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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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新入生編①-ドッキドキの入学式-

 代表挨拶疲れた。緊張でちょっと肩こっちゃった。

 しかも、場所がなんかコンサートホールみたいなところで、余計にびびる。 

 こ、こんな広いところだと声届かないんじゃないの? と思ったけれど、どうやら風の精霊さんがなにやらいい仕事をしているみたいで、声が届くようです。風の精霊って本当に便利。


 肝心の挨拶もなかなかうまくやれた気もするし、満足満足。

 数日前から、コウお母さんと一緒に、最も自分が美しく見える角度とかを研究した甲斐がありました。

 ありがとう、コウお母さん! 私の学生デビューはおかげ様で大成功! のはず!

 

 制服も結構かわいいし。制服と言うか、私としたら、ただのおしゃれ着だ。

 藍色の長袖のロングドレス。白の丸襟に、胸のすぐ下の辺りをシルクの白いリボンを結んでいる。


 この世界の貴族は、シルクやウールでできた服を着るのが基本で、この制服も例に漏れずそういうかなりお高い材質でできている。結構いい値段のする服だと思われるけれど、なんと学年が上がるごとに3着無料支給! さすが王立学校太っ腹!


 男子生徒は白いシャツに、紺色ベストにズボン。ジャケットもあるけれど、基本は、ジャケットよりも灰色のローブのようなものをかぶる人が多いみたい。ザ・魔法使い的な格好をしている人がほとんど。基本は魔法使いのための学校なんだろうと思う。

 魔法を使うにも道具が必要な時もあるみたいで、色々収納できる内ポケット豊富なローブを魔法使いは着る。

 女子の制服に関しては、ロングスカートにいくつかポケットがあって、結構たくさん物が入るので、ローブはなくてもいいみたいな感じなのだと思う。

 それになにより、ローブがちょいとダサいので、レディは受け付けません。


 私達新入生は、入学式が終わっても、入学の心得とかのオリエンテーションがあるので、まだ講堂からは出られず、今は小休憩中。


 前半のオリエンテーションで、図書館の説明があって、優雅に聞いているふりをしていたけれども、内心はかなりエキサイトした。


 この国で、図書館なるものは、この王都の学園にしかない。唯一の図書館である。


 図書館は学生と、貴族しか入れない貴重な場所。

 その貴重さをアピールするように、50mぐらい盛り上がった土の上に図書館は建ててある。そしてその近くには、なんと王様が住むお城があるのだが、さらに100mほど高いところに建てられている。ちなみにこの王都自体も、50mほど盛り上がっている。

 

 この世界では偉さやすごさを高さで表現するようだ。


 そんな偉い図書館に私は学生なので、入る事が可能!

 学校の入学のために試験勉強をしていたけれども、勉強した内容は、なんというか、どうも胡散臭い。特に歴史関係の内容が、壮大すぎて胡散臭い。でも、図書館に行けばもう少し詳しく色々な事が学べるんじゃないかなと期待している。


 ふと、周りを見渡してみると、新入生諸君は、すでにグループを作りだしていた。おそらく同郷で知り合い同士なのだろう。

 残念ながら、私は他のルビーフォルン出身の子達とは別行動で王都まで来たので、ほぼ知り合いがいない。


 もともと、軽く農地巡業して、領主邸についてから養女の手続きをして、ゆっくり勉強しながら王都に向かうはずだったのに、タゴサク教のせいで大幅に予定が狂った。


 タゴサク宣教師は、農地巡業中、『こちらにおわすが我らが天上の神の使い!』とか言って、農業支援のほかに、農民の皆さんに演説を始めたからだ。私は何度も『やめて、私は、天の使いじゃない! みんなと一緒の人間!』と主張したのに、私の言語は彼には理解できないらしく、

『おお、リョウ様のありがたいお言葉だ! リョウ様は、我ら人と同じであるとし、この世に生まれる全てのものに差はないとおっしゃられている!』

 と、私をさらし者にしてきた。


 私が何を言っても、ありがたいお言葉に変換されてしまうので、途中であきらめて、十字架に磔にされた気分で、演説が終わるのを見守った。

 無垢な農民の皆様が、タゴサク教に引っかからないことを願うばかりである。


 そういったことがあり、王都への出発がバタバタしてしまい、他の子たちとタイミングが合わなかった。

 今生では、はじめての学校生活だから、ちょっと心細い。

 

 だって、私、友達が欲しい。出来れば女の子の。


 だって、アレク親分達と一緒にいた時、よく学生時代の話を聞かせてくれた。

 親分達で、女子寮の洗い場を覗きに行ったら、バッシュさんがドジって先生に怒られた話とか、ガイさんが、筋トレのために空気イスでプルプルしながら一日授業受けていたとか……なんか、そういう思い出話を語り合っているのを聞いて、すごく羨ましく思った。


 私も、いつか懐かしむように思い出を語りあえるような、そんな友達が欲しい。

 

 でも、さっきの私の華麗な代表挨拶でメロメロになった新入生が、おそらくこの小休憩中に私のところに集まるはず。私は、私が最も輝ける笑顔を保ったまま席で待っていればいいのだ。簡単仕事のはずだ!


