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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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起章 入学式-とある教師のつぶやき-

主人公の一人称ではありませんのでお気をつけください。

読み飛ばしても、あまり支障はないような気がします。

ということで本編は本日中に1話投稿できればな、と思っています。

よろしくおねがいします。






 私が王立カスタール学校にて、教師を始めて早7年。本日は、新入生の入学式だが、今年も、魔法使いの入学者が少ない。

 

 年々、じわじわと魔法使いの人数が減ってきている。このことに本当に危機感を持っている者は何人いるだろうか。このまま何もしないままならば、いずれこの、魔法に頼っている社会は崩壊するだろう。

 しかし王は、この崩壊を止めるために特別な政策を行なうわけでもなく、今までどおり、今までの王と同じように政務を行なっている。


 現在の王は無能と言うわけではない。ただおそらく単純に怖いのだろう。何百年も同じ体制で平穏を保ってきたこの仕組みを、自らの手で崩すことが。今まで教わってきた価値観を壊すことが恐ろしく、王は、認めることが出来ないでいる。



 今思えば、前王は危機感だけなら、人一倍あったように思える。だが、阿呆だった。魔法使いが少ないのなら自らが産めばいいとばかりに、妾を大量に抱え、そして考え無しにたくさんの種を落とした。

 しかし、実際に魔法使いの素養を持って生まれたのは、たったの4人だけ。4人の魔法使いのために、多数の魔法の素養を持たない王族の子どもを生んだ。しかも考えなしに前王は、ほとんどの子ども達を有力貴族に嫁がせた。

 それによって、現在の貴族の子ども達は、それぞれが、従兄弟同士であったり、甥姪、叔父叔母の関係になっていることが多い。


 この世代の子らは結婚関係で揉めるだろう。従兄弟同士の結婚は許されてはいるが、血の近いもの同士の結婚は、基本的に敬遠されている。


「新入生代表カテリーナ=グエンナーシス、前へ」


 司会を務めるボルジアナ校長が、新入生代表挨拶をする生徒の名を呼んだ。

 校長に目を向けると校長は期待の眼差しでカテリーナを見ている。

 カテリーナ=グエンナーシス。

 グエンナーシス伯爵の娘か。今年の新入生の中では、公爵家の令息などもいるが、代表挨拶としては無難な選出に思える。


 グエンナーシス領は、山と魔の森で隔てられた隣国と安全に貿易ができる港町を所有する裕福な領地だ。魔法使い不足で、無理が出てきている他領と違って、この領だけは、もともと魔法に頼らずとも豊富な資源が確保できるので、痛手が少なく、最近は特に力を増してきている。


 格としては、王族の魔法使いが封じられる公爵のほうが上ではあるが、公爵といえどもグエンナーシス伯に楯突くことができる貴族はほぼいないだろう。

 もともと、爵位としては公爵のほうが格上だが、領地を所有する伯爵の方が権利関係は強く、しかもグエンナーシスはその伯爵連中の中でも別格だ。


 他の貴族の注目の的であるカテリーナ嬢は、名を呼ばれて壇上に上がった。彼女は魔法使いとして入学している。安泰の領地経営に魔法使いの世継ぎまでいるとは、グエンナーシス伯に憂いはほぼないといえる。


 カテリーナ嬢は新入生代表として、入学の喜びと抱負などを諳んじている。

 銀髪に縦巻きの髪型。金色の瞳。気の強そうな太めの眉につり上がり気味の目。挨拶のためにその綺麗な顔に張り付いた笑顔には、他の生徒を見下すような嘲りの色が見える気がするが、おそらくそれは気のせいではないだろう。


 典型的な魔法使いの見本、いや、貴族の見本だ。

 魔法を使えない人を見下し、自分より劣るものを見下すようにして今まで生きてきたのだろう。他の貴族や魔法使いでも良くあることだ。彼女の場合はそれが他の人よりも強く、そして実際大体の人が自分よりも劣っているために始末が悪くなったのだ。


