山賊編⑮-ガリガリ村の今-
おお、村長の息子! 懐かしい!
私がガリガリ村で発足した農村のこれからを考える『村民の集い』にもほぼ毎回出席していた優等生じゃありませんか!
あの時は、有志を募って発足した村民の集いで、日々品種改良や、肥料についての考察をしたり、よりたくさん作物が実るように相談してたね!
そっか、君、名前タゴサクだったのね!? ずっと村長の息子呼ばわりしてたよ。そっか、タゴサクか、すごく田畑を耕すのが上手そうないい名前じゃないか。
「ああ、どこかで見たことがあると思ったがあの時の子か」
セキさんが納得した感じで頷く。
あ、覚えててくれてたんですか? どうも、あの時はお世話になりました。わざわざ魔法使いじゃないって教えてくれて、ありがとうございました。
「ああ、まさか! こんなところで、リョウ様に再び会うことが出来るとは!」
と、テンション高めのタゴサク先生。
「ええ、本当に。また会えるとは思ってませんでした。お久しぶりです」
久しぶりに会えたのは嬉しい、どうしてこんなところにいるのかとか、ガリガリ村の現状も聞きたい。
でも何か解せない。タゴサク先生の反応がちょっとおかしい気がするんだ。第一、当時は私のこと『様』つけて呼んでなかったし。
「ええ!? この子が、タゴサク先生のおっしゃられていた天上の神の使いであるリョウ様でいらっしゃるんですか!?」
タゴサク先生と同じようなノリでバッシュさんも参加してきた。
ていうか、さっき神の使いって言った? 聞き間違いかな……。さっきのVS魔法使いで疲れたもんね。幻聴かな。
「ええ、この方です。ガリガリ村を救ってくださった救世主、天上の神の御使い様です!」
すると、タゴサク先生の思いのほかに大きな声を聞きつけて、捕まっている騎士達がざわざわと騒ぎ始めた。先ほど、コウお母さんによって大人しくされたムームー谷の住人も、また興奮した様子でムームー言いはじめている。
「というと、生まれた瞬間に、『東西南北全てにおいて私より尊きものはなし』とおっしゃったいう、あのリョウ様ですか!?」
と、一人の騎士が騒ぎ出した。
そんな偉そうなこと言ってないよ!
ちょっと、タゴサク先生、なに満面の笑みで頷いてるんですか!? 言ってないよね! しかも別に私が生まれた瞬間立ち会ってないよね!?
「ええ、リョウ様は花の蕾から生まれたのですが、その際ガリガリ村の村民全員が思わず涙を流したのでございます」
花から生まれてないよ!? 花から生まれて、皆を泣かすって……私は花粉か!? アレルギー反応で皆を苦しめたつもりはない!
「そして、生まれて1年で、人々に食べ物を施し、草鞋を編み出したという!?」
おいおい、1年ちょっとの子どもがそんな……あ、それはしたわ。それは私だわ。
ていうか、ちょっとやめて、なにこれ怖い。
「あ、あの、さっきから何の話をしてるんですか?」
「リョウ様のお話でございます」
「違うと思いますけど……」
「ハハ、そんな謙遜されなくてもいいのです。全て分かっております」
いや分かってないから言ったんですけど!?