 そしてそわそわしつつも、そわそわ感を出さずに席について待っていると、なにやら私のほうに駆け寄る足音が聞こえる。

 とうとう来たか! 私はキメ顔で待機する。


「リョウ!」


 え? 女の子の声じゃない? あれは……あ!


「アラン様じゃないですか! お久しぶりです」


 私は思わず立ち上がった。

 アラン、背が伸びてる。といっても、今の私と身長と変わらないぐらいだけど、でも以前あったときよりも少し大人っぽくなったような気もする。

 黒い髪は以前はおかっぱぐらいの長さだったけれど、今は肩下まで伸びており、それを後ろで一本に縛っていた。

 懐かしい黄緑色の瞳。カイン坊ちゃまやアイリーンさん、クロードさんを思い出す。


 私が笑顔で、アランの名前を呼ぶと、何故かアランはその場で立ち止まり、呆然としたような顔をしたと思ったら、見る見るうちに顔を険しくした。


「リョウ……なんだよ! あんな手紙だけよこして! お前、ほんとに、どうして!」

 アランが、キッと私をにらんで大きい声で怒鳴り始めた。顔を真っ赤にして、今にも泣きそうなぐらいだ。


 え、泣いちゃうの? なんで、怒ってるの? 

 今から感動の抱擁かと思って、ちょっと広げた腕が固まる。

 おちついてアラン氏。どうどう。


 手紙、と言っていたけれど、私が、多分ルビーフォルンの養女になった時にアイリーンさん宛てに送った手紙のことかな?

 心配して探していたら申し訳ないと思って、生存報告と、ルビーフォルンの養女になったことと、学校に行くことなどを綴った手紙を送った。あの手紙、なにかそんなにまずかっただろうか……。言わないより言ったほうがいいと思ったのだけれども。


 ていうか、アラン氏が突然大きい声をだすから、周りの新入生達が、ジロジロとこっちを見ている!


「アラン様、ちょっと、落ち着いてください。少しここから離れましょう」

 私は、そのままアランの反応を待たずに袖をもって講堂から連れ出し、すぐ近くの角を曲がり、人の通りがなさそうな柱の影に移動する。


「アラン様、あの……落ち着きました?」

 そう言って、アランの目を覗き込む。さっきと違って、なんか戸惑っているような、驚いているようなそんな感じで目を見開いている。泣きそうなのは変わらないけれど。


「私が書いた手紙……何か失礼なことをしてしまいましたか? 何か失礼をしてしまったのなら、謝ります」


「いや……そうじゃない」

 さっきまで顔を赤くして怒っていたのに、今度は下を向いてショボーンとし始めてしまった。どうしたんだ、アラン氏。

 情緒不安定すぎるのではないかね!?


 しかし、困り果てている私に懐かしい天使の声が降りてきた。


「リョウ! アラン!」


「カ、カイン様!」


 ここぞと言うタイミングで登場したフォロリストカイン様!

 さすが! 数年経っても変わらないそのフォローぶり! むしろこのタイミングでやってくるとは……腕を上げましたね!


 カイン様が笑顔で私のほうを見て、『リョウ!』と両腕を広げて声をかけてくれたので、彼の胸の中に飛びついて再会の抱擁を行なった。

 すっごい背が伸びてる。私がカインお兄様の胸の辺りですっぽり納まってるぐらいだ。筋肉もついてきてるみたいで、顔を埋めた胸の辺りがかたい。

 赤茶色の髪は短くしていて、もう前のときのような幼さは抜けて、ちょっと精悍な少年になっている。


「リョウ、大きくなったね! それにますます綺麗になった! ああ、無事でよかった……本当に、良かった」

 

「ご心配おかけしました! カイン様もお変わりなく! いえ、ますます男前になられたみたいで! またお会いできて嬉しく思います!」


「あれ? その手首のものは、昔リョウにあげた私が作った飾りだね?」


 カイン様は私が手首につけているミサンガを見て、嬉しそうな顔をした。 レインフォレストの館を旅立つ時にカイン様がくれたミサンガだ。


 あんまり傷つかないように、丁寧に扱ってはいたけれども、なんせ山生活なもんで、結構痛んできていて、いつ切れてもおかしくなさそうだった。


「はい! 丁寧に扱っていたつもりでしたが、ちょっと切れてしまいそうで……」


「いいよ、物はいつか壊れるものだから。今度、実家に戻ったときにまた新しいのを作ってあげるよ」

 そしてカイン様の白い歯がキラリ。

 さすがイケメン! 白い歯がまぶしい!