 司会を務めている白髪混じりのボルジアナ校長を見てみると、明らかにがっかりした顔をしている。

 ボルジアナ校長は前王が3番目に生んだ王子だ。しかし魔法使いではなかったため、15歳で、王族の籍を抜けて、現在はボルジアナ商爵を名乗っている。任せられている仕事は学校の管理だが、教育に関する権限は王が所有しているためお飾りの管理者である。


 しかし、もともと頭の回転の速い男なので、どうにか学校の経営に関する権利を奪おうと地味に足掻いている。

 学校内においても、魔法使い中心になっているこの仕組みをどうにか改善し、社会に反映していきたいと思っているようだ。

 あの常日頃、にへらと笑っている顔からは思いもしないぐらいの熱い男なのだ。

 せめて、現在の王に宿っている魔法の才が、校長にあれば、もしくは校長の才が、現在の王にあれば、もう少しこの社会も長生きできたのかもしれない。


 校長は現在挨拶を行なっているカテリーナ嬢に期待をかけていたのだろう。権力のある若い力でもって、自らの主張を王に通し、あわよくば学校経営の権利を手中に収める力になればという魂胆があったに違いない。


 しかし、彼女が明らかに、すでに貴族色に染まっている様子をみて、肩を落としている。

 問題のカテリーナ嬢は、最後まで気の強そうな笑みで挨拶を終えるとあでやかに壇上から降りた。


 カテリーナ嬢が席に着くと、校長も気を持ち直して、次の新入生代表挨拶の生徒の名をよぶ。

 魔法使いは強制入学なので、筆記試験は受けないが、それ以外の生徒は入学試験を合格したものでないと入れない。入学試験は一般教養の筆記試験。2番目に呼ばれる生徒は、魔法使いではない生徒、入学試験の主席が呼ばれる。


「続いて、一般入試の部、新入生代表リョウ=ルビーフォルン。前へ」


 新入生の間で少しざわめき始めた。

 リョウ=ルビーフォルン、彼女のことは入学式の前から少し有名になっていた。

 あの呪われた、魔法に見放された地のルビーフォルンが、何故か魔法使いでもない、どこから沸いて出てきたかも分からない、素性もなにも謎の子どもを養女にしたという噂だ。

 たまに貴族でもない親から、魔法使いが生まれることがあり、その際は、領主が養子に取ることは多いが、魔法使いでもない子どもをわざわざ養子にし、しかも、学校の試験を受けさせると言うのは異常だった。


 学校入学への筆記試験は、小さい頃からきちんと教育を受けていないと受からないぐらいには難しいもので、今年も、おそらく小さい頃から教育を受けていたであろう貴族の子ども達でさえたくさん落ちている。


 国家の予算で経営している学校なので、授業料や試験を受けるのは無料だが、王都までいく旅費や、試験から合格発表まで王都で過ごさなければならない労力・金銭、そしておちてしまう可能性もあるということを考えると、見込みのない子どもは試験自体も受けさせないのが普通だ。


