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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期

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山賊編⑰-なんだかんだで気に入っているんだもの-

 私は親分達とは別れて、コウお母さんやバッシュさん達と一緒に行動することになった。


 別れ際に、親分は私の頭に手を置いて撫でてくれた。

 私が、また会えるかどうかをきいたら、『当たり前だろ。同じ大地で生きてるんだ。会おうと思えばいつでも会える』 と言ってくれた。

 クワマルのアニキが、『魔術師をこれでとっちめた時は爽快だったぜ』と言って、私に神殺しの短剣をくれた。正直、こんなすごいもんもらえないと思ったが、新しいのをまた作るからと言って、ほとんど無理やり持たされた。

 ガイさんは、ただ、ウッス、といって、鼻をすすってたから、私もうんうんうなづいて、また少し泣いた。

 ルーディルさんは、前に私が作って渡した横笛を出して、『うまく高い音が出ないんだが』と、なんかいつもどおりのことを言ってきたので、改めて指の押さえ方を指導した。え、もっとなんかないの? こう最後の一曲みたいなの、と思ったけれど、私は黙っておいた。


 また、コウお母さんは、野営地に残している薬の数や種類、使い方について、簡単にルーディルさんとクワマルさんに説明をしていた。

 そして、用が済むと本当にあっさり親分達は、去って行った。あまりにも自然に、鮮やかに去って行ったので、また明日も普通に会えるような気さえした。


 親分と別れた後は、お別れをした寂しさとコウお母さんが私と一緒にいてくれる嬉しさで、何かもう、よく分からないけど、気持ちが高ぶって、怪獣のように泣きまくった。


 その後の記憶はずっと泣いてたから、よく覚えてないけれど、気づくと私とコウお母さんはバッシュさんが乗ってきた馬車にいた。


 私の今後の流れとしては、しばらく一緒に農地改革の巡業をして、それが終わったら、ルビーフォルンの養女になって、王都にいって、学校の入学試験を受けて、結果発表まで王都で暮らしつつ礼儀作法などの勉強もして、学校へ入学するという段取りになるらしい。

 学校は寮生活らしいけれど、コウお母さんは王都で仕事を探して近くに住んでくれるといってくれた。学校の寮は外出許可さえとれば外へのお出かけはオッケーらしく、休みの日や授業が終わった後とかいつでも会いにいけるという話だった。


 親分達と別れてから、一晩経つと私も落ち着いてきて、昨日泣きまくった目がはれて痛い。


 昨日は、本当に、ほとんど泣いていた。バッシュさんの馬車に乗った時もずっと泣いていたけれど、泣きまくっていた私を見て、タゴサクさんが、

「ああ、リョウ様が、この世を憂いて下さっている! この世の全ての悲しみをその背中に背負ってらっしゃるのです!」

 と、解釈をして、それに反応したタゴサク教信者の騎士たちが、ありがたいありがたいと拝み始めたのを見て、やっと涙が止まった。

 でも、正直、こんなんで、なんていうか、私の思いのたけが詰まった涙を止めたくはなかった。タゴサク教怖い。


 昨日私が盛大に膝蹴りをして、鼻血を吹かせていたアホのリュウキは、既に猿轡をはずされ、ムームー谷の住人ではなくなって、同じ馬車に乗っている。

 彼は私に膝蹴りされてるし、脅したりしたから、すごく怒ってるだろうなと思っていたけれど、なんてことはない、彼もタゴサク教の一員だった。

 バッシュさんとの密会も、天上の神の御使い様から密かにお告げを聞くためのもので、私を引き取るための密会だったと言うことで納得している。なんと恐ろしいタゴサク教の影響力。

 彼は、私が昨日泣いていた時も、この世を憂いていると思い込んでいた他の信者と一緒に、拝んでいた。


 今も、タゴサクさんが、『リョウ様はその時、右の草鞋を編んだのなら、左の草鞋も編みなさい、そうおっしゃったのです』みたいなことを言って、それを一生懸命リュウキさんが、ガリガリと紙に書き写していた。

 そんなに盛大にメモる話だっただろうか。

 この宗教本当に怖い。


 大丈夫かな、この信者達は……いつか詐欺とかに引っかかるんじゃないかな。むしろもうすでに遅いのかな。教祖タゴサクが高い壷でも売り始めるんじゃないかとソワソワして、私は心の中で彼らに合掌した。


 今日は泣きつかれて、気力がないけれど、元気になったら、ちょっとこの宗教とめないと……。


 セキさんはありがたいことにタゴサク教信者じゃないみたいで、たまに、騒ぎすぎるタゴサク教徒を諌めてくれている。ありがたし。


 そのセキさんは、コウお母さんの弟さんと言うことだったけど、完全にオネェと化したコウお母さんに、セキさんは慣れていないみたいで、なんか戸惑ってた。

 