 そんな感じで、私とカイン様が再会の抱擁をしている間に、アランはますますショボーンとしてきている。

 

 あ、ヤバイな、お兄ちゃんをとられた気になってしまっただろうか?

 私がアランのほうを心配げに見たことをカイン様も気づいたようで、私との再会の抱擁をやめて、今度はアランのほうに腕を広げる。


「アランも、入学おめでとう」

 うん、と頷いて、アランはしょげた様子で、軽く兄と抱擁を行なう。


 そ、そんなしょげないでよ。悪かったよ、最初にお兄様に抱きついて。


「アラン、落ち着いたかい? リョウに言いたいことがあったんだろう? ちゃんと言えた?」

 カイン様が、弟に目線を合わせて優しげにそう言うと、アランはハッとした顔をして、怯えるように私のほうを見た。


 え、なんでそんな目でみるの? そんな肉食獣に怯える小動物みたいな顔して……私は別に噛み付かないよ?


「……リョウ、さっきは、大きい声を出して、悪かった。色々考えて、なんか混乱してた……」


 謝ってきたアランにびっくりしつつも、大丈夫ですよって答えると、アランが、やっぱりなんか下を向いてしょげ続けている。

 そして、また、少しためらうようなそぶりを見せてから、アランは口を開いた。


「あと、ごめん。リョウを、俺、助けられなかった。……本当は最初に謝るつもりだったんだ。俺が無力で、助けられなかったから。リョウが、一人で辛い目に合ってるかもしれないのに、何も出来なくって、心細い思いをさせてしまったんじゃないかって……ずっと……謝りたかった」


 私は、アランの懺悔、というか告白に体が固まった。


 それは……なんというか、私を心配してくれていたってことだよ、ね……?

 目の前には、落ち込んだようなアランがいる。さっき怒ったのは心配してくれたから?


 私、そんなに、心配してくれているって、思ってなかった。

 アランやレインフォレストの皆がいるところに戻る道はあったのに、私は自ら選んで、戻らなかった。


 自分が選んだ道を、別に後悔しているわけではないけれど、でも、それによって悲しむ人がいると言うことを私は失念していた。


 私は、ただ、アラン達の、ただの思い出になるだけなのだと、そう思っていた。もしかしたら、そう思い込もうとしていたのかもしれない。

 でも、ごめん、アラン。謝るのは、私のほうだ。


「こちらこそ……すみません。心配をおかけしました。もう、大丈夫ですから」

 そういって、私はぎこちなく腕を広げて、アランと再会の抱擁を行なった。

 ちょっとアランが泣いている気がする。鼻水すすっている。

 本当に、ごめん、アラン。


「よかった。入学式関係の手伝いで講堂にいたんだけど、ヘンリー様に弟が声を荒らげていたと聞いて、急いで駆けて来た甲斐があったよ。私はそろそろ戻るよ。二人もそろそろ説明会が始まるだろうから、講堂にもどりなさい」


 仲直りした私たちをみて満足そうに頷くと、そう言ってカイン様は去っていった。

 アランと私は、再会の抱擁をやめて、カイン様を見送る。ふと隣のアランを見てみると、泣いてはいなかったけれど、やっぱりどことなく元気がないように見えた。


「アラン様、私たちも講堂にもどりましょう」


 元気のないアランに、なんて声をかけていいのか分からないし、確かにそろそろ休憩の時間が終わりそうだったので、そう声をかけて、講堂に向かって歩くことにした。


 私は、角を曲がって、講堂への入り口へ入ろうとしたけれど、後ろからアランがついてきていないのに気づいて、振り返る。

 曲がってきた角からアランが現れる気配がない。アランの様子を見るために角の方まで戻ると、すすり泣くような声がして、曲がる前に足を止めた。


「……俺も、カイン兄様みたいだったらよかったのに。あんな風に、リョウに怒鳴るつもりはなかったのに。まず謝って、これからは俺が守るんだって、安心しろって、そう言おうと思ってたのに……俺、最悪だ。なんで俺は、こんなにかっこ悪いんだろう。……早く、大人になりたい」


 アランのポツリとつぶやいた独り言だった。

 思わずつぶやいてしまったような、本当に小さな声だった。


 一瞬、何かを言おうと思ったけれど、多分誰かに聞かせるためにつぶやいた言葉じゃないだろうと思ったので、私は聞こえなかった振りをして、一人で静かに講堂に戻った。





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