 それをどこの馬の骨とも分からない子どもが試験に臨み、受かり、しかも、主席。

 もともと、噂にされやすい領地のルビーフォルンだが、今回の謎の行動に周りの貴族達はかなり敏感になっていると聞いている。


 ざわざわしている生徒を気にする様子もなく、名を呼ばれたリョウ=ルビーフォルンは壇上に上がった。


 簡単に挨拶をすると、今年で10歳になる子どもとは思えないほどの落ち着いた微笑みで、先のカテリーナ嬢と同じように入学の喜びと目標などを語る。


 黄みの強い金髪を胸の辺りまで伸ばして、毛先のあたりで、くるりと少し巻いている。鼻は小さく、唇は薄く、ハシバミ色の芯の強そうな目。

 特徴の薄い顔にも見えるが、ピンと伸びた背筋、少しあごを引いて絶妙なバランスにあがる口角、仕草の一つ一つが洗練されていて、思わず息を飲んだ。


 謎の新入学生というだけでも話題なのに、彼女のあの雰囲気は……。


 一般入試で入学する生徒はどこか卑屈な者が多い。それもそうだ、家族の中、親戚の中で魔法使いとそうでないもので比べられて育てられているのだから。

 大概の一般生徒は、魔法使いに対して何かしらの葛藤を持っており、大概が、魔法使いに従順でいることで、その葛藤と折り合いをつけている。もしくは、殻に閉じこもってしまうような生徒もいる。

 しかし、今壇上に立っている魔法使いではない女生徒からは、そういった卑屈さや、陰鬱とした感情は見えない。

 

 リョウ=ルビーフォルンは、挨拶を終えて、壇上を降りた。昇っていったときにはざわざわしていた生徒達も、今では静まり返っている。

 生徒も気づいたのだ。彼女が放つ雰囲気の異様さに。

 そして、彼女を歓迎するべきものなのか、警戒すべきものなのか、秤にかけている。


「在校生代表挨拶。3学年ヘンリー=カストール=ゲースフォムタール。前へ」

 校長がその名を呼ぶとまた講堂内が先ほど以上にざわざわとし始めた。


 色の白い肌、色みの薄い金髪に薄紫の目。魔術師らしく胸の下のあたりまで、まっすぐに髪を伸ばしている。王族の特徴を色濃く受け継いだ美貌の貴公子だ。

 彼は、この学校に在籍している中で、もっとも有名な生徒。前王の子ども、つまり校長の腹違いの弟にあたる優秀な魔法使いだ。

 現在の王には、残念ながらまだ魔法使いの子どもが生まれていない。そのためヘンリーが、次期王とも言われている。魔法の扱いにおいても、近年稀にみるほどの出来の良さだ。

 しかも、擦れたところがなく、品行も申し分ない。

 魔法の使えない者を蔑む様子もなく、穏やかな性質なので、ボルジアナ校長が今もっとも期待をかけている生徒である。そのため、4、5学年の生徒を差し置いての代表挨拶に抜擢されていた。


 ボルジアナ校長が彼に期待を掛けるのは、もし彼が魔法至上主義の現在の王政に疑問を持った場合、王も動く可能性があるからだ。彼にはそれほどの影響力がある。しかも、もし王が動かなくても、次期王になる可能性のある男だ。手なずけて損はない。


 だが、今のところ校長の思惑はあまりうまくいっていないようで、未だに彼の賛同を得ることは出来ないばかりか、あまり込み入った話を出来ないでいるらしい。

 おそらく今までも利用するために近づく者が多かったのだろう。彼は警戒をしている。


 しかも、直接的に主張を訴えて、もし、ヘンリー王弟が反対をした場合、校長は職を解かれるだろう。

 しかも、王は、学校の状況を見張るために、教頭職に王の息のかかった魔法使いを据えている。

 別に王が、校長に何かしらの疑いを持っているわけではない。ただ単純に現在の王は、というか、今までの王もそうだが、基本的には、魔法使いしか信用していない。たとえ腹違いの兄弟であっても、魔法使いでなければほとんど信頼に値する存在ではないのだ。


 それに、ボルジアナ校長自体も、無理やりヘンリー王弟を説き伏せようとも思っていない。

 基本的に考え方が教育者であるので、ヘンリー王弟にはこの学校で過ごす上で、自ら気づいて欲しいと思っている節がある。そしてあの出来た王弟ならば気づけるだろうと希望を持っているのだ。


 そして私もその希望にすがっているしがない教師だ。

 私とて、今後の社会に憂いを持つ男の一人なのだから。


 私と校長の期待の眼差しなど歯牙にもかけない様子で、優秀な魔法使いの王弟は、挨拶を終えて壇上を穏やかな表情のまま降りていった。




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