「こいつら頭おかしいのか? 人が花から生まれるわけねぇだろ」
親分が、興奮しているルビーフォルン陣営には聞こえないぐらいの声量で、ボソッと突っ込んでくれたので、私は何とか冷静さを取り戻した。
よかった。やっぱりおかしいのはタゴサク先生なんだ。抜け毛と一緒に正気も抜けちゃったんだな、可愛そうに。
若干ひいている山賊側陣営の真っ当な反応を見て私は何とか落ち着くことが出来た。さっきタゴサクが言ったことは忘れよう。
「あの親分、こちらのタゴサクさんは、私が生まれ育った村の村長の息子さんです。なんか、ちょっと良く分からないことを言ってるのは、気にしないでください」
私が、努めて冷静に親分に状況を説明し、親分は、ざわざわしてる騎士達を見て『ああ』と言って頷いた。
「ところで、タゴサクさん、今、ガリガリ村ってどうなってるんですか? タゴサクさんはどうしてここに?」
騎士たちにありもしない私の空想話を聞かせているタゴサクさんを黙らせることも兼ねて、私は質問をした。
「ガリガリ村の者は、リョウ様から頂いた知恵を以て、畑を耕しておりました。すると、その知恵についての噂を聞きつけたこちらのバッシュ様が是非ご助力願いたいという話があり、私は代表してリョウ様の教えを広めているところでございます。現在のガリガリ村は、リョウ様が発足していただいた『リョウ様の教えを深める会』にて、肥料や作物の品種についても改良を行い続けております」
おお、なんか、ガリガリ村の人達、ここ数年ですごいことになってるんだね。
ただ、一つ言いたいことは、私が発足したのは『村民の集い』であって、決して『リョウ様の教えを深める会』ではない。
「はあ、『村民の集い』の皆さんで頑張ってくれたんですね。すごいです。あの、それで、ちなみに私の、あの、家族はどうなったんでしょう?」
聞こうか、聞くまいか、ちょっぴり迷った。でも、やっぱり純粋に気になる!
「ああ、当時リョウ様のお世話をしていた一家についてですね。私も村をでてずいぶん経ちますので、その時の状況にはなりますが、サブロウ君とマル君、シュウ君が主に畑を維持しておりました。とくにマル君、彼はなかなかの頑張り屋で、村のものからも好かれております。ただ、ご両親と長男ハジメ氏については、基本的にはぐうたらにすごしておりますね。忌々しいことです。まあ、彼らは『教えを深める会』にももともと参加しておりませんでしたしね。……参加していたものは、リョウ様がいなくなったあと、それはもう嘆き悲しみました。しかし、曲がりなりにも、リョウ様があの家のものでもあったので、強くは責めることは出来ません。子を売るということは、よくあることでもございますから……申し訳ありません」
「あ、別に謝らなくても、大丈夫です。みんな元気そうでよかったです! でも……ジロウ兄ちゃんの話がでてこなかったようなのですが?」
私がジロウ兄ちゃんの話を振ると、タゴサク氏はううん、と唸って顔をしかめた。
「ああ、彼は……リョウ様が出て行かれてから、すぐにどこかに行かれてしまいました。おそらくリョウ様を追ったのでは、と言われてましたが、お会いにはなってないんですよね?」
えっ! マジで?
「会って、ないです……」
ジロウ兄ちゃん、まさか私を追ってきてたの!? 大丈夫かな。まさか、のたれ死んでなんかいないよね!?
あ、でも、確かレインフォレスト領にいた時に、私を探している謎の覆面男がいたっていう噂があったけれど……あれ、もしかしてジロウ兄ちゃんだったのか!?
いや、でも、ジロウ兄ちゃんだとして、どうして顔を隠すんだろう……。
「リョウ様、そのように気を落とさず。彼はもう既に大人です。大丈夫ですよ」
急に黙ってしまった私をタゴサクさんが慰めてくれる。
そっか、確かに、ジロウ兄ちゃんは、当時既に15歳だったし、この世界だと大人になるのか。
無口系だったけど、ご飯をたくさん食べれるようになってからは、体つきもがっしりしてきてたし、大丈夫だと……信じたい。
私がジロウ兄ちゃんの衝撃的な事実に震えていると、一人の騎士が、
「なるほど、バッシュ様のこの密会は、神の御使い様から助言を賜るためのものだったんですね」
と言ったので、おお、なるほどと、騎士達がまた騒ぎ出した。
え、なんなのこのノリ怖いんだけど。私今ジロウ兄ちゃんに思いを馳せているところなんだけど。
そうですよね? と騎士達の期待の眼差しに見つめられ、バッシュさんは、厳かに片手をあげた。
「ゴホン、まあ、そういうことだ。すまんが、これから神聖なる密会が始まる。多勢では失礼に当たるので、私だけが伺う。みなはここで静かに待たれよ」
バッシュさんは偉そうに言った。