。


 カイン様は、チーラちゃんが魔法使いだと知って、一瞬複雑そうな顔をしたけれど『よかったね、チーラ』と声をかけて優しく微笑んでいた。

 なんていうか、カイン様は、本当に出来た人だと思う。

 もし私がカイン様だったら……なんで私だけ魔法が使えないんだって、不公平だって言って、こんな小さい子相手にものすごい醜い顔をしてしまうような気がした。

 さすが、カイン様。フォロリストであり、ポエマーなだけはあるね!


 どうやらアイリーンさんが忙しい中ここに顔を出してくれたのは、今日の夕食は私達のためにお帰りなさい晩餐会を開いてくれるらしくそのお知らせと、たぶんチーラちゃんの可愛い自慢のようだった。


 晩餐会とか言っても、ちょっと豪華な夕食を食べるって言うだけで、参加者は身内だけ。

 クロードさんも参加するみたいだから、どうにかその時に婚約解消して欲しい旨をお伝えし承知してもらいたい。このままずるずるいくのは良くない気がする。

 ちょうど、アイリーンさんもここにいるので、少し根回しをした上で、私は、晩餐会に備えることにした。



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