新入生編⑦-魔法使いってすごいっていうだけの授業-
すばらしい朝が来た。これが希望の朝か。昨日アラン坊やとのわだかまりが解けたので、私はうきうき気分で寮を出た。
すると、いつもと同じように寮の前でアラン坊やが待ち伏せをしていた。
ストーキング終わったんじゃないの!?
「ア、アラン様、ごきげんよう。つい昨日、お迎え等は不要とお伝えしたと思うのですが……」
「別に、迎えぐらいはいいだろ。絶対だめって言われてないんだから」
そういって、当然のように隣に並んできた。
昨日仲直りした後、お片づけをしながら私が親分でアランが子分という関係性をはっきりさせつつ、私のものは私のもの、お前のものは私のもの、私の言うことは絶対、というような教えを説いたはずなんだけど。
いや、でも舎弟として、お迎えは当然の義務的な感じなんだろうか。
「私も、いつも同じ時間に出るとは限らないですし、待つにしても女子寮の前はよしたほうが良いかと。お姉さま方から変な目で見られますよ」
「ん、わかった」
即答だったけれど、ほんとに分かってんのかい!
「そういえば、リョウ、俺が以前作った短剣、持ってるか?」
ああ、アランの短剣ね。イノシシの脂とり作業で大活躍だった短剣ね!
「持ってますよ。部屋においてあります」
騎士科には剣術の授業もあるし別に刃物を寮に持ち込んでも、違反じゃない。騎士科の先輩方の中には、帯刀している人もいる。基本的には帯刀は禁止だけど、許可が下りればOKという校則だった。
だけど、好き好んで帯刀するレディはこの学校にはほとんどいない。私もアランの短剣は寮の部屋においている。
ただ、私は一応何かあった時のために、クワマルのアニキからもらった短剣は、スカートの下に忍ばせてる。特に許可はもらってないけれども、絶対にばれないように隠しているので、大丈夫だと思われる。
というか、神殺しの剣を持っているとばれた方がおそらくやばいので、そういうのを学園に持ち込んでること自体秘密にしている。自分の目の届かないところにおくのが怖かったので、肌身離さず持ち歩いている。
「俺、昔よりも作るのうまくなったんだ。今度、またなんか作ってやるよ」
アランがいい笑顔でそう提案してくれたので、そうですかーと曖昧に微笑んで答えた。
魔法で崩れてしまう剣か。アランの無邪気な笑顔にはきっと他意はないんだろうと思えるけれど。
魔法史の授業でも習った。
世界が悪いマモノに襲われた時、偉大なる魔術師が魔法で聖剣を作り、普通の人間に授けるとたちまち人は勇者のような強さを身につけ、悪しきモノ達をなぎ倒す。魔術師は人を信頼し背中を預け、人は魔術師に忠誠を誓うというような内容だった。
もっと話は長いし、ラスボス討伐中に聖剣が壊れそうになり、偉大なる魔術師が改めて力を授けて、『聖剣(改)だ! いっけえええええ!』みたいなテンションでマモノを倒すところは爽快な冒険譚のようで面白いけれど。
その冒険譚から派生して、魔法使いが剣を作って、人に授けることは信頼の証っていう流れになったらしい。
でも、おかしいよね? その剣は魔法で消えるんだもんね? 魔法使いがこの人ちょっと気にくわねぇやって思った時には、剣を消されてしまうんだよね? そんな剣を授けて、信頼なんていっちゃうこの物語。
1時限目と5時限目の授業は、毎日、魔法史の授業。終始魔法使いスゲーっていう話を聞かされるこの授業だって、完全なる洗脳教育だと、前世の記憶を持つ私は思えるんだけど、他の子供達は、楽しいお話が聞ける授業ということで結構人気だ。
最初、クワマルのアニキから魔法で剣が消えることを聞いた時は、魔法使いハンパネェ、こええ、関わりたくねぇって思ったけれども。
今はとりあえず知りたい。この世界が、本当はどういう歴史をたどっていて、ここに生きる人達が何を感じていて、どこに行こうとしているのか。
「リョウ? 呆けてどうしたんだ? もう講堂ついたぞ。今日は、あの辺りに座るか」
ちょっと! 呆けてとか言わないでよ! 今、すごい難しくって大事なことを、かっこよく考えてたんだからね!
チッと舌打ちをうちたいところをどうにか堪えて、そっぽを向くと、シャルロット嬢が目に入った。平民出身の精霊使い。文字のおさらいをしているのか、一生懸命机にかじりついている。一人で!
「アラン様、私、今日は別の方の近くで座ろうと思ってますから、ここまでで結構ですよ。では、ごきげんよう」
と言って、後ろで騒ぎ出すアランを無視して、シャルロット嬢のところに向かう。私が、彼女の席の近くまで行くと、驚いた顔で見上げてきた。
「ごきげんよう、シャルロット様。こちらの席よろしいかしら?」
「あ、は、はい! ど、どうぞ! です!」
シャルロット嬢は、慌てながらも快く承諾してくれた。
き、緊張した。心の中でどっこらしょっと掛け声をつけて優雅に座る。
追いかけてきたアランが、『ここに座りたかったのか?』とかぶつくさいいつつ、ちゃっかり私の後ろの席を確保していた。
ねえ、ストーキング行為は禁止したよね? 親分の言うことは絶対だよね? この授業終わったら、厳しくお灸を据えねばなるまい。
ふと、シャルロット嬢のほうを見てみると、やっぱり教科書とにらめっこしながら文字を学んでいた。努力家だねー。
「シャルロット様、もし何か分からないことがあれば聞いてくださいね」
と出来る限り優しそうな感じを意識して笑顔を送ると、シャルロットさんは、私の笑顔に負けず劣らずな素敵笑顔を返してくれた。
やだ、可愛い!
「はい! ありがとうございます! あの、早速聞きたいことがあって……」
シャルロット嬢は、ここぞとばかりに人には聞けなかった勉強のあれやこれやを聞いてきてくれた。
会話に行き詰ったらどうしようと思ったけれど、基本的に勉強の話だったので、会話が途切れて気まずくなることもなかった。
午前の授業が終わって、とうとう念願の昼休み。お昼休みまで、結構お話をしたシャルロット嬢と私は既に友達と言ってもいいんじゃないかね!? と大興奮の私は、鼻息荒くシャルロット嬢に話しかけた。
「シャルロット様、お昼休憩ですわ。よろしければご一緒しません?」
私は飛び切りの笑顔で話しかけたけれども、シャルロット嬢は、ものすごくしゅんとした顔をした。
「すみません、リョウ様。私、お昼は、予定が……カテリーナ様に呼ばれているのです」
な、何だってー! 先約がありだとは! なにそれ、今まで楽しくしていたのは、何だったの!? 弄んだのね? キーッ! となりそうだったところをどうにか鎮める。
「そう、残念ですわ。また今度一緒にお食事でもしましょう」
私は別にーそんなの気にしてませんからー、別に平気ですからーという感じで、余裕をみせつつの応対をして、後ろにいたアラン氏と食堂館に行くことになった。
うう、でも、私負けない。
次のお話はR12ぐらいのエロ、というか保健体育的なそんな感じの話です。
なぜならクロードさんの話しがチラリと出るからです。
苦手な方は心の準備をお願いします。
次回の更新予定は明後日です!









