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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期

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山賊編⑪-色々あって1年後-

「ここの土のクレイパックー、すごくよくなーい?」

「ほんとですねー。イイ感じですー」

「腕とか足とか、日に当たるところはぜーんぶ塗っちゃお!」

「あ! 私も私もー。日焼け止めにもなりますねー」


 グリグリ村を逃げるように出発してから1年近く経過していた。

 旅の途中色々あったけれども山賊のみんなは、元気にやっている。


 でも、まだバッシュさんには会えていない。


 しかし、あえない時間を無駄に過ごしたりはしない。コウお母さんと私で、女子力向上のための美容セミナーを開いては、自らの体に磨きをかける日々。

 本日は、クレイパックセミナー。山のきめ細かい泥と薬湯を混ぜて練って顔含むお肌に塗り塗り。


「うわっ! コウのアネさん? っすか? 何やってるんすか! マモノかと思っダブフー」


 泥んこコウお母さんの、右ストレートが話しかけてきたクワマルのアニキの顔にクリーンヒット!

「マモノってどーいうことよー!」

 コウお母さんのドスの効いた声の後に「そうよそうよ、失礼しちゃーう!」と私はいつもの合いの手を入れる。

 コウお母さんと一緒にすごすようになって、私もすっかり女性らしい口調が身についてきた。いいことです。


「す、すいやせん! あ、あの、親分が呼んでるっす」

 クワマルのアニキはぶたれた頬を手で押さえながら、よろよろと立ち上がる。


「あら? アレクが? そう、じゃあ行こうかしらね」

 コウお母さんは泥んこのまま去っていった。


「あ、あのままいくのかよ……」

 コウお母さんが遠くに行くのを待ってから、クワマルのアニキは小さく突っ込んだ。


「アニキ戻ってきてたんですね! バッシュさんと連絡取れたんですか?」

「おおよ」

 と言って、クワマルのアニキはサムズアップ。


 つい先日、やっとバッシュさんの農業改革ご一行を確認できた。けれども、いきなりバッシュさんの前に親分が現れて、「ガハハハ、ようやく見つけたぞ!」とか言い出したら、魔王かと思われて、バッシュさんの護衛の人達に討伐されてしまう恐れがあったので、クワマルのアニキがさりげなくバッシュさんにだけメッセージを届けに行ったのだ。


「まあ、俺にかかればちょろいもんよ。まずな、近くの農村の女の子に声かけて、ちょっと小遣いを渡すから、あそこの馬車に乗ってる人に花束を届けて欲しいって言うだろ。そんで、その花束の中にはバッシュ宛の手紙が入ってるから……って、きいてんのかよ!」


 話をしている間中、ずっと体の隅々まで泥を塗り続けている私に、アニキが怒鳴る。


「聞いてますよ。その花束の中の手紙を見てバッシュさんが来てくれるっていう寸法なんですよね? さすがっすさすがっす」


「何そのやる気のない賞賛は……。お、お前、最近俺への扱いひどくね? 1年前は、あんなに素直だったのに……」


「気のせいですよ」

 私がそう泥を塗りながらフォローをすると、そう? と言いながら、多分納得した様子でクワマルのアニキは話を続けた。


「ということで、作戦はうまくいったが……余分な奴がいたから、それがちょっとなー」


「余分な奴、ですか?」


「コウのアネさんの弟なんだけどよ。そいつがバッシュと一緒にいた。他領の……ヤマト領の精霊使いだ。あいつ、王女様と駆け落ちまがいのことしてから、王族やヤマト伯爵家から疎まれてるからなー。ルビーフォルン領に追い出されたかな」


 と、言って意地悪そうにウキキと笑った後、ったくよー、あいつもいるなんて予想外だぜー、みたいなことを不満げにブツブツ言っている風ではあるが、ちょっと嬉しそう。むしろかなり嬉しそう。