 セキさんの見た目がすごく若いので、年の離れた兄弟なのかと思ったけど、そうではなくて、どうやら魔法使いは少しふけにくいらしい。羨ましい。


 私は、まだ少しはれぼったい目を開けて、隣にいるコウお母さんをみた。穏やかそうな顔で、馬車の外の景色を見ている。


 私は昨日、一緒にいたいと伝えたことに後悔なんかしてなかった。

 でも、今一緒にいるコウお母さんはどうなんだろう。

 コウお母さんは本当に親分のことが好きで、前にも『ずっとついて回る!』っていってた。

 でも、私のわがままで、ずっとついて回れなくなってしまった。私に後悔はないけれど、コウお母さんに、何か一言伝えたかった。


「コウお母さん、ごめんなさい。親分と離れ離れにしちゃった」


 突然謝ってきた私のほうをびっくりしたように見て、

「あら、どうして謝るのぉ? 私がリョウちゃんと一緒にいたいから一緒にいるだけよ」

 といって、コウお母さんは、頭を撫でてくれた。

 その顔に、嘘とか偽りみたいなものはないように思えた。


 私がほっとして笑うと、

「それに、リョウちゃんに好きな人が出来て、その人と一緒にいたいってなって巣立ったら、アタシはまた、アレクを追っかけるつもりよ! アタシはね、一度目をつけた獲物は逃がさないの!」

 と言って、さっきまで穏やかにしていたのが、いきなり獰猛な獣のようなオネエに変貌した。親分に逃げ場はないようだ。


「私も、大人になったら、また親分達に会いに行くと思います。……コウお母さんは親分がやろうとしてること、反対なんですよね?」


 コウお母さんは私の突然の質問に少し戸惑っていたようだった。でも、この質問に答えて欲しかったから、私は目を離さなかった。

 すると観念したようにため息をついて答えてくれた。


「反対というわけではないのよ。むしろ、アレクの言う理想は、アタシの理想でもあった。学生の時に、それでみんな意気投合して仲良くなったんだもの。でも、その理想を追い求めようとすると、少なくない人が死ぬことになる。私はそれが嫌だったのね」


 うん、そっか。そうだよね。人が死ぬのって嫌だよね。

 私は、自分が考えていることを、コウお母さんに伝えたくて、どうにかこうにか頭の中でまとめて、言葉を紡ぐ。


「私は、親分達が何をやろうとしてるのか薄々分かっていたのに、見て見ない振りをしてました。多分、私は、空っぽだったんです。ただ、自分に足りないもののことばかり考えて、この世界のこと、そこに生きる人達のことを真剣に考えたことがなかった。自分の世界のことじゃないように思ってたんです」


 コウお母さんがちょっと心配そうな顔で私を見てる。

 私は『大丈夫!』という気持ちが伝わるように、満面の笑みで答える。

「でも、私やっとわかってきたんです。だから、これから学校にいって、いろんなことを知って、自分の目で見て、たくさんの人と出会って、空っぽの自分をすこしでも埋めて、その上で自分の考えを持って、自分で決めたい。そうやって、生きていきたい。自分の考えが固まったら、私は親分達に会いに行きます。親分のやろうとしていることが、私にとっても正しいと思ったら、私は親分に協力する。でも、もし親分のやろうとしていることが、私が考えた上で、間違っていることだと思ったら、私は親分をとめます。多分、それが、そうするのが……私が、家族として、親分のためにできることだと思うんです」

 元気に言い切った私を見て、コウお母さんは、なんだかまぶしそうな顔をして、優しく微笑んだ。 


「……そう。それもいいかも。アタシとしてはそんな盛大な目標を掲げずに、楽しい青春時代を過ごしてくれるだけでいいけれど」


 そして、そこまで言ってコウお母さんがマジマジと私を見てくる。


「リョウちゃんは最初に会った時と全然違うわね。素敵な女の子になった。アタシがもし男の子だったら、好きになっちゃうかも。……そんなリョウちゃんに、学校へ行く前に一つ助言をするわ」

 そういって、コウお母さんはグッと私をみる目に力をこめる。


 私は、『アタシがもし男だったら』の部分に少しばかりの違和感を覚えていたけれど、気づかなかったことにして、コウお母さんの次の言葉を待った。


「かっこいい男子を見かけたら絶対に逃がしちゃダメよ! そして私のところに連れてきなさい!」


「……連れてきてどうするんですか?」


「そんなのリョウちゃんにふさわしい男かどうか、アタシが、味見するのよー。変な男じゃ困るものー」


 そうか、彼氏が出来ても、しばらくはコウお母さんに秘密にしなければなるまい。

 私は密かに固い決意をし、こくりと頷く。

 頷いた私を見て、満足そうにコウお母さんも頷いた。


 そして、私は馬車の背もたれに背中を預けた。昨日は泣いて疲れたし、今日は天気も良くて日差しが心地いい。少し目をつぶると、すぐに眠くなってきた。



 学校生活は5年間。その間に、私のスカスカな中身をぎゅうぎゅうにつめて、私がどうしたいのか、どうなっていきたいのか、いっぱい考えよう。

 いろんな人と出会って、その人の考えに触れて、でも自分でも考えて、そうやって私はこの世界で生きることと真剣に向き合っていこう。

 だって、私は、今私が生きているこの世界を、なんだかんだで気に入ってきているんだもの。






第一部 転生少女の幼少期 了








ここまで読了ありがとうございます!

第一部を書ききれたのも、感想とか評価とかの皆様の応援のおかげです。ありがとうございます!

第2部の更新まではしばらく間をおきたいと思います。


一部のあとがき&2部はこんな感じになるという宣伝?は活動報告でまた改めて書きたいと思います。


それでは、ここまでお付き合いいただいて、ありがとうございました。

第2部もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不意打ちで宗教ネタ入ってくるの笑ったww [一言] 面白い
[気になる点] AJIMI!? 吟味するじゃないのがwww
[良い点] 激動の幼少期でしたがこれから学生編?でどういう大人になっていくのか……興味深いです!!
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