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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期
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山賊編⑫-バッシュさんとの会合-

 いよいよ、バッシュさんとの会合が明日に迫っていた。

 そうなると親分だけじゃなくて、山賊の皆がちょっとピリピリ。むしろソワソワ? 

 

 今は、親分とコウお母さんの間に陣取って、薄い掛け布団に包まって眠っているフリをしていた。


 眠りたいんだけど、なんか眠れない。だって、本当にみんなピリソワしてるんだもの。

 でもそろそろ、子どもは寝てないといけない時間なので、寝てるフリなのである。


 もう売られる心配はないから、暢気にバッシュさんてどういう人なんだろうなーと最近妄想しながら寝ている。

 親分の友達で伯爵様なんだから、やっぱりなんか一癖も二癖もある奴な気がする。多分ひげとか胸毛とかがすごい気がする。そして、彼は自らの胸毛をむしっては寂しくなりつつある頭の毛にパラパラとふりかけて、毛根健康祈願をしているんだ。


 無意味な妄想で心を落ち着かせて寝る準備に入ろうとしていたら、硬くておっきいごつごつとした手が、私の頭をなでてくれる感触がした。


 親分の手だ。


 なんていうか、たまに親分は、私が寝てると思ったときに、ちょっとたどたどしく頭をなでてくれる。

 おそらく今、私が目を開けたら、照れ屋な親分はばつの悪そうな顔をしつつ、急いで手をひっこっめるに違いない。

 ふふ、なので、必死に寝ているフリを続行して、親分のヨシヨシを堪能する。

 私、多分頭を撫でられるのが好きすぎて、感極まって泣きそうになるんだけど泣いたらばれるから一生懸命泣かないようにする。


 へへ、こいつがあるから寝たフリは止められんのですよ。


「……ねえ、アレク、考え直さない?」

 私がヨシヨシを堪能していると、静かだったテントの中で、コウお母さんの呟きが聞こえた。コウお母さんの言葉に、ぴたっと親分のよしよしの手が止まる。おおう。

 

「……何だいきなり」


「アレクがやろうとしてることは無謀よ。もう少し様子を見ましょうよ」


「ハッ! 今さら何言ってんだ。もともと無謀なのは分かってたことだ。けど誰かがやらなきゃいけねぇ。お前だって分かってんだろ、もう戻れねぇ」


 ヤバイ、夫夫喧嘩か!? どうしよ、どうしよ。

 声で起きちゃった☆テヘペロってやって、いったん話を逸らして中断させたほうがいいだろうか。


「それじゃあ、リョウちゃんはどうするの? 私たちにもしものことがあったらどうなるの? この子も巻き込むの?」

 やだ、私の名前が出てきた。これではなんかますます起きるに起きられない。しかも不穏な雰囲気……。


「……こいつは、好きで俺達と一緒にいるんだ。文句はねぇはずだ」


「ねえ。アレク。せめて、この子が大きくなるまでは……待って欲しい。それぐらいはいいでしょ? アレクだって、可愛がってるじゃない」


「もう、黙れ。どっちにしろ、バッシュ次第だ。それ以上その話をしたら、承知しねぇ」

 そういって、親分は私の頭においていた手を離した。


 寝返りを打つような音と、布がこすれる音がする。多分、今目をあけたら、親分は私やコウお母さんに背中を向けて横になっているに違いない。

 反対方向からは、コウお母さんの小さなため息が聞こえた。


 多分親分達は、百姓一揆とか、革命とか、そういうのをしようとしてるんだと思う。たまに、武器がどうの、鉱山がどうの、魔法使いがなんだの、あそこの農民は協力してくれるだのなんだの、そんな話をしてる。


 この世界の仕組みが良く分かってない私でも、無謀そうなことは分かるけど、別にいいよ、コウお母さん。気にしなくても大丈夫。

 私は、もし、親分に手伝えって言われたら、手伝うことはやぶさかではないし。だって、家族ってそういうものなんじゃないかなって思う。

 よく、わかんないけど……。



*



 親分とバッシュさんの会合が始まった。

 向うの代表選手は、精霊使いの人とバッシュさん。こっちの代表選手は親分と、コウお母さんの2対2の対談。対談と言っても、木に囲まれた山中での立ち話だけども。


 あんまりたくさんの人数で押し寄せても、威圧感があるだろうと言うことで、2対2方式。でも、別にバッシュさんが皆いてもいいよって言ったら合流するつもり、というか多分合流するでしょ、という感じなので、ちょっとだけ離れたところで遠目に4人のやり取りを見ながら待機中。

 私はよく見やすいように、ガイさんに肩車してもらっている。ガイさんは身長2mぐらいありそうな大男なので、その上に乗ると視界が広い!


 ていうか、あの向うが連れている精霊使いさん見たことがある気がする。遠目だからまだ良く分からないけれど、あの赤髪の精霊使い、もしかして、前ガリガリ村に来てくれた精霊使いなんじゃないかな?

 クワマルのアニキが、ヤマト領の精霊使いって言ってたし。何を隠そうガリガリ村はヤマト領の開拓地だ。

 しかしちょっと距離があってなんともいえない。


 とりあえずバッシュさんは毛むくじゃらじゃなさそうで、ちょっとがっかりした。

 私はここ最近、毎晩毛むくじゃらのバッシュさんを想像していたのに。そして笑い方は『フォッフォッフォ』なんだ。白い毛で、フォッフォッフォ。それが私のバッシュさんだったのに、普通にひげなんて生えてない清潔感がありそうな茶髪の男性だ。


 会談は無事に始まったようで、『よお、久しぶりー!』みたいなテンションで、抱き合って挨拶をしている。コウお母さんも久しぶりに会えた友人と弟にいつも以上にクネクネさせて喜んでいる気がする。


 しかし、弟さんは自分の兄がオネェであることをどう思っているのだろうか。クネクネしていることにどう思うのだろうか。ちょっと遠目では彼の心境まではうかがえない。


 親分が怖い顔で笑いながら、ちょっと遠くにいる私たちのほうを指差してきた。多分、他の奴らがあそこにいるんだが、つれてきてもいいか? みたいな事を言ってるんだろう。バッシュさんは、うんうんと頷いている。


 そして、それじゃあ、みんなこっちこいよー! とでもいいそうな感じで手を上げたと思ったが、親分の様子がおかしい。

 自分の足元を見て慌てている。コウお母さんもだ。ていうか向うにいる4人みんなが足元を見て慌てている。


「様子がおかしくないか?」

 ルーディルさんがそうつぶやくと、向うにいる親分がとうとう腰に下げた剣を抜いた。


「剣を!?」

 クワマルのアニキの驚きの声と同時に、私達は親分のほうに走り出した。

 私はガイさんの肩に乗ったまま、一生懸命落ちないように頭をつかんで、親分たちの様子を観察する。

 何が起きてるのか分からないけれど、向うの様子がただ事じゃなさそう。足元を見て慌ててたけど……。


 あれ? 足が何かで固定されてる? 氷?

 こっちに走ってきていることに気づいた親分が、

「やめろ! こっちにくるな!」

 と叫んでいる。


 そう叫ばれましても、ただ事じゃない様子を見せられたら、とまれないよ!

 そんなことを思っていると、親分が持っていた剣が、砂のようになって、崩れ去った。

 あれ、どこかで見たことある。砂のように崩れさって消えるの、あれ、アランやアイリーンさんが失敗作の剣や鎧を作り直すときに見たことがある。

 魔術師が作ったものを解除する時の魔法だ。


「気をつけて! 近くに魔術師がいる!」


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