「……なんか、仲よしだったんですか?」


「仲良しとかじゃねぇよ。きもちわりぃ! あいつとは腐れ縁だ」

 なるほど、その反応は仲良しってことですね。


「親分達はみんな学校での友人なんですよね? コウお母さんから聞いたことがあります。そのコウお母さんの弟さんも学生時代よく親分とかとつるんでたとか」


「……まあな。でもあいつは魔法使いだから、俺達とは住む世界が違うんだよ」

 ちょっと寂しそうなサル顔のアニキ。


「でも親分と一緒につるんでたってことは、馬が合う人だったんでしょう? それに、さっきアニキが言ってましたけど、駆け落ちって……! 王女様と駆け落ちとか、なんかステキな人じゃないですか」


「なーにが、ステキ! だよ! まだ子どものくせに、ませてんじゃねぇよ」

 と、言って、笑いながら私の髪の毛をわしゃわしゃしてくる。

 ステキ! の部分が気持ち悪いぐらい甲高い声だったんだけど、まさか私の声まねじゃなかろうね! 私の声はもっと可愛いよ! 幼女特有のかわいい声だよ!

 

 私はクワマルアニキへの憤りを表現するため、泥んこのままアニキに抱きつく。


 うわ、おまえちょっと! 汚れるだろー! というアニキの叫び声が山に響いた。


*



 

 バッシュさんとの会合は、10日後に決まった。

 決まってから、心なしか、親分はピリピリしているし、コウお母さんはすこし元気がない。

 焚き火を囲んでの夕食の後は、皆お酒を飲んで騒ぐんだけど、何かいつもと違う雰囲気みたいで、みんなちょっとしんみり晩酌。


 私は、お手製の竹の横笛を手に取る。

 いつも食事の後に吹き鳴らすんだけれども、今日はどうしようかね。


 山生活と言うのは、娯楽らしい娯楽がないので、どうしたものかと思いついたのがやっぱり音楽だった。なので自分で竹から横笛を作ったのだ。きちんと音程も取れるちゃんとしたもの。


 いつもは、宴会にあわせて、ピーヒャラピーヒャラ調子のいい音楽を、爽快なリズムでもって吹き鳴らし、お酒の入ったガイさんやクワマルのアニキ達が、踊ってくれる。

 でも、今日はそんなオーディエンスを沸かす系の音楽は奏でられそうにない。雰囲気的に、今それやったら多分、空気読めない奴に違いない。


 結局、ちょっとしんみりクラシックな音楽をBGMとして流すことにした。

 私が笛を吹くと、いつもどおり、ルーディルさんがギロリと私の手元を凝視する。

 ルーディルさんは私の笛の音にいつも興味津々だ。

 今も私の手元をみながら、かすかに彼の手元も動いているので現在彼は、脳内練習中に違いない。

 たまに、こっそり笛を教えて欲しいと話しかけてくる。努力を惜しまない優秀な弟子なのである。

 

「リョウちゃんはそんな風にも吹けるのね」

「いや、むしろリョウはこういう落ち着いた曲のほうがうまいよ」

 コウお母さんがつぶやくと、私の手元をみながらルーディルさんがすかさず解説モードに入る。


 クラシックみたいな音楽が巧いのは、そりゃそうだと思う。前世ではそればっかり演奏してた。楽譜どおりの、コンクールで賞をもらうための音楽だ。

 それがまさか、生まれ変わって、誰かに聞かせるために、自分の心のままのメロディーを刻んで、これが私のロックだぜ! という勢いで音楽を奏でる日が来るとは当時全く思ってなかった。


「でも、不思議よねー。何も習ってないのに、そうやって吹けるんだもの」

「そうだな。基本的には楽器なんて精霊使い位しか習わないからな」

 あんまりこの世界では、楽器を使っての音楽はメジャーじゃないらしい。 精霊使いが大掛かりな魔法を行使するための儀式的な意味合いが強く、ちょっと神聖化されて一般の人はあまり手を出せない代物のようだ。

 

 結局その日は、親分はずっとしんみり晩酌を続けたので、そのままリョウちゃんクラシックコンサートで幕を閉じた。


 バッシュさんとの会合の日が決まって、ちょっと親分がピリピリした理由については、ここ1年ぐらいずっと一緒にいたので、なんとなく察しはついている。

 親分達がやろうとしていること、バッシュさんに何の話をもっていくのか。

 私はただ、子どもらしい無邪気さでもって、何も気づいていないフリをしていた。



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